この夏の予選旅は、「南神奈川」の決勝が締めくくりとなった。

 今年の100回大会は、神奈川をはじめ、埼玉、千葉、愛知、大阪、兵庫、福岡が「1県2校」になった。口の悪い人は神奈川の南・北の分け方を、「横浜さん、どうぞ甲子園行ってください」みたいな分割などと笑っていたが、決勝で横浜高の相手になったのは鎌倉学園だった。

 昨年秋の新チーム以降、鎌倉学園の快進撃はめざましいものがある。「古豪」などという称号はうかつに使えないほど、昨秋からこの春にかけて、真っ向勝負で強豪たちをやっつけてきた。その中には横浜高も入っていたから、もしや……の予感もあった。

 鎌倉学園・竹内智一監督が筆者と同じ早稲田出身なのも、いくらか“応援”モードで球場に向かった理由だった。今のチームは強いが、その前までは夏でも1回戦、2回戦で早々に敗退することもあって、それでも、いつも選手たちより真っ黒に日に焼けて元気いっぱいの「竹内君」に、何かいいことが起こるのでは……そんな希望的観測も、試合が始まるまでは、実はあったのだ。

 そんなほのかな期待も、試合開始早々あっさり粉砕されてしまった。

■生まれ変わった横浜の万波。

 横浜高・万波中正が変わった!

 初回、1死一、二塁でやってきた最初の打席。万波中正は失投と思われるまん中高めのスライダーを捉え、あっという間にセンターフェンス直撃のライナー(二塁打)に仕留めてみせた。

 カウントは追い込まれていた。春までのイメージで見ていたから、また顔のあたりのつり球を振り回して三振か、膝のあたりの高さでストライクからボールになるスライダーに手を出して三振か。いずれにしても、「追い込まれたら、ダメだろう……」、そんなちょっと退いた心持ちで見ていたらこれだ。

 バットの振り出しがコンパクトだった。ヘッドも立っていて、ボールの下半分をこするように振り抜いたから、すばらしいバックスピンの効いた打球になって、ライナーの打球がぜんぜん落ちてこずに、そのままフェンスに当たって跳ね返った。

 いつのまに覚えたんだ、あんな打ち方……。

■おい、どこ飛んだ今の……?

 一瞬思い出したのが、1990年代、ホームランメーカーとして怖れられた横浜ベイスターズのグレン・ブラッグスだ。

 コンゴ人の父を持ち、190cm87kgで長い手足の万波中正。決して力任せに振り回さないコンパクトなスイングスタイル。なのに、横浜スタジアムの場外にまで持っていけそうな雄大な長打力。スイングの最後で、自らの背中を叩くほどのスイングスピードと柔軟性。

 第2打席、まったく同じスイングスタイルで、今度は低めの速球を巻き込んだ打球は、やはりライナー性の軌道でレフトスタンド上段にたたき込まれたから驚いた。

 おい、どこ飛んだ今の……?

 横の席の、話の内容から元・高校球児だったらしい2人連れは、打球を追いきれなかった。

 変わっちゃったよ、万波……。

 4月の終わりごろ、春の県大会までは、打てるはずのないボールを一生懸命追いかけていた。

 それがバットに当たらないボールを追いかけなくなって、代わりに、自分のストライクゾーンで待てるようになった。それも、2ストライクからでも悠然と待ち構えられるようになった。

 ちょっとやそっとの変わりようじゃない。「万波B」が「万波A」になったほどの変身。

 4打席目、外寄りベルトの高さの速球を今度はレフトフェンス直撃の三塁打にした時に至っては、もはや「お見事! まいりました!」とただ唸るばかりだった。

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