高校野球の常識はスポーツ界の非常識である。たとえば、高校野球では当たり前の丸刈りが、他競技のあるチームでは「禁止」事項に挙げられている。また逆に、たびたび批判の対象となる過密日程の問題は、高校野球だけでなく、ほとんどの高校団体スポーツの共通課題だった。他の高校生競技の名監督が覚える高校野球に対する違和感と共感とは。(ライター・中村計/Yahoo!ニュース 特集編集部)

スパルタ指導は“時代遅れ”

「愛のムチ」が幻想であることに気づかせてくれたのは、サッカー王国・ブラジルだった。流通経済大学付属柏高校(千葉県)サッカー部の本田裕一郎監督(71)がそう振り返る。

「まだ習志野高校の監督だった時代の話なんだけど、初めてブラジル遠征に行ってね。試合に負けたもんだから、『この野郎!』って、いつもの調子でやったんだよ。そうしたら、ブラジル人に『おまえ、逮捕されるよ』って。それでハッとしましたね」

本田監督は習志野、流通経済大柏と、赴任校を次々と常勝軍団にし、何度となく全国制覇に導いた名監督だ。

1990年代以降、日本で最も急速な発展を見せたスポーツはサッカーだろう。本田監督は、その理由をこう語る。

「ヨーロッパや南米の情報が簡単に入るようになったから。日本の高校サッカー界の進化も、ものすごくスピードが速いですよ。練習内容なんか、昔とは雲泥の差がある。もうスパルタなんて言ってる指導者は、いないんじゃないかな」

最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングで日本は61位だ(2018年6月22日時点)。つまり、変わりたいと欲すれば、世界に60ものお手本があるのだ。そこが世界のマイナースポーツ・野球と、世界のメジャースポーツ・サッカーの決定的な違いかもしれない。

サッカーに「行くな」というサインはない

静岡県出身の本田監督は、中学までは野球部に所属していた。それだけに「やってみたいよね、野球部の監督」と興味津々である。

「野球はあんなにピッチャーが大事だというのに、なんで全員にピッチャーの練習をさせないんだろうね。もしかすると、おもしろいピッチャーが隠れているかもしれないじゃない。あと、わからないのは『打つな』っていうサインがあることだね。私はサッカーでは攻撃は何でもありだよって教えてる。だから、うちの野球部の監督に冗談で『サッカーには行くなっていうサインはないよ』って言ったの。笑ってたね」

過密日程が問題視されているのは、高校野球も高校サッカーも同じだ。FIFAの規定では公式戦の試合間隔は最低でも48時間以上空けなければならない。にもかかわらず、高校サッカーの最大の祭典、冬の全国高校サッカー選手権大会では「中0日」はざらだ。今年の選手権で決勝まで勝ち進んだ2チームは7日間で5試合をこなさなければならなかった。

決勝で敗れた本田監督は会見で「そういうのは私たちの時代で終わらせなければならない」と過密日程の改善を訴えた。

「日程に関しては、10年以上前から言われ続けてきたこと。協会は選手ファーストを標語のように使ってるけど、結局は、スポンサーがらみでもあるんだろうね、大会運営が最優先されている。そこはなかなか変わらない。そこは甲子園も同じでしょう」