開催中のサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会は絶大な経済効果を誇るスポーツイベントながら、開催国ロシアが欧米諸国から経済制裁を受けているほか、強豪国が出場を逃すなど、W杯商戦には逆風が吹いている。ロシアで人気を誇るドイツのスポーツ衣料大手、アディダスも販売数が2014年のブラジル大会を上回る可能性があるのは参加国のチームウエアぐらいだ。

 ◆ナイキ上回る契約数

 W杯はスポーツ用品各社にとって、ウエアやスパイクの販売数といった次元を超えた経済的な機会をもたらすまたとないビジネスチャンスだ。

 世界のスポーツ用品売り上げトップ、米ナイキの欧州担当ゼネラルマネジャー、フーベルトゥス・ホイト氏は、W杯はシーズンの「着火点」であり、大会でポルトガルのFWクリスティアーノ・ロナウドやブラジルのFWネイマールらスター選手が身に着けるトレーニングウエアを見て消費者が購入に駆り立てられ、その他のスポーツ用品の販売に寄与すると説明する。

 ただ、専門家はロシア大会はイタリア、オランダに加え、米国、トルコの代表チーム不在もあって低調なW杯商戦になると予想する。独サッカーコンサルティング会社PRマーケティングによると、アディダスは前回大会で試合球「ブラズーカ」を1450万個販売したが、ロシア大会の試合球販売数は1000万個にとどまるもよう。また、大会参加32カ国の代表チームのジャージー(レプリカ)の販売枚数は1490万枚と、前回大会の1770万枚を下回る見通しだ。

 それでもアディダスのローステッド最高経営責任者(CEO)は気を吐く。ロシア大会が業績全般に及ぼす影響は、14年のブラジル大会に及ばないかもしれないが、最も売れ筋の代表チームウエアの販売枚数は前回大会時の800万枚を上回ると期待している。アディダスは今大会、アルゼンチン、スペイン、ドイツ、ロシアなど12チームとスポンサー契約を交わしており、契約数はライバル、ナイキの10チームを上回る。

 ◆露市場で波乱の歴史

 アディダスは旧ソビエト連邦時代からロシア市場にいち早く進出し、確固たる基盤を築いた。08年1〜3月期にはロシア・サッカー協会と10年間のスポンサー契約を締結し、ロシアでの売上高は同期に1.5倍と急増した。

 ソチ冬季五輪が開催された14年の売上高は11億ユーロ(約1426億円)と過去最高を記録して、ナイキのロシアでの売上高の3倍に上った。ロシアと独立国家共同体(CIS)諸国に積極展開したことで、アディダスのロシアでの営業利益率は30%を上回り、中国に次ぐ同社のドル箱市場に成長した。

 だが、潮目は13年に変わった。アディダスは同年、新たな物流施設への移行の問題に見舞われるとともに、ルーブル相場が下落に転じた。翌14年のウクライナ騒乱発生を受け、同地域で500店舗を閉鎖。ロシアでの現在の事業規模はピークだった14年の半分をやや上回る程度にとどまっている。

 ただマッコーリーのアナリスト、アンドレアス・インダースト氏は、厳格なコスト管理と値上げによりアディダスのロシアでの利益率は今年、24%まで上昇するはずだと話し、「マクロ経済的には非常に困難な状況にありながら、立派な成果だ」と評価する。

 ローステッドCEOは「ロシアから撤退すれば、再び参入するのは極めて困難だ。この商売はリスク管理にある。全ての投資が利益を生むとは限らないが、投資しなければ利益を上げることは決してない。大きな賭けの大半はやらざるを得ない」と強調した。(ブルームバーグ Richard Weiss)

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180702/mcb1807020500008-n1.htm