サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会に、人口約35万人のアイスランドが初出場します。W杯史上、最も小さな国の登場です。日本の人たちにとって、いま一つなじみの薄いこの北欧の国は、いったいどんな場所なのでしょうか。何度も当地を訪れ、本まで執筆したタレントのふかわりょうさん(43)にアイスランドの魅力を語っていただきました。

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 笑われてしまうかもしれませんが、アイスランドには「地球が生きていること」を確認しに行きたかったんです。もともと北欧に興味はあったんですけど、ここに行けばそれができるかなと思って。地球を感じられる場所として。

 ただ、当時は情報が乏しく、大使館に連日電話しました。もちろん不安もありました。でも、わくわくする不安というか。何かに出会えるのじゃないかという期待感の方が大きかったです。

 2007年に最初に訪れてから、7〜8回くらい行きました。同じ地球にいながらも、日本にいる感覚とは全然違う場所です。全く別の惑星に降り立ったかのような気分になりました。風も空気も全部、違う。

 もちろん市街地は近代化されていますが、それ以外の場所にはありのままの自然が残っています。それも、ごつごつした、地球の地肌が露出しているようなところが多い。自然は人間がコントロールする対象ではなく、自然の方が優先されているのです。

 人間の手が加えられていない姿が残っているのは魅力ですね。日本では森林公園と言っても柵があるし、滝も観光地化されています。人が絶対に落ちないように、と。そういう、日本では当たり前のものがない。滝と自分だけしかない。それがすごく居心地いいのです。

 一方で、自然の恐ろしさ、畏怖(いふ)を感じたこともありました。滝が枯れて崖になった場所があり、周りを森で囲まれたところ。そこに1人きり。自然にのみ込まれてしまう感覚があって、泣きそうになって逃げました。

 運転していると、突然周りが銀世界になってしまうこともあります。雪が見え始めたなと思ったら、完全に真っ白な世界になっちゃって。危ないところは危ない。その点は自己判断、自己責任です。

 初めてのオーロラは、写真や映像で見るのとは全然違いました。「天体ショー」というと安っぽく聞こえてしまうかもしれませんが、ずっと続くんですよ。夜中の2時くらいから朝まで、ずっと夜空が動いている。光が舞う。その光が、なんとも筆舌しがたい色なんです。単なる光とは違う、見たことない色なんですよ。それがずっと動いている。すごかったですね。

 何回もアイスランドを訪れるようになったのは、羊の存在が大きいです。3回目くらいからは羊の写真ばかり撮っているんですよ。最初のうちは放牧された羊たちって、自分にとってそんなに重要度が高くありませんでした。

 でもある時、ふわふわした羊たちがマシュマロのように見えて。彼らの存在感が変わった瞬間がありました。荒涼とした大地に1人でいて、何もないところで寂しさを感じるなかで、羊たちが草をはんでいる姿を見るとすごくいとおしくなってきたのです。それからは完全に羊たちに会いに行く旅になっています。

 アイスランドと日本の共通点は、火山と温泉ですね。あと、僕の主観でいうとアイスランドの人たちはきちょうめん。ホテルが結構きれいなんですよ。そして、どちらかといえばシャイな人が多いと思います。内向的な人が多いという意味では日本人と似ているような気がしますね。島国だからなのかなあ。

 アイスランドの映画を見ると、自然に妖精が出ていることがあります。それがストーリーに影響を与えることなく映っている。そういう存在を可視化させちゃうくらい、認めている。こうした価値観も、日本と近いかもしれませんね。

 本当にわがままを言うと、あまりたくさんの人が押し寄せて欲しくない場所なんです。それが本音ですね。だから、W杯も注目を浴び過ぎないように、ほどほどに活躍するくらいがちょうどいいと思っているんですよ。

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 〈ふかわりょう〉 1974年生まれ、横浜市出身。タレント。慶応義塾大学経済学部在学中の1994年にデビュー。テレビ、ラジオ、エッセーのほか、ROCKETMAN名義でDJを行う。2012年にアイスランドの旅をつづった「風とマシュマロの国」を出版。(聞き手・柴田真宏)

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