大谷翔平の世界と大谷以外の世界。彼が戦う強者たちを検証する。

 大谷翔平のことを思うと、映画のロングショットが頭に浮かぶ。

 いわゆる「長玉」(超望遠レンズ)を使って大谷だけに焦点を合わせれば、周囲の風景はぼんやりとかすんで像を結ばない。だが、パンフォーカスのレンズを使えば、大谷はもちろんのこと、彼以外の風景や人物も同じフレームにはっきりと映し出される。

 私は、後者のレンズを好む。大谷翔平に素晴らしい才能が備わっていることは否定しないが、大リーグには彼以外にも傑出した才能が数多い。大谷と近い世代だけに絞っても、その数はかなりのものだ。
すでにビッグネームとなっている年長の才能までふくめると、数はもっと増える。彼らの存在に眼をつぶるのはあまりにも不条理ではないか。

 現在の大谷は、打者としては規定打席数(チームの試合数×3.1)に、投手としては規定投球回数(チームの試合数×1.0)に到達していない。先発登板の前後に休みをはさむ二刀流独特の起用法では、どうしても避けがたい事態だ。

 6月5日現在、投手・大谷は8試合に先発し、45回3分の1を投げて4勝1敗、防御率3.18の成績を残している。被安打は32、奪三振は57、与四球は17。

■同世代の投手と比べて奪三振率が高い。

 これを同世代の新鋭投手たちと比べると、どうなるか。

 '94年2月生まれのルイス・セベリーノ(ヤンキース)は、13試合に先発し、86回を投げて9勝1敗、防御率2.20と好調だ。奪三振は102。

 '93年6月生まれのアーロン・ノーラ(フィリーズ)の場合は、12試合に先発し、78回3分の1を投げて7勝2敗、防御率2.18だ。奪三振は74。

 アスレティックスで売り出し中のダニエル・メンデン(93年2月生まれ)は、74回3分の1を投げて、6勝4敗、2.91、48奪三振だ。ブレーヴスのショーン・ニューカム(93年6月生まれ)は62回3分の2を投げて、6勝1敗、2.73、64奪三振。

 彼らはいずれも投手専門だが、防御率や勝ち星では大谷を上回っている。ただ、奪三振率はこのなかで大谷がトップだ。セベリーノの10.67個(9回あたり)に比べても、大谷の11.32個という数字は光っている。

■10勝、200奪三振もクリアできそう。

 この数字を、大リーグ全体の奪三振率ランクに挿入してみると、7位に相当する(やはり規定投球回数に足りないドジャースの前田健太は11.70)。
ちなみにいうと、大谷よりも上位に並ぶのは、マックス・シャーザー(ナショナルズ)、ゲリット・コール(アストロズ)、クリス・セール(レッドソックス)、ジェイコブ・デグロム(メッツ)というお馴染みの顔ぶれだ。
彼らはそろって、9回あたり奪三振12個以上というハイスコアを叩き出している。

 被安打率を見ても、大谷はなかなかめざましい。9回あたり6.36という数字は、もし規定回数に達していれば、ノーラに次いで第8位に相当する。
このカテゴリーでは、ジャスティン・ヴァーランダー(アストロズ)、コール、シャーザーがトップ3を占め、セベリーノも6位に食い込んでいる。

 大谷が新人王を獲るとすれば、いま挙げた2部門での健闘が評価されてのことになるだろう。
残り100試合のうち、17〜19試合に先発してクォリティ・スタートを継続できれば、規定投球回数の162にぎりぎりで到達する可能性がある。10勝、200奪三振というボトムラインもおそらくはクリアできるだろう。

■規定打席到達はやや難しいか。

 一方、打者・大谷が規定打席数に到達するのはむずかしいのではないか。チームが62試合を経過した時点で129打席というペースだと、最終的には340前後の打席数になると見るのが妥当だからだ。

 6月5日現在のスタッツは、114打数、33安打、打率2割8分9厘、6本塁打、20打点、長打率5割3分5厘、OPS=.907。このなかでは、長打率とOPSが(もし規定打席数に到達していれば)大リーグ全体でトップ20に食い込める成績だ。

 ただ、問題はここまで28打数4安打(※打率.143)と苦にしている左投手を打てるようになるかどうかだろう。現状を克服できなければ、打者としての出場機会はかなり減らされる可能性がある。

>>2-5あたりに続く)

Number Web 2018/06/09 07:00 text by 芝山幹郎
http://number.bunshun.jp/articles/-/831022