1998年の長野五輪から20年が過ぎ、会場となった長野県内の5市町村が、競技施設の建設などで背負った借金の返済を終えつつある。
スピードスケート会場となった長野市の「エムウエーブ」などが地元に経済効果をもたらす一方、期待した観光客増につながらず財政難に苦しむ自治体もある。 (安永陽祐)

「施設は市民生活に溶け込んでいる。国や県の補助もあり、五輪のおかげで早く安く整備できた」。
五輪誘致に関わった元長野市長の塚田佐(たすく)氏(82)は振り返る。長野市は九百七十九億円を投じて六施設を建設。半分ほどを借金で賄い、返済を三月末で終えた。

エムウエーブは、平昌(ピョンチャン)五輪金メダルの小平奈緒選手らの拠点。市は十年前に全国中学校スケート大会を誘致し、選手らの宿泊などで年二億五千万円の経済効果があるという。
また開閉会式会場は野球場、アイスホッケー会場は市民プールなどに使われている。

一方、そり競技会場となった施設「スパイラル」は二月、維持費がかかるため競技利用を休止した。
そりは国内競技人口が百五十人程度しかいない。塚田氏は「五輪をやる以上、造らざるを得なかった。国に移管したかったが、できなかった」と残念がる。

競技会場となった五市町村のうち、財政が豊かで不交付団体の軽井沢町を除く四市町村が五輪関連施設の整備で借金をし、うち三市町村が二〇一五〜一七年度に返済を終えた。
スノーボード・ハーフパイプなどの会場となった山ノ内町は、昨年二月に返済を終了。竹節義孝町長(70)は「やっと浄水場や防災無線の更新に着手できるようになった」と安堵(あんど)する。

町は五輪に向けて町道などを整備し、年間予算の四分の三に当たる五十四億円を借金。十年ほどで完済の予定だったが、周辺自治体との合併が頓挫し、返済を先延ばし。
〇五〜〇七年度は町長や職員らの給与を5〜15%削減し、職員採用も一年おきにするなど緊縮財政でしのいだ。期待した観光客は減少を続けており、「中学校改修など大型工事は後回しにした」。

長野五輪の開催効果を調べた奈良女子大の石坂友司准教授(スポーツ社会学)は「開催後に無駄になると分かっていても造られた施設もある。予算が増えれば国際オリンピック委員会がペナルティーを科すなど対策が必要」と話す。

◆東京 維持費年10億赤字

二〇二〇年東京五輪・パラリンピックでは、東京都が八つの恒久施設を新設・改修する。約千八百億円の整備費には都の基金などを充て、借金はしないが、うち七施設は大会後の年間収支が赤字になる見通し。
「負の遺産」としないため、維持管理費の抑制や活用策が課題となる。

都の運営計画などによると、八施設のうち七施設は年間収支が計十三億三千万円の赤字となる。黒字の一施設分を差し引いても、赤字額は計九億七千万円を超える見込みだ。

赤字額が最も大きいのは、水泳の「オリンピックアクアティクスセンター」(江東区)で、年間六億三千八百万円。人件費と光熱水費が五億円と支出の半分を占める一方、収入は三億五千万円にとどまる。
唯一の黒字は、バレーボールの「有明アリーナ」(江東区)。コンサートの需要を当て込み、施設利用料収入で約十億円、収支で三億五千六百万円のプラスを見込んでいる。

都は大会後、指定管理者制度などで民間事業者に運営を委託する方針。ネーミングライツ(施設命名権)の導入や企業広告の獲得などで、さらなる収益向上を目指すとしている。 (清水祐樹)

東京新聞  2018年5月18日 14時01分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018051890140148.html  

長野五輪での各自治体の借金と完済時期
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2018051899140148.jpg