◆「幅を作る」ロッベンを失ったバイエルンは…

先週のチャンピオンズ・リーグ準決勝、バイエルン・ミュンヘン対レアル・マドリーの第1レグ。立ち上がりから試合を押し気味に進めていたのは、ホームのバイエルンだった。
マドリーはマンマークに近いプレッシングでボールの出所を封じに来たが、バイエルンはボールを繋げる力を顕示していた。

しかし、8分のことである。右サイドで攻撃の一翼を担うはずだったアリエン・ロッベンが怪我でチアゴ・アルカンタラとの交代を余儀なくされるアクシデント……。これで、バイエルンの優勢は急速に萎んでいった。

そこからは、繋がっていたはずのボールが繋がらなくなった。28分にカウンターからヨシュア・キミッヒのゴールで先制したものの、それ以後、バイエルンは完全にペースを失った。
結局はマドリーに2失点を食らい、試合を落としている(第2レグは2-2の引き分けに終わり、バイエルンは敗退)。

試合序盤でロッベンを欠いたことは、バイエルンにとっては致命的だった。彼が右サイドに陣取り、ボールを受ける。それだけで、マドリーに脅威を与えられた。相手をスライドさせることで、精神的、肉体的に追い込んでいた。

「幅を作る」

そういう戦術的作業を、ロッベンは遂行していたのだ。
そのせいで、マドリーは広大なスペースを守り切らなければならなかった。外を守ろうと思えば、中が手薄になる。中を厚くすると、外から抉られる……。それが、ロッベンがいなくなって、危険な状態から脱することができた。

ロッベンを失ったバイエルンは、トーマス・ミュラーを右のシャドーストライカーのようなかたちで置き、SBのヨシュア・キミッヒに高い位置を取らせ、サイド攻撃の厚みを上げようとしていた。
しかし、それは応急処置であり、生粋のサイドアタッカーの穴を埋めることにはならない。控えのサイドアタッカーであるキングスレー・コマンも欠いていたことが、バイエルンにとっては運の尽きだったと言えるだろう。

左サイドではフランク・リベリが健闘したものの、“片翼飛行”では十分ではなかった。

◆ひとつのコンセプトとして有用なポゼッションだが…
 
ポゼッションを基調とするクラブにとって、サイドアタッカーの存在は欠かせない。
なぜなら、いくらボールを支配しても、中央を固められると厳しくなる。そこで外側から個人技、もしくは連係を使い、バックラインを横切って混乱を与え、あるいは守備ラインを突破し、奥深くまで進入して深みを作り、ゴールの可能性を高めるのだ。

「防御線を越えられる攻撃者」

そういう選手がいることが、ポゼッションで勝つための条件なのである。それゆえ、バルセロナ、アヤックスのようなポゼッションを重視するクラブは、下部組織でリオネル・メッシのようなサイドアタッカーの人材の充実に力を注いでいる。
Jリーグでも、ポゼッションを下部組織から高め、ボール技術のある選手を揃えたチームは出てきた。しかし、いくらボールを回せても、勝負を制することはできない。サイドで幅を作り、防御線を突破できるようなアタッカーが足りないのだ。

日本サッカーが、ヴァイッド・ハリルホジッチ前代表監督が求めたような「フィジカル重視の縦に速いサッカー」に背を向けるなら、ポゼッションをもっと進化させる必要があるだろう。しかし……。
現在のJリーグでは、サイドアタッカーと呼べる人材は、片手で数えられるほどしかいない。ポゼッションはひとつのコンセプトとして有用だが、ポゼッションだけでゴールは生まれないのだ。

文:小宮 良之

5/3(木) 19:31配信 サッカーダイジェスト
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180503-00010000-sdigestw-socc&;p=1