そりゃあ正直、(選手を落とすことは)やりたくないですよ。ジーコが日本代表監督の時、2006年ドイツW杯直前に久保(竜彦)をメンバーから落としたんです。
その時、僕は久保が所属している横浜F・マリノスの監督だったんですね。久保が落とされた後、マリノスの練習場から帰ろうとしたら、
たまたま駐車場に久保の家族がいて、久保には小さなかわいい女の子がいるんですけど、その子が「ジーコだいっきらい」と叫んでいたんですね。「ああ、また俺もそうなるんだなあ」と思い出しました。

 ほかにも、スタジアムに試合を見に行ったら、じーっとにらんでいる女の人がいるんですね。「身に覚えがないなあ」と思って聞いてみたら、
僕がメンバーから外した選手の奥さんだった。それは当たり前なんです、そうなるんですよ。それが嫌だったら日本代表監督なんてできないのですが、
そういう意味でいかにいろんな雑念を払って、チームが勝つために決断できるかが大事です。

僕はあの時も急に監督になったので、有名になると思っていなかったから電話帳に(住所や電話番号を)載せていたんです。
脅迫状や脅迫電話が止まらなかったですよ。家には変な人が来るしね。僕の家は24時間パトカーが守っていて、「子どもは危険なので、学校の送り迎えをしてください」という状況で戦っていました。

 ある時、ピンポーンと鳴って、「はい」と言って出たら、「私、中田さんと結婚したいんですけどどうしたらいいでしょうか」と言われて、「はあ、ちょっとサッカー協会に聞いてみてください」と答えたらいったん帰ったものの、
またピンポーンと来て、「あのう、サッカー協会の電話番号を教えてください」と言われて、「ほっといてくれよ」と思ったこともあります(笑)。それは、まだいい方ですよ。