2018.3.15 10:00

 大リーグ開幕を3週間後に控えた7日、イチロー外野手が古巣マリナーズと契約をかわした。11月にマーリンズをフリーエージェント(FA)となってから4カ月、FA市場の歴史的停滞もあって進路が定まらない中、常に移籍先として名前が挙がっていたのがこのチーム。紆余曲折を経て元の鞘に収まったイチローに対し、米メディアからは大リーグの“方程式”に照らし合わせ、「今季限り」の報道が続く。

 USAトゥデー紙(電子版)はイチローが1年契約であることを報じるとともに、「今季が彼の最後のシーズンになりそうだ」と指摘。このように、イチローにとってマリナーズ復帰は「最後の契約」というのがメジャー関係者の共通認識だ。引退間際とみられるベテランが古巣球団と契約して地元ファンにサヨナラの挨拶−カーテンコールをするための契約とみられている。

 メジャーには、チームに貢献した元選手と1日だけ契約して過去の栄光を讃えるという文化がある。2012年に引退した松井秀喜氏が翌年7月にヤンキースと1日契約を行い、ヤンキースタジアムで引退セレモニーを行ったことを記憶しているファンも多いはず。イチローのように野球殿堂入り確実と思われるような超大物が晩年にあたる時期に古巣に復帰すれば、当然、同じ文法で語られる。

 イチローがFAとなってからマリナーズがなかなか契約を結ぼうとしなかったのも、こうした見方をされることを嫌ったためとの観測もある。50歳まで現役を目指すイチローの邪魔になりはしないかという懸念からだ。

 だが、マリナーズはイチローと1年契約を結んだ。ここにきて故障者や調整遅れの選手が続出して外野陣が手薄になったことがこのタイミングでの合意の理由だろうが、いずれにせよイチロー、マリナーズにある種の覚悟があることは間違いない。実際、昨年11月マリナーズのディポトGMは大リーグ公式サイトに対し、「外野手を探していることは間違いないが、44歳の右翼手を獲得する確率は高くない」とイチローの獲得に難色を示している。

シアトルの地元紙はイチローの復帰について「ケン・グリフィーJr.のケースに似ている」と伝えている。グルフィーは1989年にマリナーズでデビューして11年間プレーしたあと移籍し、2009年に復帰。移籍2年目の10年6月に引退した。

 マリナーズ時代にオールスターに10度選ばれた“フランチャイズ・プレイヤー”の晩年をマリナーズは1年契約で迎えたが、復帰1年目に前年より1本多い19本塁打を放つなど活躍したため、1年間契約を延長。ところが、10年シーズンはバットから快音が聞かれず、次第にチームと疎遠になってシーズン途中の6月に引退を表明することになる。引退試合も行われず、それどころか会見すらない寂しい幕引き。この経験はイチローの契約延長を難しくしており、「今シーズン限り」という見方の補強材料になっている。

 先のUSAトゥデー紙は50歳まで現役を続けたいというイチローの言葉を紹介したあと、「今回の復帰で証明されたように、どんなことも不可能ではない」と伝えた。これまで野球常識をことごとく打ち破ってきた44歳に、年齢の壁は越えられるか。

産経WEST
http://www.sankei.com/smp/west/news/180315/wst1803150007-s1.html