>>1
■週刊文春3月15日号
伊調馨告発第2弾
「パワハラかどうか、“加害者”が決めるのはおかしい」

より抜粋

「馨はなかったことを『あった』と言うような子ではありません。馨が文春さんの取材に答えた内容は事実です。栄監督はどういう気持ちで否定しているのかなって思います。
馨が四回も五輪に出させてもらったのは栄監督のおかげです。でもだからこそ、馨は今、本当に悲しんでいるんです」
 三月三日、本誌の取材にこう語ったのは伊調馨(33)の姉で銀メダリストの千春さん(36)だ。

 本誌発売以降も、頻繁に伊調と連絡を取り合っている千春さんはこう語る。
「確かに、馨は告発状の作成にはタッチしていません。ただ告発状の中身や、文春さんの取材に対してお話ししたことは事実です」

 一六年九月の国民栄誉賞受賞後には、日常的に練習を行っていた警視庁への“出入り禁止”を同レスリングクラブの土方政和監督(栄強化本部長の高校の同級生)から言い渡されたという。
「『来なくていい』という直接的な言葉ではありませんが、それに似たような言葉です。(ALSOKの)大橋(正教)監督と土方さんの話の中で『馨はちょっともう(来ないで欲しい)となったそうです』」(伊調馨)

 一二年のロンドン五輪後から男子合宿への参加が禁止されたことについては、こんな背景を明かした。
「男子の強化委員長に高田裕司専務理事が就任したのです。前任の強化委員長は、伊調の男子合宿への参加を認めていましたが、高田氏は許さなかった。ロンドン前から、
高田氏は私に『伊調を来させるな』と伝えてきましたが、五輪で金メダルを取るためには構っていられませんでした。ただ高田氏が強化委員長のポジションに就いたことで、
彼の意向に従わざるを得なくなった。高田氏は伊調本人にも『お前が来ることで男子が迷惑している』と伝えていました」(田南部氏)
 本誌の発売後、田南部氏は所属する警視庁第六機動隊から聞き取り調査を受けたという。
「二名の副隊長に対し、『(警視庁の)土方監督が伊調に対し、練習に来るなと伝えた』と報告し、『これが明るみに出たら大変なことになりますよ』と話しました。私がきちんと説明したにもかかわらず、警視庁が全面否定していることに疑問を感じます」(同前)

 伊調は本誌の発売以降、パワハラの真相について口を開いていない。沈黙を守っているのはなぜか。
 兄の寿行氏が言う。
「馨は自分が話すことで会社や周囲に迷惑をかけてはいけないと考えているんです。だから正式な調査の前に余計なことを話すべきではないという心境なんでしょう」
 頻繁に連絡を取っているという姉の千春さんも口を揃える。
「私は何よりも馨の体調が心配です。電話をかけては『今日は何を食べたの?』と尋ねています。馨は報道をほとんど見ていないと言っていましたね」
 伊調の大学時代の友人は、最近、伊調本人とLINEでやりとりをしたという。
「『役に立つかわからないけど、私も協力する』とメッセージを送ると、『そういう小さな声でも数が集まれば力になるので助かります』という返信がありました。
ここまで本当によく我慢したなと思います。カオリンは、このままだと自分だけでなく、他の人が被害に遭う可能性を恐れて取材に応じたのだと思います」
 この友人は栄氏の教え子でもある。彼女も栄氏による行き過ぎた“指導”を体験している。
「部員の私生活を異常なほど、監視、干渉してくるのです。たとえば練習後、カラオケに行くと『どこの男と行ったんだ』と言ってくる。
夜の外出がダメなのかと思い、休日の早朝に出かけて帰ってくると、『どこに行ってたんだ、朝帰りか』。しまいには散歩に行こうとしただけで、『お前は鬱病か』と言われたこともありました」(同前)
 他の教え子は栄氏の近況をこう明かす。
「相当焦っており、至学館の卒業生に『オレはそんなに悪い奴じゃないよな?OGをまとめてオレを守れ』と指示しています」

 最近、伊調は周囲にこう漏らしている。
「『しかるべき機関』というのは協会の倫理委員会ではありません。内閣府の聞き取りに応じるという意味です。どうして加害者側である協会の事情聴取に応じなければいけないんですか。
パワハラがあったのかどうかは、こちらがどう感じるか。向こうが決めることではないと思います」

 スポーツ文化評論家の玉木正之氏が喝破する。
「ろくな調査もせずに『パワハラは無い』と結論付けた協会に、客観的な調査などできるはずがない。内閣府は告発状を一ヵ月以上放置しており、
林芳正文科相は「協会の対応を注視する」と語るなどまるで他人事のような姿勢です。こうした対応が被害者である伊調選手を苦しめているのでしょう」