平昌五輪で日本選手団を主将として率いたスピードスケートの小平奈緒は、自身も500mで金メダルを獲得。レース後のインタビューではアナウンサーが発した「獣のような滑り」という言葉が物議を醸(かも)した。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

* * *

思い切って言います。オリンピックの中継でアナウンサーが名ゼリフ狙いでよけいなことを言うのは、なんとかならないのでしょうか。

もちろん、スポーツの実況は高い専門性が必要な仕事です。私は普通のスポーツニュースすら読んだこともないままアナウンサーを廃業した人間ですから、こんなこと言う資格はありません。

でも一視聴者としては、時々「うるさいなあ」と思ってしまうのです…。

名実況として有名なのは、2004年のアテネ大会・体操男子団体の「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」でしょうか。テーマソングだったゆずの曲名を盛り込んで感動を演出したんですね。でも私はあのとき、静かに着地が決まるところを見たかったんです。

今回の平昌(ピョンチャン)では、羽生結弦選手が金メダルを決めた演技の実況が気になりました。「すごい男です!」とか、よけいな盛り上げはいらないのになあ。視聴者の気持ちを代弁するのがいい実況だとは思いません。すごい試合は選手の映像だけで十分感動します。アナウンサーには、見ている人にはわからない情報や現地の様子を冷静に伝えてほしいです。

冷静さゼロで歴史に残るオリンピックの実況といえば、「前畑頑張れ」です。1936年のベルリンオリンピック競泳女子200m平泳ぎで、前畑秀子選手が金メダルを獲得したレース。ラジオ中継していたNHKの河西三省(かさい・さんせい)アナは「前畑頑張れ!」を連呼、途中から残り何mかと「頑張れ」しか言っていません。

それでも、聞いている人たちの気持ちが河西さんの無心な「頑張れ」とひとつになって感動を呼んだのでしょう。今聞いても、ぐっと引き込まれます。狙ってできることではありません。

平昌では、スピードスケート女子500mで金メダルを獲(と)った小平奈緒選手のインタビューが話題になりました。

アナウンサーの「闘争心あふれる、まさに獣のような滑りだったと思います!」という発言が女性に対して失礼だと炎上。アスリートのインタビューでその批判も的外れだと思いますが、確かに唐突な印象です。小平選手が以前「チーターを超えた存在になりたい」と発言していたことを受けての質問だったようですが、説明不足でしたね。

アナウンサーは声を震わせてかなり力んで言っているので、「獣のような滑り」は決めゼリフだったのでしょう。いかにもスポーツ新聞の見出しになりそうです。でも小平選手は失笑して「躍動感あふれるレース」と言い換えました。

確かにそちらの表現のほうがすてきですね。感動を盛り上げる狙いが外れたという意味では、アナウンサーも見事な滑りだったといえるでしょう。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180307-00100877-playboyz-spo