>>1の続き)

また、囲碁の業界は内輪だけで盛り上がってしまい、世間の認識とは大きな隔たりがあるのも確かだ。

例えばそれは、日本棋院が発行している業界新聞『週刊碁』(18年1月22日号)が特集した「2017年の10大ニュース」の記事からも見ることができる。

読者ランキングの1位は井山裕太の七冠独占、3位が囲碁AI『アルファ碁』の進化バージョンの登場についてだった。
これらはまだ世間にもある程度認知されている話といっていいだろうが、
2位は芝野虎丸七段という若手棋士が囲碁界で大ブレイクしたことについての内容だった。

もちろん芝野七段が、囲碁界で有名人なのは周知の事実。
しかし正直なところ、同氏が大ブレイクしたなどという話は初めて聞いたという人も多いに違いない。
こういうところに世間の認識とのズレがあるのではないだろうか。

● 世界最強の囲碁大国 日本の復活なるか

当たり前の話だが、ファンが減っていくに従ってスポンサーの数も減少する。
大会を主催する新聞社なども財政事情が厳しく、タイトル戦が消えることはないにせよ、賞金はどんどん減っていく。
そうなればプロ棋士も減少し、後継者不足の伝統工芸のような状態になってしまうのは目に見えている。

そうならないためには、業界としてどんな取り組みが必要なのだろうか。

「将棋のように、まず棋士を知ってもらえるような形を取ることが大切だと思います。
囲碁とは一見関係の薄いテーマをキッカケにして、棋士への共感を集めていく方法です。
例えば将棋の女流棋士の藤田綾さんは、対戦アクションゲームの『スプラトゥーン』(任天堂)好きが高じて、ゲームイベントなどにも登場しています。
囲碁棋士もブログやSNSなどでそういう部分をより発信していくべきではないでしょうか」(井桁氏)

また、囲碁には将棋にはない強味もある。それは世界的にも認知されている競技人口の多さだ。。
将棋はほとんど日本人が行っているのに対して、囲碁の世界競技人口は約3600万人もおり、
中国2000万人、韓国900万人に次いで、日本は3番目となっている(日本棋院ホームページ『世界の推定囲碁人口』による)

世界を相手にした大会も開催されており、今年1月8日から3日間、中国・雲南省で行われた、
日中韓トップ棋士の3人が競う「第5回世界囲碁名人争覇戦」には、日本最強の棋士である井山裕太が参加している。もっとも結果は最下位だった。

井桁氏は、日本での囲碁人気を復活させるためには、世界戦で活躍できる棋士を育てることが不可欠だという。
「25年ほど前なら、世界で一番囲碁が強い国は日本でしたが、
現在の日本人棋士は三星杯、LG杯、応氏杯など、世界戦ではなかなか勝てない状況が続いています。
中国では、囲碁棋士の社会的地位が日本のプロ野球選手ぐらいありますし、
台湾では囲碁が子どもの習い事として確立されていて、日本の学習塾のように囲碁道場があったりもします。
彼らに学ぶ点は多くあり、それが日本で将棋人気に追いつくことにもつながってくるでしょう」(井桁氏)

かつて卓球界では、福原愛というスター選手が登場し、世界の並みいる強豪に立ち向かっていくことで、
地味なスポーツという印象だった卓球をメジャー競技へと押し上げた。
その成功例は囲碁界にとっても一筋の光明となるのかもしれない。

(おわり)