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【メダル獲得ランキング】日本は3個ラッシュ! ドイツ、カナダと並び、この日最多
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0001ひろし ★
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2018/02/13(火) 01:09:22.44ID:CAP_USER9
2/13(火) 0:25配信

7種目でメダル確定

 平昌五輪は12日、7種目でメダルが決まった。

 日本はフリースタイルスキー男子モーグル決勝で原大智が日本勢1号となる銅メダルを獲得。続いてスピードスケート女子1500メートルで高木美帆が銀メダル、スキージャンプ女子ノーマルヒル個人で高梨沙羅が銅メダルを獲得。ドイツ、カナダと並び、この日最多となる3個のメダルラッシュとなった。

全文はソースで
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180213-00017603-theanswer-spo
0003名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:10:41.88ID:bwkntZWK0
『人生はリベンジマッチ』

名曲、ユーチューヴ検索
0004名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:13:15.47ID:CrLQAQJG0
銀と銅しか
とれません
0006名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:14:11.56ID:DJ9x3hYi0
羽生はコケるのが目に見えてるし今大会は金はひとつも取れそうにないな
0008名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:15:00.12ID:Fauq5fYm0
金と同じと書いて銅やで
0009名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:15:34.93ID:GTBODlCK0
【日本のメダル】3
・スキージャンプ 1
・フリースタイルスキー 1
・スピードスケート 1

【韓国のメダル】1 ←開催国
・ショートトラック 1

(2月13日現在)
0011名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:16:53.91ID:WYgf0q230
*       ニダ━━━ /  \   / \━━━━!!!!
        +   /::::::______:::: \  + しょぼい色メダルのジャP
           <  \  トェェェイ   / >   まあまあ落ち着いてニダ ケッケッケ
         +  \     `'´  / ケンチャナヨーー
  nnn          ヽ____ノ       | | | |n
 .n| | | |            _ノ ヽ_    ,、| - l
  ! - レヽ       /         \   ヽ ヽ _ノ



◇経済&政治のページ
http://keizai1money2.web.fc2.com/index.html

◇日韓対立鮮明 米国も握手せず これが公明の望んだ出席の結果だ

◇ブラックチューズデー/世界同時株安と台湾地震まとめ

◇働き方改革と正反対 過労死に見るNHKのドス黒さ
0012名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:16:53.94ID:Zwe6H2dA0
どうせ韓国のショートトラックメダルラッシュに惨敗して日本人はのたうち回る
0013名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:18:17.31ID:YrdJ3IIqO
金より良い、と書いて銀と読む
0014名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:20:05.85ID:0wr/G7PlO
昨日がピークであった
0015名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:20:26.73ID:LE1sX9nj0
3個ラッシュってなんだよ
0016名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:20:41.18ID:3+r09re50
韓国は北朝鮮と実質戦争中で兵役あるから国民みんな鍛えてる
9条にすがって米軍に守られてるジャップに勝てるわけないよ
0017名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:20:53.72ID:auV2qAKm0
この大会、あえて「金」は避ける日本
0018名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:22:18.75ID:uZfaFGA20
とりあえず現時点でメダル数ソルトレイクとトリノは越えたな
上出来すぎ
0019名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:23:01.58ID:R8uoqTua0
あと羽生とパシュートと小平と渡部と平野くらいか
金の可能性があるのは
0020名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:23:38.29ID:g7tDjfII0
ある貧しい木こりが大きな川の中州にある森に渡りました。
「ここにある高価な木を切ってなんとかお金を作ろう」
道具を背負い船着き場から森の中へと向かいました。
目的の木の前で大きく振りかぶった瞬間、木こりの手から
すっぽ抜けた斧は川へと落ちてしましました。すると、川の
中からムキムキの神様が斧を3本持って現れ、
「お前の落としたのは、この金の斧か銀の斧か鉄の斧か?」
と尋ねました。化け物ではないことを理解した木こりは
「私の斧は普通の鉄の斧です」
と答えました。
「正直者だ、3本ともお前に渡そう。」
と神様はそう言うと3つの斧を置いて消えました。
木こりはハァ〜と溜息をつき、黙々と木を切り始めました。
0021名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:23:49.92ID:AtfLH8ko0
つか冬季オリンピックって雪が降らない国のクロンボ達は参加しないわけだから夏季オリンピックよりも圧倒的に簡単じゃん
0022名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:24:25.89ID:+3lE02kw0
>>19
羽生は無理じゃね?
0024名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:25:28.66ID:F05copv10
羽生より宇野の方が可能性ある
まあとにかく男子フィギュアに期待
0026名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:26:30.10ID:HKSThcC00
喜ばしい
0028名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:27:54.03ID:9ZrJPzyQ0
冬の五輪で3枚取ったら十分やな
0031名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:31:50.88ID:iLANTWSs0
>>17
0032名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:32:09.57ID:uWjdHRsh0
ていうか、あの中国がまだメダル無しなんだよね
次の冬季五輪の開催地なのに
ショートトラックで韓国相手にバチバチやってほしい
0033名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:34:24.41ID:Iu2G3ceB0
てか、韓国ってショートトラック以外にメダルとれるの?
中国はあの高く飛んでくるくるするやつが強かったような
0034名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:36:00.17ID:9ZrJPzyQ0
フィギュア楽しみやな
0035名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:36:01.67ID:vogI3cob0
表彰式にメダルかけたり、国旗掲揚や国家斉唱するのをたまたまかもしれないけど見てない。
壊れかけの熊のぬいぐるみ貰ってた。

熊にがメダルなの?
0036名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:36:56.00ID:vvKQ073p0
>>18
調べたら
ソルトレイク、銀1スピードスケート清水銅1モーグル里谷
トリノ、金1フィギュアスケート荒川

酷過ぎるな

せめて毎回金3、銀銅合わせて7
このぐらいになるまでぐらいまで補助金出してやれよ
ロゴマークとかモリカケとかやるぐらいなら
0037名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:37:12.50ID:qoP8PQgA0
本田真凜「すごくうれしい」関西スポーツ賞
http://www.nikkansports.com/sports/news/1766185.html


おいおい、関西出身者で唯一のメダルを獲得したマカロン王子を差し置いて、
冬季マイナー隙間競技の小便臭い小娘を選ぶなんてどう考えてもおかしいだろが。
明らかなゲイ差別やで!
訴えてやる!

出身地別・リオ五輪個人競技メダル数
     金 銀 銅 合計
北海道 0 0 1 =1  柔道
東  北 1 1 0 =2  レスリング(2)
関  東 2 1 8 =11  競泳(4)、柔道(5)、体操、重量挙げ
北信越 3 0 3 =6  柔道(2)、レスリング(2)、陸上、バドミントン
東  海 1 1 3 =5  レスリング(2)、柔道、卓球、カヌー
近  畿 0 1 0 =1  レスリング
四  国 0 0 0 =0  
中  国 2 1 1 =4  競泳、柔道(2)、テニス
九  州 1 1 1 =3  体操、競泳、柔道
沖  縄 0 0 0 =0
0038名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:38:51.42ID:PHiGRKaE0
>>33
韓国はショートトラックしかないわな
あとは過去には突然変異なキム・ヨナとかスケート短距離くらいだな
スキーやスノボは皆無だが女子ハーフパイプのアメリカハーフのキムなんとかいるくらい
0039名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:41:44.16ID:vvKQ073p0
>>38
チョンもチャンコロも好きじゃないが
アジアはもうちょい強くならないとなあ
0040名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:44:34.95ID:fZztgCXS0
>>36
やっぱり寒い国が強いのでは?普段からスキーで移動している地域とか
カナダはアイスホッケーが国技って聞いた
柔道も日本の正式な形でやると、メダルだらけ
0041名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:45:04.41ID:uJTvTzvw0
>>35
メダル授与とちゃんとした表彰みたいなのは次の日
国旗は掲揚されてた
0043名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:48:59.43ID:gBoKz3Xo0
高木美帆は嬉しいより悔しい方が大きいんじゃないかな
金まであと一歩だった
0044名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:49:00.35ID:qyXtZqSw0
>>41
今までもそんな感じだったのかな
0046名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:49:49.44ID:eAURuOgU0
財務省も頑張って金ラッシュ 国民喜べ 国の借金1085兆 過去最大 国民1人あたり858万円
0047名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:49:59.47ID:XhLZqO2V0
思ったより取れたんじゃね
高梨も五輪前の成績見りゃ下手すりゃメダル圏外も有り得たし
0048名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:50:26.52ID:qyXtZqSw0
>>36
バンクーバー、ソチは?
長野は?
0050名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:51:24.41ID:E8YOeyJo0
外の種目は悪天候でどうなるか解からないので平野は読めない
金の可能性あるのは小平か羽生くらいでしょ
0054名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:55:46.16ID:VvmbMw+y0
まだ何枚か確実に取れるな
0055名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:55:56.42ID:EXzPWy+Q0
別にノルウェーやカナダがメダル量産しても国力スゲーとか
優れた民族だーとはならないだろ
無意味だよこんな大会に金投じるの
0056名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:56:22.70ID:oetfdmAg0
高木には悪いが、金メダル以外に価値はない。
まして、ベンツの銅なんかゴミ以下
0057名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:56:59.47ID:jIqJED250
>>52
記憶だけでも、金メダル銀メダル取ってた。
はにゅー、あさだまお、高橋だ、アルペンも
0058名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:57:02.95ID:Y5OiwbO40
バンクーバーは銀2銅3
ソチは金1銀4銅3
長野は金5銀1銅4

冬季五輪で1番成績良かったのは長野で次がソチ
バンクーバーもメダル総数5個は歴代で4番目に多い
0059名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 01:57:55.88ID:nN1El1d60
アメリカの会社の予想だと日本の金は3で、候補者はまだ登場してないみたいだな
0060名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:00:13.52ID:QNrtDWNlO
>>59
小平がショートとチームパシュートで2つ
男子フィギュアで羽生か宇野予想なのかねぇ?
0063名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:02:10.68ID:D7OAb+s10
メダル取れたのは嬉しいことだから文句はないけど
昨日見てたのがスピードスケートだったからオランダ凄いなって思った
0064名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:02:26.26ID:JuvE3So40
もう3つかよ
すげえな
0065名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:02:51.90ID:27dJcjgT0
>>52
そーだよね、選手の全体数が少ない割りには取ってるイメージ
>>58
ID:vvKQ073p0はなんかメダルが少ない時をあげてないか?
0066名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:03:17.34ID:p+hQVXLe0
男子のモーグルで取ったのは凄いな
0068名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:03:59.38ID:JuvE3So40
モーグルでとれたのすごいし
スケートとかオランダ無双の中日本人が銀ってのもすごい
0069名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:05:49.84ID:dUr2u4DI0
金に期待もてるのは、小平、パシュートくらいなのかな
ノルディック複合でメダル欲しいね
後フィギュアも
0070名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:06:28.36ID:05mszyaW0
>>65
18 名無しさん@恐縮です 2018/02/13(火) 01:22:18.75 ID:uZfaFGA20
とりあえず現時点でメダル数ソルトレイクとトリノは越えたな
上出来すぎ

コレに対してのこれだぞ
アフィカス
そんな事を煽るならもう書いてやらないわ
それからすぐにID持ち出す奴
sageないで上げてる書き込みはアフィカス認定するからな

36 名無しさん@恐縮です [sage] 2018/02/13(火) 01:36:56.00 ID:vvKQ073p0
>>18
調べたら
ソルトレイク、銀1スピードスケート清水銅1モーグル里谷
トリノ、金1フィギュアスケート荒川

酷過ぎるな

せめて毎回金3、銀銅合わせて7
このぐらいになるまでぐらいまで補助金出してやれよ
ロゴマークとかモリカケとかやるぐらいなら
0071名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:06:35.13ID:0Bvy3til0
3個でラッシュは無いわ
せめてもうちょっと増えるまで抑えろよ
にしてもよくあのコンディションで獲れたな、ほんと
チョン共の嫌がらせが悪化しなければ良いのだが
0072名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:06:41.98ID:TiZMkQ+A0
あわよくばメダルの高木3000, 男子モーグル,高梨で2つ獲って、勝ち負け確実の高木1500できちんと獲ってるんだから、十分すぎるペースだろ
0073名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:06:50.47ID:ig/qo64xO
韓国のアナウンサー笑顔で
「本日も日本は金メダルを獲れませんでしたー」
0075名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:07:40.71ID:0bmxiGeR0
サンコラッシュ、疲れたろう。 
僕も疲れたんだ… 
  r―-、     
  / /_wゝ-∠l   
  ヾ_ノ_ _ 〉  
  /|/(ヽY_ノミ  
 |  Y  ノ  
          
0078名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:08:14.85ID:LuDPQIOx0
だけど金1個とった韓国のほうがランキングでは上です
0079名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:08:58.18ID:K+Zp47fJ0
sageないで上げてる書き込みは
アフィカスか広告代理店の集めたレスをするアルバイトな
0080名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:09:24.96ID:fuQ2mtrE0
メダルメダルのメダル至上主義みたいな考え方
どの国がメダル何個取りました
メダルを取りたいから国策でマイナー競技を強くしますとか

くだらない
クソみたい
0081名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:10:06.19ID:K+Zp47fJ0
長くなってすみません。続きです。

私「やだよ〜怖いもん」
妹「じゃあてをつないでいこう!」
といつになく積極的なので、
二人で身を寄せあって、小走りで離れまで行きました。

離れの茶室は当時、私の勉強部屋と遊び部屋になっていました。

無事着いた私たちは

私「なにして遊ぶ?」
妹「う〜ん、」
妹の視線の先には、買ってもらったばかりの学習机が。

普段は仲が悪いので、机やランドセルには、絶対触らないよう伝えてました。
けどこの時は、暗い廊下を子供だけでたどり着いたという高揚感で、私もハイになっていて、

私「今日だけ特別に机で勉強させてあげるね!」
と言って、机の隅々まで説明(電気がつくだの、何が入ってるとか)、ランドセルを背負わせてあげたり、仲良く遊びました。

それから、妹に習ったばかりの足し算と引き算を教えてあげました。

私「ゆびで数えてごらん、で答えをここに書くの」
妹「いちとにだから、さん?」
私「そう!できた!!すごいじゃん!」
ってな具合です。

けど本当は、自分の宿題を妹にやらせよう、と悪巧みをしていました。

なのに、妹は
妹「おねえちゃん楽しいね!楽しいね!ありがとう!」
と目を輝かして、満面の笑顔をしてくるので、ちょっと悪いなぁ〜と思いました。
0082名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:11:04.65ID:b8g4rJy30
>>80
千葉すずさん
0083名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:11:21.59ID:BN9J8UsD0
また韓国は負けたのか (´;ω;`)
0084名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:11:28.82ID:0GLE1YqH0
私(まぁでも、楽しんでるんだから、私悪くないよね!)
と思って、今までにないくらい仲良く楽しく遊んでいました。
そうこうしてる内に、母が部屋に来て、
母「ここにいたの、お風呂沸いたからおいで〜」と呼びに来ました。
けど宿題箇所がまだ終わってなかったので、
私「お風呂先に行ってくるからやっておいてね!いい?最後までだからね!すぐ戻ってくるからね!待っててね!」
妹「うん!わかった!おねえちゃんいってらっしゃい!」
と満面の笑顔で見送ってくれたので、意気揚々と私だけお風呂で待つ母のもとへ。(お風呂は居間の隣にあります)
母に飛び付いて早速、
私「あのね〜私偉いんだよ!○○ちゃんに足し算教えてあげたの!(えっへん)」
と誉めてほしくて、ハイテンションだ自慢しました。
そうしたら、
母「何いってるの?○○ちゃんは居間で寝てるでしょ?サザエさん見ながら寝ちゃったよ、」と、
その時頭の中は???だらけで、
なんだか、決定的な間違えを見落としてしまった気持ちになり、
今の今までやってたことを、一生懸命話しましたが、
確かに後ろに妹が寝ているのを見せられて、大泣きしてしまいました。
そのあと母にされるがままお風呂に入らされて、
寝る時には私の勘違いだったのかな?と思うまでに落ち着いてました。
ただ、寝室離れの茶室の上だったので、茶室の前を通らなければならず、
またじわじわと怖くなってまた泣いてしまいました。
だって「絶対戻ってくるから」って約束したから。
だから、あの子も私のこと待ってるに違いない!って思って。
けど、「もし部屋の電気が付いてなかったら、私の勘違いだったって思おう!」と最後の希望?を託して、
母にだっこされて、茶室の前へ。
私「…ついてる!!ううわぁぁぁん!!」
ここでまた大泣き。
母「消し忘れたのね誰もいないし消すわよ」
私「だめええ待ってるもんん!!」
母「誰が待ってるの?」
私「だからぁ○○ちゃんだよぉぉ」
母「は?」
ここからは、目をつぶって母にしがみついて階段を上がり、
迎えくるんじゃないかと、ビクビクしながら母の布団で寝ました。(家族で川の字)
それから、怖くて学習部屋には入れなくなり、
宿題が出来ていたのかも確認出来ずドリルは、たぶん捨てました笑
とにかく、人間と変わらないでそこにいたので、霊や妖怪?はあるのだと、確信し、
その後余計自分の家が嫌いになりました。
その後、友達に化けて人数を増やしたりと、たまにいたかも知れませんが、(うちはかくれんぼに絶好の場所だった)ここまではっきり確認できたのは、これが最初で最後でした。
今でも、もう少し優しくしてあげればよかった、って後悔してます。
0085名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:11:30.50ID:SFhYqvM50
「この日」
0086名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:11:55.65ID:TiZMkQ+A0
今後の俺の予想は
小平500金 1000銀 パシュート金 渡部銀
着地ゲーのボード、芸術のフィギュアは予想できん。一応坂本、宇野が銅予想
0087名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:12:01.33ID:tiVYO3HR0
15年くらい前に僕フリーターやってたんだけど、命の恩人である早坂君と言う人がいてね、同年代の友達なんだけど
ある日突然僕に相談してきたの。
「amちゃん、聞いて欲しいことがあるんだけど・・・」
「なに?」
「amちゃんってオカルト話いっぱい持ってるみたいなんだけど、実は俺ね、幽霊とセックスしたかもしれないんだ」
「ええ!?それどういう事?」って聞いたのね。
早坂君ね、渋谷でナンパしてラブホ街に連れ込んでエッチしたのね。
エッチしてるときに幽体離脱して魂がこう、段々段々上に上にふわーっと浮き上がっていったの。
その魂が天井につくかつかないかぐらいで意識を失って、気がついたらベッドで一人いた、って言うのね。
それ以来ずっと体がだるいって言ってる。

で「俺幽霊とエッチしちゃったんじゃねーかな」って言ってきたんだけど、でもね幽体離脱って幽霊いてもいなくてもしちゃうから
幽体離脱したから相手を幽霊と決めつけるのはそれ根拠弱くないか?って疑問を即座に言って、その当時睡眠薬強盗とか流行ってたんですよ。
ハルシオン飲まされて財布取るとかさ。早坂君ハルシオン飲まされたんじゃないの?って、その説に僕固執しちゃって
 そしたら喧嘩ってほんとくだらないことから始まるけどさ、それから早坂君怒っちゃってさ
「俺の話信じてくれねーのかよ!」って感じで切れちゃって
「そんな訳ねーじゃねーかよ、俺最初から話聞いてるじゃねーかよ!まじめに聞いてるからこそ笑わずに最後まで聞いてるんじゃねーのかよ」
ってなんかそんな風に喧嘩になっちゃって、それから早坂君のアパートを喧嘩別れして出て行っちゃったんだけどね。

で、それから3ヶ月後クリスマスシーズンになったのね。早坂君と喧嘩別れして会わなくなって3ヶ月。
その時早坂君の好きなビデオテープを買ってきて、それに「早坂君ごめんね。早坂君の言ってること僕信じてるからね」
みたいなメッセージカードを添えて郵送して
それで仲直りしようと思ったのね。
そしたら宛先不明で帰ってきたの。
それで郵便局の人に「これどういう事でしょうか?」って聞いたら、相手が引っ越しして、
その時に転送手続きしてないと戻ってくることがあるから宛先不明で帰ってきたんじゃないの?って言われたのね。
あー、じゃあ俺早坂君と喧嘩して仲直りできないままになちゃったのかなあって思ったのね。
0088名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:12:02.79ID:SFhYqvM50
>>79
病院に逝け
0089名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:12:34.33ID:vY8pBWEE0
で、それから9ヶ月ぐらいした頃かな?駅のホームで早坂君に会って「あー、早坂君9ヶ月ぶりに会ったじゃないの」って言って、でー早坂君が
「amちゃん、車ぶつけたんだけどかた焼きそば好き?好き?どうよ?」って言ってきてさ、凄い要領得てない支離滅裂な事言うのね。
僕の知ってる早坂君って比較的無口で聞き上手で必要最低限のことしか言わないタイプなんだけど、
要領得てないことをマシンガントークのように言うようなタイプになったのね。
9ヶ月ぶりに会ったら「あれ、全然違う、おかしいな」と思って。
早坂君の言ってること頭の中で組み立てないと何言ってるか分からないから、どっかで落ち着いて話を聞いて早坂君の言ってること組み立てようと思って
外食の店に連れて行ってそこで落ち着いて話を聞こうと思ったんだけども・・
 そこでね、また要領得ないことを話してるんだけど、そこでまたあれ?って思ったのは早坂君辛いのダメな人だったの
でもタバスコをピッピッピッピって掛けてるから、あれ?9ヶ月で味覚ってこんなに変わるかな?って思ったんだよね。
それでとりあえず、早坂君の話聞いてると僕の頭の中で組み立てて聞いてみると例の渋谷でナンパした女の子は今も来てる、とか言ってるのね
あー、これは幽霊に取り憑かれてるんじゃないかと思って、問題の家に行って何が原因なのか検証した方が良いなと思って、早坂君に「ちょっと連れて行ってよ」
って言ったら連れて行かれた場所は宛先不明で帰ってきた住所(引っ越す前の住所)だったのね

2階建てのアパートの1階に連れて行かれて、部屋のドア開けた瞬間部屋の真ん中に仏壇がどーんとあって、
早坂君キティーちゃん好きでグッズとかも煙草の脂ですすけてるのね。
その脂ですすけたキティーちゃんが仏壇の周りにブワーって散らばってるの。
それ見て俺一秒でも速く逃げ出したいと思ったけど、早坂君命の恩人だから助けなきゃと思って
「早坂君これ何?」って聞いたら早坂君また支離滅裂な事言ってるんだけど僕なりに組み立てると、
この仏壇があると渋谷で軟派した女の子が毎日来てくれるって事を言ってるらしいのね
 「早坂君この仏壇解体して処分した方が良いよ」って言ったら股支離滅裂な事言って、とにかく怒ってるらしいのね
何言ってるか分からないけど怒ってて追い出そうとするから、もう付き合ってられないと思ってそれで早坂君の家から逃げるように出ていったんだけども・・

家に帰って、命の恩人だから何とかして上げなきゃと思って、次行くときは友達引き連れて仏壇解体して、粗大ゴミに出して早坂君は神社でお祓いして、
精神科の病院に診て貰って、そういうケアをみんなでして上げた方が良いと思って次の日早坂君に紹介して貰ったアパートに様子見で行ってみた
様子を見て友達引き連れて仏壇解体しようと思ったんだけども、そこでチャイムならしたら別の人出てきたのね
んで、「あ、ひょっとして去年の12月にここに引っ越されたんですか?」って聞いたみたのね
「実は去年の12月までに引っ越ししたと思われる人に会いに来たんですけど」って言ったら
「アー、確かに12月の時点でその人引っ越してた」って言うのね
だから別な人が住んでたから宛先不明でビデオが帰ってきたのね
で、昨日は早坂君がいて仏壇があって、その周りにキティちゃんが散らばっていて・・それが今日は大学生の部屋になってて、
あれ、これどういう事なんだろと思って僕たまたま大家さんの家知ってるから大家さん家に言って聞いたみたのね。
そしたら「他人のプライバシーは教えられない」の一点張りで何も教えてくれない。
0090名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:13:06.85ID:6qYtxZ750
それでね、いたこさんと話ししたんだけども、「その仏壇大きかったの?」って言ったら「うん、凄い大きかった」
って言って、インパクトあったから実物大より大きく見えたのかもしれないんだけど。
 普通のぼろいアパートってドアが狭いからでっかいテレビとか入らなかったりするんだよね。
それくらいの大きさだからドアから入れたとも思えないし窓から入れたとも思えないし。
 僕といたこさんの仮説は、畳ひっくり返して土掘って、埋まってた仏壇を掘り返したんじゃないか?ってゆうそういう仮説を立てたんだけども
実際その仏壇って腐葉土の匂いがぷんぷんする仏壇なのね
葉っぱの腐った土の匂いがしてさ、漆が所々はげててさ、遺影はあまりにも風化しすぎて誰の写真家分からないし、位牌には泥がついてて
何が書かれてるのか分からないような仏壇ね。
もうこれ土から掘り起こしたような匂いしてて、ひょっとして地面を掘り超して出しちゃったんじゃないか
そういう仮説を僕といたこさんで立てたんだけどね。
何か取り憑かれたんじゃないのかな?もうその時点で。その部屋で何かあったんじゃないのかな・・
そういう事も全部大家さんに聴いてみたんだけども、「名誉毀損になることは言わないでくれ」とか「風説の流布はやめてくれ」とか「訴えるぞ」とか言ってきたのね。

赤の他人には個人情報教えられないって言うから嘘ついて「早坂君に貸した金を返したいから」とか「借りたCDあるから」とか
とりあえず電話の連絡先でも教えてくれないかって聞いたんだけどそれでも教えてくれなかったし。
それで早坂君は行方分からないままなんだけども・・・

その話をね、去年のある百物語オフ会で話してたときにね、トイレ休憩の時に何時もなら人並んでるんだけどその日だけがらーんと人がいなくて
そのトイレの二つの鏡にちらっとちょっとざんばら髪っぽい眼鏡掛けてた顔見えた気がするんだよね
当時自分も髪ぼさぼさで眼鏡掛けてたから自分が写ってたかなあ?早坂君の顔もちらっと見えた気がするけれども。
 いや、考えすぎだ。みんなの怖い怪談聞きいて怖くてぶるぶる震えてるから考えすぎだと思って小便してたら背後から僕の本名で

「amちゃん、どうよ?」

って言ってきて、俺ションベンしてるから動けないし、振り向いて何かいたら怖いから振り向くことも出来ないし
そうしてる間に掃除のおばちゃんが入ってきてね、「うわー、やった。ひとりぼっちにならずに済む」と想ってたら
掃除のおばちゃんが
「あれええええええええ」って言いだして後ずさってトイレから出ていっちゃったの
なにがあったんだと・・・・。凄く気になるけど怖くて聞けないって言う・・
それで戻ってきたら顔面蒼白だったらしいから
いたこさんに「amちゃんどうしたの?」って言われて「実はこうこう、こういう事という話をしてね
 ハンドルネームのamでamちゃんどうよ?って言うんだったら参加してる誰かが事呼んだんじゃないの?って思うけど僕の本名で呼ぶからさ・・・
僕の本名知ってる奴なんて参加者の中には誰もいないのよ
「どうよ?」って言い回しも早坂君独特の言い回しでさ。それで怖くてションベン止らなくてさ・・終わった瞬間にダッシュで出ていったよ
0091名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:13:48.42ID:btZ9syqO0
それでそれ以来早坂君は行方不明って事で、探偵に頼んでもごめんなさいって事で金帰ってきてね
その続きがまさか2月に起るとは思わなかったんだよね
 「今年の2月に超」−1(怪談コンテスト)というのがあって、それに応募しようと思ってワードに書いてたのね。
で、文章書いてる時に朝なんだけど玄関で「ピンポーン」って鳴ったから玄関のドアを開けようと思ったら開かないのね。
ドアに何かぶつかってて。
「何がぶつかってのかなあ」と思ってドアから覗いてみたらガラスケースに入った日本人形。それがドアにぶつかって完全に開かない。
廊下の左右見たら誰もいなくて、一体誰が置いたんだろうと思って・・・・
とりあえずその人形は警察に届け出しましてね、遺失物と言うことで預かって貰ったんです。

それから数日してまたこの仏壇の話をワードで書いてたんですね。
そしたらまたピンポーンって鳴って、宅急便かな?と思ってドア開けたらまたドアが完全には開かずに何かにぶつかってるんですよ
悪い予感がして恐る恐る見たら、またガラスケースに入った日本人形なんですよ・・・二体目・・
それでまた警察に電話したら今度は民事不介入とか言い出してきて「自分で解決してください」って言ってきて。
しょうが無いから管理会社に預からせてくださいって頼んでも断られて、それから神奈川にいる自称霊能力者に預かって貰おうと電話したら
「あ、am君その依頼は受けられない」ってぶちんって切られたの。
僕まだ人形の話してないのよ。なのにその依頼は受けられないって切られたの
うわ、どうしようと思ってとりあえずこの人形も燃やそうって思ったのね。
玄関に人形置いてライターで燃やそうかな、って思ったときに背後から早坂君の声で

「amちゃん、どうよ」

って聞こえて、その時はビックリして振り返っちゃったのね。
振り返った瞬間真っ暗。暗転
テレビからは朝の放送とか聞こえてるの。でも真っ暗。後で目が見えないって事に気づいたの。
とりあえず119番呼んで目を何とかして貰おうと思ったんだけども、とりあえずポケットに入ってる携帯取り出して「119」って押そうとしてるんだけど
目が見えないからどこが1でどこが9か分らないのね。
携帯って色々ボタンがあるからなかなか119って押せなくてね。
結局隣のドアを叩いて「すいませーん、救急車呼んでさーい」って隣の人に救急車呼んで貰ってね。
で救急車で運ばれて、目の検査したら目に異常は無いと。CTスキャンにもかけられても異常は無いって言われて。
で、医者に緊急時の連絡先は?って聞かれて実家の青森の電話番号言ったのね。
それで電話して貰って次の日に兄さんがやって来たんですよ。うちに。
それから兄さんと新幹線に乗って青森に行ってね。
0093名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:14:22.55ID:c0Q6C2j10
人間って目が見えなくなると耳と鼻が鋭くなるんだよね。アナウンスもはっきり聞こえるし、青森って排気ガスが少ない感じがするんだよね。
で、家でくつろいでたらおばあちゃんとおじさんがやって来て、おばあちゃんが言うにはね、
うちの曾おじいちゃんも見てはいけない本を見て目が見えなくなったと。
その時に拝み山待って言うタブー満載の山(オオカミが住んでる、外交官ナンバーの車がうろうろしてる、アヘンが栽培されてる、UFOの目撃談が多い)
その山にお住まいを置いたら目が見えるようになったと言うことがあったから、お前もそれした方が良いってことになって、
で、おばあちゃんとタクシーに乗って、その時に「これどうしたの?」って言われて「何?」って言ったら
「お前ずっと日本人形持ってたろ」って言われて「ええええええええええええええ」って。
僕知らずに日本人形持って帰ってたらしいです。
この日本人形が目の見えない根源だと思って拝み山に置いていこうと思って、ガラスケース持ってタクシーに乗って。
で、おばあちゃんががタクシーの運転手に道案内してて、まだ2月だから雪がビュービュー降ってるの

それでタクシーの外を出て、おばあちゃんが「ここが拝み山だよ」って言うんだけど雪がビュービュー降ってるから寒い感覚しか分らないんだけども
その時にふとね津軽弁で「こっちこい、こっちこい」って二十代後半の女性の声が聞こえたんだよね。
僕が「おばあちゃん、声が聞こえるよ」って言うと「それは拝み山の神の声かもしれんね」って言ってきたの
とりあえず声の方向に歩いてみなって事になって、危ういながらも亜ばあちゃんの肩を掴んでてくてく行って、謎の声がね、

「うわあ、なんて面倒くさいモノ持ってきたんだ。でもそれがあると目玉が腐っちまうからね。しょうがないから置いてきな」っていう声がして
僕はその声の通り日本人形を雪の上にどさって置いて、おばあちゃんがお供え物をどんっと置いた音がしたんだよね。
「何か置いたの?」と言うと「うん、日本酒」
この山は稲荷なんだけども、お稲荷さんっていうと油揚げというイメージあるじゃないですか。
でもこの稲荷はオオカミ稲荷だから油揚げじゃなくて酒を欲しがるんですよね。
で日本酒を置いておばあちゃんが「どうかうちのamをお願いします」って拝みだしたのね。
その時に女の人の声で「あんまり馬鹿な真似しちゃダメだよ」っていう声が聞こえたと同時に段々光を感じてきたのね。
で、じわじわ何かが見えてきたの。ではっきり見えた時に視界の中に映ったのはエレベーターの中!
拝み山にいたはずなのに、エレベーターの中。
 とりあえず外に出たら東京都庁の展望だったの。雪国の人は条件反射で暖かいところに出ると肩とか頭とかぱっぱっと払っちゃったりするんだよね。
その時にぼそっと、雪が落ちてきたんだよね・・・・
その時に東京は雪降ってなかったんだよね
それから自分の部屋に帰ったら、ワードで書いたはずの仏壇の話が完全に消えてるんだよ。
これどういう事だと思ったら背後から

「amちゃん、どうよ」

って聞こえてきた。その時はさすがに振り向けなかった。
そういう事情があって「超」−1に応募できなかった。
0094名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:14:32.29ID:iSCL1GTp0
羽生は昨日の練習で3A跳んでたよ
調子は戻ってきてるからメダルの可能性はある
宇野もメダル圏内
0095名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:14:57.24ID:PHiGRKaE0
>>39
アジアは雪がまともにないし競技人口も少ないカザフスタンはクロカン強いがアジアかな?
アジアで冬季でそれなりに欧米と戦えるのは日本くらいだろうな
0096名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:15:04.09ID:3SnSCzX90
素晴らしいな
【金】小平奈緒500、宇野昌磨、パシュート
【銀】羽生結弦
あとはこんな感じ?
0097名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:15:15.26ID:c0Q6C2j10
「ソ連から脱走した祖父が中国で見た幻」

これはねしゅんすけおじいちゃんの話なんだ
シュンスケおじいちゃん、戦争中満州にいてね、学生を養成する大学講師の様な仕事をしてたんだけどね。
で、満州にソ連軍が攻めてきておじいちゃんソ連軍に捕まったんだ。
で、ロシア語多少出来るからジュネーブ協定で民間人は捕虜に出来ないから解放してくれ、って言ったんだけど
「いや、お前は戦争犯罪人だからモスクワに連れて行って戦争裁判にかける」とかそういう事言われちゃってね。
シュンスケおじいちゃんからしたらシベリアだったら地理的に中国と繋がってるからまだ日本に帰れる当てはあるけど、
モスクワまで連れて行かれたらもう一生日本に帰れないなと思って、それで脱走計画を練るわけですよ。

 脱走計画を練るときに一人じゃダメだから、色々特技を持ってる奴をあと3人集めてシュンスケおじいちゃんをリーダーに4人で脱走計画を練るんだけど
まずロシア語出来るシュンスケおじいちゃんがロシア兵に向かって「今からマシックショーするよー!」って言って、
仲間の一人で手品師で華麗なマジックショーをやるんだ。
するとロシア兵が手を叩いて「ワー、ブラボー」って拍手するのね。
その時に3人目の仲間のスリで詐欺師で日本にいたら捕まるから満州に逃げてきた、っていう本当の犯罪者が
ソ連兵に紛れ込んで鍵をスッちゃう。
で、マジックショーが終わらないうちにロウだか石けんに押しつけて型を取ってマジックショーが終わらないうちに戻ってきて
ソ連兵の懐に鍵を戻すの。
それから4人目の仲間である板金工がくず鉄から金属加工して型を元にして何とかスペアキーを作って、
鍵が開くことを確認して期日を決めて一斉に脱走。
で、ソ連から中国へ、中国から朝鮮へ行こうとしたのね。
0099名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:15:46.58ID:0GDXlSLj0
ソ連から中国へ横断してる時にもう極限状態だったんだよね。いつ殺されるか分らない恐怖。
あと飢えと寒さとずっと移動してる疲労。
 そんな時に炊事してる匂いがしてきたのね。
それで仮に死ぬとしても飯食ってから死ぬのも良いんじゃないかと言うことになってね
それで三国志に出てくるような屋敷に行ったらしいのね
何百年も昔の貴族が住んでるようなお屋敷。
そしたらね、門を叩いて、シュンスケおじいちゃんが北京語で「宿と食事を提供してください」って言ったら言葉が通じない。
満州って五族共和という言葉があるくらいで、中国人の他に満州族とモンゴル族と朝鮮族と日本人とそれで五族なんだけど。
それで別の民族かな、と思って朝鮮語で話しても通じない。満州語で話しても通じない。モンゴル語で話しても通じない。
あ、これ別の少数民族かなと思って困ってたら、シュンスケおじいちゃん学校の先生だから鉛筆いっぱい持ってたんだよね。
 それで紙に鉛筆で漢文で宿と食事を提供してください、って書いたら門番がそれを持っていったら、
筆で書かれた漢文で「宿と食事を用意します」って返事が返ってきた。

他の3人はやったーって喜んでるんだけどシュンスケおじいちゃんだけ「あれ?」って思ったの。
その書体が千年前の唐の時代の書体だって言うのね。
そんな古い書体を今時使ってる奴なんているのかなあ、と首をかしげたんだけど、応接間に通されたら数百年前の中国の貴族のような高貴な人が出てきて
それが館の主人で、その館の主人と鉛筆で漢文書いて筆談してやり取りして、その間に食事を貰って寝たのね。
 それで極限状態からほっとしたら体が油断して風邪引いたのね。
それでもソ連兵か中国兵が追いかけてるかもしれないから、出ていこうとすると館の主人が亀の甲羅ひび割れ見せて
「今は不吉だから行っちゃダメだ」っていってきた。
それでいっそのこと神頼みに頼ってみようと思って、その日は大人しく寝ることにしたのね。
0100名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:15:48.24ID:XwcPBbsq0
>>96
平野がいる
0101名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:15:58.52ID:LuDPQIOx0
>>79
専ブラ使ってないの?
0103名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:16:19.14ID:BqEVWu1f0
次の日風邪も治って出ていこうとすると主人がまた亀の甲羅のひび割れ見せて「こっちの方角へ行け」と言うのね
とりあえずその方角へ行ってみようかと言うことになったのね
で、その時にさんざん館の主人にお世話になったから何かお礼したなあ、と思ったね。
その時におじいちゃんが気づいたのは館の主人は筆で書いてるんだけど、おじいちゃんは鉛筆で書いてるわけだね
で、鉛筆を物珍しく見てたのね。だから鉛筆を全部挙げたのね。
そしてたら館の主人は巾着袋を五つ渡してきたのね。中を見ると金と翡翠で出来た装飾品だったのね。
それを貰って外に出たら草がぼうぼうと生い茂ってて、おかしいなと思って振り返ったら館がなくて丸い丘があるだけ
その丘をよく見たら人工的に作られたとしか思えないのね。
千年前の唐王朝って貴族を埋葬するときに丸い丘とかの下に亡骸を弔って古墳みたいなのを作るんだけど、そういう唐王朝時代の丸い古墳というのかな?
という憶測を立てつつ、とりあえず館の主人が言ってた方角に行ったら運良く年にたどり着いたんだ。
 
それからスリ大活躍。何でもかんでもスってそれで食料調達して。
それで朝鮮方面まで行って。
シュンスケおじいちゃんが都市に入って助かったと言う理由が、スリのおかげじゃなくて黄色人種が何も話さなければ中国人か日本人格別つかないから
日本人であることがばれない、というのね。
それで無言のまんま通り抜けてそのまま引き揚げ船まで行こうとしたんだけど、その時に運悪く中国兵に「お前日本人だろ」てばれて捕まったんだけど
その時に館の主人から貰った装飾品を全部出して、賄賂として渡して「見なかったことにしてくれ」って頼んだら解放してくれた。
それで引き揚げ船に乗って日本に帰ってくることになった

シュンスケおじいちゃんは良い大学でてる人で理論武装してる人だから幽霊信じない、と言うんだけど、
もし幽霊がいるとしたら「うらめしや〜」と出てくる怖いものだけとはは限らない、
客をもてなしてプレゼントされたららお返しもする。そういう血の通った幽霊も絶対いるはずだって。
僕が思ったのは中国語とか朝鮮語とかモンゴル語が通じないというのは、千年前の唐王朝の言葉と今の言葉が違うから通じなかったんじゃないかと
そういうお話です。
0104名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:17:16.98ID:BLqpA7950
 前方の信号が青になった。少しして車の列が流れ始める。
「あ!」
車道から横断歩道に入り込んだ子犬に向かってRV車が左折していく。
巻き込まれる。あのタイミングでは到底助からない。
『轢かれた?...』 交差点を直進しながら俺は横断歩道を確認した。
血塗れの子犬の轢死体を見るのは胸が痛むが、確認せずにはいられない。
!? RV車の通り過ぎた横断歩道に子犬が立っていた。すぐに俺の後ろの車が左折する。
しかしその後もバックミラーには横断歩道に立つ子犬の姿が映っていた。まさか、何故?
そういえばあのRV車も、俺の後ろの車もほとんど減速しなかった。
まるで子犬など全く見えていないように。いや、それよりも。
あの子犬は、半年前から全く成長していないではないか。
そして、この雨の中、その毛並みは全く水を含んでいなかった。
何故気が付かなかったんだろう?
『幽霊?子犬の...』
 「あの、話は変わるんですけど。」 「何?」
夕食後、リビングで俺とSさんは他愛ない話をしながらハイボールを飲んでいた。
姫は既に翠を抱いて自分の部屋に戻っている。2人とも、もう寝た頃だ。
Sさんは何か考える事があるのか、今夜は特に姫を追いかけたりはしなかった。
「動物の、例えば犬の幽霊って、いるんですか?」
「いることはいるわよ。でも数はとても少ない。」 Sさんはハイボールを一口飲んだ。
「動物は幽霊になりにくい、とか?」
「説明が難しいけど、『人間の心との関わり』があった動物だけみたいね。幽霊になるのは。
そしてそれが『良い関わり』か『悪い関わり』かで幽霊の性質は全然違ったものになる。
良い関わりなら御利益をもたらし、悪い関わりなら祟りをなす。ま、程度の問題だけど。」
「普通の、野生の動物は幽霊にはならないんですね。」
「そう。それにしても少なすぎると思わない?」 Sさんの眼が輝いた。
「動物の幽霊だけじゃなく人の幽霊も、何故そこら中が幽霊だらけじゃないのかしら?」
0105名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:18:09.01ID:7Lu8PQH40
 「生きている人の霊質を見分ける事は出来るんですか?」
「霊質の違いは微弱な信号として肉体に現れる。それが『気紋』。」
気紋、聞いた事のある言葉だ。胸の奥が痛む。あれはいつ、何処で聞いたのだったか。
「高位の術者やうまれつき資質を持っている人なら、気紋を感知して識別できる。」
Sさんは俺の眼を見つめて微笑んだ。「例えば、あなた。」
思い出した。確かにあの時Kは、俺が『気紋』を識別できると言い、それを不思議だと言った。
「お母様があなたの感覚の一部を封じた代わりに、気紋を感知する感覚が鋭くなったのね。
あなたは無意識に気紋を感知して識別してる。私の『百合の花に似た香り』みたいに。」
「百合の花の香りって!それは。」
会話の途中でSさんが俺の心を読んで先回りするのには慣れっこだがこれには驚いた。
その香りについて、今までただの一度も、話題にしたことはなかった。それなのに。
「私を抱きしめてくれる時、あなたの心には必ず百合の花のイメージが浮かぶ。
そのあとでラベルに百合の花がデザインされた化粧品や香水のイメージ。
でも、私は普段化粧をしないし香水も使わない。」
「じゃあ、あの香りは?」
「あなたは感知した気紋を無意識に五感の嗅覚に置き換えて認知してるってこと。
女性の気紋を花に例えて分類するのはとても古くからある手法だし、
真っ白な百合の花に例えられるのは、女として悪い気分じゃない。」
そういえば俺は姫のイメージが昼咲月見草に似てると書いたことがある。もしかしてあれも。
 Sさんはハイボールの残りを飲み干して小さく伸びをした。
「さて、眠くなってきたから私の話も聞いてね。」 「勿論です。」
「明日、依頼人に会いに行く時、私と一緒に来て欲しいの。」
「新しい依頼があったんですね。僕で良いんですか?Lさんじゃなくて?」
「今はお社の管理だけだけど、修行の進み具合によっては別の仕事の依頼も来ると思う。」
「...僕への仕事の依頼ってことですか?」
「そう、実を言うともう何十年も前から術者の数が足りなくて、慢性的な人手不足なの。
その時のために、あなたの適性を調べておきたい...そうしないと心配で堪らない。」
Sさんは右手でそっと俺の左頬に触れた。
「適性に合わない仕事を受けるのは、特に初めのうちは本当に危険だから。」
もし、仕事の依頼が来れば名実ともに俺は一族の一員と言うことになる。
ならこれは俺にとって、チャンスと考えても良い筈だ。
勿論、不安もあるが、Sさんが俺に期待してくれているということだから。
ぴいん、と、気が引き締まるのを感じる。下腹に力を入れた。
「わかりました。一緒に連れて行って下さい。」
「うん、良い返事。じゃ、明日に備えてもう寝ましょ。」
0106名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:18:16.67ID:t/u1ibdo0
>>94
フィギアスケートは競技として成立してないわあんなの
どんなに似たような演技しても、結局有名な選手ほど点数が貰える仕組みになってる
もちろん今は羽生結弦が有名選手として有利だから日本有利ではあるけど、
競技としては微妙すぎるわ
0107名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:18:47.28ID:KkOQfsTZ0
やっぱメダル取り出すと面白いな
0108名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:19:08.08ID:olwxZ96D0
昔、投身自殺をしそこなった。理由は特になかった。
なんでそんなことを決意したのかも記憶になかった。
医者は憶えていると死にたくなるような内容なら
突発性健忘で忘れる事もあるというように言っていた。
退院後、知人の間で自分が悩みを抱えているような素振りはなかったか聞いて回った。
怪訝な顔をする彼らは、首を捻るばかり。むしろなんで気にするのかと問われた。
自殺未遂の話なんて、近親者を除いて、全然知れ渡ったりしない。
投身自殺したんだよね、なんて話はあまりにも衝撃的過ぎるので濁した。
会社には投身自殺の話はばれていた。
入院が長かったので見舞いに来た上司には釈然としないけれどそのようだと事情を言っていた。
精神的にあまりにも不安定なら、休職したほうがいいと薦められたが、自発的に退職を選んだ。
慰留する声が大きかったが、医者に環境を換えてリフレッシュした方がいいかもしれないとアドバイスを受けた事を重んじた。
半年位して、俺は岐阜にいた。その三ヶ月後には富山にいた。
何か楽しい事をやってみようと思い立ち、不動産を売り払って金に換え、放浪生活を楽しんだ。
大手派遣会社に務め、各地の支店の間を点々とし、出費は最小限に抑えながら
なんとなしに、自分探しをしてたようにも思う。
ちょっとニュアンスが違うかな。自分というものが、様々なものに直面した時、それを楽しんでいるという実感が欲しかった。
そうすることで、自分は死ぬ必要がない人間なのだと思いたかった。
上手く伝わるように書けないものだな。
こう言えばわかるかな。
死ななきゃいけない秘密を、記憶の奥底に封じているのかもしれない。
あの医者の言葉は、こういうふうに解釈できる死刑宣告みたいなものだった。
あの言葉が、死ぬつもりがなくいつのまにか投身自殺を図っていた俺に
こんどこそ死ななくてはいけないのでは、という漠然とした自殺願望を抱かせていた。
最終的に俺はとある、あまり注目されない別荘地のペンションに落ち着いた。
そこは夫婦で切り盛りしているところで、静かなバカンスを楽しみたい常連に人気。
メジャーではないけど、県内都市部からのリピーターが多いみたいなところ。
学童に戻ったかのような気分を味わえて、お客さん同士がまるでボーイスカウトの班のように連帯感があった。
それがあまりにも居心地が良くて、延長に次ぐ延長をしていた。
ある日、いつものように起床し、歯磨きをしていると、不意に目の前が暗くなった。
真夜中のビルの屋上にいた。
背後から音が聞こえた。
振り返ると、子供らしきものを抱えた裸の女がたっていた。
異常だ、と思ったのは血と腐敗臭の混ざったような匂い。
後退っては距離を詰められということを繰り返して、俺は追い詰められている事に気づいて
とっさに階段に逃れて駆け下りていったけれど、大分地面が近い階までおりたところで。
下も上も、同じような得体のしれないものが立ちはだかっているのに気づいて、その階の通路に逃れたが。
そこにも女達が待ち構えていて、声を出そうにも声が出ずに、やがて、下を確認して車があることに気づくとそこを目指して飛び降りた。
はっと意識を取り戻すと、歯磨き粉をだらだらとこぼしている俺の顔が目に入り、そのすぐ横に女の顔があった。
あの夜に見たものより随分と、まともな様子。腐敗臭も血の匂いもない。けれど、恨みがましい目で睨まれた。
へなへなと崩れ落ちた俺が、女は動くのに子供は微動だにしないことに気がついた。
ひょっとして、俺は誰か女でも不幸にしたかと思うがそんな覚えがない。
「俺は、童貞だ。
もしかしたら、憶えてないだけで、迷惑をかけたかもしれない。
仕事場に急いでいる時にぶつかって転ばせ、流産させたとか、考え出したらきりがない。
けれど、俺はみてのとおり臆病で、何か物音でもしたら確認せずには済まさない。
本当に覚えがないんだ。こんなことをするなら、せめて理由だけでも教えてくれ」
「ふっ、…童貞なの。じゃ、別人だわ」
すーっと消えていく女が消えきって、弛緩した体に力が戻った。
色々と言いたいことはあったけど、全部飲み込んで、ペンションから離れた後
あの母子が成仏できるように、寺と神社と教会に頼み込んで、
東京に戻って高層マンションの1LDKを買って生活をはじめた。
0109名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:20:11.88ID:o4Mzd4c50
 次の日も、朝から結構な勢いの雨が降り続いていた。
ただ、土曜日なので姫の大学は休み。皆で食後のコーヒーを飲んでいる。
姫はコーヒーを飲み終わると翠を抱いていそいそとリビングを出て行った。
俺とSさんが出掛けるので、今日は一日翠の世話を任されるから姫は上機嫌だ。
姫がリビングを出て行った後、Sさんは棚のファイルから一枚の紙を取り出した。
「R君、これ、読んでみて。」
新聞の記事をコピーしたものだ。余白に4月28日(月)と書き込みがある。
ゴールデンウィーク前半の日曜日、女の子が一人行方不明になったことを伝える記事。
川沿いのキャンプ場で家族と一緒にバーべーキューをしていたのだが、
両親がちょっと眼を離した隙にいなくなったという。川で遊んでいる姿を見た人がいて、
深みにはまったのではないかと捜索が行われたが手がかりは無かったらしい。
俺もその記事を憶えていた。皆でAさんの温泉旅館に出掛ける前のことだった。
あれから半月以上経つが続報は無い。おそらく今も女の子は行方不明のままなのだろう。
「その子の遺体が見つかったんですって。捜査上の理由で公表されていないけど。」
「やっぱり水死、ですか?」
「違う。絞殺されたの。つまり事故ではなく殺人。
 「遺体が見つかったのはキャンプ場の裏手の山、歩いて10分程入った山道の脇。
そこに埋められていた遺体を警察が発見した。5月12日、月曜日ね。
それで一昨日、『チーム榊』のボス、榊さんから依頼があった。」
「チーム榊って...警察なんですか?」
「そう、ボスの榊さんが凄い人でね。昇進の話も沢山あったみたいだけど、
全部断って現場で第一線に立ち続けてる。
榊さんを慕って優秀な部下が集まってくるからチーム榊って呼ばれてるの。
迷宮入りしそうな難しい事件ばかりを担当してるのに
検挙率は90%以上、本庁からも注目されてるみたい。」
「もしかして後の10%が...」
「ご名答。たまたま成立してしまった完全犯罪、それから、人外の影響を受けている事件。
そんな事件に関する依頼があれば出来るだけ協力してる。捜査方針についての助言をしたり、
事件解決まで操作に協力したり。今回は事件解決まで協力して欲しいという依頼。」
たまたま成立した完全犯罪の証拠探しで俺の適性を調べることはないだろう。
「先月の事件には人外の、その、霊的な影響を受けているんですか?」
「詳しいことは榊さんから聞きましょう。そろそろ時間だわ。出発は10分後ね。」
0110名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:20:15.47ID:lePWir2X0
日本ポジ予想
金 羽生 小平 渡部 平野 女子パシュート
銀 宇野 高木 加藤
銅 原 高梨 男子ジャンプ団体 葛西 宮原 日本ノルディック団体
0111名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:21:00.75ID:9gQbDHLu0
 「うーむ。Sちゃんはウチの息子の嫁にと思っていたが...先を越されたか。」
いきなり大きな両手で右手を握られた。
「榊健太郎。Sちゃんにはかれこれ10年近く世話になってる。以後宜しく。」
「Rです。宜しくお願いします。」 「うん、良い面構えだ。 「最初の事件は一昨年の10月だ。隣の△県で6歳の女の子が殺された。」
最初の事件?先月の事件以外にも事件が起きているということか。
「目撃者も遺留品もほとんど無くてな。迷宮入り間違いないってことでウチに回ってきた訳だ。
その事件を引き受けたのが去年の4月。そして去年の5月、この町で2つ目の事件が起きた。
7歳の女の子が行方不明、現在も見つかっていない。親族の意向で公にされなかったから
この事件を知っているのはごく限られた人間だけ。」
「2つの事件に関連があるんですか?」
俺はメモを取りながら2人の話を一生懸命に聞いていた。
「いや、なんとなく関連があるような気がしただけなんだが...
とりあえず2つの事件は同一犯による連続殺人として捜査を進めた。
そして容疑者を絞り込んでいるうちに起きたのが先月の事件だ。」
「最初は川の捜索をしたんですよね。」
「ああ、一応はな。でも多分水死じゃないと思ってた。これは3つめの事件だと。
とりあえずマスコミには水死の線が強いって情報を流しておいて捜査を進めたよ。
それで健脚自慢の部下を一人だけ、キャンプ場辺りの捜索にあたらせた。
そいつは警察犬を連れてキャンプ場の裏山を虱潰しに歩いたそうだ。
あそこは山道が整備されててトレッキングの客も多い所だから
物々しい捜索をすれば犯人に感付かれるかもしれんからね。榊さんはもう一度、ギュッと力を込めて俺の手を握ってから踵を返した。
「後はそっちで話そう。資料を取って来る。」
万事心得ているのだろう、Sさんは応接セットのソファに腰掛けた。俺も隣に座る。
Sさんが俺の左耳に囁く。 「榊さんには息子はいないの。だから気にしないで、ね。」
「あ、はい。大丈夫です。」
なら息子って榊さんの部下の事じゃないかと思ったが、Sさんの言うとおり気にしない事にした。
しばらくして榊さんが大きな封筒が幾つか入ったダンボール箱を持って戻ってきた。
その箱をテーブルに置いて俺たちの向かいに座る。
「さて、それじゃ始めようか。」
0112名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:21:50.95ID:x8UtYqym0
 「この写真を見てくれ。」 俺たちに向けてテーブルに写真を並べる。
一枚目の写真にはグレーのジーンズに黄色っぽいジャケット、長髪の男の後ろ姿。
二枚目の写真は同じ服の男を正面から撮ったものだが、たまたま通りかかった人のものか
左手らしき肌色のボケた影が写りこんで男の顔は見えなかった。
Sさんは二枚目の写真を手に取った。数秒間眺めてからその写真を俺に手渡す。
「R君、この写真どう思う?」
特に不可解な構図ではない。隠し撮りか、遠くから望遠レンズで撮ったか、いずれにしても
 「容疑者の内、こんな事が起きたのはこの男だけだ。当然この男を一番にマークした。
〇田盛司、32歳。前の職場は△県、最初の事件が起きた街。
そしてこの男は去年の4月、この街の営業所に転勤になってる。まあ、ドンピシャだな。
こいつが犯人。尻尾を掴むのも近い、そう思って安心したよ。そしたら。」
榊さんは両手でごしごしと自分の顔をこすり、ひとつ深呼吸をした。
「そしたら、マークにあたらせていた部下が入院した。無断欠勤したんで様子を見に行ったら
酷く錯乱してて、『女の子の遺体が』とか『鬼』とか言うんだが全く要領を得ない。
今は薬で眠らせてるが、元に戻るかどうかは分からないと医者は言ってる。
優秀な男だったんでウチとしては大きな痛手だし、なによりご両親に申し訳なくてな。」
「令状を取るのに必要な証拠。それと解決までの捜査協力、それで良いですか?」
「是非頼むよ。最初の被害者の家族が事件に懸賞金をかけてるから
解決すれば規定の報酬も用意できる。」
「分かりました。正式に依頼を受けます。まず、写真の用意を。」
「了解。もう用意してある。」 榊さんはダンボール箱の中から小さめの封筒を取り出した。
男に気付かれないように撮ったのだろう。たまたま通行人の手が写り込んでも不思議は無い。
しかし、男の顔にかかる手のような影に、俺は不吉なものを感じた。首筋に鳥肌が立つ。
「この、手みたいな影、凄くイヤな感じがします。」
「その通り、これは通行人の手なんかじゃない。
こんなにハッキリ写るのは珍しいけど、これは一種の心霊写真だわ。
榊さん、この男の顔はどうしても撮れないってことですね。」
「そうだ。部下が撮った写真は9枚あるが、まともなのは後ろ姿の2枚だけ。
正面や横から撮ったものは全部同じような影が写りこんで男の顔を隠してる。」
Sさんの言った『人外』という言葉を思い出した。こんなことができるのは一体?
0113名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:22:44.00ID:p3iifu5F0
 「いつもと同じ〇×の印画紙。取り敢えず10枚用意した。」
榊さんは緑色の封筒の中から銀色の薄い包みの束を取り出してSさんに手渡した。
「それと、これ。」 もう一度ダンボール箱に手を入れる。
テーブルの上に並べられたのは真空パックされているらしい衣服だ。パックは3つ。
うち2つは布地がかなり汚れていた。ということはおそらく。
「この2つは被害者の遺体が発見された時に着ていたもの。
こっちは行方不明になっている女の子がお気に入りだったTシャツを借りてきた。」
「早速始めます。部屋を暗くして下さい。」
 暫くしてSさんは2つのパックを手に取った。両方とも被害者が着ていたものだ。
「この2つに、同じ女の子の気配を感じます。被害者たちとは別の女の子の気配。」
4人目の女の子?2つのパックにその女の子の気配?一体、どういうことだ?
Sさんは2つのパックを胸にそっと抱きしめた。
成る程、俺は衣服が真空パックになっている理由を理解した。
パックしていなければ重要な証拠品をこんな風に抱きしめたりは出来ないだろう。
それに強い異臭がしたりすればSさんの集中力が削がれるかもしれない。
突然、Sさんの表情が険しくなった。パックをテーブルに戻す。
そして銀色の包み、印画紙を一枚手に取った。印画紙を両掌で挟み、目を閉じる。
暫くして首を振り、眼を開けて印画紙をテーブルの左端に置く。
もう一枚の印画紙を手に取り、眼を閉じる。Sさんの集中力がどんどん高まっていく。
「力を貸して。お願い。」 Sさんは小さく呟いて手に力を込めた。
眼を開けて印画紙をさっきの印画紙の隣に並べる。
Sさんはもう一度同じことを繰り返したあと、印画紙を2枚目の印画紙の上に重ねた。
重ねた印画紙を榊さんに渡す。 「この2枚は多分使えると思います。」
「よし、早速現像させよう。」 榊さんは机に戻って電話をかけた。
「水野、現像を頼む。大至急だ、すぐに着てくれ。え、いや印画紙だ。そう、2枚。」
榊さんがソファに戻る前に廊下を走る足音が聞こえ、すぐにノックの音がした。
榊さんがドアを開け印画紙を手渡す。「大至急だが、くれぐれも慎重に、な。」 「はい。」
そんなやりとりの後、足音は慌ただしく遠ざかっていった。
俺と榊さんは手分けして部屋のカーテンを閉めた。厚手の遮光カーテンのようだ。
蛍光灯を消すと部屋の中はかなり暗い。灯りは榊さんの机の上の小さなスタンドが1つだけ。
Sさんは衣服の入ったパックをじっと見つめている。
やがて眼を閉じ、パックの上に左手をかざした。Sさんの集中力が高まるのが分かる。
しばらくするとSさんは眼を開いて首を振った。
「おかしい。何も見えない。少なくとも先月の事件については辿れる筈なのに。」
「あの写真と同じように、何かが邪魔をしてるって事かい?」
「いいえ、違います。でも、これは...。」
0114名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:23:07.91ID:TiZMkQ+A0
>>96
フィギュアはミスでだいぶ順位変わるからわからんね。そうじゃなくても1-2フィニッシュはキツそう。
0115名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:24:01.09ID:iFnc+Jh50
 俺がお代わりのコーヒーを半分ほど飲んだところで走る足音が聞こえた。
続いてノックの音。榊さんがドアを開けた。「榊さん、これ、見て下さい。もの凄いですよ!」
僅かな沈黙のあと、榊さんは興奮を押し殺すような声で言った。
「OK。水野、後で指示する。部屋で待機だ。」 「了解です。」
榊さんはドアを閉めてソファに戻り、2枚の写真をテーブルに並べた。
「久し振りに見たが、信じられん。しかも以前より、鮮明になってるような気がする。」
!! 俺は写真を見て息を呑んだ。 やはり、念写。しかもこれは...
一枚目の写真には女の子と手を繋いで歩く男が写っていた。顔もハッキリと見える。
二枚目の写真には車のドアを開け女の子を乗せようとする男。これも顔がハッキリ見える。
榊さんは段ボール箱の中の封筒を探り一枚の写真を取り出した。テーブルの上に置く。 『これがあれば令状が下りる』のなら、今の時点でこの写真以外に
決定的な証拠が無いということだろう。それはド素人の俺にだって分かる理屈だ。
でも、念写した写真が証拠に使われるなんて聞いたこともない。
「あの、その写真が証拠になるんですか?」 俺は思わず口を挟んだ。
いくら『本物』でも、これが証拠とは...確かにSさんの念写は本物だろう。
でも、高位の術者ならデッチ上げも可能な筈だ。それを証拠にするのはちょっと。
「もちろん裁判では使わんよ。ただ偉い人達は頭が固いから方便も必要なんだ。
もし令状が下りれば、家宅捜索で絶対に証拠は見つかる。きっと、見つけてみせる。」
「捜索はいつ頃になりそうですか?平日の昼間は都合がつけられないんです。」
そうだ、姫が大学に行く日は翠を預けられない。
だから当然、俺とSさんが2人で出掛ける訳にはいかない。
榊さんは壁のカレンダーを見た。
「来週、金曜日の夜はどうだい?5月30日だ。
それまでには俺が必ずこの男の行動パターンを調べ上げてお膳立てをしておく。」
「新聞にはわざと写真を載せなかったし、その後も情報は漏らしていない。
だから限られた人以外は顔を知らないはずだが、これは間違いなく先月の事件の被害者だ。」
確かに3枚の写真に写っている女の子は同一人物に見える。
榊さんは女の子と一緒に写っている男の胸を人差し指で押さえた。一枚目、そして二枚目。
「そして、この男は〇田だ。俺も部下と一緒にこいつの顔を見たから間違いない。
そしてSちゃんはどちらも知らないのにこの写真を撮った。つまりこの写真は、本物だ。
これがあれば間違いなく令状が下りる。」
0118名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:25:11.17ID:G0fzH6Cs0
 『契約』ってことは、榊さん側も何か大きな見返りを捧げているのかも知れない。
でも、初対面でそこまで立ち入って聞くのは、いくら何でも失礼だろう。
「済みません。そういう事情とは知らなかったので、話の腰を折ってしまいました。」
「いやいや、心配して言ってくれたんだ。感謝するよ。」
Sさんがいつの間にか取り出した手帳を確認し、何かを書き込んでいる。
「30日の夜、それでお願いします。もし予定が変わったら連絡して下さい。」
「了解だ。詳しい時間も決まり次第連絡するよ。」
「今日のお仕事はここまで。じゃR君、私たちはこれで失礼しましょう。」
俺が立ち上がりかけるとSさんが声を掛けた。
「ちょっと待って。大事なことを忘れる所だった。」
俺がもう一度ソファに座ると、胸の内ポケットから白い紙と小さなハサミ、
そしてポチ袋のような小さい封筒を取り出した。
紙を蛇腹状に細かく折り、ハサミで複雑な形に切り込みを入れる。
そしてそっと息を吹きかけた後、それを封筒に入れて封をした。
 Sさんから封筒を受け取り、榊さんはそれを両手で押し戴いた。
「Sちゃん、ありがとう。恩に着るよ。」
「これはサービスですから。気にしないで下さい。R君、お待たせ。」
「はい。」 俺は立ち上がり、ドアに向かって一歩踏み出した。その時、
「Sちゃん!」
榊さんの叫び声に振り向くと、眼を閉じたSさんの体がぐらりと傾いた。慌てて抱き止める。
Sさんはすぐに眼を開けたが、その顔は蒼白い。駆け寄った榊さんも心配そうだ。
「大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけ。」 俺の肩に手を掛けて立ち上がる。
「でも、帰りの運転はお願いね。」 「任せて下さい。」
心配そうな榊さんを駐車場に残し、俺が車を出したのは11時20分過ぎだった。
「これを田島君の枕元に置いて上げて下さい。多分、2・3日で良くなります。
退院する時、これは忘れずに焼いて下さいね。」
榊さんの『息子』は田島という名字なのだと、それで分かった。
0119名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:25:47.26ID:khWvs/Ck0
 「本当に、大丈夫なんですか?」
まさかあの念写が禁呪ということはないだろうが。
「うん。久し振りだったし、かなり難しかったから少し消耗しちゃった。心配掛けてゴメンね。」
Sさんは右手の人差し指で俺の左頬を軽くつついた。
「ふふ、『質問がいっぱいあります』って顔してる。」
「そりゃ、あんな術を見せられたりあんな話を聞いたりして、質問がない方がおかしいですよ。」
「そうね。じゃあ3つだけ、どんな質問にも答えてあげる。」
「本当に、どんな質問にも正直に答えてくれるんですね?」
「珍しく今日は疑り深いわね。もちろん何でも正直に答えるし、
答えられない時は何で答えられないのかちゃんと説明する。それで良いでしょ。」
「本当に、本当に体は大丈夫なんですか?」
「...あ...っ」
突然、Sさんの両目から大粒の涙が溢れた。そのまま俯いて肩を震わせる。
雨粒のような滴がポタポタと落ちて、膝の上でぎゅっと握りしめた両手の甲を濡らしていく。
俺は驚いて路肩に車を停めた。
「どうしたんですか?僕何か悪いことを...御免なさい。」
Sさんは思い出したようにハンカチを取り出して涙を拭った。
「...馬鹿ね。さっきも、答えた、質問でしょ。
これで、質問が残り2つに、なっちゃったじゃないの。」
「でも、さっきは正直に答えてくれたって保証がなかったから。だから心配で、御免なさい。」
「謝らないで。ちょっとだけ、待って。」 俺の左肩に頭をもたせて眼を閉じる。
「いつまででも、待ちますよ。」 Sさんは2度、小さく頷いた。
0120名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:26:20.17ID:BwL+tfNO0
 遠く前方に見える信号が3度目の赤に変わったところでSさんは眼を開けた。
「泣いたらお腹が空いた。ね、もし翠の世話で手一杯だったらLは食事作れないかも。
出前取りましょうよ、お寿司の。いつもの藤◇で。回復するには沢山食べないと。」
まあ、もし姫がお昼を作っていたとしても、それは夕食にアレンジすれば良いのだし。
何よりSさん自身が食べたいものを食べるのが一番だ。
携帯で出前の手配を済ませると、Sさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「じゃ、車出して。心配してくれて嬉しかったから、特別に質問は3つのままにしてあげる。」
「ありがとう御座います。じゃ、最初の質問です。」
「どうぞ、何なりと。」
「あの写真の手みたいな影なんですけど。あれは何かがあの男を護ってるってことですか?
例えばあの男の守護霊が、あ、でも守護霊が犯罪の片棒担ぐのは変ですね。」
「R君、あなた見たことあるの?誰かの守護霊。」
「ありません。でもさっき、榊さんの守護霊も僕には見えませんでしたから。」
「確かに彼の一族は護られてるし、榊さんは跡取りだから特に手厚い加護を受けてる。
でも榊さんたちを護ってるのは高次の、途方も無く大きな力。
守護霊なんて言ったら、とても失礼だわ。それこそ恐れ多い。それにね、
今はとても一般的になっちゃってるけど...もともと一般的な意味での守護霊なんて無い。
多分守護霊なんて、憑依した悪霊が自分の悪行を続けるために
宿主を護ってるのを誤解した半端な能力者が言い出した概念だと思う。」
0121名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:27:18.93ID:ug+y2rIm0
 「じゃあ、あの手みたいな影は男に憑依した悪霊の?」
悪霊に操られている。それならあの男があんな怖ろしい犯罪を犯し続けるのも理解できる。
「違う。憑依した悪霊なんかじゃない。あの影は、あの男自身。」
あの男自身?あの影は生き霊ってことか、でもあの男は。
「そう、それだけこの件は深刻。本来生き霊が活動出来るのは、本体の意識が無い時だけ。
でも、あの男が普通に街中を歩いている時に生き霊が活動し、捜査を妨害した。」
「...どういうことですか?」
「悪霊に憑依されたんじゃなくて、あの男が生きたまま、その魂が悪霊になってしまってる。
昨夜話したでしょ?幽霊になりやすい種類の魂があるって。恐らくあの男の魂はその中でも
更に希な霊質を備えていたんだと思う。だから生きたまま、魂が異形に変化してしまった。
そうなると生きた人間の体にも、死んだ人間の魂にも影響力を行使できるし
本体としての意識と生き霊としての意識を、同時に活動させることも可能になる。
さて、最初の質問の答えはこれでお終い。2つ目の質問をどうぞ。」
「...自分なりに頑張って修行はしてるつもりですが、悪霊を相手にするのは初めてで
正直ちょっとビビってます。来週の金曜日、何か僕が気を付けることはありますか?」
「ひとつだけ。怖いのはりまえだけど『鍵』はかけないで。最初から最後まで。
そして何を感じたか教えて欲しいの。そうじゃないと適性を調べることが出来ないから。
もし本当に危ない時は私がちゃんと対応する。だから、信じて言う通りにして。」
0122名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:28:09.26ID:lM0R8OeN0
 少し恥ずかしかったが、ちゃんと聞いておいて良かった。
今の俺があるのはSさんのお陰、自分自身よりSさんを信じる方が俺には簡単だ。
「分かりました、約束します。惨めな姿をさらしても、見放さないで下さいね。」
「...もし適性が、なかったら...その方が、どんなにか私も、Lも」
Sさんの眼にまた涙が浮かんだので俺は慌てた。
「ストップ!涙禁止です!! 適性が無かったら僕が困ります。絶対無様なことはしません。
そのためにも3つ目の質問、良いですか?」
Sさんはハンカチで目頭を押さえ、一度鼻を啜ってから小さく頷いた。
「どうぞ。」 小さな声だ。胸の奥が痛む。
「4人目の女の子のことです。その子もあの男の被害者なんですか?」
途端にSさんの顔が厳しく引き締まった。濡れた睫も凛々しく見える。
「この件の核心に関わることだけど、その質問には答えられない。
来週の金曜日、あなた自身でそれを感じて欲しいの。だから、これは宿題。」
「それを感じるために、鍵を掛けないでおくんですね?」
「そう、これで4つ目の質問だけど、3つ目の質問の付録ってことにしてあげる。」
「重ね重ねの特別扱い、心から感謝致します。」
「いいえ、どういたしまして。」
本当はもう1つ聞きたいことがあったが、それも宿題にしよう。
俺に適性があり術者として生きていけるなら、きっと来週の金曜にその答えが分かる筈だ。
車は既に街を抜け、お屋敷に繋がる山道に入っていた。
今日もまた、雨が降っている。
『卯の花腐し』、俺は何故かその言葉を思い出した。
あれは何時、誰から聞いたのだったか。
 お屋敷に着き、車を降りても姫の姿は見えなかった。
いつもなら、車の音を聞いたら翠を抱いて玄関先まで出て来てくれるのだが。
Sさんが鍵を開け、お屋敷の中に入る。
俺は2人分の傘の水を切り、玄関先の傘立てに立て掛けてから後を追う。
「出前、取って正解だったかも。」 Sさんが唇に指を当てたあと小声で手招きをした。
リビングのテーブルに離乳食用の食器が一揃い。きれいに空っぽだ。
ソファに姫が寝ていて、そのお腹の上に翠がうつぶせで寝ている。
2人ともちょっとやそっとじゃ起きそうにないほどグッスリ寝ているようだ。そして。
姫の胸元がはだけて、左の乳房が露わになっている。眩しい。
翠は既にほとんど離乳食への切り替えを終えていたが、
満腹になって眠くなるとSさんの乳房を恋しがってぐずる事が度々あった。
そんな時、Sさんはもう母乳の出なくなった乳房の乳首を翠に含ませる。
そうすると翠は満足して、やがて深い眠りにつくのだった。
それを見つめるSさんの優しい微笑み。良く似た充足感が姫の寝顔にも見て取れた。
おそらく今日も食後に翠がぐずったのだろう。Sさんの対応を見たことのある姫はそれで...
「はい、殿方はここまで。分かってると思うけど、これは見なかった事にしてね。」
Sさんは俺の背中を押してリビングから追い出そうとする。
「心が読めるのにそんなことしても意味無いんじゃ」
「大有りよ。『知らない振り』してくれたって、それが大事なの。女の子には。」
0123名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:28:57.76ID:gzMhjnsW0
 俺がリビングを出ると、車の音が聞こえた。ちょうど寿司の出前が届いた所だった。
Sさんが注文した6人前(!)の寿司に、取って置きの日本酒を添えてパーティーが始まった。
 激しい雨音で眼が覚めた。本当に、よく降る雨だ。
時計を見るともう5時前、さすがの雨空も少し明るくなっている。
姫は翠と一緒に自分の部屋。Sさんは昨夜もそれを止めず、微笑んで二人を見送った。
俺はSさんをベッドに残して窓から外を眺めた。宿題のことを考える。
Sさんからの宿題、4人目の女の子。そして俺自身のもう1つの宿題。
「生きたまま、あの男の魂が悪霊に変化した。」 Sさんはそう言った。
では、そのきっかけは一体何だったのか?
もともと小児性愛の性癖があり、たまたま女の子を殺したのがきっかけだったのか。
それが癖になって犯行を重ね、その度に男の魂は異形へと変わっていった。
いかにもありそうな話だが、俺はその考えをどうしても肯定できなかった。
あの女子高生の件に関わった時、Sさんは彼女が乱暴されていた事を俺に隠さなかった。
もし被害者たちが乱暴されていたなら、今回もそれを俺に話してくれた筈だ。
Sさんが話さなくても、事件について説明の中で榊さんが話してくれただろう。
人が生きたまま、その魂が悪霊に変化する程の出来事。
それが単に異常な性癖によるものとは思えない。
何処か落ち着かない、微かな違和感が俺の心に蟠っていた。
俺が1人前を食べる間にSさんと姫は2人前ずつをさっさと平らげる。
食べながら飲みながら代わる代わる翠をあやし、残りの1人前を3人で片付けた。
大学生になってから、姫も少しだけお酒に付き合ってくれるようになった。
ただ、姫の頬が仄かな紅に染まっているのがお酒のせいなのか、
それとも先刻の俺の『知らない振り』のせいなのか、それは分からない。
後片付けが終わってから着替えて、みんな揃ってSさんの部屋で昼寝をした。
Sさんと姫は翠を挟んでベッドの上、俺はソファの上。
午前中にあんな話を聞いたのがまるで嘘のような、静かな、穏やかな雨の午後。
0124名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:30:25.15ID:odXooi520
 次の週の金曜日は朝から久し振りの青空。窓から朝陽が差し込んでいる。
俺が姫を大学に送って戻ってくると、Sさんは入れ違いに出掛けていった。
「今夜のために下調べと準備があるの。昼ご飯までには戻るわ。」
「僕も一緒に行かなくて良いんですか?」
「予備知識は少ない方が適性を調べるのには好都合だから。翠をお願いね。」

 帰ってきたSさんが少し疲れたような様子だったので心配したが、
昼食を食べた後、いつも通りに翠と昼寝をした後はすっかり元気になっていた。

 俺が姫を迎えてお屋敷に戻ったのは6時少し前。Sさんは身支度をして俺を待っていた。
俺も姫を迎える前に出掛ける準備を済ませてある。姫に翠を託してすぐに車を出した。
待ち合わせの交番に着いたのが6時25分。ドアの前で榊さんが待っていた。
「男が住んでるマンションはここから歩いて3分くらい。『シャトレ○崎』の205号室だ。
警官に事情を話してあるから車はここに置いてくれ。此処から歩こう。」
「確かに男は家にいるんですね?」
「6時前に帰ってきたのを部下が確認してる。
 『たてものに さいくをしたのはおまえたちだな けいさつ か』
嗄れた声は男の頭上、天井近くから響いていた。
「そうだ。令状もある。3人の女の子が殺された事件だ。心当たりがあるかい。」
『それじゃあ かんたんにかえすわけには いかないなぁ』 部屋のドアがバタンと閉まる。
空気が変わった。
体感温度が一気に下がり、部屋の中に濃密な悪意が満ちていく。
『鍵』を掛けていないから、流れこんで来る悪意に意識が飲み込まれそうだ。
目眩がして胃の中から苦いものが逆流してくる。必死でこらえた。
「しっかり、前を見て。」 耳許でSさんの声。
深く息を吸い下腹に力を入れて真っ直ぐ前を見る。
男のすぐ前に、巨大なものが立っていた。
人に近い姿だが、『鬼』という他に表現しようのない異形。
身長はおそらく3m近い、見上げるような裸身の巨体。肩まで伸びた蓬髪。
黒く汚れた大きな顔には血走った野球ボールほどの目玉、俺たちを見つめている。
そして...榊さんの部下が錯乱したのも無理はない。
4本の長い腕が胸の前で3人の女の子をまとめて抱きかかえていた。
腕の間から女の子たちの腕や脚がはみ出して力無く垂れ下がっている。
2人の女の子の顔は見えないが、1人の女の子の顔がこちらに向いていた。
苦痛に歪んだ顔。見開かれた眼は白く、表情に変化は無い。
残り2本の腕が女の子たちの髪をすいたり頬を撫でたり、ゆっくりと動いている。
巨体に6本の腕、これはまさに『鬼』そのものだ。
一体これは現実なのか、それともこの部屋を満たす悪意が見せている幻視なのか。
今、俺たちはここにいるのだから、ドアが開いたりチェーンが掛かったりしたのは現実だろう。
しかし、幾ら何でもこの異形の鬼は...とても現実のものとは思えない。
Sちゃんの指示通りに部下を配置したけど、本当に障りはないのかい?」
「はい、特別な結界を張ってありますから入ることは出来ても出てこれらません。
本体も生き霊も。だから大丈夫です。じゃ、出掛けましょう。」
0125君が代はどした
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2018/02/13(火) 02:32:54.39ID:iuQnmMNR0
『銅メダルなんて誰でも取れる』
石原都知事の2010年2月の発言

拍手喝采
スーパーアスリートには似合わない色と断定できる
金は世界一、No.1の色
10円玉色や50円玉色で満足するなら
あの犬が吠えるだろう

お父さんの口癖、知ってるか
志が低い

   ∧-、
  r‘ ・ >  
   ` =='\
    |    ヽ
    UUてノ
0126名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:33:15.42ID:ggqtLXsp0
 マンションの管理人にはあらかじめ話してあったのだろう。
榊さんがインターホンで二言三言話すと、一階正面、オートロックのドアが開いた。
フロアの端の階段で2階へ上がる。階段を上って左、最初の部屋が205号室だった。
ドアから3m程の距離で榊さんが胸ポケットから封筒を取り出した。中身は多分捜査令状。
「榊さん、護符は持ってますよね。」
「ああ、部屋の中に入っちゃったらSちゃんの護符だけが頼りさ。さて、いよいよだな。」
その時、微かな金属音がして205号室のドアがひとりでに開いた。中に人影は無い。
「あれは?」
「『入ってこい』ということですね。私たちが来たのを男は知ってます。
R君、あのドアをくぐったらそこから先は完全に相手の領域。
何が見えても、何が起こっても不思議じゃない。気をしっかり持って、良いわね。」
「了解です。」
ドアをくぐり、玄関で靴を脱いで中に入る。
ダイニングキッチン。その奥に灰色のドア、男はおそらくあの中だ。
と、玄関のドアが閉まり、俺たちの見ている前でひとりでにドアチェーンが掛かった。
「おっかねぇ。」 榊さんが小声で呟く。
その時、微かな耳鳴りがした。くぐもったような雑音。いや、これは誰かの声だ。
キーンという耳鳴りに混じって聞こえる、途切れ途切れの呟くような声。
『・・・な○・ なぜ・・・だけ ・○み・・・』
「R君、どうしたの?」 「何だか、小さな声が聞こえました。雑音みたいな。」
『どうした はいってこいよ かぎはかかってない』 嗄れた声が響く。
ゆっくりとドアノブが回り、灰色のドアが開いた。やはりドアの内側に人影はない。
「行きましょう。」
Sさんを遮って榊さんが先にドアをくぐった。次にSさん、最後が俺。
部屋の中は薄暗く、男がパソコンのモニターを背にして椅子に座っていた。
まるで居眠りをしているように俯いていて顔は見えない。
0127名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:34:13.74ID:rrjjY6oJ0
 「やっぱり。殺した女の子たちの魂を捕らえていたのね。意識を辿れなくて当然だわ。」
『このこたちは おれのものだよ』 嗄れた声は以前より大きく、はっきりと聞こえた。
「違う。その女の子たちはお前のものじゃない。その子たちを離しなさい。」
『いや だ ことわる』
Sさんはポケットから白い小さな布袋を取り出した。
この鬼を人型に封じることができるのだろうか。それが出来れば男の本体も。
女の子の頬を撫でていた鬼の腕が一本、ゆらりと伸びて更に長く、太くなった。

座布団ほどもありそう 『・・・な○み なぜおま・だけが な○み・・・』
この声。そうか、4人目の女の子はこの男の。俺は思わず言葉をかけた。
「なあ、あんたに聞きたい事がある。とても大切な質問なんだ。答えてくれないか?」
数秒の沈黙の後。ふっ、と鬼の腕が緩み、ゴルフバッグが床に降りてきた。
Sさんは驚いたような顔で俺を見つめている。
『なにを ききたい』
「あんたが大事に抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘もいるのかい?」
『な に』
「あんたが抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘、『な○みちゃん』もいるのかい?」
『な○み...おれの むすめ...』
俺はこちらを向いている女の子を指さした。おそらく先月の事件の被害者だ。
「少なくともその女の子は『な○みちゃん』じゃない。
残りの2人はどうだ?『な○みちゃん』はいるかい?」
『な○み おれのむすめ いない もう いない』
「あんたと別れるだけでも『な○みちゃん』は辛くて悲しかったはずだ。
それなのに、あんたの今の姿を見たら、『な○みちゃん』は余計に辛くて悲しいんじゃないか?
大事な娘を亡くして、辛いのは良く分かる。でも、だからってこんなことをするなんて。
あんたはそれで、それで本当に満足なのか?」
『...おお おれの な○み いない どこにも』
鬼は頭を抱えて床に膝をつき、床が揺れた。体は一回り小さくなったように見える。
その両目から赤黒い液体が溢れ、首から胸へと伝った。文字通り、血の涙。が、壁際のゴルフバッグを鷲掴みにする。
ゴルフバッグは軽々と浮き上がり、俺の頭より高い位置で横になった。
ゴルフクラブがぶつかりあう重い音が微かに聞こえる。
まずい、もしこれが幻視でないとしたら。
投げつけられても、叩きつけられても、絶対に無事では済まない。
Sさんをそっと抱き寄せる。何とかして庇う方法はないか。何としてもこの人だけは。
つっ!!また、耳鳴り。耳の奥が痛む。雑音に混じる、途切れ途切れの、呟くような声。
0128名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:35:09.03ID:MuL5/fN50
>>56
メダルの価値を決めるのは選手だけだ

ゴキブリ以下のお前が決める事じゃない
0129名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:35:09.41ID:lOz97V8S0
 Sさんが白い布袋の中から人型を取り出して右掌にそっと乗せた。
息を吹きかけると人型は鬼へ向かってひらひらと飛び、空中で燃え上がる。
...これは。
膝をついた鬼のすぐ前に、小さな女の子が立っていた。
鬼はぽかんと口を開けて目の前の女の子を見つめている。
腰まで伸びた長い髪。黄色のワンピース、白い靴。悲しそうな後ろ姿。
『お父さん、どうして? どうしてこんな酷いことするの?』
俺はSさんの口元を見た。一文字に結んだままだ。ということは、『声色』ではない。
『な○み それ は おとうさん が』
『お父さんが大好きだったのに。お父さんの馬鹿!私は、ずっと...』
俯いた女の子の肩が震えている。透明な雫が小さな靴を濡らした。
『お願い。もうこんな事止めて。その女の子たちを離して、ちゃんと謝って。でないと、私。』
 『俺は、他の親子を妬んだ。妬んで、憎んで。あんな酷いことを。』
鬼の腕は2本になっている。その2本の腕を床についた。
『俺はこうして、な○みに会えたのに。あの子たちは、あの子たちの家族は...』
前のめりに床に突っ伏しているのはもう鬼の姿をした異形ではなく、
椅子に座って俯いている男と同じ服を着た、痩せた長髪の男だった。
Sさんが右手に3枚の人型を掲げ、何事か小声で呟いた。
横たわる女の子たちの顔から苦悶の表情が消え、その姿は見る間に薄れていく。
黄色いワンピースの女の子が振り向いた。涙に濡れた可愛い顔。
女の子はSさんに向かって頭を下げた。
Sさんは目を閉じ、胸の前で印を結ぶ。
部屋の空気が軽くなった
この部屋を閉ざしていた力が緩み、部屋に満ちていた悪意と憎しみが拡散していく。
女の子と、床に突っ伏した男の姿も消えた。
女の子は耐えかねたように両手で顔を覆った。静かな部屋に響く小さな泣き声。
どのくらい時間が経ったのか、鬼の腕がゆっくりと動き出した。
2本の腕で女の子の体をそっと床に横たえる。
1人、もう1人、そして最後の1人。
鬼は6本の手で仰向けの女の子の髪を整え、開いていた眼を閉じていった。
『おまえが 死んだ時、お父さんは。なぜお前だけがと、そう思って。お父さんは馬鹿だった。』
鬼の体は次第に小さく萎み、その姿も人に近づいていく。
0130名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:36:49.66ID:swvNFb2s0
 歩きながら榊さんが独り言のように呟いた。
「こいつ、軽いな。この男が娘を事故で亡くしたのは2年前だ。
子を失った親の気持ちは骨身に染みてたはずなのに、何故あんな事を。全くやりきれん。」

Sさんが小さく溜息 俺たちは正面入り口に戻り、マンションを出た。
交番の中の警官に会釈をして車に乗り込む。警官は少し驚いた顔をした。
俺たちと榊さんが此処を出てからまだ30分も経ってないのだから驚くのも無理はない。
「こんなに早く捜索が終わるなんて思わなかったでしょうね。」
「もしあの男が罪を認めたら、なるべく早く調書を取った方が良いと
榊さんに話してあったの。多分あの男の体はあまり長く保たないから。
本格的な家宅捜索は、きっと来週以降になると思う。」
写真に写った影、ドアや鍵の開閉、なによりあの鬼の出現。
一体どれほどのエネルギーを要しただろう。生身の人間には、あまりに大きな消耗だ。
修行を重ねた術者ですら、限度を超えて消耗すれば回復出来なくなる、
つまり死ぬことがあると聞いていた。まして普通の人間では。
この事件の裁判は開かれない、何となくそんな気がした。
「それにしても早く済んだわね。まだ7時ちょっと過ぎよ。あなたのお陰。」
「僕のって、どういう意味ですか?」
文字通りよ。この件はあなたが解決したようなもの。だから榊さんはあなたに
『また宜しく』と言ったの。少なくとも榊さんには術者として認められたってこと。いた。
「娘を亡くした事を受け入れられず、悲しむことも出来なかったから。
泣いて、叫んで、ちゃんと悲しむべきだったのに。
それが出来ていたら、2人の間に『通い路』が開いたはず。
この男の霊質なら、通い路を通して娘の魂とその声を感知できたかもしれません。
でも、この男は悲しむ代わりに他人を妬み、そして憎んでしまったんです。
『自分たちはこんなに不幸なのに、何故他人は幸福なのか?』それで。」
「それで他人にも同じ不幸を、と?」 「そうです。」
榊さんの溜息は大きく、深かった。
「この世に鬼を生み出すのは、やっぱり人の心、なんだな。」
「人の心ではなく、人の心に宿る『業』ですね。」
裏口の外に背の高い男が立っているのが見える。
榊さんがドアを開けた。 「この男だ。頼む。」
「Sちゃん。ありがとう。」 榊さんは振り向いてSさんの手を握り、次に俺の手を握った。
「R君も、ありがとう。何かあったらまた宜しく頼むよ。」
榊さんは俺の背中をぽんと1つ叩いてドアをくぐり、
インターホンで少し話してから早足で車に向かった。
0132名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:38:11.78ID:PkYt4XB80
 「でも、僕はただ、話しかけただけで。」
「それがあなたの力。あなたの適性は『言の葉』、あなたは『言祝ぐ者』。
記録には残っているけれど、現在の術者でこの適性を備える者はいない。
あれ程強力な言霊、実際に見るのは初めてだったから本当に驚いた。」
これまで色々な術を見せて貰ったが、言霊を使う力なんて聞いたこともない
「言霊が、僕の力と何か関係あるんですか?」
「あなたが無心に、そして心から発する言葉には言霊が宿る。
だからその言葉は、言葉の向けられた相手の心に届いて、そしてその奥底に染み込む。
普通、妬みや憎しみで凝り固まった人の心は何重にも『鍵』をかけた状態になる。
だから他人の話を聞かないし、聞こうとも思わない。
だからあの男は自分の傍にいた娘の魂に気付かず、その声は男の心に届かなかった。
でも、あなたの言葉は届いた、ただの一度で。そして自分の罪とその重さを悟らせた。
私は解放された女の子達の魂が不幸の輪廻に取り込まれないようにしただけ。」
「言霊の力って、Lさんの『あの声』と同じようなものですか?」
「確かにどちらも術者の声を触媒に使うけど、系統が全く違うわ。
Lの術はL自身の意志で相手の心や体を操作出来る。だから幻覚を見せるのも簡単。
 Sさんは右手を俺の左手に添えた。
「それからね。これでやっと分かった。
術を仕込まれていたせいで異性に全く反応しなかったLが、あなたにだけ反応した理由。」
そういえば...
姫との初対面の日、俺は自転車修理のバイトをしながら
何となく気まずい『間』を埋めようと思って俺は好き勝手に喋り続けた。
俺の自転車のこと。それから修理した自転車が姫には乗りにくいのではないかということ。
あの時、ただ無心に喋り続けていた言葉にも、言霊が宿っていたのだろうか。
「それから、あなたが『下心もあります』って言った言葉が少しも不愉快でなく、
むしろ率直な愛情表現として、私の心に響いたこと。
あなたの力はほとんど発現していなかったから感知できなかったけど
あの時の言葉にも、きっと微かな言霊が宿っていたんだわ。」
もしかしたら俺は言霊の力で2人を...腹の底がヒヤリと冷たくなるのを感じた。
でも、あなたの力はあなたの意志で言霊を操作する事は出来ない。
それに言霊は言葉の真の意味を相手に届けるだけ。どう反応するかは相手次第。」
0133名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:39:18.73ID:RBc7MNOY0
 「僕の意志で操作できないなら、あんまり役に立たないような気がするんですが。」
「何を罰当たりな事言ってるの。さっきだって、あなたの力がなかったら
2人の魂は救えなかったかも知れないのよ。2年前、事故で亡くなったあの子の魂は
父親への愛着からこの世界にとどまっていた。親子だから、おそらく霊質も似ていたのね。
でも、さっきも言ったように、妬みと憎しみに狂った父親の心にあの子の声は届かない。
愛する父親が女の子を殺して異形に変化していくのを、あの子はただ見ているしかなかった。
異形に変化した魂は、普通の魂と存在の仕方がずれてしまうから、
あの子の魂に気付く可能性はゼロ。あの子の魂は男の部屋に入ることすら出来なくなった。
今朝私が此処に来た時も、あの子はマンションの入り口に佇んでた。
魂が酷く傷ついていて、いつ不幸の輪廻に取り込まれてもおかしくない状態だった。
愛する父親が女の子を殺す場面を3度も見たのだから、当然と言えば当然だけど。」
「もしかして、あの写真はあの子の?」
「そう、あの子の力を借りてその記憶を焼き付けた。一番新しい、鮮明な記憶を。」
「あの男はキャンプ場の駐車場に停めた車に女の子を連れて行き、絞殺したの。
遺体は夜のうちに裏の山に埋めた。皆、河の事故だと思ってたから駐車場は盲点になってた。
夕方、それらしい女の子が一人で河遊びをしてたと証言したのはあの男よ。
あの子はその一部始終を見てた。そして父親がこれ以上罪を重ねるのを止めるために
私に力を貸してくれた。父親への愛着のあり方が変化したのを示す良い兆候。」
そうか、だからSさんはあの子の魂を人型に封じてあの部屋へ連れて来たきたのだ。
異形に変化した父親に会わせて未練を断ち切り、中有への道を開いてあげるために。
「出来れば手荒な事はせず、自ら納得して旅立ってもらう方が良い。
そして男にも、自分の罪を認めてから地獄へ...」
Sさんは言葉を切って小さく息を吐いた。
「あなたの言葉が切っ掛けになって男は微かな正気を取り戻した。
だからこそ娘の姿を見、その声を聞くことが出来たのよ。
結果的に男は自分の罪を認めたし、女の子も自分の気持ちに区切りをつけられた。
私も何とか男を説得しようと思ってたけど、あれほど上手くやれる自信は無かったわ。」
0134名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:40:38.33ID:RBc7MNOY0
 図書室の中のドアの向こう、畳張りの広い和室。
その奥の板張りの部分に設えられた3つの小さな祭壇、それぞれに人型が祀られていた。
Sさんはそれぞれの祭壇の前で丁寧に鎮魂の儀式を行い、
人型を白い布で出来た小さな袋に納めていく。袋の口は赤い紐で閉じられた。
事故で亡くなった女の子が一人。娘を亡くして狂った男に殺された女の子が三人。
そして三人を殺した男の魂は生きながら悪霊となり、
自らの憎しみと呪詛が生み出す負荷に耐えられず、精魂尽き果てて死んだ。
もともとに悪意があって仕組まれた事件ではない。なのに失われた5つの命。
おそらく最初の事故がなければ、5つの命は失われなかった。
父親として、今回の一連の事件は他人事では無い。
姫と比べてSさんが笑うほど、俺は翠を溺愛しているからだ。
もし事故や病気で翠を失ったら、俺は狂わずにいられるだろうか。
勿論、俺が狂ったら、罪を犯す前にSさんは俺を殺してくれるだろう。
 その日の午後。Sさんと俺は、雨の中半日かけて車を走らせた。
運転手は俺。Sさんは後部座席に座り、三方に乗せた3つの白い袋を護っている。
まずは隣の△県。最初の事件が起きた街へ向かう。Sさんの指示通り
閑静な住宅街の一角で車を停めた。一際大きな家が見える。
榊さんから聞いたのか、それとも女の子の記憶を辿ったのか、確かめる気にはならない。
女の子の家族にも、犯人が逮捕され事件が解決したことは伝えられているだろうか。
もし、大罪に自らの魂を蝕まれた犯人が事件の供述を残して死んだことを知ったら
女の子の家族は一体どう思うだろう。
Sさんはマセラティの後部座席に置いた大きな貝殻の中で最初の人型を焚き上げた。
「もし迷うと可哀相だから、出来るだけ帰る場所の方が良い。」 独り言のように呟く。
「迷ってしまうことも、あるんですか?」
「大人なら大丈夫だけど、子供だし。それに、事情にもよるから。」
珍しくSさんの歯切れが悪い。この件についてこれ以上の質問はNGだ。
それが俺とあの男の違いで、俺は幸運だ。でも、確かな違いはそれだけ。
こんな悲しい事件が起きるのは、やはり人の心の弱さ故なのだろうか。
この世に鬼を生み出すのは人の心に宿る『業』だと、Sさんは言った。
そして俺はあの時の、『業からは逃れられない』という母の言葉を思い出した。
『業』とは一体何なのか、それは『不幸の輪廻』とどう関わっているのか。
Sさんの後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。
0135名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:42:09.11ID:/8znfkui0
 再び県境を越えてお屋敷に近い街に戻ってきた。雨足が強まっている。
Sさんは市内にある一軒の家を指示したが、その家に着くと思い直したように
その家から少し離れたアパートの駐車場を改めて指示した。二枚目の人型を焚き上げる。
 その場所まで進み、ウィンカーを出して路肩に車を停めた。花屋の看板が見える。
やはり、歩道のその一角だけが明るく照らされていた、そして。
子犬...
花屋の看板のすぐ脇で白い子犬が嬉しそうに尻尾を振っていた。
この雨の中、その毛並みは水を含んでおらず、
行き交う通行人は誰一人として不思議な明るさにも子犬にも頓着してはいない。
そうだ、この次の交差点は『○町南』。
Sさんはじっと窓の外の子犬を見つめる。俺も質問を飲み込んで子犬を見つめた。やがて。
子犬のすぐ前、地面近くに小さな白い両手が見えた。
一段と嬉しそうに尻尾を振る子犬を、その両手が優しく抱き上げる。
子犬が花屋の看板と同じ位の高さに持ち上げられた時、女の子の全身が見えた。
白地にピンクと黄色の水玉模様のTシャツ。紺色の半ズボン。青い靴。
笑顔で子犬に頬ずりをする女の子の姿が、一瞬強い光に包まれ、視界が白く遮られた。
視界が戻ってきた時、子犬を抱く女の子の姿は既になかった。
ただ、雨の夕方の薄暗い歩道を、幾つかの傘がすれ違うのが見えるだけだ。
「事件の起きた順番、なんですか?」
「そう、苦しんだ時間が長い子から、楽にしてあげるべきだから。」
Sさんの顔が、少しだけ翳ったように見えた。
最後の家、向かいの道路に停めた車の中で三枚目の人型を焚き上げる。
既に4時半を過ぎ、辺りは薄暗くなり始めていた。お屋敷に向けて車を走らせる。
Sさんは助手席に移り、黙って窓の外を眺めていた。
もうすぐ市街地を抜けるという時、俺は不思議なものに気が付いた。
前方50m程先の歩道あたり、そこだけまるで陽が差しているように明るい。
「Sさん、あれ。あそこだけ陽が差してます。」
前方に視線を移したSさんの顔が、一瞬で緊張した。小声で指示を出す。
「あそこで、車を停めて。」
0136名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:44:30.48ID:hv8IVxxK0
「はい、最初からもう一度。ちゃんと詠唱出来ないと私が困るのよ、ね。」
『誓詞』の練習を始めて一週間程が経つ。修行の前の30分程を練習にあてていた。
文字を読むのではなく、Sさんからの口伝で詠唱する。独特の声の調子と抑揚。
古い言葉なので文字がないとほとんど意味が分からない。
それに元々あまり歌は得意ではない。
最初の内はかなり調子が外れていたのだろう、Sさんが何度も吹き出す程だった。
「せめて意味が分かれば少しはましになるかも知れません。文字も教えて下さい。」
「当主様は私たち一族の祭主。誓詞は当主様に奉る一種の祝詞なの。
心を込めて詠唱すれば、あなたの心はちゃんと当主様に伝わる。
あなたの力を考えたら、むしろ意味が分からない方が無心になれて良い結果が出るはず。」
『言霊に期待する』ということか。それなら無心に詠唱出来るまで練習するしかない。
さらに約一週間、誓詞の練習を続け、何とか様になってきたある日。
姫を大学に送って戻ってくると、Sさんが玄関の前で俺を待っていた。
明るい笑顔、きっと、何か良い知らせだ。
「さっき『上』から連絡が連絡が有ったわ。当主様にお目通り出来るって。
代理の方が対応して下さる事も多いのだけど、私たちは運が良い。」
何としてもその日までには誓詞を仕上げなければならない。気合いが入る。
「それはいつ、ですか?」
「次の日曜日。」
既に今日は木曜、もう練習期間は3日しかない。
「二人目の、女の子だったんですね。あの子犬が待っていたのは。」
Tシャツの柄に見覚えがあった。あの時の、真空パックの中身だ。
榊さんが行方不明の女の子の親族から借りてきた、女の子のお気に入りのTシャツ。
「あの女の子は両親を亡くして親戚に引き取られたけど、そこにあの子の居場所はなかった。」
その子の失踪は親族の意向で公にされなかったと榊さんは言った。
そしてSさんは、あの家の前からアパートの駐車場に指示を出し直した。
それぞれの意味が俺の心に染み込んで来る。 寒い、俺の服は濡れていないのに。
「あの子にとっても、自分を慕ってくれる子犬は、とても大切な記憶だったのね。」
「あの子がここに現れると、分かっていたんですか?」
「いいえ。あのTシャツを見た時、子犬が待っている女の子は
二番目の被害者だと分かったけれど、まさかここに現れるとは思っていなかった。」
「『稀な霊質を持ち、人間の心との関わりがあった動物だけが幽霊になる』、そうでしたね。」
「そう。おそらくはたった一度、長くても数分。でも、それは本物の、心の触れ合いだった。」
Sさんはもう一度窓の外を見た。相変わらずの雨。
「『卯の花腐し』、そして『卯の花下し』、今は梅雨本番。
このところ本当に雨が多かった。この事件で流された沢山の涙に天が呼応していたのかしら。
早く、梅雨が明けたら良いわね。もう誰も、涙を流さずに済むように。」
0137名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:45:33.19ID:p0T9CxCd0
 日曜日、俺とSさんは午後2時30分過ぎにお屋敷を出発した。
当主様のお社とお住まいは県境に近い県道から脇の山道に入った所だと聞いていた。
指定された4時までには1時間30分ある。余裕を持って到着できるだろう。
運転しながら、俺はSさんに教えられたお目通りの手順を頭の中で何度も確認した。
俺とSさんが待つ部屋の中に当主様と当主様の奥方である桃花の方様が御出になる。
俺とSさんは起立し、最敬礼の姿勢で当主様が席にお着きになるのを待つ。
当主様が席にお着きになった所でSさんが俺を当主様に紹介し、俺は誓詞を奉る。
当主様から御裁許のお言葉を頂き、当主様と桃花の方様が御退出なされた後で俺たちも退出。
「あの、当主様と桃花の方様で良いんですよね?御名前や号ではなく。」
「祭主である当主様は、いわば一族全員の親にあたる存在。
一族のうち特定の家系や特定の個人と繋がりがあってはいけない。
建前としては、当主となった時点で元の名前や親子の絆は封印される。
だから当主様には御名前も号も無い。桃花の方様も同じ。」
「桃花の方様というのはお后様と同じような敬称と考えれば良いんですね。」
「桃花の方様のお社は当主様のお社の北東、鬼門にあたる方角に造営される。
つまり『妹の力』で鬼門を封じ、当主様をお守りするお方という意味。」
桃に魔除けの力があるという話は聞いたことがある。
確か『桃太郎』の桃もその系統の考え方から来ていたはずだし、
俺の実家の庭にも、家の鬼門にあたる方角に桃の木が植えてあった。
0138名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 02:46:44.89ID:tpL3ARmt0
 「次の脇道から山道に入って。そこから、10分くらい。多分。」
脇道を入ってすぐに簡単な門があり、俺は門を開いて車を進め、再び門を閉めた。
車を走らせると、そこが今までとは違う領域であると、俺にも分かった。
鬱蒼と茂った森の中、ゆるやかに曲がりながら上っていく山道は綺麗に舗装されている。
その道には、ただ一本の枯れ枝も、ただ一枚の枯れ葉も落ちてはいない。
そして道の両側、深い森の中には静かな気配が其処此処にひっそりと蹲っていた。
それらは当主様のお社とお住まいを護る式たちだろう。
おそらく、許可された者でなければこの道を最後まで辿ることは出来ない。
興味本位で入り込んだ者があれば、森の深みに迷い込む。
もしも悪意を持って入り込んだ者があれば、すぐに式たちに排除される。
道自体が『聖域』を行き来する人を選別する。そういう道なのだ。

5分あまり車を走らせると突 「見えた。」
参道の端は開けた平地になっていて、右側奥に大きな洋館がある。
洋館の左を抜ける細い道は階段に繋がり、階段の上には立派なお社の屋根が見えた。
「あの洋館が当主様と桃花の方様のお住まい。お社はあの階段の上。
お目通りの場所は洋館の中の部屋。いよいよね。覚悟は良い?」
「はい。此処まで来て、もう後戻りは出来ません。」
「うん、良い返事。付いてきて。」
Sさんの後に付いて洋館の門をくぐる。綺麗に手入れされた庭、其処を抜ける小道。
小道を辿ると大きな玄関。扉の脇に男性が立っている。
俺たちが扉の前まで来ると男性が一礼して扉を開いた。
Sさんが軽く会釈をして扉をくぐる。俺も後に続く。
玄関の中には少女が一人、俺たちに頭を下げる。
「Sさま、Rさま、お待ちしておりました。どうぞ中へ、御案内致します。」
少女が顔を上げた。中学生か高校生くらい、どこかで見覚えのある顔だ。
「ご苦労様。宜しくお願いしますね。」
少女は踵を返して廊下を進む。俺たちはその後を追う。軽い足音だけが響く、静かだ。
廊下の一方は一面ガラス張りの壁で中庭の様子が見える。やはり良く手入れされていた。
廊下の途中で階段を上り、上り切ったところで右へ。少し細くなった廊下を進む。
3つ目の扉の前で少女が立ち止まった。一礼して扉を開く。たりの広場に出た。広場の奥の斜面に細い階段。
木々と空の感じで山の頂に近い場所であることが分かる。
「ここに車を停めて歩きましょ。」
車を出たSさんが不意に振り向いて、今辿ってきた山道の方向を見つめた。遠い目。
鳥の声と風の音、さっきと変わった気配は感じられない。
「どうか、したんですか?」
「ううん、大した事じゃない。」 階段を上り始めた。
Sさんだって緊張しているのだろう。俺も階段に足をかけた。これからが正念場だ。
黙ったまま並んで階段を上る。階段の上には鳥居。
その先には鬱蒼とした森の中を抜けていく石畳の長い参道。
Sさんが一礼して鳥居をくぐる。おれもSさんに倣って後を追う。
0139名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:47:11.05ID:3d+ie5KH0
>>36
ソルトレイクは長野のあとで明らかに手を抜いたな
トリノは確か4位がめちゃくちゃ多かったんじゃないかな
完全に呪われていて最後に荒川の金で救われた印象
0140名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:48:41.01ID:vXHAbo7t0
 「当主様はもうすぐ御出になります。正面のソファでお待ち下さい。」
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐり、俺も少女に一礼して部屋の中に入った。
思ったより小さな部屋だ。カーテンを背にした大きな机と椅子。
その正面にソファとテーブル。俺たちが入ってきたドアと反対側の壁に立派な扉。
Sさんがソファへ座る。 「あなたは其処へ。」
Sさんと俺はテーブルを 詠唱を終えて一礼。顔を上げると、桃花の方様が懐紙で目頭を押さえているのが見えた。
何故、と想った途端。張りのある声が直接頭の中に響いた。
『...これ程の『力』がこもった誓詞を聞いたのは初めてだ。
安心して、SとLを託すことが出来る。喜んで裁許しよう。』
当主様から感じる雰囲気が、一変していた。
その眼差しは一瞬で俺の全てを見通すような光に満ちている。
広大な海の、決して手の届かない深淵を眼の前にしたような畏怖の念が湧き上がり、
どうしようもなく体が震えた。正直、怖いのに眼を逸らすことが出来ない。
『R君。いや、裁許したのだから、これからはRと呼ばせて貰う。
R、良き資質を持つ青年が我が一族に加わった事を心から嬉しく思う。
その資質を余す所無く開花させ、近い将来、術者として働いてくれる事を期待する。』
Sさんと俺はもう一度深く頭を下げた。当主様が立ち上がる気配。
御退出なされた後で俺たちも退出、それで完了だ。もう一度頭の中で手順を確認する。
「ところで、S。」
「はい。」
!? また、手順と違っている。慌てて当主様とSさんの様子を窺う。
当主様の声は、頭の中で無く、耳に聞こえる普通の声に戻っていた。悪戯っぽい笑顔。
「成した子は、娘だと聞いた。私たちに、会わせてはくれないのか?」
「夫を御裁許頂きました上、娘のお目通りも叶うなら、これ以上の望みは御座いません。」
「うん。出来るだけ早く、頼む。」 当主様は扉に向かって歩き出した。
慌てて頭を下げる。
「S、きっとですよ。きっと、近いうちに。」
「はい。必ず。」
桃花の方様とSさんの短い会話が聞こえた後、扉の閉まる音がした。で座り、俺は壁の扉を背にした位置。
ノックの音がして扉が開き、さっきの少女がお盆を持って入ってきた。
テーブルの上に背の高いグラスを2つ並べ、一礼して出て行く。
冷えて露の着いたグラスに透明の氷と薄緑色の液体、緑茶だろうか。
「緊張して喉が渇いたでしょ?今の内に飲んでおいて。」
確かに喉がカラカラだ。誓詞の詠唱に差し支えないよう、慎重に喉を湿らせる。
良い香りがするが、緊張していて味が良く分からない。
再びノックの音がした。
扉が開き、少女が扉を押さえたまま、扉の向こうに向かって最敬礼をする。
Sさんと俺も立ち上がり、大きな机に向かって最敬礼、そのままの姿勢を保つ。
何度も何度もシミュレーションした手順の通りだ。
0141名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:50:09.16ID:Myp8/CT30
高梨沙羅と高木美帆は応援してたからメダルとれてうれしい
本人たちは金じゃなくて悔しいかもしれないけど
プレッシャーあるなかで力を出せて良かった
おめでとう
0143名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:50:41.44ID:9Nmlm8px0
 「首尾は上々、惚れ直しちゃった。」
「いや、でも聞いていた手順と。」
「手順通り。さ、すぐに退出するわよ。」 Sさんはドアを開けて廊下に出た。
急ぎ足で来た順路を逆に辿 「久し振りだな。S。」
「そうね。6年振り、かしら。」
Sさんの声は冷ややかだ。
「縁談を断り、前線からも退いたと聞いて訝しんでいたが。」
男の眼が俺を見た。『鍵』を掛けているのに、俺の心を見透かすような鋭い視線。
「なるほど。原石を見つけた、という訳か。確かに、暇潰しにはなりそうだ。」
「類い希な原石には違いない。決して暇潰しではないけれど。」
数秒間の沈黙。辺りの空気が張り詰めて、肌がピリピリする程だ。
「話したいこともあるが、今日は『公務』で時間が無い。
前線に戻ってきたのなら、急がずとも話す機会はあるだろう。」
「機会があったしても、話したいこと、私にはない。」
男の口元が緩む。 「相変わらずだな。安心した。」
男の体がゆらりと流れるように動き、Sさんの左側をすり抜けた。革靴が石を踏む硬い音。
Sさんが唇にそっと右手の人差し指を当て、それから前に向ける。
おそらく『黙って前へ』の合図。
Sさんがゆっくりと歩を進める。おれも並んだまま歩調を合わせた。
背後で男の足音が次第に小さくなっていく。
しかし、何故か濃密な気配がいつまでもすぐ背後にある。
振り返って確かめたいが、指示通りSさんの歩調に会わせて歩き続けた。玄関に着く。先程の少女がドアを開けてくれた。
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐる。俺も一礼して後を追う。
「あの、聞きたい事が。」
「車に戻ってから答えてあげる。だから今は急いで、ね。」
庭を抜け、門を出て石畳の参道、2人並んで、黙って急ぎ足で歩く。
Sさんはほとんど小走りに近い速さで俺の左側を進む。
一体何故こんなに急いでいるのだろう?
もう御裁許は頂いたのだし、急ぐ理由などないはずなのに。

 ふと、蝉の声が聞こえたような気がした。まだ少し、蝉には早いはずだ。
急ぎ足で歩きながら、参道両側の森の様子を窺い、蝉のいそうな木を探す。
突然、Sさんの脚が止まった。 同時に囁くような声。
「『鍵』を。」
反射的に『鍵』をかけ、Sさんの視線を辿る。
...目の前に男が立っていた。そんな、一体何処から?
長い参道は見通しが良く、死角になるような場所はない。ついさっきまで人影などなかった。
なのに今、俺たちから僅か2mほどの距離に、この男は立っている。
森の中から現れたとすれば、いや、下草や落ち葉を踏む音すら聞こえなかった。
黒いスーツ、俺より背が高い。微かな笑みを浮かべてSさんを見下ろしている。
一体これは人なのか。それとも...。
0144名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:52:55.78ID:JIMWAQAk0
 参道を過ぎ、車を停めた広場へ続く階段を下りる。
未だ気配を背後に感じる。まるで何かが俺のすぐ後ろに付いて来ているようだ。
一体何だ、この得体の知れない気配は?心臓の鼓動が半端じゃない。
怖い。走って、一刻も早く車に乗りたい。そんな気持ちを必死で抑える。
ようやく車に辿り着いた。少し震える手でポケットを探り、鍵を取り出す。
助手席のドアを開けると、Sさんは俺の手から鍵を取り上げた。
左手で俺の背中を軽く払ってから助手席を指さす。
『先に乗って』という意味だろう。できるだけ素早く助手席に乗り込んでドアを閉める。
Sさんは慌てる風もなく運転席に乗り込んだ。ドアを閉じる。
すぐに車を出した。山道を飛ばし、5分足らずで扉の場所に着く。
車を止め、俺を制して車を出たSさんが扉を閉めた。
運転席に戻り、俺の顔を見て微笑んだ。
『もう大丈夫』ということだろう。俺も気持ちを静めるために深呼吸をした。
「御免ね。まさか、出会うはずないと思って黙ってたの。ちゃんと話しておけば良かったけど。」
車を出し、山道から県道に戻る。ようやく俺の心臓の鼓動も元に戻った。
「一体、あれは人間なんですか?」
「人間、には違いない。一族の女性が産んだんだから。その家系の、『最高傑作』。」
普通、人間に対して最高傑作という言葉は使わないだろう。
「人間と言うより、計画的に作り出された存在、という風に聞こえますが。」
「その通りよ。3世代かけて行われた計画だったの。」
0145名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:54:20.45ID:AQhjN6OU0
 冷たいものが背筋をはい上がってくる。それは、つまり。
「まず、外法を使って強力な依り代を作り出し、
依り代に憑依した神や精霊の力に頼ろうとした一派が現れた。
そうすれば、生まれてくる子に任意の能力を与える事が出来るから。
でも外法を認めない『上』はその一派を異端として一族から排除したの。
それが分家、Lの心に術を仕込んだ者たち。」
俺の曾祖母はその分家の出身だと母から聞いていた。
「ただ、外法を使うのは論外としても、影響力の低下を防ぎたいという人は多かった。
だからある家系で、その計画が立てられた。そして、実行されたの。」
術者の減少に対応する計画、やはりそれは。寒気が全身に拡がった。
「そう。その家系の術者の中から計画に参加する希望者を募り、
計画的な妊娠によってその能力を組み合わせた術者を生み出そうとした。」
ジーンリッチ・優性思想・デザイナーチャイルド・・・そんな言葉が次々と浮かんでくる。 「あくまで希望者、なんですよね?」
「そう、強制したという話は聞いていない。だから『上』も計画を黙認し続けた。
実際、優秀な術者ほど、強制するのは難しいでしょうね。
それに、確実に能力を持つ子が生まれる訳ではないから、
この計画で作られた術者もそれほど多くない。『上』が把握しているのは8人。」
「その中で一番強い力を持っているのがさっきの...」
「そう、だから最高傑作。名前は『炎(ほむら)』。
ね、憶えてる?学校法人の理事長、Lの高校の。」
「はい、あの背の高い。すごく礼儀正しい人ですよね。」
「炎はあの人の孫にあたる。計画を実行したのは、その家系なの。」
あの老人に対するSさんの態度はどこか冷ややかでよそよそしかった。
そしてさっきは『話したいこと、私にはない。』と。
Sさん自身がその計画を快く思っていないということか、あるいは。
「やっぱり、いたんじゃないですか?許婚。」
「違う、許婚じゃない。縁談が来て、それを断っただけ。」
『最高傑作』とSさんの縁談がまとまれば、更に良い結果を期待できただろう。
「私の家系は一族の中で一番古い、いわゆる直系。優れた術者も多かったし、
それに歴代の当主様も、直系の出身者が一番多い。
計画の仕上げに、直系の者との結婚を考えるのは彼らにとって当然でしょうね。」
でも、Sさんはそれを断った。やはりこの計画に賛同していないという事だ。
前もって俺に話さなかったのは、あまり思い出したくない記憶だからだろう。

いや、しかし。一族に生まれる子供の中で、能力を持つ者はむしろ少数だとSさんは言った。
一夫一婦制とは限らない結婚制度のもとで、能力を持つ子供が十分な数生まれていたのなら、
それは男性の優秀な術者が多数の妻を娶り、多くの子を残すのがあたりまえだったという事だ。
逆の組み合わせでは、生まれてくる子の数は一夫一婦制と同じだけしか期待できない。
近代まで、その血筋を保つために権力者が多くの側室を持つのは当たり前だった。
一夫一婦制になった後でも、恋愛結婚が普通になったのは最近のことだ。
見合い結婚が主流の時代には、結婚式で初めて相手の顔を見たという話も多かったと聞く。
つまり、もともと結婚という言葉やその制度が、常に愛情と結びついている訳ではない。
無理に強制したのでもなければ、現代の価値観でその計画を非難することは筋違いだろう。
0146名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:55:08.60ID:FHarosUO0
対戦しないスポーツは相手の出来次第だからな
運の要素が大きいよ
0148名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:55:41.24ID:DlsrcDCo0
 ふと、さっきのSさんの様子を思い出した。まるで俺を守ろうとしているような。
計画のためだけの縁談なら、次の候補者を探せば良い、それだけのこと。
断った縁談の相手に偶然出会ったとしても、Sさんが俺を守る必要はないはずだ。
その縁談には、あの男の、Sさんへの恋愛感情も含まれていたのではなかったか。
「もしかして、僕、恨まれたりしませんかね。」
「恨むとか憎むとか、そんな激しい感情は感じなかった。だけど、イタズラ半分に
式を貼り付けた位だから、あなたに興味を持ったのは間違いないわね。」
背後に感じた異様な気配は式だったのか。もしかしてこれ、かなり面倒な事態かも。
「これからも、何か干渉される可能性はありますか?」
「式は帰ったし、心配する必要はないと思う。多分、冗談みたいなものよ。
もしそれ以上の干渉があっても、聖域の中以外なら術の制限が無いから
あなたを守るのはそれほど難しくない。」
 シャンパンを3杯飲んでソファで寝てしまった姫を抱いて部屋まで運び、
リビングに戻ってくると、Sさんがハイボールを作っていた。氷の音が涼しく響く。
翠はベビーベッドの中でぐっすり寝入っていた。
「はい、どうぞ。お祝いだから、もう少し飲んでも大丈夫よね。」
「ありがとう御座います。頂きます。」
嬉しそうな横顔。Sさんはずっと上機嫌だ。考えてみれば緊張していたのはSさんも同じだろう。
いや、もしかするとSさんの方がプレッシャーは大きかったかもしれない。
もし、御裁許を頂けなかったとしたら、それはSさんの立場を悪くする不名誉だったはずだ。
取り敢えず上手くいって良かった、事前のシミュレーションとは多少違う部分も合ったが、概ね。
...そういえば、帰りがけの出来事のせいで質問をすっかり忘れていた。
「質問を、忘れていました。」 「何?」
「何故、当主様が翠に会いたいと仰ったのか、と思って。」
Sさんは少しの間ベビーベッドの方を見て、それから俺の眼を真っ直ぐ見つめた。
「それで帰りを急いだんですね。あの男に気が付いたのはいつですか?」
「車を停めて歩き出した時。気配が近づいて来ているのは分かったけど、
大切な儀式の前にあなたの気を散らしたくなかった。」
確かに、こんな話を事前に聞いたら色々な意味で集中できなかっただろう。
「ね、もうこの話はお終い。折角御裁許を頂いたんだから、楽しい話をしましょ。
あ、乾杯のお酒を買って帰らなきゃ。シャンパンが良いわね。
ハイボール用のウイスキーも切れてたし。」
そう、緊張と誓詞の練習からようやく解放されたのだ。
今夜くらい息抜きをしても罰はあたらないだろう。
0149名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:56:58.06ID:SolqLhuy0
 「『孫の顔を見たい』という事ね。」
「え? 孫??」
「立場上、血縁を封印しているとはいえ、やはり当主様も人間だから。」
「ちょっと待って下さい。翠が当主様の孫なら、それは、Sさんが。」
「そう、私は当主様と桃花の方様の、血を分けた実の娘。」
「!? そんな...」
全く、想像もしていなかった。何を、どう考えればいいのか、混乱して事態を飲み込めない。
じゃあ俺は今日、Sさんの御両親の前で誓詞を、当主様と桃花の方様は俺を...
頭の中の混乱が収まるにつれ、怒りと悲しさが入り交じった激しい感情が湧き上がってきた。
思わず右手を握りしめる。
「どうして!! どうして先に教えてくれなかったんですか?教えてくれていたら...」
 Sさんは泣きやんだ翠を抱いたまま、俺の左肩に頭を預けた。
「もうひとつ、黙ってた事があったわね。」
「何ですか?」
「あなたが奉った誓詞の意味。
あれは一族の娘を娶った者が術者になるのを認めて頂くための誓詞。
娶った娘、成した子を守ること。そして一族のためにしっかり働くこと。それを誓う言葉。
だからあなたは、あの場に一番相応しい言葉を奉ったのよ。」
そうだ、Sさんはいつも俺を本当に大切にしてくれる。それこそ俺には不相応な程に。
それなのに。たとえ一瞬でも、あんな感情が湧き上がったこと、それが俺の弱さだ。
「一刻も早く、僕は強くならなきゃいけませんね。SさんとLさんと翠を守れるように。」
Sさんは頷いて、優しく微笑んだ。
「急ぐ必要は無いけど、期待してる。それとね、ひとつだけ約束して頂戴。
例え駆け出しでも、今日からあなたは裁許を受けた正式な術者。
どれほど力のある術者でも最初は駆け出しなんだし、
少なくとも私は、あなたやKを生んだ分家の血そのものは尊敬してる。
だから誇りを持って。あなたは私とLの夫、そして翠の父親なのよ。
絶対に自分の事を半端者だなんて思っちゃ駄目。」
その言葉の、ひとつひとつが俺の心を貫いた。文字通り、耳が痛い。
自分でも驚く程大きな声を出した後で、腹の底がヒヤリと冷たくなった。
それを教えて貰っていたとして、俺に、一体何が出来たというのか?
一族を追われた異端・分家の末裔。術者としては修行を始めたばかりの駆け出し。
Sさんが胸を張って俺を御両親に紹介できる材料など何ひとつない。
他の縁談を断って選んだのが、こんな半端者だなんて...
「違う、そうじゃない。信じて、お願い。」
俺の大声に驚いて泣き出した翠を抱き上げたあと、Sさんは俺の左隣に座った。
膝の上で握りしめた俺の右手に、そっと右手を重ねる。温かい。
0150名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 02:58:23.06ID:s8hfMHx/0
 「あれ外車だよね。お兄さん若いのにお金持ち?」
「悪いけど、時間無いからさ。」
少女は歩き出した俺の前に立って両手を広げた。
「ちょっとくらい話聞いてよ。今日テストで学校が午前中だったから
バイトの時間までヒマなんだ。ね、車でどっか連れてって。カラオケでも良いよ。」
「いや、だから時間無いんだって。」
「もう、鈍いな〜。私、お兄さんとお友達になりたいの。」
「へ?」
「お兄さんカッコイイし、良い人みたいだから気に入っちゃった。」
セーラー服着てるのに、何、この物言い?
 姫と2人、翠の相手をして遊んでいるとSさんがリビングに入ってきた。
「R君。今日の打ち合わせ、あの男の子の件でしょ?交通事故の。」
「はい。病院に行く日と、それから依頼の内容を詳しく確認してきました。」
「それだけ?」 「そうです。」
「じゃ、これは何かしらね?」 Sさんは小さなカードをテーブルに置いた。
「これ、誰ですか?何だか派手な感じの女の人ですね。」 姫がカードを手に取る。
顔から音を立てて血の気が引いた。しまった、あのまま胸ポケットに。
いや、待て。2人は俺の心が読める。あったことをそのまま話せば大丈夫だ。
ホッとして思わず笑みが浮かぶ。
「ちょっと、R君。何笑ってるの?」
「僕、ナンパされたんですよ。それも女子高生に。笑えますよね。」
「ナンパ?」 「はい、カラオケ行こうって。びっくりしました。」
「大人っぽいけど、本当に高校生なんですか?。」 姫からカードを受けとる。
カードには少女の写真。電話番号とメールアドレス。何かのロゴみたいな筆記体の文字。
思わず溜息をつく。
「制服着てたし、実際に見た感じは確かに高校生だったんですが、これじゃあ全然。」
「制服って、セーラー服?」 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「セーラー服です。でも、スカートは短すぎるし化粧してるし、邪道ですね。」
「あの、セーラー服の邪道って何ですか?」 姫が不思議そうな顔で俺を見る。
「いや、邪道っていうか、校則違反って意味で。多分化粧も違反だし。」
いくらSさんに乗せられたとは言え、危うくセーラー服嗜好を姫の前で。馬鹿か俺は。
まあ取り敢えずセーフ、それとなく掌で額の汗を拭う。
腹の底から怒りが湧き上がってきたが、深呼吸して心を静める。
もしかしたら何か事情があるのかもしれないし。俺の嗜好は他人の知ったことでは無い。
「俺、一応妻子持ち。色々と誤解のもとになるから女子高生の友達は要らない。」
少女の横をすり抜けてロータスのドアを開ける。
「じゃ、これあげる。気が向いたらで良いから、連絡して。」
少女は名刺のようなカードを俺の胸ポケットに押し込んだ。
素早く運転席に乗り込みドアを閉める。
「待ってる。メールでも、電話でも」
少女の声はエンジン音にかき消された。
ロータス乗っててこんな面倒臭いのに掴まったのは初めてだ。
初仕事の打ち合わせの日にこんな事、何だか嫌な予感がする。
0151名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:00:25.79ID:HuVlquI10
 「校則が無い高校もあるわよ。とにかく、これは要らないのね。」 「はい。」
Sさんが俺の手からカードを取り、天井に向かって投げ上げた。何事か小声で呟く。
カードは空中に静止したまま炎に包まれ、灰も残さずに燃え尽きた。
「さて、洗濯の続き。」 Sさんはリビングを出て行った。
Sさんを追いかけようとする翠を姫が抱き上げる。
「お母しゃん、今忙しいから。お姉ちゃんと遊ぼうね〜。」
「Sさん、機嫌悪くしましたかね?」
「Sさんも、私も、怒ってなんかいないですよ。
Rさんの力が発現すれば、Rさんの本当の顔が見える人も増えます。
時々こんなことがあっても仕方ないって、覚悟しなきゃいけません。」
翠は姫の右肩に頭をもたせて眠そうにしている。
姫の横顔は少し寂しそうだ。胸の奥が痛くなる。
「外出した時、目立たなくしていられる方法ってありませんか?」
「う〜ん、難しいですね。そうしたらRさんの感覚もかなり鈍くなっちゃいます。
 「それが、その占い師に占ってもらったのは私の大学の先生なんです。男の先生で。
噂を聞いて行ってみたら、本当に黙って座ってるだけで何を占って欲しいのか、
ぴたりと言い当てたって。相談は家族の事だったそうですけど。」
「名前や生年月日を聞いたり、書かせたりもしないんですね?」
「はい、そう言ってました。とにかく事前の情報は一切必要ないって。」
コールドリーディングは会話の上に成り立つ技術だ。
当然、会話がなければ相手の情報を得てそれを当てたように思わせることは出来ない。
「本物、なんでしょうか?」
「街中で営業してる占い師に本物がいるなんて思えないけど。」
「でも、沖縄出身の同期から同じような話を聞いたことがありますよ。
黙って座るだけでピタリと当てる占い師。ええと、ユタ。そう、ユタって言ってました。」
「確かに沖縄には一種のシャーマン文化がまだ色濃く残ってる。
その中に本物もいると聞いているけど、ここは沖縄じゃない。」
「沖縄にいるなら、ここにいてもおかしくないような気がしますが。」
実際、今俺の目の前に本物が2人もいる。それも、とびっきりの本物が。
それにRさん、前に私に言ったじゃないですか。
『税金みたいなものだから我慢して下さい』って。」
「我慢、ですか。Sさんの護符に何か良いのがないですかね。女難除け、とか。」
「女難除けの護符だなんて。胡散臭い占い師じゃあるまいし。
それに、女の子に声掛けられること自体は女難じゃないでしょ。」
洗濯機の操作を終えたのか、Sさんがリビングに戻ってきた。
寝てしまった翠を姫から受けとって頬ずりをする。
0152名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:02:47.81ID:59ihfqjw0
 「沖縄と北海道は別として、『上』は日本国内の術者と、
術者を生みだす家系の動向をほとんど全て把握してる。
私たちの一族だけでなく、それ以外の系統に関してもね。」
「どうして一族以外の系統まで把握する必要があるんですか?」
「単独で活動する術者を警戒してるんです。組織を離れたりして
単独で活動する術者はとても危険だから。」 少し姫の表情が曇る。
「危険?」 たとえ優れた術者でも単独で出来ることは限られる筈なのに。
「誰かに脅迫されて外法を使ったり、ということですか?」 「かなりの評判みたいですね。通常の時間では予約が取れなくて、
追加料金で時間外の予約を取りました。明日の午前11時です。Rさん、大丈夫ですか?」
「はい、明日の修行は午後なので全然問題ないです。
でも、本当に本物なのか、何となくドキドキしますね。不謹慎かもしれませんが。」
「もし本物で、単独の術者だったら、きっとその後が面倒ですよ。
Sさんが確認してくれると思いますが、まず間違いなく『上』から指示が来ます。」
上ずっていた気持ちが一瞬で冷めた。そうだ、危険な存在は放置できない。
「どんな、指示ですか?」
「力の強さによります。力が弱ければ経過観察でも良いと思いますが、
強ければ力を封じる必要があるかも知れませんね。これは気が重いです。」
「術で力を...相手の体に代を封じて魂の活動を制限するんですね?」
「そうです。あまり使いたくはないですが、仕方有りません。」
魂や命の操作。それは術者の寿命を削る術だ。
「『禁呪』なんですか?」
「はい。結果的に相手を助ける事になるとしても、
無理矢理に相手の力を封じるのは気分の良いものではないです。
相手が抵抗したら、こちらの身に危険が及ぶ場合も有るでしょうし。」
もしその役目がSさんか姫に任されたとしたら、俺は。
「本物じゃない方が、良いですね。」
「はい。」
「それもあります。でも、一番危険なのは単独の術者が業に呑まれた場合です。
組織に管理されていないので、処理されないまま暴走してしまいますから。」
「業に、呑まれる...」
「術者自身が悲しみや憎しみに囚われ、生きたまま不幸の輪廻に取り込まれた状態。
同じような状態の魂を取り込んで、不幸の輪廻に送り込む端末になってしまうの。
そうなったら、術者を処理する、つまり殺すしか方法は無い。」
俺は3人の女の子を殺した男のことを思い出した。もしあの男が術者だったら、
女の子たちの魂は間違いなく不幸の輪廻に取り込まれていただろう。
0153名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:04:15.05ID:gDFRxk500
 「おかしい、何にも見えない。こんなの初めて、何かの悪戯?」
カーテンが開いた。
「あ、あの時のお兄さん。」 「君だったのか。」
相変わらず派手目の化粧。私服だと、とても高校生には見えない。
少女は俺をじっと見つめた。あの時より、ずっと強い力を感じる。
「ふーん、心を読まれないように出来るんだ。お兄さんも私の同類ってことね。
そっか、沖縄にいるなら本土にカミンチュがいてもおかしくないよね。」
少女は姫をチラリと見て、俺に視線を戻した。テーブルの向こうのイスに座る。
「これが奥さん?綺麗な人、若いし。で、要件は何?
心を読まれないようにしてるんだから、何かを占って欲しい訳じゃないんでしょ。」
「1つは君の力が本物かどうか確かめること。」 「力を持つ者は、力をコントロールする方法を身につけなければならない。
でも、あなたにはその気がない。」
ゾッとするような冷たい声だ。姫のこんなに厳しい表情は初めて見る。
「他人に対して力を使う者は、その結果に責任を持たなければならない。
でも、あなたにはその覚悟がない。」
少女は驚いたような顔をしたが、すぐに皮肉な笑みを浮かべた。
「若いのに、言ってることがおばあさんみたい。
1回20分の占い。そんなんで力をコントロールする必要なんて、ある訳ない。」
「使い始めて1年くらいの間は、使えば使うだけ力が少しずつ強くなる。
1回20分、それで1日何人の相手してるの?週4日、予約が取れないほどの回数。
それだけのトレーニングをしたら、ここで占いを始めた時より、
今はもっと、ずっとハッキリ見えるようになってるはず。そうでしょ?」
少女の顔に微かな怯えが見えた。
「そりゃ前より楽に見えるようにはなったけど、それが。」
姫はポーチの中から白い小さな袋を取り出して少女の前に置いた。
「強い力には色々なものが寄って来る。夜、灯りに集まる虫たちのように。
おかしな事が起こったら、この袋の中身を部屋の四隅に置いて。それと。」
カゴからボールペンを取り出し、さっきのカードに数字を書き込む。
「どうにもならないと思ったら、此処に電話して。私の携帯。」
カードを白い袋の隣に置いて立ち上がり、そのまま部屋から出て行く。俺も立ち上がった。
「何なの、あの人。」 少女の顔は青ざめていた。
「陰陽師、超一流の。怒らせると、とても、怖い人だ。それから君。
目上の人と話す時は、もう少し言葉遣いに気を付けた方が良いよ。」
「本物。お兄さん達が私と同類なら、もう分かってるはず。」
「もう1つは君が組織に属しているかどうか確かめること。」
「組織...もしかして私の事スカウトに来たの?考えても良いな。ギャラ次第だけど。
客取られた古株達がウザくて、最近ここ居づらいから。やっぱり占いの仕事?」
「あのさ、こんな事に力を使ってるとまずいことになるよ。
君を信じた誰かが、とんでもない相談を持ち込むかも知れないだろ。」
「ホントに危ない相談なら逃げれば良い。部屋の奥に非常口あるし。」
0154名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:05:56.36ID:5yiZNwPt0
 姫は黙ったまま川沿いの歩道を歩いている。その横顔は未だ冷く強張っていた。
「機嫌、悪そうですね。」
「何だか、とても腹が立ちます。力を、あんな風に。」
姫がこれほどストレートに怒りを表すのは見たことがない。
姫の経験した境遇、いつも正面から自分の力と向き合って来た姿勢を考えれば、
力を玩具のように考える少女が腹立たしいのも無理はない。けれども。
「僕は、自分がとても恵まれているんだなって実感しました。」
「何故、ですか?」
「もし母が僕の感覚を封じてくれなかったら、SさんやLさんに会えなかったら、
僕自身があんな風に力を玩具にしてたかも知れないって、そう思ったんです。」
「それで自分が恵まれている、と?」
「そう。逆にあの子はとても不運ですよね。力と向き合う心構えや 「ありがとうございました。お陰で助かりました。」
グレーのスーツの男性が榊さんに深々と頭を下げた。受付の責任者だろう。
「さっき、ノロタンさんは病気で休んでると仰いましたか?
僕も一週間くらい前に相談に来たんですけど。」
「はい、病気というか、昨日から無断で休んでます。ケイタイでも連絡がつかなくて。
ノロタンさんは毎日予約が一杯なので本当に困ってるんですよ。」
「さっきの男もノロタンさんの予約をしてたんですね?」
「今朝、電話で事情をお話したんですが...」
榊さんが警察手帳を取り出した。
「◇山組には話をしておく。もし何かあったら■○署に電話してくれ。
『分署の榊に繋いでくれ』と言えば分かる。」
男性は驚いた顔をして、もう一度頭を下げた。
◇山組は最近台頭してきた怖い団体だ。
御陰神様の一件で、その中枢が本部事務所ごと壊滅した○◇会に代わり
勢力を伸ばしていると聞いていた。
「R君、まだ用があるかい?」 「いいえ、ありません。ありがとう御座いました。」
「じゃ、戻ろう。そろそろクーラーが恋しい。」
見送る男性を残し、榊さんと俺は車に乗り込んだ。
「ふ〜、生き返った。R君、分署に戻ったら一杯、どうだ?」
ビールではない。榊さんご自慢の水出しコーヒーのお誘いだ。
「頂きます。2杯、良いですか?」 「おお、良いとも。」
力をコントロールする方法を未だ教えてもらっていないんですから。
それに、きっと親身になって生活態度を注意してくれる人もいないんだと思います。」
姫は歩きながら左手を俺の右腕にからめた。
「私とRさんに会ったのはあの子にとって幸運の始まりかもしれない。
怒らないで、そう考えた良いということですね?」
「怒った顔も綺麗ですが、やっぱり僕は笑ってるLさんが好きですから。」
「...私も、Rさんのこと、大好きです。」 姫の頬はほんのりと紅に染まっている。美しい。
駐車場で車に乗り込んだ時には、姫はいつもの笑顔に戻っていた。
0156名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:11:04.26ID:QgZdvQlY0
>>9
開催国のくせにマジかよw
そもそも韓国が冬季でメダルとれそうなのってショートトラックのほかに何があるんだ?
0157名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:13:16.02ID:s+BukG/I0
銅と銀の3個で
何がラッシュだよw
0158名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:18:01.77ID:tLqfw/J/0
『昨日から無断で休み』、『ケイタイでも連絡が取れない』...
榊さんの分署からお屋敷へ向かう途中も、あの男性の声がずっと耳を離れない。
○中という男の動きは榊さんが抑えてくれたが、
欠勤が長びけば、他にも厄介な客が出てくるかもしれない。
これまで占ってきた客、少女の力に引き寄せられるもの、トラブルの種は幾らもありそうだ。
初めての仕事で感覚を最大限に拡張した名残なのか、どうにも嫌な予感が消えない。
お屋敷へ着くとすぐに姫が玄関から出てきた。手を振っている。
車を降りると翠を抱いたSさんも玄関先に立っていた。
「おかえりなさい。初めてのお仕事ご苦労さま。首尾はどうだったの?」
「とにかく全力でやりました。分かったことは榊さんに伝えましたが
上手くいったかどうかは今後の捜査を見てみないと、何とも。」 「もしもし。」 受話器の向こうで息を呑む気配。しばらくして小さな声。
「あの、私、占いハウスの...」
「やっぱり君か。どうした、何があったんだ?」
「あの時のお兄さん?お願い、助けて。助けて下さい。」
少女は泣いていた。嗚咽が聞こえているが、それ以上言葉が出てこない。
深く息を吸い、下腹に力を込めた。
「落ち着いて聞いてくれ。君を助けたい。俺はまずどうすれば良い?
このまま話を聞いた方が良い?それとも其処へ行った方が良い?」
嗚咽の合間に少女はようやく声を絞り出した。
「...ここに、きて、下さい。私、殺される。」
「分かった。出来るだけ早く行く。場所を教えてくれ。」
話しながらリビングに移動する。Sさんがメモ用紙と鉛筆をテーブルに置いてくれた。
パソコンで住所検索の準備をしている姫に聞こえるように、大きな声で復唱する。
「△市 大×台 5丁目 ○松アパート 202号室。」
姫が振り向いた。俺も肩越しにパソコンのモニターを確認する。
「今、場所が分かった。30分くらいで行けると思う。
着いたらドアの前から電話する。今使ってる電話の番号は?」
電話番号をメモしている間に姫はリビングを出て行った。部屋で着替えるつもりだろう。
「これから其処へ行く。俺たちが着くまで、誰が来ても絶対にドアを開けるな。分かった?」「分かった。」
「じゃ、みんなで夕食にしましょう。Rさん、沢山食べて回復しないと。
美味しいもの、いっぱい作ったんですよ。あ、その前にシャワーが良いですか?」
夕食を食べ終わり、キッチンで食器を洗っていると、リビングで俺のケイタイが鳴った。
「榊さんかも。代わりに出て下さい。」
風呂上がりの姫がキッチンにケイタイを持ってきてくれた。
「榊さんじゃないみたいです。」
画面に表示された『非通知』の文字、嫌な予感がした。
0159名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:19:31.15ID:iU4yIOvq0
女子500m
女子1000m
女子パシュート
男子ハーフパイプ
男子ノルディック複合個人
男子フィギュア

メダルを期待できるのはここらへん
女子ハーフパイプもスキースノボともに可能性ありそう
0160名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:21:36.03ID:wMvXq/+n0
高梨、高木は金候補だったろ
原はしらんけど、鬼塚は話題だったな

あと、小平はどうか
0161名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:22:31.67ID:iIQMVPNU0
 電話を切り、Sさんが持ってきてくれたポロシャツとジーンズに着替える。
「お酒、飲まなかったのはこのためね。分かってたの?」
「仕事の帰り、榊さんと一緒に占いハウスの前を通ったら
あの子の予約をキャンセルされた男が入り口で騒いでたんです。
受付の人が昨日から無断で休んでると言ってたので、ずっと嫌な予感がしてました。
もしかして今夜あたり、何かあるかもって。」 街灯の間隔が広く暗い夜道。アパートの駐車場から少し離れた路肩に車を停めた。
もう深夜と言って良い時間。出来るだけ静かに外階段を上る。
ドアの前で電話を掛けるとすぐにドアが開いた。 「どうぞ。」
占いハウスで会った時とは別人かと思う程、少女は憔悴しきっていた。
まともに寝ていないのだろう。眼の下の濃い隈、赤く充血した白目、そして。
少女の細い首から左の顎にかけて、首を絞められたような大きな赤黒いアザがあった。
「話は後で聞く。まず髪の毛を一本頂戴。」
姫は受けとった髪の毛を人型に仕込み、それを少女に渡した。
「これをベッドに置いて、それから荷物をまとめて。
2・3日分の着替えが有れば充分、余計なものは要らない。とにかく急いで。」
少女のアパートを出たのは数分後。最後に姫がドアに触れて結界を張る。
辺りの様子に気を配りながら少女と姫を車に乗せた。俺も車に乗り、静かに車を出す。 「そういえば、質問があるんです。」 「何ですか?」
「最初の電話、何故僕のケイタイにかかってきたんでしょうね。
Lさんのケイタイの番号を書いたんじゃなかったんですか?」
姫は微笑んだ。
「あの時は腹が立ってたから、自分の番号を思い出せなくて。
それで咄嗟にRさんの番号を書いたんです。」
「幾ら何でも自分のケイタイの番号を。」
「良いじゃないですか。かえってRさんの方が、話しやすかったと思いますよ。」
そうか、姫のケイタイと承知してかけてくるなら、それはただ事ではない。
覚悟をして、実際にかければ俺が出る。確かに姫より話はしやすいだろう。
おっとりしているようで、実に細やかな配慮をする人だ。
「最初からそれが、狙いだったんですね?」 「ノーコメントです。」
姫はシートベルトを外し、体を反転させて後部座席に右手を伸ばした。少女の額に触れる。
「これで大丈夫。明日まで、ゆっくり眠れます。」
2・3分で車は市街地の大通りに出た。お屋敷まで30分弱、慎重に車を走らせる。
バックミラーに写る少女の顔は、まだ少し怯えたように強張っていた。
「着くまで少し寝た方が良い。あんまり寝てないみたいだし。」
俺が声を掛けると、後部座席の少女は小さく頷いて眼を閉じた。
やがて小さな寝息が聞こえた。規則的で特に乱れはない。
「寝た、みたいですね。」
「一安心です。このまま寝かせておいて、話は明日聞きましょう。」
「相変わらず冴えてる。でも、今後の対応が一番大事。急いで。」 「はい。」
迷惑しているとはいえ、占いハウス側が少女の住所を簡単に教えるはずはない。
榊さんがあの男と◇山組の動きを抑えているのだから、このタイミングでの電話は
トラブルの相手が人間ではないという証拠。だからこそ姫が同行の準備をしている。
玄関へ早足で歩きながら集中力を高めていく。
「準備、完了です。」
Tシャツとジーンズに着替えた姫が、既に玄関で待っていた
プリントアウトした地図を右手に持っている。
靴を履き終わるとSさんが車のキーを渡してくれた。
マセラティのキー? そうか、本当に優しい人だ。
まだムッとする熱気の残る夜の道、俺と姫は少女の部屋を目指した。
0162名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:22:33.04ID:okaIT8wy0
↓百恵の完璧な引退と大違いw「白塗りモンスター」として永遠に醜態が記憶される負け犬不倫ババア安室w
安室奈美恵の”白塗り”紅白で騒然「マイケル・ジャクソンかよ」の声
http://dailynewsonline.jp/article/1390401/

↓あと安室の分不相応な傲慢な殿様ぶりでNHKが大失態犯したし
安室奈美恵の“殿様”ぶりが招いたNHKの大失態
http://wjn.jp/article/detail/4224066/

↓NHK安室引退特番9.1%って低っ。国民は安室なんかに全く関心ないと証明された
特番で視聴率大惨敗!安室奈美恵の紅白出場は潰えるか!?
https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12156-37261/

安室は落ち目の上に作詞も作曲もしてない雑魚年増アイドルに過ぎなかったから引退せざるをえなかっただけ

2017年動員数ランキング↓ 浜崎は40位で20.5万人動員、安室、無様に圏外
http://userimg.teacup.com/userimg/6246.teacup.com/panzer4h/img/bbs/0000953.jpg
浜崎・・・総売上枚数5000万枚 1位獲得数37曲
安室・・・総売上枚数3000万枚 1位獲得数11曲

これに加えて浜崎には作詞作曲実績がある(浜崎は5000万枚の売上の全てで作詞しているし作曲でもミリオン複数)更には安室の引退。
どう見ても浜崎の完全勝利。安室には浜崎の作詞作曲実績のような確固たる実績が無かった
引退すればそこでキャリアが終わるんだから敗北でしかない。劣化や落ち目にビビって引退するような奴はスターの器では無い

引退ブーストは将来の可能性を全て捨てた代償としてのブーストにすぎないんだから、引退ブーストで売れたって地力で売れたわけじゃない
芸能界から逃げ出すのは凄く簡単な事なんだよ。結局、安室は偽物だったから保たなかっただけ

百恵みたいな神格化を狙っているんだとしたら、ハッキリ言って無理。百恵の神格化は特殊なケース
あれは当時はテレビが圧倒的な影響力を持っていたから可能だったんだよ、今はネット時代で方向性が多様な時代だから、ああいう洗脳は通用しない
安室みたいに17歳でSEXが「ごぶさた」なんて言ったり、子供を日本に残して、淳とSEX旅行に行くような淫乱ビッチが神格化するわけないだろ
本来、安室という女は日本人が好むタイプの女ではない。バックが強いから、そういう声をかき消すくらいのゴリ押ししていただけ

茶髪でガングロというブームを起こしたのは実は安室じゃなくて故・飯島愛さんなんです
バックの強い安室が故・飯島愛さんの起こした茶髪・ガングロブームを乗っ取って、勝手にアムラー現象と名付けたんです。その頃から安室とそのバックの悪質さが発揮されていたわけですね。

http://userimg.teacup.com/userimg/6246.teacup.com/panzer4h/img/bbs/0000952.jpg
この浜崎の新曲が143位ってデマ流している芸能記者は二田一比古っていう安室の本書いた奴なの(ちなみに最新シングル売上は浜崎>安室)
安室サイドが浜崎のネガキャンしてるの丸わかりw 安室サイドはやり方が卑怯すぎた。引退発表後も「引退するけど浜崎には負けてないぃ!」みたいな記事連発してるのみっともないよw
だいたい安室って脱税で逮捕されていたライジング平が警察に口を割らなかったから、平から賄賂貰っていた犯罪者のクズ業界人が持ち上げて再ブレイクしただけじゃん。
極めて下らない業界の裏事情で持ち上げられたに過ぎない。その平さえ裏切ったクズ女が安室だけどね
異常に浜崎を敵視している安室↓
http://up.gc-img.net/post_img/2016/10/F1H2m8Ud4tYD13z_782Cn_2194.jpeg
http://userimg.teacup.com/userimg/6246.teacup.com/panzer4h/img/bbs/0000927_2.jpg

↓安室は2006年当時から浜崎を敵視して浜崎から歌姫の座を奪おうと画策していた
安室奈美恵が「歌姫」の座を浜崎から奪い返す!?
http://idolgravuredvd.seesaa.net/article/24000402.html

>「安室は、同世代の歌姫を目の敵にする傾向があり、これまでは同じレーベル内でもあった浜崎あゆみ(38)をやたらと意識していました。
http://news.livedoor.com/article/detail/12277775/

なぜ浜崎が勝利し、安室は無様に惨敗したのかPart3
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gaysaloon/1517795899/
安室奈美恵に「偽装引退」が囁かれる理由
https://newspass.jp/a/b8oyl
安室奈美恵が傲慢になり「取材規制」拡大か
https://news.nifty.com/article/entame/myjitsu/12156-37856/

安室の不倫相手、京都の安室の直ぐ近くに引っ越してきていた!↓
安室奈美恵の引退に新事実!? 天才プロモーター男性との“近すぎる関係”
http://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20170929/Cyzo_201709_post_22470.html
0163名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:23:24.96ID:okaIT8wy0
【これは酷い】テレ朝系の番組が「安倍晋三記念小学校」をCG合成した悪質すぎるイメージ画像を報道!
https://snjpn.net/archives/37409
徹底検証「森友・加計事件」 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪
https://honto.jp/netstore/pd-book_28737140.html
エビデンス? ねーよそんなもん:日刊ゲンダイの朝日新聞・高橋純子氏インタビューに戦慄が走るTL【日刊アサヒ】
https://togetter.com/li/1183499
慰安婦強制の嘘を流すNHKの国際放送 偏向報道の改革は避けられない
http://the-liberty.com/article.php?item_id=7372
NHKが腐ってる証拠映像集 - 国民が知らない反日の実態
https://www35.atwiki.jp/kolia/pages/1029.html
NHKがなぜ反日偏向報道を繰り返すのか
https://www.youtube.com/watch?v=_D-9ahl4tIw
偏向報道にうんざり!マスコミの安倍総理批判に国民から大ブーイング
http://hayabusa9.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1499593879/

http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/aritayoshifu/status/881045139640143872
有田芳生さんのツイート: "「聖地」が「墓標」に変わる画期的な街頭演説会がはじまります。"

民進党の有田芳生の事前のツイートとかみると民進党と共闘している共産党としばき隊と左翼マスコミが結託して最初から安倍さんの選挙演説をヤジで妨害する計画をたてていたんだろうね
安倍さんの演説妨害した、しばき隊一派はマスコミだけが入るの許されていた一等席に朝から陣取っていた。これって犯罪だよ、明らかに。この件は売国サヨク側にとって致命的な問題に発展する可能性がある
安倍さんの演説妨害していたのはしばき隊だと大量に証拠が残っているのに、自然発生した批判であるかのようにデッチ上げ、安倍総理の「こんな人たち」発言を失言であるかのように報道する売国サヨクマスコミの程度の低さに驚く
日本のマスコミは在日の暴力集団のしばき隊と連携して捏造報道するまで落ちているのだ

CatNA
https://twitter.com/CatNewsAgency/status/881872300726829056
報ステ。しばき隊の意図的な演説妨害を自然発生した批判であるかのようにデッチ上げ、
安倍総理の「こんな人たち」発言を失言であるかのように殊更に問題視。
仕上げはイソ子の嫌がらせ質問。我々は詐欺報道の時代に生きている。

元都知事の猪瀬さんもこう言ってる↓
猪瀬直樹
https://twitter.com/inosenaoki/status/881370560105660416
テレビで見たけれど、あの「安倍辞めろ」コールはプラカードなどから、共産党の組織的な行動ですね。
ところがふつうの視聴者には、「辞めろ」はあたかも都民の声と聞こえてしまう。

http://netgeek.biz/archives/99004
安倍やめろの巨大横断幕、しばき隊が2015年につくったものと一致。集団の正体が明らかに

500円
https://twitter.com/_500yen/status/882396914074779648
【計画的選挙妨害】大阪市民の籠池夫妻は都議選の選挙権がないのに上京して、TBS記者と横川圭季がタクシーに同乗。
秋葉原演説会場では、籠池泰典を謎のメガネ男が、籠池諄子を青木まり子が、しばき隊の野間易通たちが陣取る場所まで案内してる。
籠池泰典の掌には、事前にセリフまで書かれている

CatNA
https://twitter.com/CatNewsAgency/status/881834647646126080
秋葉原騒動に参加したしばき隊の中で、画像から確認できる中心メンバー:野間易通、日下部将之、無量光(韓国系?)、井手実。
その他、籠池夫婦を連れて来たと思われる横川圭希と青木まり子。

CatNA
https://twitter.com/CatNewsAgency/status/882414630915653634
のりこえねっとで野間が秋葉原での選挙妨害を弁解。
「在特会が先にやった」という論理。妨害された共産党候補は「卑劣な集団には負けない」と、安倍総理と同じようなことを演説している。
自民は在特会と共闘してないが、しばき隊と共産党は共闘関係。

https://anonymous-post.com/archives/16299
「娘さんは慰み者になります」 沖縄タイムス記者を名指しで批判した百田尚樹氏に沖縄マスコミ労が抗議声明←「中国が沖縄を乗っ取ったら」をわざと省いて報道〜ネットの反応「自衛隊が来たら絶対レイプされる、はいいの?二枚舌さんww」

「中国が沖縄を乗っ取ったら」をわざと省いて報道って酷すぎる!
この沖縄タイムズの捏造報道は明らかな名誉毀損であり、損害賠償モノだろ!沖縄タイムズ絶対に許せない!卑怯過ぎる!醜すぎる! 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:f1e341b6e67733c1327767e988175bd8)
0164名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:24:26.05ID:okaIT8wy0
冬季五輪ってつまんない
0165名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 03:24:39.50ID:okaIT8wy0
左翼マスゴミに好き勝手にやらせたら民主党政権時代の円高デフレ政策の二の舞になって日本の輸出産業は壊滅状態になって韓国の輸出産業が絶好調になるわけだが
シャープや東芝がああなったのも民主党政権時代の円高デフレ政策の時のダメージがあまりにも大きかったせいです
神戸製鋼や日産のスキャンダルも仕掛けたのは左翼マスコミに巣食う在日チョン。彼らは日本の産業を叩き潰して韓国が利する展開にしたいんだよ
売国サヨクマスコミから一番被害受けるはずの企業が左翼マスコミに金を流し続けるのが悪い。もうテレビや新聞に広告出すのやめろよ!企業がテレビや新聞に広告出し続けるのならそれはもう売国であり反日だよ!

ひたすらに倒閣運動にいそしむメディアの自殺行為
http://www.sankei.com/politics/news/170724/plt1707240004-n1.html
憲法改正を恐れ、ひるみ、印象操作か メディアは「言論の自由」と「風説の流布」をはき違えるな
http://www.sankei.com/premium/news/170728/prm1707280007-n1.html
NHKが腐ってる証拠映像集 - 国民が知らない反日の実態
https://www35.atwiki.jp/kolia/pages/1029.html
フェイクニュース「NHKも」名指し バノン米元首席戦略官、会見で批判「日本のCNNに違いない」
http://www.sankei.com/world/news/171217/wor1712170029-n1.html
【青山繁晴】NHKがなぜ反日偏向報道を繰り返すのか
https://www.youtube.com/watch?v=_D-9ahl4tIw
【直言極言】どこまで続く?NHKの反日売国行為
https://www.youtube.com/watch?v=UrayRu8AXlk

安倍政権を倒そうとしている売国サヨクマスコミに金を垂れ流している売国企業を叩き潰そう!中韓や在日利権の尖兵と化している売国サヨクマスコミを叩き潰す事は国として急務!
広告宣伝費が多い=売国サヨクマスコミに金を垂れ流している売国企業のトップ15です
これらの企業の商品は絶対に買わないでください。これらの売国企業の商品について常に悪い噂を流し続けましょう。安倍さんより下の年代はもっと右なわけで、そういうこれからの日本を引っ張っていく層を企業は敵に回す気か?

広告宣伝費が多い=売国サヨクマスコミに金を垂れ流している売国企業トップ15
1位トヨタ
2位ソニー
3位日産自動車
4イオン
5セブン&アイ
6ブリヂストン
7マツダ
8武田製薬
9パナソニック
10リクルート
11NTT
12花王
13三菱自動車
14富士重工業
15キャノン

この中で一番悪質なのはトヨタです。「日本死ね!」の史上最低のクズ売国奴の山尾志桜里を当選させたのはトヨタ労組の力です。
そして反日売国新聞の中日新聞に対してもトヨタは影響力を持っています。山尾を支援した売国企業のトヨタを倒産に追い込みましょう
愛国者が1人、売国トヨタの内部告発すれば売国トヨタを倒産に追い込めます。山尾を支援した事を売国トヨタに後悔させましょう

一部メディアのすさまじい偏向の狙いは「倒閣」にある! 安倍首相は本気で対抗策を打ち出してはどうか?
http://www.sankei.com/politics/news/170714/plt1707140017-n1.html
【小川榮太郎×上念司×ケントギルバート】偏向報道マスコミに激怒!TBSを放送法違反抵触で公開処刑!報道ステーションにも異議あり!サヨク系論客との公開討論は?
https://www.youtube.com/watch?v=5steatrZuCc
加計問題、一部メディア「大本営発表」の正体 嘘も100回繰り返されれば真実となる
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170729/soc1707290001-n2.html
.加計問題で「悪魔の証明」求めるメディア 筋違いの首相会食批判も懲りずに「1月20日問題」追及
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170729/soc1707290002-n2.html
加計学園問題の偏向報道に北村弁護士がド正論!「日本のマスコミは終わっている!加戸さんを報道しないのはありえない!両方の論拠を出し国民に判断させるのが本来の報道!」
https://www.youtube.com/watch?v=1wcEQNvH8B8
「安倍総理は無罪って分かってるけど視聴率がとれるからやめられない」夏野剛がテレビ局ディレクターに聞いた話を暴露
http://netgeek.biz/archives/100699
.加計問題は「朝日新聞のフェイク(ニュース)」 夏野剛氏が指摘したメディアの「マインド」
https://www.j-cast.com/2017/08/07305336.html?p=all
前川氏答弁が加戸氏発言の25倍超だった!加計問題でテレビ報道に異議アリ 民間団体がBPOへ告発検討
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170821/soc1708210002-n1.html
................ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:f1e341b6e67733c1327767e988175bd8)
0166名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:25:16.01ID:VPVhCY1d0
 翌日、朝食を食べ終えてから俺と姫はリビングに移動した。
少女はソファに寝かされている。規則正しい寝息、眼の下の隈はかなり薄くなっていた。
姫が左手をかざすと、やがて少女が目を開けた。
「目が覚めた?此処は私たちの家、だからもう大丈夫。」
少女の目から涙が溢れた。両手で顔を覆う。
「怖かった、ホントに怖かった。私...」
姫が少女の髪を撫でた。 「もう、大丈夫だから。ね。」
少女が落ち着くのを待つ間にコーヒーを淹れた。Sさんがトーストを焼いてくれる。
2人でリビングに戻ると少女はソファの上で体を起こしていた。
しかしその顔は蒼白く、生気が感じられない。2・3日、まともな食事をしていないのだろう。
これでは話どころか、いつ意識を失ってもおかしくない。
テーブルにトーストをのせた皿とコーヒーを並べる。白い湯気、良い香りが部屋を満たした。
「まずは軽い朝食、話はそれからにしよう。」 少女は頷いて、トーストに手を伸ばした。 「私はL、この『お兄さん』はRさん。そしてあの人はSさん、私とRさんのお師匠様。
昨夜も言ったけど、私たちはあなたを助けたいと思ってる。
でも、正直に話してくれないとあなたを助けられない。
だからSさんの質問には正直に答えて。分かった?」
少女が大きく頷くと、姫は席を立ち、Sさんから翠を受けとった。
Sさんが少女の向かいに腰掛ける。
「まず名前を聞かせて頂戴。」 「瑞紀です。○城瑞紀。」 「2人が占いハウスに行ったのはその後ね。」
「はい。白い袋をもらいました。ケイタイの番号も。」
「袋の中身は使った?」
「はい、もらったその夜に。丁度その夜、いつもより強い気配を感じて。
それで、試しにと思ってあの紙を部屋の四隅に置いたら、気配がなくなったんです。」
「なのにどうして一昨日から占いハウスを休んだの?」
「その前の夜に、また感じたんです。いつもよりずっと強い気配。人影みたいなのも。」 「どうしてそんな夢を見たのか心当たりはある?」
「ううん、全然ないです。
力が強くなったら色々なものが寄ってくるって聞いてたから、それでかなと思いました。」
「寄ってくるもの位ならあの紙で弾けるの。部屋の中まで入り込んでそのアザを残したのは
そんな生易しいものじゃない。明らかにあなた個人に向けられた呪い。」
「でも、私そんな、呪われるようなことなんて。」
「今まで占ってきた中に、トラブルの種になりそうなものは無かった?」
「浮気とか別れ話の相談はありましたけど、危ないなって思った時は曖昧に答えてたし。」
「じゃ、男の人とのトラブルは?」 少女は少し俯いた。
「あの、Rさんにあんなこと言ったのは、Rさんがとても良い人に見えたからです。
色々変なことが続いて、友達も遊んでくれなくなって。
不安で、とても淋しかったけど、この人なら相談できる。この人と一緒にいられたら大丈夫。
そんな気がして、何とかRさんと知り合いになりたかったから。
私、本土に来る前から男の人とつきあったことないです。本当です。」
「あなたは沖縄で生まれたの?」
「はい。沖縄本島の那覇市で。」
「自分がカミンチュって思ったのは何故?」
「小学生の頃に、母の生まれた集落に遊びにいったら
親戚の年寄りに『セーダカーの生まれ』って言われたんです。
中学生になったら『カミンチュだ』、『ノロになれる』って言われて、すごく嫌でした。」
「紙の配置を変えたりした?」 
「ううん、変えてません。怖くて、夜ほとんど寝られなくなりました。
外に出ようと思ったら余計に気配が強くなるし。もう、どうしようもなくて。」
「その首のアザは?」
「あの...」 少女は俯いて涙を拭ったが、暫くして顔を上げた。
「昨日の夕方、少し眠ってる間に夢を見ました。
動けない私の首に大きなヘビが巻き付いて、すごい力で。苦しくて目が覚めたらこのアザが。」
「痛みもある?」 「はい。」 「ちょっと触っても良い?」 「どうぞ。」
Sさんは右手でそっと少女のアザに触れた。
「じゃあ瑞紀ちゃん、何があったか聞かせて。最初に変だなって思ったのはいつ?」
少女は俯いて少し考え込み、暫くして口を開いた。
「私カミンチュだから変な気配を感じることは当たり前なんだけど。
半月くらい前から、友達が全然一緒に遊んでくれなくなって。それが最初です。」
その手が途中で止まり、ぴくりと震えた。 「あの、頂きます。」 「どう手をしている。
0167名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:27:39.40ID:3SnSCzX90
平野歩夢も金候補だった
0168名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:29:28.41ID:eWu8J4Id0
 「60年ぶりにカミンチュが生まれたって喜んでるのは親戚の年寄りだけ。
私、あの集落は好きだし、自分が力を持ってるのも気に入ってるけど、
ノロになんかなりたくない。両親もそんなことさせたくないって。 「私、力を使えなくなるのは嫌です。でも、ノロになるのも嫌。
ごめんなさい、今すぐには決められない。」
「じゃあ残りの1つを先に決めて。そのアザを残した呪いを祓わないと、多分あなたは殺される。
祓い方には2つあるの。取り敢えずこの呪いだけを無効にする方法。
もう1つは呪いを掛けた本体まで辿って呪いの力を返す方法。どちらの方法が良い?
この呪いだけを無効にしても次の呪いを掛けられたら同じ事だから、
完全に解決したいのなら呪いを返して本体を断つしかない。」
「本体を断つって、私に呪いを掛けた誰かを殺すってことですか?」
「もちろんそうなることもある。半端にやればこちらの身が危ないから。」
「呪いを掛けてるのが誰だか分からないと、やっぱり決められない。」
「呪いを掛けてるのが誰だか分かったら決められる?友達とか、親戚とか。」
「それは...」 少女は俯き、顔を両手で覆った。嗚咽が漏れる。
「瑞紀ちゃん、力を使うというのは結局そういう事よ。いつも都合良く、上手くいく訳じゃない。
自分や、誰かの命を左右することもある。だから半端な気持ちで使っちゃ駄目なの。」
「私、一体どうすれば...」
でも、しょっちゅう親戚が説得に来るんです。あの集落で私にノロの跡を継がせたいって。」
「それで沖縄から?」
「はい、両親が親戚に頼んでくれて。高校2年になる時、転校して来ました。」
「どうして占いハウスでアルバイトしようと思ったの?」
「生活費のためです。私の家、あまりお金無いから。
中学生の時、何度か友達の相談を見て上げたこともあったし、丁度良いと思って。」
「あなたの力は誰から伝わったんだと思う?」
「お祖母さん、だと思います。長い間集落のノロをしてたと聞きました。」
「父方?母方?」
「母方です。でも母には全然力が無くて、高校卒業してすぐに那覇に出たって言ってました。」 「ねぇ瑞紀ちゃん、私たち明日から仕事で沖縄に旅行するの。
あなたも一緒に来て、私たちをその集落へ案内してくれない?
あなたのお祖母さんに会えたら、何か手がかりが見つかるかも知れない。」
俺と姫は思わず顔を見合わせた。姫の大学が夏休みに入ったので
どこかに旅行しようと話してはいたが、沖縄とは初耳だ。しかも明日から?
少女は顔を上げて涙を拭った。その目に微かな光が宿ったように見える。
「お願いします。あの、両親に電話しておいた方が良いですか?」
「ううん、呪いが絡んでるから、今は誰にも知らせないで。
明日、出来るだけ早くその集落に行って、お祖母さんに会いましょう。」
「分かりました。」
「じゃ決まりね。R君、飛行機のチケット、追加で予約して頂戴。レンタカーとホテルもね。」
Sさんは俺に目配せをして、優しく微笑んだ。
「正直に答えてくれてありがとう、大体分かった。それで、あなたが決めることが2つある。
一つはあなたの力のこと。Lから聞いたと思うけど、今みたいな半端な使い方を続けてると
この先もっと酷いことが起こる。一生その力を封じるか、それともちゃんとした訓練をした上で
これからも力を使い続けるか。力を封じるのなら、やり方を教えてあげる。」
「これからも力を使うなら、私、ノロにならなきゃいけないんですか?」
「ノロの修行も1つの方法ね。ちゃんとした先生がいるなら、だけど。」
少女は暫く俯いた。
0169名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:32:58.54ID:5Tf7MBew0
飛行機が那覇空港に着いたのは午後1時過ぎ、光の圧力さえ感じるような強い日差し。
翠の事を考えると、午前中の便が良いと思ったのだが仕方ない。
何しろ夏休み。トップシーズンの沖縄で前日の予約。空席があっただけでラッキーだ。
飛行機の予約の関係で旅行は3泊4日の予定だが、 集落につながる海岸沿いの国道、窓を閉じていてもセミの声が聞こえる。
交差点から海側の脇道に入り、少女の案内で車を走らせる。
大きな石の側を通り過ぎた時、後部座席で姫の声がした。
「凄い、こんな事が。」
助手席のSさんの表情が変わった。道の先を見つめる眼が輝いている。
「瑞紀ちゃん、あなた『お祖母さんがノロをしてた』と言ったわね。」
「はい、年取って体調を崩すまではずっと。そう聞いてます。」
「それは違う、お祖母さんは今も正真正銘のノロ。その力で集落を護ってる。
もしかしたらと思っていたけど、やはりこの先の集落は一種の聖域ね。」 俺たちは少女の案内で家の中に入り、応接間に通された。
廊下の反対側は大きな畳間。壁の一部が大きな仏壇になっているのが見える。
クーラーはないが、部屋を吹き抜ける風が涼しい。全ての窓が開け放たれていた。
「いま、たか子おばさんが準備をしてます。もう少し待って下さい。」
テーブルにグラスを並べ麦茶を注ぐ。
「この家には良く来たの?」 翠を抱いた姫は興味深そうにあちこち見回している。
「はい、お正月とお盆と、他にも色々。何だか、懐かしいです。」
良い香りの麦茶を飲んでいると廊下の奥から足音が聞こえた。
50歳くらいの女性が応接間の入り口で膝をつき、俺たちに頭を下げた
「ようこそいらっしゃいました。母の言いつけでお迎えの準備をしておりました。
瑞紀を助けて頂いたそうで、本当にありがとうございます。
母も是非お礼が言いたいと申しておりますので、どうぞ奥の部屋へ。」
女性の案内で廊下を進む。台所を抜けて右に曲がり、再び廊下。
女性は突き当たりのドアを開けた。
「どうぞ、中へ。」
先に少女が部屋へ入る。Sさん、翠を抱いた姫、そして俺。
最後に女性が部屋へ入ってドアを閉めた。
八畳程の畳間、奥に介護用のベッドがあり、年老いた女性が横になっていた。
ベッドを調整して少し体を起こしている。
さらに進み、赤瓦の建物が建ち並ぶ集落に出た。
「そこに車を停めて待ってて下さい。私、たか子おばさんに話してきますから。」
「たか子おばさんって?」
「私の母の姉です。ずっとおばあさんの世話をしてます。」
「そう。じゃ、あなたの首のアザを見せて事情を説明してね。」 「はい。」
しばらく待っていると少女が戻ってきた。
「おばあさんに会えるそうです。私たちが来るのが分かってたみたいで。
あ、車はあの広場に停めて下さい。」
那覇市内のホテルは2泊分しか予約出来ていない。その間に空室が出なければ
宿泊先を変えるしかないが、タイミング良く見つかるかどうか分からない。
台風が近づいているという情報もあり、不確定要素が多いのがちょっと心配だ
ロビーを出て配車係からレンタカーの鍵を受け取る。
『なるべく目立たない車にして』というSさんの指示通り、4ドアのミニバン。
早速車を出す。まずはホテルにチェックイン。
ホテルのレストランで昼食を済ませてから、少女の祖母が住む集落へ向かう。
○×村、海岸沿いの小さな集落。ナビの画面で見る限り、1時間半程で到着出来るはず。
翠は姫に抱かれたままずっと寝ている。環境の変化は気にならないらしい。
0170名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:36:42.74ID:fSbmetEj0
 その目を見た途端、俺にも分かった。確かに、この人は本物だ、しかも飛びきりの。
Sさんがベッドに歩み寄り、畳の上に正座をした。俺たちもSさんにならう。
「私、Sと申します。瑞紀さんのことが縁となり、ノロ雲上(のろくもい)にお会いできて光栄です。
瑞紀さんに掛けられた呪いを祓うために、どうかお力をお貸し下さい。」
女性が老女の耳許で話しかける。方言に翻訳してくれているらしい。
「・・・あんし・・・がーらだまぬ・・・うかみんちゅに・・・ぐりさぬ・・・」
老女は手を合わせて俺たちに頭を下げた。 女性は一旦部屋を出て、木製の小さなたらいと木の枝を持って戻ってきた。
翠は起きているが、姫の腕の中で老女の方を見つめている。
女性はたらいを畳に置き、木の枝を老女に渡した。たらいには水が張ってある。
老女は両手で枝を捧げ持ち、眼を閉じて小声で何事かを唱えた。
次第に辺りの空気が張り詰めていく。やがて老女が眼を開けた。
黒い枝から小さな葉を一枚取る。「くり・・くぬ・・あ○りうふぐ・・。」
その葉を女性に渡す。女性はその葉をたらいの水に浮かべた。
さらに小さな葉をもう一枚。「くり・・や・・くししま△く・・。」
次々に葉が浮かべられ、その数は17枚になった。不思議なほど綺麗な円を描いている。 「・・・ちむん・・・はじかさぬ・・・うくぅいけーし・・・ねーぶん・・・」
「事情が分かりました。一門の者がこのようなことに関わりお恥ずかしい限りですが
自分が責任を持って始末しますから、この事はくれぐれも内密にお願い致します。」
その直後、Sさんが畳に手をつき頭を下げた。
「ノロ雲上は既にご高齢、体調も優れないのにそのようなことをなさるのは体に毒です。
瑞紀さんと関わったのも多生の縁。この呪いの始末、私たちに任せて頂けませんか?」
顔を上げて老女を見つめる。
女性は少し驚いた顔をしたが、やがて老女の耳許で囁いた。
老女もまっすぐにSさんを見つめた。ぴいん、と空気が張り詰める。
重い沈黙、どのくらいそうしていただろうか。
「・・・うぃーしに・・・はじちりむぬや・・・てぃとぅらち・・・」
「お言葉に甘えてお任せいたします。不心得者は煮るなり焼くなりご存分に。
ただ、先程も申し上げた通り、くれぐれも内密にお願い致します。」
「ありがとう御座います。万事心得ました。ご安心下さい。」
Sさんはハンドバッグの中から小さな袋と白い紙を取り出した。
老女は再び両手で枝を捧げ持ち、眼を閉じて小声で何事かを唱えた。
眼を開け、右手で持った枝をたらいの上でゆっくりと振る。二度、三度。
枝を女性に渡し、老女は水面を見つめた。
...これは。
俺たちの見ている前で一枚の葉が茶色く変色した。
その葉から、真っ赤なものが一筋、たらいの底に向かってすうっと沈んでいく。血?
「これ程の力のある方々が孫を守って下さって幸運でした。
お礼の申し上げようも御座いません。」 女性が通訳してくれる。
「瑞紀さんに掛けられた呪い、瑞紀さんの血縁と関わりがあるように思います。
何か心当たりが御座いますか?」
女性の通訳を介して会話が続く。俺たちはじっと2人の遣り取りに耳を澄ませた。
「・・・いちむ・・・うむいあたゆん・・・いちじゃまぬ・・・」
「確かに、一門の誰かが関わっているようです。今からそれを調べるのでお待ち下さい。」
「私たちはこのまま此処にいても?」 「どうぞ。」
0171名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:39:17.54ID:0WcJi62i0
 「ノロ雲上との面会も無事に済んだし、ご両親に電話をかけて事情を話しても良いわよ。
ただし、『口止めされてるから沖縄にいる間何処にいるかは話せない』って
そう言ってね。本体がこのホテルまで来ると色々面倒だから。」
ホテルのレストランで夕食を食べ終え、部屋に戻るとSさんは少女にそう言った。
少女は早速ケイタイを持ち、席を外して両親に電話をかけた。10分程話していただろうか。
電話を終えて戻ってきた少女の眼は赤く、少し思い詰めた表情だ。
「どうしたの?」 姫が心配そうに問いかけた。 Sさんは一度封筒を受け取り、改めてそれを少女の両手に握らせた。
「どうして?」
「確かに、頼まれた仕事なら、それなりの報酬と必要経費を貰うことになってる。
でも、あなたに一緒に来て欲しいと言ったのは私。それに、あなたも聞いたはずよ?
呪いの始末も、私がノロ雲上に頼んでやらせて貰うことになったの。
だからこの件であなたからお金を受けとる理由がない。」 その夜、俺たちは早めの夕食を済ませて7時前には部屋に戻った。
暫く地元のテレビ番組を見たり、翠の相手をして遊んだりしながら
交代でシャワーを使ったあと、Sさんが言った。
「じゃ、そろそろ始めるわよ。準備するから、10分後にもう一度此処に集合。
このあと朝まで部屋から出られないかも知れないから、何か買うなら今の内にね。」
俺は一階の売店で辛口のチューハイを6本買って部屋に戻った。
備え付けの机にSさんが小さな祭壇を設えている。祭壇の横に折りたたんだタオル。
机に白い袋を2つ置き、1つの袋から取り出した人型を祭壇に安置した。
少女の髪を仕込んだ人型、沖縄に発つ前に少女の部屋から回収したものだ。
そしてもう1つの袋から取り出した人型を折りたたんだタオルの上に置いた。
半分が赤黒く染まった人型。呪いを祓うのに使うのだろうか?
裏返した空き缶の底に、姫が小さなロウソクを立てて火をつけた。部屋の灯りを消す。
「じゃ、これから始める。もし、ロウソクの火が消えたら要注意。
特に瑞紀ちゃんは気をしっかり持って。L、お願いね。」 「はい。」
少女は翠を抱いた姫と同じベッドに座っていた。Sさんがその周りに結界を張る。
それから祭壇の人型をタオルの上に移した。赤黒く染まった人型を白い紙で覆う。
Sさんと俺がもう1つのベッドに座り、結界を張って準備は完了。
「でも、それじゃ私の気持ちが。」
「じゃ、こういうのはどうですか?」 姫が少女にタオルを渡しながら話しかけた。
「沖縄で食べる夕ご飯は明日でお終いですよね。だから明日みんなで食べる夕食の代金を
瑞紀ちゃんに払って貰いましょう。それでお金の話はお終いってことで。」
台風の影響を心配した予約客のキャンセルが出たため、
俺たちは明日まで同じ部屋に宿泊できることになっていた。
「良い考えね。ホテルのレストランだから結構高いわよ。瑞紀ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。それでお願いします。」
「じゃ、早く体を拭いて着替えて。温かいシャワー使った方が良いかも。」
「はい。」 少女はようやくホッとした笑顔を浮かべた。
「両親が『きちんとお礼を』と言ってました。
あの、Sさん、Lさん、Rさん。見ず知らずの私のためにこんなに良くしてくれて
本当にありがとう御座います。私、今までちゃんとお礼も言えなくて、御免なさい。」
「お礼を言うのは未だ早い。本番は明日の夜よ。今夜はしっかり寝て明日に備えて。」
「明日、呪いの始末をつけるんですか?」
「そう、ノロ雲上の依頼を受けたから、これはもう私の仕事。
あなたには悪いけど、この呪いを始末する方法は私が決める。ノロ雲上の希望通りに。」
0172名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:43:55.68ID:9ypjfRYJ0
誰も喋らない。ゆっくりと時間が過ぎる。ロウソクは少しずつ短くなっていった。
ロウソクが燃え尽きそうになるとSさんが新しいロウソクに火を点ける。
2本目、3本目。4本目のロウソクが半ばまで燃えた時、その炎が大きく揺れた。
少女の肩がびくっと震える、姫が少女の手を握った。翠は既にベッドの上で寝ている。
ロウソクの炎はもう一度大きく揺れ、そして消えた。部屋の中を満たす闇。
暫くすると眼が慣れ、薄いカーテン越しに漏れる街の灯りで部屋の中が見えてくる。 「術者自身の憎しみで相手を殺すのは禁呪ですが、
さっきの術は相手の呪いを再構成して返しただけだから大丈夫です。それよりも。」 「さめさん、おおきいね〜。」 「さめさん、おっきい。ど〜ん、ゆらゆら〜。」
世界でも有数の大きさを誇る水槽の前で、姫と翠は大小様々な魚たちに見入っている。
大学生になった姫はますます美しく、親馬鹿かも知れないが翠はとても可愛い。
2人に気付いた観光客たちは、小声で話しながら振り返ったり、
一度通り過ぎたのにそれとなく戻ってきて近くから2人を見つめたりした。
ジンベエザメには負けるだろうが、2人も結構な数の視線を集めている。
俺とSさんは通路を隔てて少し離れた階段状の席、最上段に座った。そこから水槽を眺める。
ここまで上がってくる客はほとんどいない。広いスペースが貸し切り状態だ。
俺とSさんの間に少女が座っている。当然だが、朝からあまり元気がない。
俯いたまま、独り言のように話し始めた。
「〇吉おじさんは、私が本土に行く時助けてくれた人なんです。
母が私の事を相談したら『もうノロの時代じゃない』って、お金も出してくれたって。
なのに、何故私を。私、何か悪いことしたのかな。」
「昨夜返した呪いに関わるおじさんの記憶、それなら話してあげられる。聞きたい?」
少女はSさんの顔を見て、もう一度俯いた。「聞かせて下さい。」「それよりも、何ですか?」
「どんな理由があれ、術者が血縁に手をかけるのは禁呪だし、大罪です。
血縁相克の大罪。だからSさんは呪いの始末を引き受けたんです。」
「呪いの本体は、やはり瑞紀ちゃんの血縁なんですね?」
「多分、叔父。つまりあのノロ雲上の息子。」「そんな。」
「あのノロ雲上ほどの力を持つ人は術者の中にも滅多にいない。
できるだけ長生きしてあの土地を護るべきだし、是非そうして欲しい。」
あの老女が呪いを返せば相手は息子。結果的に、それは禁呪だ。
老女の寿命を削らせないように。
「さて、もうこの話はお終い。明日の予定なんだけど。」 「はい。」
Sさんはレンタカーの中にあったパンフレットを取り出した。
「天気も良くなるみたいだし、この水族館に行ってみたいな。ジンベエザメ、どう?。」
「賛成です。きっと瑞紀ちゃんにとっても良い気分転換になりますよ。」
「そうですね。翠も生きた魚を見るのは初めてだから喜ぶかも知れません。」
ふと、背後にゾッとするような気配を感じた。少女の顔が強張っている。
ゆっくりと振り返る。薄いカーテン越し、窓の外に黒い人影が浮かんでいた。
俺たちの部屋は6階、当然人間ではない。その気配は更に密度を増した。
『やっと みつけた』
少女の頬を伝う涙が光って見える。
「〇吉おじさん、どうして?」 少女の体が傾いた、姫が抱き止める。
突然、Sさんが机に駆け寄った。
『返れ・・・・・は射手へ』
その直後、窓の外の気配が消えた。カーテン越しに見える街の夜景が美しい。
「これでお終い。」 Sさんは部屋の灯りを点けた。 少女は気を失ったままだ。
0173名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:47:33.96ID:zlMLHxHM0
オリンピックの意義が薄れ全く興味を失せたのは何故だろう!東京オリンピックも高温多湿のさ中に何を競うのだろう。
世紀の祭典と言いながらスポーツアスリート達は政治と企業の道具とされて酷使されているだけ!アスリートも情けない奴らだ。
0174名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:49:07.75ID:voBKdvkt0
「あなたの姿、特に占いをしてるあなたの姿が沢山見えた。
おそらく定期的にあなたの様子を監視してたんだと思う。
沖縄から出る時、おじさんから何か貰ったんじゃない?」
「はい、カバンを。大好きなブランドのカバンをプレゼントしてくれました。」
「多分、その中に呪物が仕込んである。それを通してあなたの様子を探ってたのね。」
「でも、何故私を監視してたんですか?」
「どんな手を使っても 結界を張れる人間があなたに接触したのを知って、おじさんは焦ったでしょうね。
あなたが2人と交流を続けたら、力を正しく使おうと思う可能性は十分にある。
そして、あなたが力を正しく使うことはあなたがノロになる可能性に繋がる。
だからおじさんは最後の手段を取った、つまり呪いを掛けてあなたを殺そうとした。
その意味では、あなたに掛けられた呪いの責任が、私たちにもあるってこと。」
「私がノロになるのが、どうしてそんなに。」
「おじさんはあの集落からノロがいなくなるのを待ってたんだと思う。
ノロ雲上は高齢、あなたがノロにならなければ、集落からノロがいなくなるのもそう遠くない。 「おじさんは若い時から那覇に出て、今も那覇に住んでます。
お正月やお盆でもあの家には来ません。お祖母さんと仲が悪いって聞きました。」
「それなら力を使ってもノロ雲上は気付かない、納得。
それから、おじさんの力は生まれつきのものというより、後から身につけたものだと思う。
生まれつきのものなら、当然ノロ雲上が気付いた筈だから。
あなたに掛けた呪いも、ノロ雲上が使った術とは違う系統のような気がする。
もしかしたら沖縄以外の場所で術を習ったのかも知れないわね。
そして親戚や集落の人たちには自分の力を上手く隠して、
ノロ雲上が亡くなり、あなたの心が闇に侵食されるのをじっと待っていた。
でも事情が変わったからあなたに呪いを掛けた。ノロの後継者を確実に消すために。
結局失敗して、昨夜その報いを受けた訳だけど。」
「あの、おじさんは、どうなったんですか?」
「それはおじさん次第。そういう返し方をしたの。
あなたが沖縄を出るのを助けたのもそれが目的。もしあなたが誰かに説得されて
ノロになると言い出したら厄介だから。ノロがいると困る理由、何か心当たりある?」
少女はハッとしたように顔を上げた。
「集落の大部分を再開発する計画があるんです。
大きなリゾートホテルを建てたり、ビーチを整備したり。
おじさんは建設会社を経営してるから賛成してるけど、お祖母さんは反対。
集落の人たちもほとんど反対だって。両親から聞きました。」
「多分それね。ノロがいなくなれば集落の人たちを説得しやすい。
でも、おじさんがあの集落に住んでるなら、力を使う時にノロ雲上が気付いた筈なんだけど。」なたがノロになるのを阻止したかったから。
あなたが占いのアルバイトを始めたのもおじさんには好都合だった。
あなたが力を玩具にしてるなら、自分が手を下さなくても、
そのうち寄ってくる色々なものに影響されて、あなたの魂は闇に侵食されていく。
当然あなたがノロになる可能性もなくなる。
友達を遠ざけたのもそのためよ。あなたに『良い出会い』をさせたくなかった。
『良い出会い』には闇を祓う力があるから。
でも、あなたは2人に出会い、力の使い方を考え始めた。これが『良い出会い』。
その直後、あなたの部屋に結界が張られ、監視するのがかなり難しくなった。
0175名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 03:56:09.65ID:kH87vKTg0
R君、其処でちょっと停めて頂戴。」
水族館のカフェで昼食を食べてから、俺たちはナビを頼りに車を走らせていた。
姫が『山道を走らせていればヤンバルクイナが見られるかも知れない』と言ったからだ。
しかし当の本人はもう30分も前から翠と一緒に寝息を立てている。
Sさんは車を降り、脇道の入り口にある案内板を見つめた。 「あの、すみません。」 後部座席の少女がおずおずと俺たちに声をかけた。
「何?」
「どうしてSさんはノロが護っている場所に住みたいんですか?
Sさんなら自分で自分の住んでいる場所を護れるはずなのに。」
「私たちだって、心から望んで術者になった訳じゃない。
折角の力を封じるより、何かに役立てた方が良いと思ったからこの道を選んだの。
でも術者を続けていれば辛いこともあるし、嫌な思いも悲しい思いもする。
せめて年を取ってからは術を使わず、心静かに暮らしたい。
力のあるノロが護ってくれている場所でならその夢が叶う。長生きできれば、だけどね。」
「私、私がもしノロになったら、Sさんたちはいつかあの集落で暮らしてくれますか?」
「悪くない話ね。海に面してるからR君も不満ないでしょ?」 「それはまあ、そうですね。」
「それから、もう1つ聞きたいことがあって。」
「今度は何?」
「あの、翠ちゃんはSさんとRさんの子供なんですよね?」 「そうよ。」
「それでLさんはRさんの奥さん、それって一体どういう。」
「お嫁さんが2人いるの。私たちの一族では良くあること。」
「じゃあ私...ううん、何でもないです。」
これ、何だかややこしい展開じゃないのか?
何故Sさんは何故わざわざあんな、いや、事実なのだからあれ以外に答えようが無い。 「じゃ、出掛けましょう。約束通り私が御馳走します。いっぱい食べて下さいね。」
「実はもう、予約してあるの。それも個室のお座敷。」 「和食、ですか?」
「沖縄ソバの店。」 「ソバ?」
「そう、折角沖縄に来てるのに沖縄ソバ食べないで帰る訳にはいかないでしょ。」
「大賛成です。」 「まだ食べたことないですしね。」
「でも、それじゃお金が全然。」
「約束したのはみんなの夕食、金額じゃない。」
「Sさん...」

 「私、高校を卒業したら沖縄に戻ります。」
沖縄ソバを食べ終え、食後のアイスコーヒーを飲みながら少女が口を開いた。
「大学に通いながらノロになる勉強をしようと思って。」
「え、瑞紀ちゃんノロになるの?」 姫は寝ていたのであの話を聞いていない。
「また気が変わるかも知れないけど、今はノロになりたいと思ってます。」
「何故ノロになろうと思ったの?あれ、顔、赤い...あっ!」
突然耳鳴りがした、これは? Sさんと姫の顔も緊張している。
「みず き」
立ち上がった翠が姫の肩越しに少女に向かって右手を伸ばしていた。
でも、これは翠の声じゃない。
ホテルへ戻る間、少女はずっと何か考え事をしているようで黙ったまま。
Sさんは興味深そうに窓の外を眺めながら黙ったまま。姫と翠はずっと寝たまま。
車の中は不思議な静かさで満たされていた。
そしてしばらく脇道の奥を眺めてから車に戻ってきた。穏やかな笑顔。
「ありがと、車を出して。」
「どうしたんですか?」
「あの道の奥にも、ノロに護られた集落がある。探せばもっとあるでしょうね。
こういう場所も、ノロの後継者がいなければ、やがて聖域ではなくなってしまう。
私がおばあさんになるまでは、幾つか残っていて欲しいけれど。」
「なぜ、『おばあさんになるまで』なんですか?」
「もしおばあさんになって、術者を辞めることができたら、あんな場所に住みたいからよ。
立派なノロに護られた聖域で穏やかに余生を過ごすなんて、夢みたいでしょ?」
「出来れば海に面した場所が良いですね。」 「どうして?」
「おじいさんになったら、僕も術者を辞めて毎日魚を釣ってきます。」
「ふふ、素敵。約束よ?」 「はい、必ず。」
0176名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:00:04.90ID:h26Q9MLg0
メダル取れたんだな
無理だと思ってたからビックリ
0177名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:01:18.98ID:Y146VbJA0
飛行場のロビーを出て、駐車場からすぐに少女のアパートへ車を走らせた。
姫が部屋の中を清め、結界を張り直している間に 「ノロになって、そして25歳になってもお嫁に行けなかったら、
R君に相談しなさい。あなたの望み、案外すんなり叶うかも知れないわよ。」
「ちょっとSさん、勝手に変な事決めないで下さい。」
「相談しなさいって言ってるんだから『勝手に』じゃないでしょ。ね〜。」
「はい。相談します。ノロになって、25歳になったら、必ず。」
晴れやかな笑顔で手を振る少女を残し、俺は車を出した。
「あんなこと言って、彼女が本気にしたらどうするんです。」
「あの子はとうに本気よ。だからノロになるって決めたんじゃないの。
こんな時だけは妙に鈍いのね。不思議。」
「瑞紀ちゃんがRさんを好きなのは知ってましたけど、
それと彼女がノロになろうと思ったことに関係があるんですか?」
「術者を引退して余生を過ごすなら、ノロが護ってくれてる場所が良いって、Sさんが。」
「あの子がノロになったら、あの集落で私たちに余生を過ごして欲しいそうよ。
そしたらいつまでもR君と一緒に住めるから。」
「同じ家に住むなんて言ってません。第一そんな、何て言うか、不純な動機で良いんですか?
ノロになるのは、一生を賭けた大仕事なのに、痛たたたた。」
左頬をつねられた。
「動機としてはともかく、あの子の気持ち自体は不純じゃない。
それに、一生を賭けた大仕事だからこそ、モチベーションが大切なの。
そのためならどんな辛いことにも耐えられるっていう目標。健気よね。」
俺とSさんは少女のカバンを調べた。呪いの本体である叔父から贈られたカバン。
学校やアルバイトにも持っていくし、大好きなブランドなら捨てることは考えられない。
もちろん紛失する可能性も小さいという訳だ。
「やっぱり。これは琉球神道のものじゃない。むしろ道教に近い系統ね。」
カバンの底、中敷きの裏に隠された紙には、文字と文様がびっしりと書き込まれていた。 「ねぇ瑞紀ちゃん。私の知人の家で働かない?住み込みのお手伝いさんを探してるの。」
「住み込みのお手伝いさん、ですか?」
「そう、給料は安いけど、住み込みだから部屋代も食費も要らない。
その家から高校に通えるし、家事の手伝いをしながら規則正しい生活をするのは
きっと将来あなたの役に立つ。遊ぶ時間はなくなっちゃうけど。どう?」
「今までたくさん遊んだから、遊ぶのはもう良いです。その人の家で、働かせて下さい」
「じゃ、決まりね。知人と相談したらすぐに連絡する。
夏休みだし、部屋の手続きと引っ越しの準備、出来るだけ速く済ませておいてね。
占いハウスを辞める時に問題が起きたら私たちが一緒に交渉してあげる。」
「はい、頑張ります。」
「うん、良い返事。じゃR君、L、私たちも帰りましょう。」
俺たちがアパートの駐車場に停めた車に乗り込むと、少女は深々と頭を下げた。
「何から何まで、本当にありがとう御座いました。」
Sさんが後部座席の窓を開けた。
「本当にあなたがノロになったら、私たちも引退後の話、ちゃんと考える。約束ね。」「はい、それで、あの。」
少女は口ごもって俯いた。
「これを通して、ずっと私を監視してたんですね。」
「そう、これが通路になったから呪いの一部が結界を抜けてあなたに届いた。
結界を張っていなかったら首のアザでは済まなかったかも知れない。」
Sさんはその紙を折りたたんで白い封筒に入れた。
「これは後でちゃんと始末しておく。新しい結界を張ったから
あなたの力に引き寄せられるものもこの部屋には入れない。まずは一安心。」
「本当にありがとう御座います。」
「ただ、問題が1つ残ってる。あなたのアルバイト。
占いハウスのアルバイト、どうするつもり?」
「辞めます。ちゃんとノロの勉強をするまで、なるべく力を使いたくないから。」
「でも、それだと生活費が苦しいわよね?」「はい、でも...」
0178名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:04:29.64ID:o3FPVH9n0
「不純じゃなくて健気ならかえって厄介でしょうに。彼女
肌を刺すような冷たい風に乗って白いものがひらひらと舞っている。初雪だ。
産婦人科での定期検診を終えてお屋敷へ帰る途中。辺りは既に薄暗い。
Sさんのお腹の子は妊娠三ヶ月目に入った。俺たちの二人目の子。
信じられないような幸せの中、俺がお屋敷で迎える4度目の冬。

 「瑞紀ちゃんから葉書が届いてますよ。お仕事、頑張ってるみたいですね。」
「この間電話して様子を聞いたら『すごく真面目な子』って、評判良かった。
最初の頃に比べたら字も文章もすごく上手になったし。モチベーションって、大事よね。」
Sさんは悪戯っぽく笑って俺に葉書を手渡した。 「力を持って生まれた子は、皆13歳になったら1年間親元を離れる。
『範師』の家に預けられて礼儀作法や力と向き合う心構えを学ぶの。
1年経って術者になる事を選んだ子は裁許を受けて更に2年間、
適性に応じた術者を師として基本的な修行をする。それが一族のしきたり。
そのしきたりの半分を利用しただけ。無理に頼み込んだ訳じゃない。
範師には『子供を預かるのは久し振りだから嬉しい』って感謝されたし。
一族の子より4年遅いけど、学び始めが遅れたことは問題にならない。
一年半、一族の子と同じように基礎をしっかり鍛えて貰える、それが重要。
それに範士の家には変なものが近づくこともない。あの子も安全、一石二鳥。
単独で活動する術者の経過観察するのに比べたら、時間とお金の大幅な節約だわ。」
「本当に、力を持って生まれた子は全員、なんですか?」 この話は初めて聞いた。
「そう、でないと力を玩具にする子が出てきてしまうから。
ね、裁許を受けた日、当主様の館を案内してくれた女の子。憶えてる?」
「はい、何処かで見たような子だと思ってました。」
確かに、簡潔な文章で近況を報告する葉書の文字は美しかった。
「モチベーションの件は突っ込みませんよ?それよりお仕事って、
あれはSさんが親戚に頼んであの子の面倒を見て貰ってるんですよね。」
少女の給料をSさんが負担していることを、既に俺と姫は知っていた。ロになって、25歳になって、
それで本当に相談に来たら一体どうするつもりなんです。僕は責任持てませんよ?」
「あんな可愛い子が真面目に頑張ってたら、周りが絶対にほっとかない。
沖縄に帰ったら、あっと言う間にふさわしい相手が見つかる。」
「でも、もし相手が見つからなかったら。」
というより、あの笑顔じゃ相手を見つける気があるのかどうか疑わしい。
「あと8年、私36ね。その歳で子供を産むのは難しいかもしれないから、
良いんじゃない、あの子にR君の子を産んでもらうのも。
集落と其処に住む人たちを護るノロは、ただの術者とは系統が違う。
きっと術者になるのとは別の、大変な修行を何年も続けなければならないはず。
もし、それほどの努力をして、本当にノロになって相談に来るのなら、
私はあの子の望みを叶えて上げたいな。力を持った子も生まれそうだし。」
「Rさんの子供が全部で10人くらい生まれたら、半分くらいは力を持ってるかも知れませんね。
その中には術者になる子も、瑞紀ちゃんの跡を継いでノロになる子だっているかも。
私も、力のあるノロとノロが護っている聖域は、いつまでも残っていて欲しいです。」
「ちょっと、Lさんまで一緒になって何を言い出すんです。僕はあの子の事、いや。」
あの子の事は問題じゃない。深呼吸を1つ。落ち着け、俺。
「僕は何時だってSさんとLさんの事で頭がいっぱいなんです。2人が本当に大好きですから。
こんな美人が目の前に2人もいるのに、他の女の人の事を考えるなんて絶対無理ですよ。」
「あら、ありがと。綺麗な言霊。L、どうしたの?顔、真っ赤よ。」
0179名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:07:10.42ID:b5Ii/TZA0
去年の7月 俺は思いきり拍手をした。 「すごく上手でした。とても美しかったです。」
「ありがとう御座います。踊ったのは4年振りですけど、三つ子の魂百まで、ですね。」
姫の頬は少し紅潮していたが息づかいに乱れはない。すごい身体能力だ。
「降りるっていうのは、神様が降りるってことですよね?どんな感じなんですか?」
「踊っているうちに、自分が自分でなくなるような気がするんです。
視界が白っぽく霞んで、自分の心が周りの空気に溶けていくような。
そんな感じが強かった時ほど上手だって褒められました。でも、本当は、とても怖かった。
このまま自分が自分じゃなくなるんじゃないか、Sさんの所に帰れなくなるんじゃないか、
いつもそう思って。だから私、舞を奉納するのは、あまり好きじゃなかったです。」
俺の手から翠を抱き上げた姫の横顔は、どこか儚げで美しかった。宮の祭礼で舞を奉納した子よ。2人のうち背の高い方。」
川の神様の...お化粧のせいですぐには分からなかったが、それで見覚えがあった訳だ。
「去年舞を奉納したってことは、今年で基本的な修行を終えて家に戻る。
最後の年に当主様の館で奉公してるなら、とても素質がある子なのね。」
「じゃあSさんとLさんも?」 「もちろん。」
「私は11歳の時からSさんに教えて貰いました。」 『力を持って生まれた子は皆、親元を離れて1年間の修練を積む。』
それは、力を持って生まれた子が、その力故に道を誤ることがないよう、
長い長い時間をかけて練り上げられてきたしきたりなのだろう。
優れた術者を育てる前に、まず 基本的な訓練を受けていない俺のために、2人はそれとなく教えてくれたのだ。
何気ない日常の生活を通して。あるいはこの世のものでない存在との関わりを通して。
人として、術者として生きていくための覚悟。
以前、Sさんは俺に『あなたの資質が無いほうが、私もLもどんなにか』と言って
涙を浮かべたことがあった。今はその涙の意味が痛い程分かる。
たとえ俺に力が無く、裁許を受けられなくても、2人は俺を夫として認めてくれたろう。
俺の力を封じてしまうことも出来た筈だし、その方が2人の気は楽だったかも知れない。
でも、2人は敢えて困難な道を選んだ。
力の発現に合わせて俺の心を鍛え、少しずつ覚悟を促す。
自らの命さえ危うい事件に巻き込まれることもあったというのに、
3年間、一体どれ程の配慮と忍耐を俺のために費やしてくれたことだろう。
お陰で俺は術者としての人生を選び、裁許を受けることが出来た。
まさにそれは、2人の深い愛情と、『力』への敬意が可能にした奇跡。持つ子供の人格を鍛え上げる。
力を持っていても、それを鼻にかけることも玩具にすることもなく、子供達は育っていく。
その上で、力と向き合う覚悟をした子が、自ら術者の道を選ぶのだ。
時代の流れとはいえ、現代では陰陽道の系統の多くが
祭祀の儀礼を取り仕切る技術のみを扱うようになってしまったと聞いた。しかし、
遠い古から現代に至るまで、俺たちの一族は途切れることなく優れた術師を輩出してきた。
その理由が1つ、分かった気がする。
そして、俺がお屋敷で暮らし始めてから裁許を受けるまでに約3年を要した理由も。
Sさん、Lさんと過ごした日々の記憶が走馬燈のように甦る。
姫が分家から助け出されたのは何歳の時だったのだろう。
「Lさんも舞を奉納したことがあるんですか?」 「はい、何度も。」
「Lは舞が上手で評判だったのよ。一族で最高の舞手と言われてた。L、どう?」
俺が代わりに翠を抱くと、姫はすっと立ち上がった。 Sさんがひとつ手拍子を打つ。これは。
姫は手拍子に合わせて軽やかに舞った。姿勢を高く、低く、また高く。
眼にも止まらぬ速さで回転したかと思うと跳び上がり、着地して緩やかに回転しながら蹲る。
確かにあの祭礼で見た舞だ。
そして蹲ったまま左掌を床に着けて、ぴたりと動きを止めた。
「はい、そこまで。これ以上舞うと降りてしまうかも。」
0180名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:12:55.24ID:YCkQqPMm0
バンクーバー五輪が5個だったんだからそれぐらい獲れそうじゃない
思った以上にがんばっている
0181名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:13:42.21ID:znFXFq980
>>6
小平と平野はよほどの事が無い限り取るだろ
0182名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:13:45.21ID:8oT1peNt0
正月早々かなり珍しい仕事が来たわよ。もし本物なら、だけど。」
電話を切ったSさんが明るい笑顔でリビングに戻ってきた。
「どんな仕事ですか?私とRさんで出来る仕事なら何でも。」 40分程車を走らせて、市街地の山手にある閑静な住宅街に着いた。
広いガレージに車を停め、玄関に廻る。Sさんがインターホンのボタンを押した。
「はい、どなた?」 「私よ、S。早速みんなで押しかけてきたわ。」
「ちょっと、じゃ、翠ちゃんも一緒なの?」
応答が途切れ、玄関の向こうで気配が勢いよく近づいて来る。 ドアが開いた。
「いらっしゃい。あ、ホントだ。」 女性はしゃがんで翠と視線を合わせた。
「翠ちゃん、こんにちは。」 「こんにちは。」 「可愛い〜。ね、抱っこして良い?」
人見知りした翠が姫の脚の後ろに隠れてしまったので女性は立ち上がった。
「ま、初めてだから仕方ないか。S、Lちゃん、久し振り。」
華やかな笑顔。2人とはタイプが違うがこの人も美人だ。
くっきりした目鼻立ち、背の高さは姫と同じくらい。宝塚の男役みたいな雰囲気。
「本当に久し振り。紹介するわ、こちらがR君。」
「初めまして、Rです。」
一礼して顔を上げると女性の顔が目の前にあった。思わず後ずさる。
「ふ〜ん、なかなかの美形ね。君が今一族中で話題の言霊使いなんだ。
さすがに2人とも御目が高い。私、碧。宜しくね。」
「姉さん、Sさんはお腹に赤ちゃんがいるんでしょ。立ち話は良くないよ。」
玄関の奥に少年が立っていた。姉弟だから当然だが、かなりの美少年だ。
高校生? どちらかというと女顔で線が細い。 ちょっとコンプレックスが。
「あ、御免なさい。私ったら気が利かなくて。これ、弟の暁。さ、中へ入って。早く早く。」
姫はSさんの体を気遣っている。Sさんは妊娠5ヶ月目に入っていた。
「呪物の処理はLやR君の分野じゃない。この仕事はどうしても私が行かないと。」
Sさんは何だか楽しそうだ。まあ、検診の結果は順調だし、
やる気になっているのは、何より体調の良い証拠だろうけれど。
「場所、遠いんですか?呪物なら依頼人に持って来てもらうという方法も。」
「依頼人は私の従姉弟たちなの。前から翠とR君に会いたいって言われてたし、
良い機会だからみんなで出掛けましょ。私、体調は良い。全然平気。」
「従姉弟たちって、もしかして碧(あおい)さんと暁(あきら)君ですか?」
「そう、久し振りよね。R君と翠は初めてだから紹介してあげる。」
分家が自らの力を証明したかった相手は、時の権力者達だと思います。
ただ、既に246の考察に有る通り、時の権力者と結びついた系統は昭和までに衰退してしまいました。
いくら力があっても、自らの命をも危うくするかもしれない術士は目の上のたんこぶですから、当たり前と言えば当たり前ですよね。
247の考察にある四国の流派(い〇な〇流)は当初から市井に下ったから、今も一定の力を保持しているのでしょう。
当主が世襲ではなく、一族の意志を『上』という集団指導体制で決めてきたという描写からも、
当時この一族がかなり進歩的な集団だったのは間違いありません。
『本家』が時の権力者と距離を置き、対等に渡り合って来たのなら、自前の武力は必須だった筈。
それが現代の『対策班』に繋がるなら『出会い』の描写も納得出来る気がします。
0183名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:13:48.84ID:Yy/D5KQ90
>>19
ウノ「‥‥」
0184名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:16:46.87ID:vrnl0GFI0
今回は長野の時の過去最高の10個を超える可能性は十分あるよ

昨日もモーグルがメダル獲ったのは嬉しい誤算かと
0185名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:17:23.99ID:/3eUyt2R0
アメリカのダレスは、戦後、
「ジャップに、ジャップは西欧諸国と同レベルであると錯覚させる」
という政策をとった(ダレスのwiki)。

まぁこれは明治からのイギリスの対日政策を
引き継いだものにすぎないだろうが。

定期的に外国から
「世界でジャップの〇〇が大人気!」
「ジャップが世界の〇〇賞を受賞!!」
という情報が流れてくるのも、この政策の一環。

これは、ジャップに、
近隣のアジア諸国と連帯させないため。

ジャップ単体では、すごくもなんともない。

で、このプロパガンダを本気にする
馬鹿ジャップが続出 w

ジャップ馬鹿すぎ wwwww
0186名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:17:40.74ID:/3eUyt2R0
まぁ、何をほざいた所で
ジャップはもう国中「放射能サウナ」になってるから、
個々人はジャップ脱出以外の選択肢は無いんだよね。

ジャップは皆、大なり小なり 被爆で
ゾンビ化してて、しかも自分がゾンビになってることに
気づいていない。

普通に中国やアメリカよりいい生活してると
信じ込まされてる。
ほんと世紀末的な地獄的状態だよ、 今のジャップは
0187名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:18:16.12ID:vXHAbo7t0
案内された客間でソファに腰掛けた。
とにかく広い、豪華なソファとテーブル。翠は姫に抱かれて飾り棚の中身に興味津々。
やがてコーヒーとケーキが運ばれてきて雑談になった。
お互いの近況や俺の裁許のこと、そして翠のこと。Sさんと碧さんはとても楽しそうだ。
碧さんと暁君は術者ではないらしい。御両親が海外に長期出張、始めは一家で移住したが
暁君の高校進学を機に碧さんと暁君は帰国。去年の3月から2人暮らしを始めた。
一族の人で術者ではない人に会うのは初めてだ。何だか普通の会話が新鮮に感じる。
ふと、暁君の視線に気が付いた。時折Sさんに向けられる憧憬の眼差し。
純粋な慕情が伝わってくる。Sさんは暁君の初恋の人、なのかも知れない。
「さて、おしゃべりも楽しいけど、そろそろ仕事の話をしないと。」
「そうね、お願い。」
テーブルの上が片づけられ、暁君以外は全員ソファに腰掛けた。
飾り棚の中身に飽きた翠は姫に抱かれて眠そうにしている。
「今、暁が取りに行ってる。怪しいと思ってからはずっと『保管庫』に入れてあったから。」
「ホントに呪物なの?」 「分からないけど、ちょっと嫌な感じ。あんなの初めて。」
暁君が応接間に戻ってきた。白い布の包みを持っている。
「これです。」 テーブルの上で包みを解く。 トランプ?
厚手の紙にレトロな絵柄のトランプだ。箱もある。状態は良いが、古いものなのだろうか。 「どうしてこれが呪物だと思ったの?」
「手に取ると、凄く嫌な感じがするんです。絵や模様はとても、綺麗なのに。」
Sさんがトランプを手に取った。慣れた手つきでシャッフルし、扇形にカードを広げる。
途端に全身の毛が逆立った。
このトランプはまるで『窓』だ。 窓の向こう側にいる、何者かの、禍々しい気配。
そして今、少しだけ開いた窓の隙間から『それ』がこちらの様子を窺っている。
カードを配ってゲームを始めれば、間違いなく『それ』は窓から手を伸ばしてくる。
「確かに呪物ね。それもかなり強力。呪物を使う呪いは、時間と相手を限定できないから
成功率はそれほど高くないし、作るのにも手間がかかる。本物は滅多に無いんだけど。」
「本物って、それ持ってるとやっぱり悪いことが起こるの?」
「『保管庫』に入れておく分には問題無い。でも、手に取ったり眺めたりすると影響を受ける。
遅かれ早かれ体を壊すし、心も蝕まれる。 強い呪いを封じて、呪う相手に贈ったもの。
作られてから、多分100年以上は経ってるのに力はほとんど弱まっていない。
使用された痕跡は感じない。多分、想定外の事態が起きて倉庫か屋根裏にでも埋もれてた。
これを贈られた人はとても運が良かったのね。それに、運が良いのは暁君と碧も同じ。
変だと感じて、直ぐにこれを『保管庫』に入れておいたのは正しい判断だった。」
「あの、やっぱり焚き上げないと駄目ですか?」 暁君は不安そうな表情だ。
駄目どころか、一刻も早く処理しないといけない気がするが、
暁君はそこまで強い気配や憎悪を感じていないということだろう。
術者ではないのだから無理もないし、変だと感じただけで大したものだ。
「焚き上げると中の呪いが解放されるから何が起こるか分からない。却って危険なの。」
そうか、焚き上げるだけで良いのなら、Sさんでなければならない理由はない。
「でも呪いの力を消してしまえば、これは呪物ではなく洒落たアンティークのトランプ。」 Sさんが白い布の4隅に星のような形の紙片を置く。 初めて見る特殊な結界。
眼を閉じて深く息を吸った。小声で何事か呟き、胸の前で印を結ぶ。微笑んで眼を開けた。
「見てて、もうすぐよ。」
やがて、扇形に広げられたカードの端に小さな炎が見えた。
炎は次第に勢いを増し、カード全体が炎に包まれた。
しかし、全く熱気を感じないし、カードや白い布が焦げる事もない。
驚いて何か言いかけた碧さんと暁君に、Sさんが『黙ってて』の合図を送る。
突然、トランプの上、50cmほどの高さに小さな紫色の光が現れた。
それは、一度強く輝いた後、ゆっくりと降下し、
白い布の上で小さく跳ねて輝き続ける。まるで紫色の火花のようだ。
もう一つ、また一つ。見る間に無数の小さな光が白い布へ舞い降りてゆく。
その幾つかは白い布から零れ落ちて、テーブルの上で輝いている。
しかし何故かカードの上には一つも降下しない。
「とても、綺麗。これが、『○◆の雪』。初めて見ました。」 姫は小さく溜息をついた。
小さな紫色の光が舞い降りるにつれ、カードを包む炎の勢いは弱まっていく。
0188名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:21:28.04ID:lcd5ge+V0
『○◆の雪』って」 「さっきカードに火が」
碧さんと暁君が同時に口を開き、顔を見合わせた。
2人が笑い合う仕草が実に絵になる。まるでドラマのワンシーンみたいだ。
とても仲の良い姉弟なのだろう。2人の間の特別な、強い絆を感じる。
「あの炎はカードに込められていた呪いが形をとったもの。 「相変わらずね。気が早くて、自分勝手で。」 Sさんは懐かしそうに微笑んだ。
確かに、従姉妹だけあって碧さんはSさんと少し似ている。気が早くて、あ。
「R君、何か?」
「いや、その、碧さんはすごくきれいな人で。Sさんに少し似てると思っただけです。
暁君もすごいイケメンですよね。」
考えてみれば一族の人たちは皆、美男美女揃いだ。
当主さまの館でドアを開けてくれた男性も、案内してくれた少女もそうだった。
「そう言えば、どうして一族の人は美男美女ばかりなんでしょうね?」
炎という名の男、俺とSさんの前に現れたその分身も、時代劇の二枚目みたいな美形だった。
「多分進化論よ、ダーウィンの。」 「進化論?」
「R君だって、依頼するなら美人の術者に依頼したいでしょ?男性の術者でも同じ。
力が同じなら当然美形の方が依頼が多い。依頼が多ければ経済的に余裕が出来るから
綺麗な女性を何人も妻に娶ってたくさんの子を残すことが出来る。
1000年近くそれが繰り返されてきたんだから、あたりまえなのかも。」
「依頼人の印象を良くするための適応ってことですか?」
「印象を良くするというより信頼を得やすくするための適応。 「術を使うのなら、全く手を触れなくても当てられますか?」
「もちろん。じゃ、こういうのはどう?あなたが思い浮かべたカードを当てるの。
私だけじゃなく、あなたもカードには手を触れない。面白いでしょ。」
Sさんが真っ直ぐに俺を見つめる。綺麗な目、ドキドキして思わず目を逸らした。
集中してカードを思い浮かべる。 できるだけ地味なカードが良いのか、いやいっそ。
「ダイヤの6」 「正解です。」
「クラブの2」 「また、正解です。」
Sさんが俺の意識に同調した気配はない。どうやって俺の心を読んでいるのだろう?
「心を読んでいるんじゃありません。」 翠と並んで座った姫が微笑んだ。
「じゃあ何で思い浮かべたカードを?」
「カードを1枚選んで憶えて下さい。憶えたら裏返しにしてテーブルの上に。」
カードを一枚取り、憶えてから裏返しにしてテーブルの上に置く。
一呼吸置いて、Sさんは言った。
「スペードのJ。」 「正解です。」 「じゃあもう一度。そのカードはここに。」
俺はSさんに渡すつもりでカードに触れた。「待って。」 「え?」
陰陽師にはカウンセラー的な資質も要求されるから、術者が美形なほど有利。
依頼人が術者ともっと深い関わりを持ちたいと思うほど術の成功率は高まる。当然よね。
逆に、依頼人に信頼して貰えなければ術の成功率も落ちてしまう。」
なるほど、道理だ。 「まずは依頼人に信頼されるのが大切、なんですね。」
呪いのエネルギーを光に還元したから炎は消えた。もう大丈夫。
もう暫く、そうね、あと30分もすれば暁君が触っても、全然障りはない。」
「ありがとう御座いました。」 暁君は丁寧に頭を下げた。
「どう致しまして。アンティークはどうしても色々あるから、変だと思ったらすぐに連絡して。
呪物じゃなくても、何か問題があれば対応してあげる。」
「はい。」 満面の笑み、暁君は本当に嬉しそうだ。
「呪物の処理ってもっと時間が掛かると思ってたわ。何十年とか。」
「厳重に保管して呪いが弱まるのを待つだけなら、術者に頼む意味が無いでしょ。
そのままで置いておくと呪いが弱まるのにはすごく時間がかかるし、
下手をするとその間にも被害者が出てしまう。やり方は色々あるけど、さっきのが一番早い。」
「本当にありがとう。あ、お昼ご飯食べていくよね?
美味しいお節があるの。さ、支度するから暁も手伝って。」 「はい。」
2人は慌ただしく応接間を出て行った。廊下を走る足音。
0189名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:21:55.04ID:ePCMG90zO
ドーピングのニュースが金メダル取ったから、恐らくこっちの方が大きく扱われそうだw
日本のメディアでは
0190名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:22:10.80ID:4VzLnGL30
>>23
ヨーロッパとカナダがホルホルするための大会か
アメリカ人はホッケー以外見もしなさそう
フィギュアも今強くないし
0191名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:23:46.32ID:lcd5ge+V0
 Sさんの眼がキラキラと輝いている。 「それ、本当にスペードのJ?」
どういう意味だ。 首筋がヒヤッと冷たくなる。 さっき、俺は確かに。
そっとテーブルの上のカードをめくった。 これは。
クラブの4、だ。 「何を、したんです?」
「Rさんが選んだのは確かにそれですけど、Sさんは『声』でRさんの記憶を変えたんです。」
「そう、『スペードのJ』って指定されたから、選んだのはスペードのJだったと思い込んだ。」
「いや、でもおかしいですよ時間的に。『声』を聞くのは選んだ後なんですから。」
「電話が鳴ってる夢を見て、起きたら目覚ましが鳴ってた。経験ない?
あれ、本当は音を聞いてから電話が鳴る夢を見てる。時間的には逆だけど。」
「あ。」
『声』を聞いた後に、そのカードを選んだ記憶を作った? しかも俺自身が?
「脳は何時だって都合良く記憶を変える。それを利用した術。だから絶対に、間違えない。」
「相手の心を読むより、高等な術なんですね?」 「折角のお正月だし、良いわよ。それ、見せてあげても。
ただ、仕事した後だし、少し面倒な術だからR君も力を貸して。それが条件、どう?」
「もちろんOKです。Sさんの体に障ったら大変ですから。」
「じゃ右手を。」 俺が差し出した手を取って眼を閉じた。温かい。
やがて眼を開けたSさんは俺の手を離し、かなりの時間をかけて一枚のカードを探し出した。 これまでも、Sさんは前もって術をかけ、俺の意識や行動を操作したことがある。
今回もその術を使えば俺自身がカードの中からハートのAを探し出し、
そして自分がカードを探したこと自体を忘れてしまうだろう。
つまり、我に返った俺はいつの間にかハートのAを持っている。
だからSさんは俺の手に触れる必要があった。そう、予想していた。
しかし、カードを取ったのは翠だ。あの術ではない。
誰が選んでも、最初のカードはハートのA。 それを、予知していたのか?
いや、あり得ない。
神や高位の精霊なら知らず、人間にとって、未来は無数の偶然と選択肢の積み重ねであり、
確定してはいない。確定していないのに、予知することは不可能だ。そう、例えSさんでも。
それなら、残る答えは1つ。手元のカードを一枚めくる。ハートのA、やっぱり。
もう一枚、これもハートのA。さらにもう一枚、やはりハートのA。笑いがこみ上げてくる。
アンティークの価値を損ねないための配慮だろう。 とても丁寧な手つきだ。
選んだカードを左掌に載せて、俺の目の前に差し出す。
カード中央の大きなハートを取り囲む美しい唐草模様。そして筆記体の文字。
「あなたが選ぶカードはこれ。ハートのA。」
裏返したカードを戻してシャッフルし、扇形に開いてテーブルに置く。
「さ、選んで。」
ハートのAを選ぶつもりでいればいいのか、それともそれ以外を選ぶつもりで。
「お待たせ。食事の用意が出来たわよ、みんなダイニングに。
あれ、R君、トランプで何やってるの?」
「あ、え〜と、これは、占い。そう、占いです。」
「翠ちゃんも一緒にトランプ占いしたいのかな?」
いつの間にか翠がテーブルの脇に立っていた。
「あっ、翠、ちょっと、今それお父さんが。」
無造作にカードを一枚取り、てててっと歩いて碧さんに手渡す。
ちらりと赤い色が見えた。 ハート? 一気に心臓の鼓動が早くなる。
「わ〜嬉しい。翠ちゃんありがと。R君、これ、絶対良いカードでしょ?どんな運勢?」
碧さんが持っているのは、ハートのA。 まさか。 軽い目眩。
「ご名答。やっと調子出てきたわね。あんまり得意な術ではないし、同じ結果を得るために
複数の方法があるなら、力を節約出来る方法を選ぶのが鉄則なんだけど。今日は特別。」
俺の記憶を変えられる。もちろん心も読める。なら。ド』
「僕が『これから選ぶカード』も、指定出来ますか?」
未来なら俺の心を読むことはできないし、『声』を聞くのは選ぶ前だから記憶とも関係ない。
俺の思惑を見透かしたように、Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
0192名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:26:40.77ID:O9tBj4gZ0
じゃ、L、しっかりね。R君も、Lの事頼んだわよ。」 「ばいば〜い。」
姫と俺を駅前に残し、Sさんと翠を乗せた車が遠ざかっていく。
「Rさん。3日間、宜しくお願いします。」 姫が礼儀正しく頭を下げた。
「いや、こちらこそ宜しくお願いします。ちょっと頼りない付き添いですけど。」
話は一月程前に遡る。
その時妊娠6ヶ月目に入っていたSさんは春休みとゴールデンウィークの旅行を
パスすると決めていた。もちろん姫と俺も旅行はしないつもりだったのだが、
Sさんが『久し振りに2人きりで行って来なさい』と言うので、 俺とSさんは顔を見合わせた。
「Sさん、もしかしてLさんは。」 「確かに、Lは一度も乗ったことないわね。列車。」
お屋敷の近くには駅がない、自然と移動手段は車中心、いや100%車だ。
仕事も、買い物も、姫の送迎も。 変わるとすれば車種だけ。ロータスとマセラティ。
「今の生活なら特に何の不都合も無いけど、丁度良い機会。」
それでこの週末、金曜からの3連休に合わせた小旅行は、
姫の特訓を兼ねた列車での旅と決まった。
Sさんが決めた行程に沿って列車を乗り継ぎ、かなりの長距離を移動する。
途中、Sさんに頼まれた用事を済ませるミッションも用意されている。
もちろん地図と時刻表を頼りに姫が切符を買う。俺は一切口を出さない。
俺の任務は姫のボディガード(不要かも知れないが)。
3月も下旬、さすがに雪の予報は出ていないようだが、予想気温がかなり低い場所はある。 最初からある程度予想していた通り、一日目、3本目の列車に乗る頃には、
姫は時刻表の見方や切符の買い方、乗り継ぎの要領をすっかり憶えてしまった。
「ちょっと行って聞いて来ます。」 勿論俺が口を出さなければ反則では無い。
そりゃ窓口に姫のように綺麗な女性が聞きに来たら、職員もさぞかし張り切るだろう。
しかも姫は演技派、『昨日沖縄から出て来て乗り方が分からないんです』と設定が細かい。
暫く窓口で話し込んであれやこれやと教えてもらい、推薦の駅弁まで聞いて来たらしい。
「このお弁当、美味しいですね。」 「列車の旅行は駅弁に限ります。」
運転しなくて良いから、気楽な俺は熱燗にした缶入りの日本酒を買って良い気分。
不安な旅の筈が、優秀な美人ナビゲーター付きの気楽な旅に早変わり。もう最高。
観光地を回る旅程ではないので列車は混んでいない。乗車率は50%といったところ。
姫は窓の外の景色や他の客の様子を興味深そうに眺めていた。
4本目の列車はローカル線、今夜の宿泊先は小さな地方都市。
駅前の繁華街でシティホテルやビジネスホテルをあたれば多分空室があるだろう。
その日の最終目的地で宿泊先を探す行き当たりばったりの旅。
初めて行く場所ばかりだし、移動に手間取れば宿泊先がどうなるか予想出来ない。
まさか駅のベンチで夜明かしなんてことにはならないだろうが、
なかなかに緊張感のある旅行が始まった。
春休みの3連休に合わせて二泊三日の小旅行を計画することになった。
その旅行先を探していた姫が『夜行列車に乗ってみたい』と言い出したのだ。
「列車の中で眠るなんて楽しそうですよね。朝靄の中で到着すると、きっと良い風情です。」
それはまあ、間違いなく姫は俺より先に寝てしまうし、俺より後に起きるのだけれど。
早朝のホームには酔っぱらって寝てるおじさんがいたりで、風情があるとは限らない。
「僕はホテルとか旅館が良いですね。列車だと切符買うのが面倒だし。」
「そう言えば、列車の切符って、やっぱり駅で買うんですよね?」
0193名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:29:11.19ID:c5fABhA+0
目的の駅に到着したのは15時27分。休日の午後、ホームはまだ閑散としているが、
ちらほらと学生っぽい姿が見える、部活か塾の帰りだろう。
あと2時間もすれば休日出勤した会社員の姿も増える筈。
「Rさん、私いつも思うんですけど、どうしてみんなイヤホンをしてるんでしょう?
私の大学の学生達もそうだし、この街の学生も同じです。」
確かにベンチで列車を待つ学生も、ホームを歩く学生もイヤホンをしている。
大袈裟なヘッドホン姿も見える。 そうでなければケイタイでお話中。 時折聞こえる笑い声。 姫は優しく微笑んだ。
「私の、悪い癖かむ知れませんね。あとどれだけ、自分が自分でいられるだろうって
考えていた時間が長過ぎたから、つい急いでしまうんです。
明日も明後日も、家族みんな一緒で幸せな日々が続くなら、
もっとのんびり、ゆっくりしても良いんですよね。」 「やっぱり、現れましたね。」 「それほど古くありません。多分、ここ2・3年です。」
「あの会話、はっきり聞き取れなかったんですが、Lさんは?」
「いいえ、会話の内容は全く。会話だとしたらRさんの領域ですね。
私はちょっと男の子の意識に集中し過ぎてしまったかも知れません。」
やはり姫も伝わってくるのが会話だとは思っていなかったのだろう。
でも、もう一度チャンスがあれば、最初から会話に絞って探知出来る。
もしかしたら、あの親子をこの場所に縛り付けているのが何なのか、分かるかもしれない。
それから約一時間、ベンチで待ち続けたが、2人の姿は現れなかった。
「Rさん、明日の予定なんですけど。」
「分かってます。明日も、この街に泊まりましょう。
あの2人、とても気になります。そのままにしてはおけません。」
「はい。後でSさんにも、電話しておきます。」
「じゃこの件については、今日はこれでお終い。折角2人きりの旅行ですから。」
「あとは宿探しですね。私、Rさんと一緒なら、どんなところでも平気です。」
「僕は出来るだけ綺麗なホテルが良いですね。こう見えても、都会派の軟弱者なので。」
姫は小さな声で笑った。
「嘘つき。魚釣りも料理も、あんなに上手なのに?」
「そうです、人生はこれから、もっとずっと長いんですから。」
手を繋いでホームを歩く。二度目の、2人きりの旅行。Sさんの配慮が胸に染みる。
駅の構内にアナウンスが流れた。 「2番線に電車が参ります・・・」
2番線の停車位置は30mほど先、俺たちの背後から微かに地面の震動が伝わってくる。
もう少し歩いたところで、異変が起こった。
「あ。」 「あれ。」
いつのまにか、俺達の前数mの所に2人連れの姿。女性と男の子、親子だろうか?
すぐ傍のベンチに座っている学生も2人に気付いた様子はない。間違いなくあれは。
暫くして電車がホームに滑り込んできた、その瞬間。
女性が男の子を抱き上げたかと思うと電車の前に飛び込んだ。思わず息を呑む。
しかし、何の音も聞こえず、他の客の様子にも変化はない。
しばらく歩いて停車した電車の前を覗く、電車にも線路にも異常はない。やはり、幽霊。
「Rさん、今日泊まるホテル、多分大丈夫ですよね。」
「はい。ここから見えるだけでも、ビジネスホテルの広告、いくつかありますから。」
姫はホームの時刻表を確認し、メモを取った。
2番線のホーム近くに戻り、さっき学生が座っていたベンチに腰掛ける。
「次の電車は15時42分。もし同じ路線の電車だとしたらその次、49分です。」
「う〜ん、音楽が好き...いや、きっと暇潰しじゃないですか?」
「私、Rさんに送ってもらったあと、遠回りして、学部まで10分くらい歩くんです。
短い時間ですけど、その間でも色んなものを見たり音を聞いたり、とても楽しいです。
季節が変わって鳥の鳴き声が聞こえたり、咲いている花の種類が変わったり。
今日も世界は綺麗だなあって、全然退屈しないのに。あの人達は耳も目も心も
自分の中にだけ向けて、外の世界を見ないし聞かない。何だか勿体ないですね。」
胸の奥がきゅっと痛くなる。そっと姫の肩を抱き寄せた。
「お願いですからそんな事言わないで下さい。Lさんが生き急いでいるようで不安になります。
毎日毎日実感しなくても、この世界で綺麗です。もっといい加減で良いじゃないですか。
仕事や勉強で疲れていたら自分の殻に閉じこもるのも仕方ないし、
好きな音楽を聴きながらだと、景色もまた変わって見えるかも知れませんよ。」
0194名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:32:45.47ID:7jgiE7Kd0
ふと、目が覚めた。ベッドの中に姫がいない。
姫は窓際に立ち、少し開けたカーテンの隙間から窓の外を見ていた。
窓から微かに差し込む街の灯りが姫の顔を照らしている。
この人はいつもそうだ。とても美しくて、でもどこか儚げで。 姫は以前も口にしたことがある。
両親の顔さえ知らない、そんな自分が親になった時、
自分が産んだ子を愛せるのかどうか分からないという不安。
翠を溺愛し、喜々として世話をする頬笑ましい様子を見て、
すっかりそんな不安は消えたものだと思っていた。
しかし、それはあくまで『Sさんが産んだ子』を愛したのであって、
自分の産んだ子を愛した訳ではない。
翠を溺愛すればするほど、姫の不安は大きく、深くなっていったのだろう。
迂闊だった。
「Lさん、質問があるんです。」 「何ですか?」
「Lさんは裁許を受ける時、術者になれるかどうか不安でしたか?」
「...いいえ、自分に力があるのは分かってましたし、あとはどんな術者になるかだけで。」
「母親も、同じじゃないかと思うんです。」 「母親と術者が、同じ?」
「どちらも自ら選んで『なる』ものです。『なれるかどうか不安を感じるもの』ではありません。
Lさんに女性としての能力があるのは分かってます。僕という婚約者もいます。
あとはどんな母親になるかをしっかり考えれば良いだけですよ。第一。」
俺は姫の額にキスをした。少し照れくさいが、姫の目を真っ直ぐに見つめる。
「普通の方法だと、避妊の成功率は100%じゃありません。
もしかしたら今夜、Lさんは母親になったかも知れないんです。」
「もし、今、子供を授かったら...悩んでる余裕なんてありませんね。」
婚約者だし、身体を重ねたこともある。俺を愛してくれているのも痛い程分かる。 「『男の子の意識に集中し過ぎた』と言ってましたよね?」
「あの時、男の子の意識に、不安や恐れを全く感じませんでした。それが不思議で。」
「これから電車に身を投げるというのに、ですか?」
「それどころか母親が抱き上げた時、男の子の溢れるような喜びを感じました。
翠ちゃんがSさんに抱き上げられる時に感じているような、純粋な喜びです。」
「それ程にあの子は母親を愛し、信頼していたということですね。」
「心中を選ばざるを得ない事情。生活は苦しかったはずなのに、
あの母親は毎日精一杯の愛情をあの子に注いでいたんでしょうね。」
突然姫の頬を涙が伝った。 「私。」
胸の奥が痛む、やはりこの人は。枕元のティッシュペーパーで姫の涙をそっと拭う。
「どうしたんです?話して下さい。」 姫は小さく頷いた。
「私、あんな風に子供に愛情を注げるでしょうか?
自分の子供にあれほど信頼される母親に、なれるでしょうか?」
しかし、姫のことを深く知る程、いつか俺の前から消えてしまうのではないかと不安になる。
本当の姫はまだ俺の手の届かないところにいるような、頼りない感覚。
舞を奉納した時に姫が感じていたという不安が、俺にも伝染したのかも知れない。
俺の前で舞を見せてくれた姫は、羽衣を着て軽やかに舞う天女のように見えた。
いつか、羽衣を着て天に帰っていく伝説の天女。
いや、それじゃ駄目だ。この人と離れるなんて考えられない。
「あの親子の事を考えているんですか?」 「はい、男の子の事を。」
「身体が冷えてしまいますからベッドに戻って下さい。」 「はい。」
姫は戻ってきてベッドに潜り込んだ。そっと、抱きしめる。少し冷たい、細い身体。
0195名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:35:37.48ID:ER6WuqH00
右手でそっと姫のお腹に触れる。
「ここに、僕たちの子供がいるとしたら、どんな気持ちでしょうね?」
「きっと、すごく嬉しいです。」 姫は左手を俺の右手に重ねた。
「毎日毎日、お腹をさすって、話しかけて。」 姫の笑顔は明るかった。
「そんな感じで良いんじゃないですか?あんまり真剣に考え過ぎると疲れちゃいますよ。」
「そうですね。どうして考 「さて、次はかなりディープな質問ですよ。将来の夫婦として答えて下さいね。」
「はい。」
「Lさんは僕と、その、仲良くしてる時に、気持ち良いですか?正直に、答えて下さい。」
「あの、とても嬉しくて、幸せな気持ちです。」
「でも、気持ち良いと思ったことはないんですね?」 「あの、Rさんは、私と仲良くしてる時、気持ち良いんですか?幸せじゃなくて?」
「幸せだし、とても気持ち良いですよ。男に生まれて本当に良かったと思います。でも。」
「でも、何ですか?」
「Lさんも気持ち良いって感じてくれたら、もっともっと気持ち良いでしょうね。
それこそ天にも昇る気持ち。Lさんは仲良くしてる時、女であることを楽しんでますか?」
「Rさんに抱きしめてもらって、仲良くしてもらって嬉しいって思いますけど...」
「避妊すること、ちょっと後ろめたいと思ってるでしょ?」
「はい。」 小さな声、愛しくて堪らない。
「Lさん、避妊は僕にとって一番良い条件で子供を迎えるための準備です。」
「準備?」
「正直、僕は今すぐLさんが妊娠しても全然困りません。
それどころか、きっと、とても嬉しいです。
でも婚約者としてでなく、ちゃんと入籍してからの方がもっと良いかなと思うし、
いや、Lさんが大学を卒業してからの方がLさんの身体には良いのかなって迷いながら
僕たちの子供を一番良い条件で迎えるタイミングを考えてるんです。」
「そのためにもいっぱい仲良くして、お互いの気持ちを確かめ合うことが大切なんですね。
そのためにいつもは避妊を?」
「僕はそう思ってます。何度も仲良くして気持ち良くなったり、そのために避妊することは
全然後ろめたい事じゃありません。僕たちはもう夫婦同然なんですから。」
「はい、御免なさい。」 姫は目を伏せた。
姫と身体を重ねたことはそれ程多くない。既に痛みや出血は無くなっているが
あまり気持ち良く感じていないのが分かるので、どうしても遠慮してしまう。
自分の子を愛せないのではないかという不安を抱え、そして姫の真面目な性格。
当然、その結果妊娠するかも知れない行為を、心から楽しむ気持ちにはなれないだろう。
「Lさん、仲良くするのは子供を作るためだと思ってませんか?」
「え?だってそれは。」
「もちろん子供を作るためでもあります。でも僕にとって、普段はそれ以外の意味が大切です。」
「どんな、意味ですか?」
「コミュニケーション、互いの愛情の確認です。身体を重ねて互いの気持ちを確かめ合うこと。
そしてそれを気持ち良いって感じることは、僕が男であることを楽しむってことですから。」ぎちゃうのかな。私、いつもこんなで、駄目ですね。」
「Lさんは術を使う時、楽しいですか?」 「え?」
「こんなことが出来て楽しいって思いませんか?」
「正直に言うと、楽しいと思うこともあります。術を使うのはお仕事のためで、
本当は楽しいなんて思っちゃいけないのかも知れませんけど。」
「お正月のトランプのこと、憶えてますよね?」 「はい。」
「Lさんと2人きりでいるのに、Sさんのこと話して御免なさい。
でも、今は僕たちのお師匠様の話だと思って聞いて下さいね。」 「はい。」
「あの時、Sさんはとても楽しそうで、得意そうでした。
『ほら私って、術って、凄いでしょ』って感じで。だから思わず僕も楽しくなりました。」
「確かに、とても楽しそうでしたね。お正月で、久し振りに従姉弟に会って、
それでだと思ってましたけど。でも一番楽しそうだったのは術を使ってる時でした。」
「Sさんだって、時々は自分が術者であることを楽しみたいんです。
いつだって仕事に関わる辛い事や悲しい事に耐えてるんですから、息抜きも必要ですよね。」
「辛くて、悲しいから、時々は術者であることを楽しむ...Sさんも。」 姫は少し遠い目をした。
0196名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:38:22.04ID:rbKCaiXV0
翌日、朝食の後でいったんこの街を離れ、次の目的地である街を訪れた。
Sさんから頼まれたミッション。小さな博物館を密かに(普通に入館して)調査する。
『一族にまつわる収蔵品が展示されているかも知れない』とSさんは言ったが、見事な空振り。
良く出来たレプリカだと姫は笑った。まあ、写真だけでは分からないことも沢山ある。 14時12分と14時35分の電車は異常なかった。
駅員が近寄ってきた。「お客様、何かお困りですか?」 親切と偵察。
閑散とした休日のホーム、難しい顔をして長時間座っている男女の2人連れ。
しかも女性は飛びきりの美人。俺が駅員だとしても気になるだろう、仕方ない。
『駅員の余計なお節介に困ってます』とは言えないので、出来るだけにこやかに応じる。 目を開け、ハンドタオルで額の汗を拭う。 気温は4℃、文字通りの冷や汗。
「あの会話。『桜の花』が2人の心残りなんですね?」
「はい。生きることの全てを諦めた2人の、最後の望み。だから、とても強い心残りです。」
もちろん自殺は罪だ。子供を道連れにしたのだから、母親の罪はさらに重い。
それに、電車への投身。 数え切れない人達に迷惑を掛けたのは間違いない。
しかし悲しいことに、『死ぬより辛いこと』がこの世にはある。厳然として、ある。
以前の事件、校舎の屋上から身を投げた女子高生もそうだった。
姫に仕込まれていた術の件では、俺自身、自分の死を考えた。そして、おそらくは姫も。
罪は罪。しかしそれは、決して許されぬ罪ではない。
それに、このままでは遅かれ早かれ2つの魂が『不幸の輪廻』に取り込まれる。
誰1人それを悲しむ人のいなかった、孤独な親子の死。
不幸はもうそれだけで、十分ではないか。
「何とか助ける方法はありませんか?」
「2人が身を投げたのは2月、雪の降る午後。2人にとって季節は常に冬だし、
その魂はこのホームに縛られています。このままでは、絶対に心残りは消えません。
世の中を憎む代わりに、2人は強く、とても強く心を閉じてしまったんですね。
もし心を開いてくれなければ、無理矢理...それだけは避けたいんですが。」
「彼女の御両親と待ち合わせしてるんですが、○▲県の雪で少し遅れてるみたいなんです。
どんなに遅くても16時2分の電車には間に合うと思うんですが。」
姫は俯いて俺の左肩に頭を預けた。いかにも心細そうだ、さすが演技派。
「それで2番線の近くに。分かりました。早く会えると良いですね。」
駅員が立ち去ると姫はくすくすと笑った。
「あういうのが、立て板に水、なんですよね?」
「演技派の美人が傍にいれば、どんな台詞でもそれらしく聞こえます。簡単ですよ。」
次の電車までは少し間がある。2人でお菓子を少し食べた。
やはり温かいものが飲みたいので自販機でお茶を買い直す。
交代で姫もホットレモネードを買って来た。
お菓子と温かい飲み物。少し体を動かして気分一新。次の電車に備える。
15時。多分、あと3分と少し。
博物館近くの食堂で早めの昼食を食べてからその街に引き返した。
昨日、学生が座っていた2番線のホーム近くのベンチに陣取る。13時45分。
長丁場かも知れない。姫が時刻表を確認している間、売店で飲み物とお菓子を買った。
「さっき、同じ路線の電車が来ましたが異常なし。やっぱり時間も関係ありそうです。」
「それらしい電車は何本あるんですか?」
「次の電車は14時12分、その次が14時35分、この2本はまだ早いような気がします。
昨日の時刻からみて、15時5分、15時23分、15時45分。どんなに遅くても16時2分、
この4本でしょうね。昨日は16時を過ぎたら現れませんでしたから。」
時計を確認する、13時59分。可能性は低いだろうが、最初の電車まであと13分だ。
0197名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:40:42.81ID:mzkIqiA20
15時18分、多分あと4分弱。
姫は『何でも良い』と言ったが、一体何と呼び掛ければ良いのだろう?
二人の心残りは桜、満開の桜。 ふと、去年の春、4人で出掛けた桜の名所を思い出した。
明るい陽光に照らされた山一面の桜、ライトアップされてはらはらと散る夜の花吹雪。
翠を抱いたSさんも、大学の入学式を控えた姫も、本当に楽しそうだった。
そう、あの2人が見たかったのも、きっとあんな景色だ。
目を閉じて深呼吸、できるだけ鮮明にあの景色を思い出す。
飛び交う小さな鳥の声を、桜の花びらを運ぶ風の音を。そして楽しげな人々の声を。 「Rさん、早く。上手くいきました。すぐに撤収です。」
ホームに電車が滑り込んでくる。15時23分の電車だ。身を投げる親子の姿は無い。
姫はお菓子や飲み物を手早く紙袋に詰め込んだ。他の荷物は俺が持つ。
「ねぇパパ、綺麗なお花が沢山見えたよ。前にお花見で見た桜の花。」
心臓が一瞬停まりそうになる。 姫の顔も緊張している。
声が聞こえたのは俺たちの後方、姫と顔を見合わせた後、そっと振り返った。
灰色の瞳の女の子が、居眠りする父親の肩に両手をかけて揺り起こそうとしている。
「パパ!お歌が聞こえて目が覚めたの、そしたら桜でいっぱい。聞いてる?」 ホームを出ると、冷たい風に乗って白いものが舞っていた。 花吹雪ではなく、雪。
「この雪は、名残雪、だと良いですね。」 「はい、少しでも早く、春が来るように。」
ホテルまでの歩道沿い、十数本の桜が並んでいる。あの母親の記憶の中の桜だろうか。
花芽が少し膨らんでいるように見える。姫も桜を見ている。少しやつれて見える横顔。
そうだ、この人に必要な、実感出来る身近な将来、それは。
「Lさん、今年の誕生日で二十歳ですよね?」 「はい。」
「二十歳になったら、入籍しましょう。」 「入籍って...」
「前に約束した通り、婚約者じゃなくて、正式に僕のお嫁さんになって下さい。
そして、大学を卒業したら、僕たちの子供を迎える準備。どうですか?」
「Rさん、ひどいです。歩きながら、そんなこと言うなんて。
でも...嬉しい。とても、嬉しいです。」
姫はハンカチで涙を拭った。小さな肩をそっと抱き寄せる。
「入籍は8ヶ月後、卒業は3年後ですけど、『過ち』があったら卒業前の出産もあり得ますよ。
なんだかドキドキしますね。痛。」 左頬をつねられた。
「正式なお嫁さんが妊娠するのは『過ち』じゃないです。授かる子供にも失礼ですよ。」
「御免なさい。『Lさんとの過ち』って設定が、その、良いなと思って。」
「ふふ、ホントは何となく分かります。ちょっと、ドキドキしますよね。」
「うん、なっちはお花の夢を見たんでしょ?パパもその夢、見たいよ。」
女の子は父親の肩から手を離し、頬を膨らませた。
「もう、夢じゃ無いのに。」
ベンチの脇を抜ける時、女の子と目が合った。思わず声を掛ける。
「お嬢ちゃんも、桜の花、見えたの?」 「うん、とっても沢山。」
女の子は嬉しそうだ。姫がすうっと屈んで女の子と視線を合わせた。
「桜の花、とても綺麗だったでしょ?」 「うん、凄く綺麗だった。私、桜の花、大好きなの。」
「お嬢ちゃんはとても良い耳と目を持ってるのね。
だからあの歌が聞こえたし、桜の花が見えた。」
「なっちの耳と目が?」
「そう。大きくなっても、その耳と目、大事にしてね。バイバイ。」
「うん、バイバイ。」
「もうすぐです。」 姫の声。
目を開ける。数秒後、目の前に2人の姿が現れた。 今、だ。 2人の会話が始まる前に。
立ち上がる、深く息を吸い、下腹に力を入れた。 自分の力を信じる。
『母子、仲睦まじくて何よりですね。お二人も桜を見にいらしたのですか?
お望みとあらばご覧に入れますよ。山一面、満開の桜。』
花びらのような、綿雪のような白いものが俺たちの周りを漂っている。 これが言霊?
母親の左手が微かに動いた。右腕で男の子を抱き抱えるようにしながら、ゆっくりと振り返る。
『今、あなたは満開の桜と?』
『はい、確かに。』
紺色、半袖のワンピース。やはり半袖の白いシャツに黒い半ズボン。
二人の服装は質素だが清潔で、男の子のシャツにはぴしりとアイロンがあててあった。
精一杯の一張羅、二人なりの死装束。
雪の降る日にこの服装では、さぞ寒かったろうに。 涙、が。
0198名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:45:11.79ID:QutxXvLZ0
マスコミが自国のメダル勘定ば始めると萎える
トリノの時なんて静香が金第1号取る最終日まで盛り下がりまくり
オリンピックなんだし世界のアスリートに注目しようよ
0199名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:46:29.62ID:/vOZJTT50
おお、俺の嗜好を理解してくれるは、さすがに姫だ。
「でも、もっとドキドキする設定があります。」 「どんな設定ですか?」
「入籍した後は避妊をしないんです。すごく、ドキドキするでしょ?」「...それは。」
「きっちり計画するのも大切だけど、家族なんだから、もう少しいい加減に
のんびり生きても良いですよね。『できちゃった。』『え、大学は?』なんて、素敵です。
『休学して出産したのに、復学直前に次の妊娠が発覚』
これは、さすがにちょっと赤面ですね。」
姫...演技派なだけじゃなく、結構な妄想癖が。 いや、これは妄想じゃなな。
「お屋敷の広さは十分。子育てに関わる雑用は式に手伝ってもらうとして。
当面の問題は車、5人乗りでは足りませんね。7人乗り以上で検討しないと。」
「5人乗りで足りなくなるのはどんなに早くても来年の10月ですよ。気が早いです。」本スレに書き込もうとまとめたけど規制喰らってるのでこちらに
その頃は所謂モテ気で調子に乗ってめちゃくちゃしてた。
ガタイも大きくケンカもそれなりに強かったけど、何故かいじめられてた
中高時代の反動もあったのかもしれん。
その頃は勤務先のバイトやら社員やら客やら悪さをしまくってて、ある日恐ろしい目に遭った。
この話はまた後日だけど、そのショックでしばらくは職場の友人と飲めない酒に逃げるようになってた。
その日も2時くらいまで呑んでて、大して飲んでないのにヘロヘロになりながら一人で歩いてた。
もうすぐ家ってとこで、ふと視線を何かが横ぎった。「ん?」
ってその方向を見ると、ごみ箱に若い女の人が詰め込まれて、頭だけ出てた。
状況が理解できずにマジマジとみると、血色は悪く化粧っ気はないものの、
20代前半、今でいうならAKBに交じってても不思議はない程度のかわいい感じに
メガネ、ツーサイドアップとイロイロと私のツボを抑えていた。
うつろに開かれた目が会ったので
「なにしてんの?」と声をかけたら、
「…を待っています」とよく聞き取れない大きさで。
「そんな所おったら臭いし窮屈やろ、俺ん家くる?」と言うと
ポカンと口を開けたままボーっとして反応がない。
しかし、その姿に何かを催した私は、普段なら当然絶対にしないが、
ファスナーを下げ、何故か臨戦状態になってるモノを取り出した。
「自分のこと、めっちゃ好みやねん、エエ?」と言いながら、
彼女の鼻を持って、自分のモノを差し込んだ。
それでも抵抗はなし。
酒の勢いか、異常な状態にか
変に興奮して彼女の左右にまとめた髪をつかんで腰を突き立て喉の奥に果てた。
つづく
不意に両目から涙が溢れた。嗚咽が漏れる、止められない。
「Rさん、どうしたんです。プロポーズした方が泣くなんて。」
もちろん悲しい涙ではない。 今、姫は、女性として生きる未来を自ら語っている。
それは、姫が俺と、そしてこれから生まれてくる子供達とずっと生きていくという、
確固たる意思表示。 伝説の天女が自ら羽衣を脱いでくれたのだ。
それがどうしようもなく嬉しくて、涙が止まらなかった。
「泣かないで下さい、Rさん。」 俺の背中をさする姫の手。温かく、柔らかい感触。
「御免なさい、もう、大丈夫です。」 
ゴボゴボと若干むせたような咳をする彼女の口を拭いてあげるが、まだ収まらない。
どうしてもやりたくなった私は彼女をごみ箱から引きずり出した。
彼女は黒いごみ袋に首だけ出す形で入れられて、袋の中には彼女以外にも何かが入っているようだった。
一度ごみ箱から出し、ごみ袋を裂くと、大量の虫(暗くてよく見えなかったがGも居たと思う)、
猫の首、鶏の胴体などが入っていて、さらによくわからない骨も。
うわ!と悲鳴をあげて飛び退いたものの、このままにしておくわけにはいかず彼女を抱えてラブホへ。
いまだ放心状態なような彼女を風呂に入れるため服を脱がすと体中に
文字とも模様ともつかないものが赤と黒で書かれていた。
今思い返せばおそらくハングル。
だんだん頭も覚めてきて、これはただ事では無いと、彼女を問いただしても反応は薄い。
それより、体中についてる血や糞のにおいがとてもじゃなかったので、風呂に。
幸い、体に書かれた文字もボディーソープで落ちたが、まだぼーっとしている。
そんな状態なのに、あくまで洗うために胸や股に手をやると、体を触ると反応はよく、
嫌とも言わないのでとりあえずやっちまおう
0200名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:46:40.38ID:7JF+QcMz0
>>12
そうそう
じつは冬季五輪大国の韓国
くやしいのう
0201名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:47:52.05ID:7JF+QcMz0
>>22
流石に無理
0202名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:48:56.31ID:7JF+QcMz0
>>32
中国はフリースタイルでとるさ
0203名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:49:30.50ID:uQfuS30I0
ひとまず落ち着かせ、包み隠さず全て話すと、彼女は泣き出した。
彼女は数年前から霊に襲われるようになったそうだ。今晩は。藍です。気に掛けて下さった皆様、有り難う御座います。
新作の予定が全く分からないので、今夜は私の経験を書いてみます。
去年の末からこちらで投稿させて頂いていますが、
最近書き込みの際に奇妙な現象が起こるようになりました。
ワープロの原稿をコピーして貼り付け→チェックして書き込みの手順ですが
書き込むと何文字かが原稿と変わってしまうのです(かも→かむ は→で など)。
購入した店では「ソフトの不具合はこちらでは対応出来ません。」
ワープロの制作元は「そのような不具合の報告はありません。」
ウィルスかと思い、職場でPCの管理をしている弟に調べて貰いましたが、
結局原因は分かりませんでした。
そのあとPCを元通り居間に設置しなおしながら、弟がポツリと
「なあ、姉貴。『藍』って名前で怪談投稿してる?」
心臓が止まるかと思いました。
弟は今年の初めから私が投稿した物語を読んでいて、
時々応援の書き込みもしてくれていたようです。
「何だ、やっぱり姉貴かよ。じゃ知人さんって〇△さん?な、新作何時?」
共用のPCだとそういうことも分かるのでしょうか。
近いうち、専用PCを部屋に置くつもりです。
つまらないお話で御免なさい。私としてはどちらもゾッとする出来事でした。
それでは、また新作待ちの日々に戻ります。
最初は家の中だけだったのが、最近は外でも。2ちゃんが規制されてるんでこっちに書く
ついさっきの事なんだが
部屋にいきなり小さいツバメが現れてせまい1Rの部屋飛んでた
一瞬影が視界に入って外の車か蛾かなと思ったんだが
すぐにそれはあり得ないと思って見上げたらなんとツバメ
なんであり得ないかっていうと1Rで玄関当然しまってる
窓2つのうち小さいのはずっと閉めっぱなしでカーテンかかってる
大きい窓は網戸状態、昼間洗濯して閉めたのを確認しているんだ
万が一突き破ったとしたらまず音でわかる
そりゃコバエとかならまだわかるが
ツバメはないだろ、黒い蝶かなと思ったが飛び方違う
ツバメも焦ってたみたいでぐるぐるぶつからないように飛んでて
網戸開けてそっちに誘導して逃がしたけどよ
マジなんなんこれ
いきなりやで網戸開いてたとか絶対ないしちょっとだけやけど怖いわ
急な眠気のようなものを感じ意識が朦朧となると、
全裸の中年のオッサンが現れ、口に出せないような事をするのだそうだ。
悩みに悩んだ彼女は、知り合いを通じ霊能者に相談。
お祓いと称し香をかいでいるうちに意識が途絶え今に至るのだそうだ。
「え?でも自分初めてやったで?」
とシーツについてる赤い染みを見せると、何故だか安堵してた。
なぜかその後2回戦を行い、とりあえずその日は休みだったので一日一緒に居る事に。
というか、一日中やってた。
途中から、オッサンがジーッとこっちを見ていたが、その前に体験した事に比べれば、
女の子の感度を引き出したオッサンの調教に感謝こそすれ、
恐れる理由は無かったので見せつけるようにしてると、
いつの間にか消えてた。
0204名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:51:05.72ID:7JF+QcMz0
>>56
ゴキブリが字を知ってる!
0206名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:52:38.87ID:rTUcbcEA0
前置きが長くなりました。
ここからが体験談です。
私は小学校3年生の頃から道場に通い剣道を続けてきています。
これは小学4年生の頃に体験したお話です。
道場は自宅から少し離れたところにあります。
いつも道場に行く時は
夕方6時頃に自宅から自転車で友達の家に向かいそこから友達の母親が車で友達と自分を道場に送り
夜10時頃に稽古が終了し、また車で友達の家に向かいそこから自転車で自宅まで帰るという順序で通っていました。
いつもその友達の家に行き来するには自転車でハヤブサの森と言われる森を通り抜けていました。
ある日いつも通り稽古に行き、帰る途中ハヤブサの森の手前(ハヤブサの森に隣接している家の前と言った方がいいかもしれない)に黒いセダン車が止まっていました。
端から見れば普通に家の前に車が止まっているだけで不思議に思わないと思いますが怖いかはわかりませんが…
私がまだ小学2年生のころに、旅行から帰ってもう夜中の10時
くらいのときに体験しました
私はその時すごく疲れていて、早く家に入りたくて仕方がなかっ
たのを覚えています。
私の家の車を停める駐車場は私の家から50Mくらい離れている
のですが…私は走って家まで一人で向かいました。(両親と兄は
荷物を出してました)
私が家の前まで向かって、家のドアを開けようとすると、鍵がか
かっていてあきませんでした。
両親が車にいるのに開くはずないじゃん、と私は思って最悪な気
分で駐車場に戻ろうとすると、私の家の前にコート着た男が(お
っさんではない)立っていました。
私が家に来た時にはいなかったはずです。ちょっと怖いな〜と思
っていると、いきなりその人に「ここ、君の家?」
と私の家を指さしながら聞かれ、あまりの怖さに「は…はい」
と答えて駐車場まで全速力で走りました。
母にしがみついて、母はどうしたの?と聞いてきましたが無言の
まま家に向かいました。
そのときにはもうあの男はいませんでした。
私が家のドアの前にいたのはおそらく1分もありません。ただあ
の男が素早く私の家の前に来ただけかもしれませんが……
なぜ私の家のことを聞いてきたのかはいまだにわかってませんし
あの男が誰かもわかっていません。
長文を失礼しました
1年間毎日のように通る道でそこに車が止まっているのは初めてでなぜか珍しく思ったのを覚えています。
もちろんそんな事を思ったのは一瞬で、森の前はゆるく長い上り坂になっているので立ち漕ぎで精一杯森に入ることだけ考えていました。
事件は森の手前、黒い車の前を通りかかる瞬間に起こりました。
「おぎゃぁっおぎゃぁっ」
車の方から赤ちゃんの鳴き声が聞こえました。
0207名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:54:48.69ID:rdaOtZlG0
確かに僕は釣りが好きですが、道楽で無く調査や研究への協力となると、
ご期待に添えるかどうか分かりません。正直、自信が無いです。」
遍さんは眼鏡を取り、ハンカチでレンズを拭きながら目を細めて俺を見つめた。
「ルアーでの釣り。まあ、本来なら術者に依頼する内容ではないですよね。
ただ、聖域には一族以外の人間が誰でも入れる訳ではありません。
それに、その、何と言うか、一族以外の人間を使う訳にはいかないんです。あの場所では。」
魚を釣るだけなのに、一族以外の人間は使えない。ということは。
「その場所では何かが起こる、あるいは何かが見える、ということですね?
それも一族以外の人間に知られると困るような何かが。」
「何かが聞こえる、というのも付け加えて下さい。 「まあそういう事情で、どうしても一族の、出来れば術者に依頼したいのですよ。
術者であれば、不測の事態にも対応出来ますから。
しかし術者の中で釣りを、それもある程度以上の腕前でとなると、事実上Rさんしか...」
釣りはあくまで趣味の範囲だと言いかけた俺を、男性が笑顔で制した。
「大晦の宴で見事メーター級のスズキを釣り、霊剣を授けられた程の腕前なら、十分です。」
襟口から冷や水を流し込まれたように、背中と胸が冷たくなる。
「...何故、それを?」
「私には大した力はなく術者でもありませんが、
『上』が術者の動向を把握しなければならない理由は理解しているつもりです。
Rさんの来歴と能力を考えれば、依頼前の情報収集は当然。
私なりの伝でRさんの事を調べさせて貰いました。どうか悪く思わないで下さい。」
遍さんは丸眼鏡をかけ、一度窓の外を眺めてから俺に視線を戻した。
「『聖域』は外界から隔離された場所ですから、今も豊かな自然が残っています。
海岸に近い平地には古い廃村が幾つかありますが、
もう100年近く、この館以外に人は住んでいません。 「今回の調査は、その研究の一環ということですか?」
「ある大学の研究者たちとの共同研究です。もちろん私や一族の名前は表に出ませんが。」
遍さんの言葉通りなら、100年近く手つかずの場所で釣りが出来る。
釣りを趣味とする人間としては、とてつもなく魅力的な話だ。
しかも釣りの結果はそのまま研究の資料として利用される。
しかし。
「あの、調査の時期と期間を教えて下さい。ちょっと家族の事情があって。」
臨月が近いSさんと離れると考えただけで不安になる。正直、辛い。
「御家族、特にSさまの事情は承知しています。
調査の予定は5月の連休をはさんで約一週間。
Rさんは私が管理する研究施設に滞在して貰うことになりますが、
その期間、ご家族にはこの館で過ごして頂きたい。
既に当主様の御許可も頂いていますし、万が一の場合に備えて万全の体制を整えます。」
ふと、当主様と桃花の方様のお顔を思い出した。
もちろん実の親子とはいえ、立場上、血縁は封印されている。
しかし俺が依頼を受ければ、この仕事をしている間、
Sさんは誰に憚ることもなく、実の両親の元で過ごすことが出来る。
これ程心強いことはないだろう。多少おかしな現象が起こるとしても、
命に関わるような事なら、『俺だけ』に依頼するとは考えられない。
俺一人でも対応出来る程度の事、そう『上』が判断しているということだ。
それならもう、断る理由はなかった。
事実上、手つかずの自然と言っても良い。私はその生態系を研究しています。
『聖域』の中に、この国本来の自然の姿を出来る限り残していく事、
それも私たち一族の大切な役目のひとつなんです。」
遍さんの口調はあくまで穏やかだが、言葉の端々にどっしりとした威厳が感じられる。
自分の仕事に誇りを持つ人に特有の、生き生きとした言葉。
私は月に10日程、あの場所にある研究施設に滞在しますが、
そこで過ごす間、毎日のように遭遇します。一族以外には知られたくないことに。
もし一族以外の人間がそれらを知れば、当然大騒ぎになるでしょう。
そして巷に厄介な噂が広まる。そういう事態は避けねばなりません。
確かに人の口に蓋は出来ない。ましてネットに拡散したら火消しは不可能だ。
0210名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 04:57:07.14ID:mTFTdD2J0
        , - ― - 、
       / -  - ヽ  ふーん、ニューヨークOPはよ
      |  ●  ● | 
    (( ("  ),〜.。" ) )) バリッ
      `>  ゜   <    ボリッ
     /       `ヽ
     (  ̄ ̄ ̄ヽ    ヽ
     `ーT ̄|'`'`'`'`'`'`7|
        |  |  錦織  |、|
        |  | チップス( ̄ )
        |  |      T´
        | ム========ゝ
0211名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 04:57:17.91ID:TuhvNrFd0
「分かりました。依頼を受けます。
ところで大型のスズキというのはどのくらいの大きさですか?」
スズキの日本記録(スズキは日本固有種だから同時に世界記録でもある)は
確か126cm・13kg。このクラスを確実に取り込むにはそれなりの道具が必要だ。
「私が見たのは最大で1m位の個体ですが、おそらくもっと大きな個体がいるでしょう。
魚体へのダメージを小さくするために、出来るだけ短時間で釣り上げて欲しいんです。 調査の日程はまず今日(2日)〜4日まで、
それから1日の休みを置いて6日〜8日までの2部構成。
色々な事情があって通しの日程は組めないらしい。
本来は調査の間だけ遍さん1人が滞在する施設なのだから、
3人の調査隊が施設のキャパを超えていても無理は無い。
遍さんの四駆に荷物と釣り具を手早く積み込み、出発したのは午後1時30分過ぎ。
夕方までに現地で予備調査を済ませることになっていた、少し窮屈な日程だ。
遍さんは運転席、俺と姫は後部座席。少し走ってすぐに脇道へ入る。
未舗装路だが思っていたよりは広いし、それほど荒れてもいない。
姫は早々に丸くなって寝てしまった。適度な揺れが気持ち良いのかも知れない。
この道が研究のために整備されているとすれば、遍さんはかなりの有力者ということになる。
俺への依頼や当主様のお屋敷で宿泊の手配、それを自身の一存で提起できるとしたら...
ハンドルを握る遍さんに、俺は思わず話しかけた。
「あの、聞きたいことがあるんですが。」 「はい?」
「もしかして、遍さんは『上』のメンバーなんですか?」
遍さんはまっすぐ前を見たままで、穏やかな笑顔を浮かべた。
釣り上げたらまず全長と重量の測定。そして年齢確認用に鱗を一枚、
DNA鑑定用に背びれの一部を切り取ってから放流します。」
メータークラスの大物と50cm以下の小物、同じ釣り具ではさすがに効率が悪い。
「小型の個体も狙うとすれば、少なくとも2種類の釣り具が必要になりますね。」
「釣り具についてはお任せします。経費は負担しますから、十分な用意をして下さい。」

 詳しい打ち合わせを終え、『聖域』を出たのは既に日暮れ近く。
お屋敷に戻る前に街の釣具屋に立ち寄った。1mまでのスズキなら手持ちの釣り具で十分。
おそらく時間さえ掛ければそれ以上の大物でも取り込めるだろう。
しかし日本記録級の大物を、しかも出来るだけ短時間で取り込むとなると話は別だ
俺たち4人が当主様のお住まいに着いたのは5月2日、午前11時過ぎ。
遍さんの言葉通り、洋館の一階、かなり大きな部屋が用意されていた。
この洋館は当主様のお住まいであると同時に、
様々な『公務』を行う術者の宿泊場所としても利用されているのだろう。
もちろん本来なら俺のような駆け出しの術者が宿泊できる筈はないが、
SさんとLさんのお陰で此所を利用させて貰える。本当にありがたい。
俺と姫で荷物を部屋に運んだ後、4人揃って食堂で食事をした。
給仕の世話をしてくれたのはとても感じの良い女性。名前はMさん、40歳くらい?
此所に滞在する間、専属でSさんと翠を担当してくれるという。心強い味方だ。
食後のコーヒーを飲みながら、Sさんは優しく微笑んだ。
「当主様と桃花の方様の御帰着は明日の午後、御挨拶は調査の後になるわね。」
「Sさんと離れるのはとても辛いですが、此処なら安心です。
でも、調査が終わるまで、くれぐれも身体には気を付けて下さい。」
「大袈裟ね。連休中私は此所でのんびりできるんだし、
Lが一緒なんだから、あなただって辛いことなんか無いでしょ。」
そう、意外な事に姫は調査への同行を望んだ。
『こんな機会は滅多にないから』と姫は言ったが、もしかしたら
Sさんがご両親と水入らずで過ごせるようにという配慮があったかも知れない。
釣りも上達しているし、大物はともかく中型のスズキまでなら問題無く釣れる筈だ。
あっけないほど簡単に遍さんの同意も得られ、姫は正式に調査隊の一員となった。
20kg程度のGT(ロウニンアジ)をイメージして大物用の道具を新調する。
初めての釣り場だが、考え得る全ての状況に対応出来る準備をしなければならない。
手配を終え、お屋敷に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。
0212名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:00:21.08ID:LIERtWmM0
 「本当は答えてはいけない質問ですが、あなたには隠しても意味がありません。
前にも話した通り、私には術者になる程の力は無く、研究に一生を捧げるつもりでした。
もともと人付き合いや議論は苦手な方でしたし。 やがて4駆は開けた場所に出た。車が通れる道はそこで途切れている。
平屋の研究施設、隣に自家発電用らしい設備、そして貯水タンクと大型のポンプ。
金属のパイプがポンプから近くの草むらに伸びていた。パイプの先は見えないが、
その方向から微かに水音が聞こえる。近くの沢から水を引いているのだろう。
3人で荷物を施設の中に運び、遍さんが食料等を収納する間に、俺は釣り具を準備した。
取り敢えず小物用の釣り具を2セット、俺と、そして姫の分。時計を見た、午後2時40分。
初めての釣り場。いきなり夜の釣りは危険だ。明るいうちに下見をしておく必要がある。
出来れば実際に小物を何尾か釣って、調査の手順も確認しておきたい。
「じゃ、出掛けましょう。お、釣り具の準備は万端ですね。」
「予備調査なので小物釣り用を準備しました。ところで服装はこれで大丈夫ですか?」
獣道のような細い道を歩くと聞いていたので、トレッキング用の服と靴を用意した。
「ああ、それで大丈夫です。藪こぎするような道ではないので。
ただ、始めのうちは斜面がかなり急です。それだけは気を付けて下さい。」
遍さんの言うとおり、施設のある広場からかなり斜度のある斜面に細い道が伸びている。
かなり急な下りの坂道。これが獣道?道の先は見えないが、
斜面に続く平地に河と、そしてさらに先には海岸が見えていた。入り江のような小さな湾。
「釣りをするのはあの河ですね?」 「はい、あの河の河口付近です。」 10分程で斜面を降り、さらに平地の草むらに伸びる細い道を歩く。
30cm程の幅で地面がむき出しになっていて、普通の獣道とは何処か違う。
魚や水辺の生物だけを調査しているわけではないだろう。
それ程頻繁に遍さんがこの道を往復するとは思えない。
比較的大型の動物、例えば野犬や鹿の群れが通る道なのか?
道の両側は背の高い草にびっしりと覆われている。
所々高い松の木が見えるが、その配置が何となく規則的に見えた。
遍さんは古い廃村が幾つかあると言っていた。此所がそうだとすれば、
もしかすると両側の草地は古い水田か畑の跡なのかも知れない。
15分程歩くと高さ2m程の斜面があり、其処を上るといきなり視界が開けた。
河、だ。 向かって左側が下流、河口の方向。
姫と遍さんには待っていて貰い、堤防のような段差の上を歩いてポイントを探した。
川幅は河口付近で50m程。透明度は高い。川岸近くは比較的浅く、あちこちに沈み石。
ボラかアブラハヤのような小魚の群れがあちこちに見える。
ミノー(小魚型のルアー)ならスズキの反応は良さそうだが、
大物を掛けてラインが沈み石に巻かれたら取り込みは難しい。さらに歩く。
やがて川岸近くまで水深のある場所を見つけた。
大きな石が2つあるが、川岸に接しているのでラインを巻かれる心配は無い。
むしろ魚が釣れたら、その石に降りて取り込めば良い。調査も上手く出来そうだ。
引き返そうとした時、向こう岸近くから水音が聞こえた。
波立つ水面に、太い尻尾が見える。
全長1m程の黒っぽい動物が、水中にすーっと潜っていった。
多分ヌートリア、外来の大型齧歯類だ。環境問題を扱ったTV番組で見たことがある。
近年分布を拡げているという話だった。既に『聖域』の中にまで侵入しているとは。
餌の豊富な場所を探して此所に移動してきたのだろう。
『聖域』といえども環境問題からは逃れられないということか、
溜め息をついて俺は歩き出した。
その時、突然首筋から頬にかけて微かに鳥肌が立った。
パイプの伸びている草むらの奥に、複数の気配を感じる。多分、視線。
先に立った遍さんは既に獣道を降り始めている。後を追いながら姫に尋ねた。
「Lさん、あの気配、何でしょうね。」
「特に悪意は感じません。心配無いと思います。」
姫の笑顔はとても、優しかった。
都合の良いことに妹がかなりの力を持っていましたから、
本来は彼女が成人したら家を代表して『上』のメンバーになる筈だったんです。
しかし、突然事情が変わりましてね。」
遍さんはバックミラー越しにチラリと俺を見た。
「何が、有ったんですか?」
「妹が、ある御方に恋をしたんです。しかも熱烈な両想い。
普通に考えれば身分違い、不相応な恋。家族中大騒ぎでした。
でもその恋は成就して、彼女は『上』のメンバーになれなくなった。それで私が代わりに。」
0213名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:02:35.35ID:2/8TzdzP0
 2人で釣りを続け、合計4尾のデータを取った所で予備調査は終了した。
最小の個体は28.1cm/330g、最大の個体は43.8cm/1160g。
予想以上の成果だったらしく、遍さんも上機嫌だ。
何やら鼻歌を歌いながら帰り支度をしている。俺も釣り具をまとめた、その時。
視線を感じて首筋に鳥肌が立った。施設から出発した時の気配に似ている。
姫がそっと囁いた。 「また、見てます。皆、私たちに興味があるんですね。」
「心配は、無いんですよね?」 「はい。」 姫はまた優しく微笑んだ。
施設へ戻るまでの間、それらの視線は確かな気配を伴って俺たちの後を追ってきた。 「...歌?」 どれくらい寝ていたのだろう。
微かな歌声を聞いたような気がして目が覚めた。
窓から見える夜空、星座の位置が少し変わっている。
いつの間にか姫が窓際に立って外を覗いていた。窓枠に身を隠すような姿勢。
やはり声が聞こえている。窓の外、遠くで誰かが歌っているような声。 「なんだか慌ただしい1日でしたね。」
「はい。でも、ずっとRさんと一緒にいられて、楽しかったです。」
姫は窓を開け、俺のベッドに腰掛けて夜空を眺めた。
「やっぱり。辺りに灯りが無いから、お星さまが凄く綺麗です。」
「ホントだ。部屋の灯りも消してみましょう。」
灯りを消して姫の隣りに座る。2人で星空を眺めた。ゆっくりと過ぎていく時間。
他愛のない事を話しているうちに姫は寝てしまったので、抱き上げてベッドに運んだ。
俺も自分のベッドに横になる。眠い、意識がすうっと薄れていく。
それは次第に近づいてくる。俺も姫の隣に立って窓の外を覗いた。 これは。
俺たちが降りた斜面の道を、ボンヤリとした緑色の光が列をなして上って来る。
不思議な声は、その光の列から聞こえていた。一体、あれは?
先頭の光が大きく揺らめいた。それは見る間に人のような形に変化していく。
「Rさん、そっと窓を閉めてベッドに。」 囁く声。
言われた通り窓を閉め、ベッドに横になる。姫も横になって俺を抱きしめた。
窓を閉めたので歌うような声はほとんど聞こえない。
しかし、窓枠が緑色の光に照らされている。かなり明るい。
緑色の光が完全に見えなくなくなるまで、俺たちはじっと息を潜めていた。
暫くして、姫が身体を起こした。 立ち上がってそっと窓の外を窺う。
「もう、大丈夫です。」
俺も身体を起こす。 「あれは、何ですか?」
「朝陽が昇る前に河へ降りて河の神様に縋り、
夕日が沈んだ後は山へ上って山の神様に縋る、そういうものたち。
移動する間は河での姿にも山での姿にもなれないので、あんな光に見えます。」
時折、背後から微かな呼吸音や草を踏む足音が聞こえる。でも、もう鳥肌は立たない。
まあ単に『慣れた』だけなのかもしれないが。

 施設に戻ると遍さんは俺たちを部屋に案内してくれた。
6畳ほどの部屋に折りたたみ式のパイプベッドが2つ。壁に申し訳程度の収納。
宿泊用というより仮眠用の部屋。まあ、旅行では無いのだから贅沢は言えない。
姫と交代でシャワーを使い、着替えると遍さんが声を掛けてくれた。
夕食の用意が出来たらしい。狭い台所の小さなテーブル、レトルトの大盛りカレー。
「済みませんが此処での食事は毎回こんな感じです。
調理の時間が取れないので普通の食材や調理器具は置いていません。」
そういえば台所には飲み物用の小さな冷蔵庫しかない。
遍さんが滞在する間だけ電源を入れるのだろう。
「採取した資料を処理するので私はこれで。明日の朝食は7時、出発は8時です。
あ、冷蔵庫にビールがありますよ。宜しければどうぞ。」
遍さんはさっさとカレーを食べ終えて台所を出て行った。
俺と姫はカレーを食べ終えてからビールを1缶ずつ飲んだ。
部屋に戻ったのは7時30分。
0214名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:06:06.82ID:Tj65N9iE0
「...歌?」 どれくらい寝ていたのだろう。
微かな歌声を聞いたような気がして目が覚めた。
窓から見える夜空、星座の位置が少し変わっている。
いつの間にか姫が窓際に立って外を覗いていた。窓枠に身を隠すような姿勢。
やはり声が聞こえている。窓の外、遠くで誰かが歌っているような声。「妖怪とか、精霊みたいなもの、ということですか?」
「それが一番近い言葉、でしょうね。普通の幽霊とは、『あり方』がかなり違いますから。
「あの歌は?」
「歌かどうかは分かりません。でもああして仲間を探しているのだと聞きました。」
「仲間って、はぐれた仲間ですか?」
「いいえ、新しい仲間です。海で亡くなったり山で亡くなったりして、
救いを求めている人の魂を仲間に加えるために呼びかける声。」
なら、あの光の1つ1つが、元々は海や山で亡くなった人の魂なのか。
ふと、思い出した。七人の死者、その魂の集合体。
新しい魂を仲間を加えるたび、一番古い魂が成仏するという妖怪の話。
「七人ミサキに似てますね。それだと妖怪と言うより悪霊に近い気がします。」
「実際に確かめた人はいないようですが、
新しい仲間を加えた分、光の数が増えると言われてます。
海岸から山まで途切れなく続く光の行列が見えたという記録も幾つかあるようです。
もしそうなら、七人ミサキのような悪霊とは違いますね。」
「どうして確かめた人がいないんですか?」 「あれが悪霊でないなら、何故、通り過ぎるまで隠れていたんですか?」
「あれが見えるなら、あれからも見えている。そう、言われているからです。」
「あれが僕やLさんを仲間だと思うかも知れない、と?」
「はい。悪霊でも同じですが、複数の魂が融合した状態だと力が強いし、
融合した魂を1つ1つ分離しないと根本的な解決は不可能です。
でも、此所なら『不幸の輪廻』の力は及びません。
それに、今後新しい仲間が増えることもないでしょう。
昼は海の神様に縋り、夜は山の神様に縋って存在し続けるだけ。
それなら、このままでも良いような気がします。」 姫は窓の外を見た。遠い目。
確かに、人間の方が注意して、あれが移動する時間帯を避ければ実害はない。
まして、此処にいる人間があれの仲間に加わるような事態は考えられない。
何でも自分たちで解決できる、しなければならないと考えるのは、不遜だろう。
神様の御心にお任せする、そんな方法があっても良い筈だ。
窓に鍵をかけ、カーテンを閉めて、俺と姫は眠りに就いた。
明け方前、もう一度あれが此処を通る時、その声や姿に気付くことがないように。
「今、此所以外であれが出現するという報告がほとんど無いんです。
先の大戦前は、海辺の古い集落なら似た話が沢山あったらしいんですが。
もし『不幸の輪廻』に取り込まれてしまったのだとしたら、悲しいですね。」
じゃあ、あれは。
哀しい魂たちが『不幸の輪廻』に取り込まれないように寄り集まった姿なのか。
例えばこの世に思いを残しつつ亡くなり、その死を誰にも知って貰えなかった魂たち。
無縁仏とすら呼べない、忘れられた存在。
それは次第に近づいてくる。俺も姫の隣に立って窓の外を覗いた。 これは。
俺たちが降りた斜面の道を、ボンヤリとした緑色の光が列をなして上って来る。
不思議な声は、その光の列から聞こえていた。一体、あれは?
先頭の光が大きく揺らめいた。それは見る間に人のような形に変化していく。
「Rさん、そっと窓を閉めてベッドに。」 囁く声。
言われた通り窓を閉め、ベッドに横になる。姫も横になって俺を抱きしめた。
窓を閉めたので歌うような声はほとんど聞こえない。
しかし、窓枠が緑色の光に照らされている。かなり明るい。
緑色の光が完全に見えなくなくなるまで、俺たちはじっと息を潜めていた。
暫くして、姫が身体を起こした。 立ち上がってそっと窓の外を窺う。
「もう、大丈夫です。」
俺も身体を起こす。 「あれは、何ですか?」
「朝陽が昇る前に河へ降りて河の神様に縋り、
夕日が沈んだ後は山へ上って山の神様に縋る、そういうものたち。
移動する間は河での姿にも山での姿にもなれないので、あんな光に見えます。」
0215名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:08:27.74ID:5+amud3a0
先ほど、うたた寝時に見た夢が鮮明で異様だったので、忘れないうちに語らせていただきたいと思います。
ちなみに現在僕は、独身一人暮らしのアパート住まいです。
夢の中でも寝ていたようで、ふと目が覚めたとこから話は始まります。
周りを見ると6畳くらいの和室で家具は無し。窓は障子戸で閉じてたが光の挿し具合で昼くらいだと判断。
全く見覚えのない家だった。とりあえず部屋を出て探索しようと思って廊下に出るとすぐ上への階段があった。
察するに、寝てた部屋は、1階奥の階段の裏に隠れるようにあった部屋のようだ。
廊下は全体的に薄暗く、幅は2mくらいで割と広め。通路の左端に沿って荷物類が並んでおり、
やたら幼児用のおもちゃが乱雑に置いてあり三輪車とかもあった。通路右側は襖戸が並んでいた。
造りから田舎にありそうな昔ながらの日本家屋のようだ。
異様に思ったのが廊下の先、つまり玄関が見当たらない。それどころか先は全く光が入らず暗くて見えない。
ふと気付くと、どこからかTVの音?がしてるようだ。誰かいるようだ。
音の場所を探ると、どうやら通路右側の襖の部屋から聞こえてくる。
恐る恐る襖戸を開き中を覗くと、畳部屋で正面は高さ2mほどの外へと出入りできるガラス窓が並び
庭が見えた。庭は洗濯の物干し竿があり、高い雑木の塀で敷地の外は見えない。
とりあえず部屋に入ってみた。パッと見、この部屋も家具が無い。TVの音は入って右側からしてるようで
見ると、古い21型のTVに昼ドラらしき番組が映っていた。喪服の40代くらいの女性が泣き喚いていた。
どうやら葬式のシーンのようだ。
そしてそれを食い入るように観てる者が居た。髪はボサボサに伸びた赤いトレーナーに下はわからんが
太めの体型の小学生くらいの女の子が、座布団に正座で背中を丸めるような感じで観ていた。
女の子はこっちには気づいてない様子で、とてもじゃないが声を掛けられる雰囲気じゃなかった。
とりあえず他を調べようと後ろを振り返ってギョッとした。
反対側の壁は無く、昼の光が射し込んでるのにも関わらず、ただ闇が広がっており、全く奥は見えない。
その闇の入口?からドライアイス効果のように白いモヤが漂ってきてる。
これは本能的にヤバイと思って部屋を急いで出た。
部屋を出てすぐ、後ろから誰かがついてきた。さっきの女の子ようだが、なぜか後ろを振り返れなかったので
正体はわからんが、悪い感じ的なものはしなかったので、とりあえずは放置することにした。
部屋を出て階段がある方を向いたら、壁に壁掛け式の直径30cmくらいの時計が見えた。
今何時なんだ?と、思ったけど時計じゃなかった・・・
確かに外観は壁掛け式時計だが、文字盤があるべき場所は目から口の位置までの生気の無い
若い女性の顔が付いており、無表情でこっちを見ていたので速攻で目を逸した。
心臓バクバクしながらも、次は2階へ移動することにした。
階段を上がるとすぐ、襖戸の部屋がまたあった。入って見ると6畳ほどの普通の和室だが
やはりまた家具類は無く、今度は窓すら無かった。入る前から灯りは点いていたようだ。
入って左側を見てすぐさま異様に気づいた。
襖で仕切られてるだけで隣の部屋にすぐ行ける造りなんだが、その襖戸が微妙に膨らんでるのだ。
何かが隣の部屋を埋め尽くしてるかが如く。さらにはなぜかカード式のキーシステムが付いており
両開きの襖戸をまたぐ感じで御札が貼ってあった。
すると先ほどから後ろについて来ていた女の子が初めて声を掛けてきた。
「そこ、もう2ヶ月開けてないけど開けてみる?」はぁ?2ヶ月?なんのこと?
とりあえずその襖戸に恐る恐る近づこうとしたら、全身に鳥肌が立ち、毛が逆だった。
これはかなりヤバイやつだ。開けたら絶対持ってかれる。
逃げようと後ずさりした瞬間、その襖の中から・・・・「ドーンッ!!」と叩く音が。
・・・そこで目が覚めた。寝汗と心臓の爆つきがハンパなかった。
今までこんなはっきりした異様な類の夢は初めてなので、不吉な予兆じゃないか心配です。
0216名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:11:38.06ID:FozUSNix0
翌朝、釣り具を持って広場に出ると、姫が草むらを見つめていた。
俺の気配に気付いたのか、背中に廻した手で、そっと『おいでおいで』の仕草。
未だ早朝の気温は低く、空気はヒヤリと冷たい。そっと隣りに立って姫の視線を辿る。
...犬? 未だ幼さの残る柴犬に似た顔が、草むらの中からこちらを見ていた。
「ああ、ヤマイヌですね。」 遍さんの声だ。思わず振り返る。
「この辺りを縄張りにしている群れの個体でしょう。
若い個体は好奇心が強いから、きっと様子を見に来たんですよ。
お2人の匂いは初めてですからね。多分近くに親がいるはずです。じゃ、出掛けましょう。」
昨日感じた視線と気配は野犬の群れだったのか。軽い胸騒ぎ、一体何故?
遍さんは先に立って歩き 午前中の調査は9時前〜12時までの約3時間。
姫と2人、休憩しながら 河口のポイントに着いたのは4時半過ぎ。満潮の潮止まりに近い時間だ。
これから下げ潮に入ればスズキの活性も上がる筈。今回の狙いは大物。
群れる小魚の様子を見ながら、ゆっくりと釣り具を準備する。
まずは姫の釣り具。昨日より少し強い竿に大きめのリールをセットした。
ルアーは昨日と同じ9cmのミノー(小魚型のルアー)。
姫は早速キャストを始めた。綺麗なフォーム、飛距離も十分。
もともと身体能力は高いし、器用な人だ。何度か一緒に釣りをするうちに、
軽いルアーでの釣りなら俺よりも上手なほどに上達していた。
姫の様子を見ながら自分の釣り具を準備する。準備完了、竿を近くの木に立てかけた。
「Rさんは釣らないんですか?」 遍さんは不思議そうな顔だ。
「大物は警戒心が強いので、1人ずつ、ポイントを休ませながら釣ります。
日暮れまではLさん、日が暮れたら僕がこれで。」 「なるほど。」
何度目のキャストだったか、テンポ良くリールを巻いていた姫が、突然竿を跳ね上げた。
竿が綺麗な弧を描く。見事な合わせ。チリチリとリールのドラグ(ブレーキ)音が聞こえる。
「オーストラリアで釣った魚みたいな引きです。多分、大物ですね。」
姫の頬は紅潮しているが慌てた様子はない。尾のスズキを釣り上げた。
釣りをしながら川岸を歩き、小物を狙うのに良いポイントを幾つか見つけた成果だ。
「小物の試料は充分ですね。午後の調査で大物の試料が採取出来れば、
6日からの調査は必要ないかも知れません。実に、順調です。」
遍さんは相変わらず上機嫌。
午前の調査を早めに切り上げて施設に戻った。昼食はインスタントの鍋焼きうどん。
食事の後、俺と姫は1時間ほど昼寝をして夕方の調査に備えた。
夕方の調査のために施設を出たのは4時丁度。
夕まずめで大物を狙うなら帰りは夜になる。半月の月明かりだけでは足下が心許ない。
もちろん懐中電灯は事前にチェックしてある。3人分のLEDライト。
昨夜の光の列も気になるが、7時30分には調査を終了する予定なので、
あれが移動する時間とは重ならない。多分大丈夫だ。た。姫が後を追う。2人は軽やかに歩を進めた。
ヤマイヌ、その言葉がどうしても耳から離れない。
心の隅に引っかかっている何かが、その言葉の響きに呼応している。
その言葉を聞いたのは、一体何時だったろう。
遠い記憶を辿りながら、俺は遍さんと姫の後を追った。
0217名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:14:42.66ID:OnR1si0m0
いきなりドラグが激しい音を立て、30mほど離れた水面が割れた。
スズキが魚体をくねらせながらジャンプする。デカい、未だ明るい内にこんな。
「ジャンプする前には大抵助走(助泳?)します。そしたら思い切り竿先を下げて下さい。」 大物が派手に暴れた後だ。他のスズキは警戒するだろう。
たっぷり20分程ポイントを休ませてから釣りを再開した。
姫がルアーをキャストする。釣り姿が堂々として頼もしい、それに美しい。
つい見とれていると、わずか数投で次のヒット、取り込みも成功。
78.6cm、4150g。これもかなりの大物。
資料を遍さんに手渡して、再びポイントを休ませる。
姫と並んで川岸に座った。持参したおやつを食べる、ミニ羊羹。
「そろそろ暗くなってきたので、今度はRさんが釣って下さいね。
あれ以上の大きさだと、私には絶対無理ですから。未だ少し手が震えてます。」
「じゃ、いよいよ大物用の道具の出番ですか。」 「期待してますよ、お師匠様。」 しかし。
状況が、先程までとは一変していた。全くアタリが無い。
時々ポイントを休ませ、ルアーも取り替えながらキャストを続ける。しかし反応はない。
微かに魚たちの気配はある。しかし、皆、息を詰めて身を潜めている。そんな雰囲気。
時計を見た。もう6時50分を過ぎている。何故、大物が回遊してこない?
風が止まり、静まりかえった水面は鏡のようだ。明るさを増した半月が綺麗に映っている。
何かがおかしい。今までの経験からして、エサとなる小魚が多い場所ほど
肉食魚の摂食行動は短い時間に集中する。朝まずめと夕まずめ。
エサが豊富なら一日中エサを探して泳ぎ回る必要はないから、そう理解していた。
実際、さっきは立て続けに大物が釣れた。より大きな個体はその後に。
...いや、さっき釣れたとき、空はまだ明るかった。どうしてあんな時間に大物が?
「釣れないみたいですね。」 遍さんがペットボトルの水を持ってきてくれた。
「そうですね。何だか様子が変です。」 水を一口飲んでペットボトルを姫に渡した。
姫は俺の左側、足下に座って河を見ている。姫も水を一口飲んだ。
「と、言うと?」 遍さんの声が川面の空気に溶けていく。
「魚の反応が全く無いんです。まるで、何かを怖れて隠れてしまったみたいに。」
そう、この状況は、大物の回遊を察知した小物達がさっさと退散した後に良く似ている。
眼鏡の奥で遍さんの眼が輝いた。
「80cmもあるスズキが怖れる何か...興味深いですね。」
言われてみればおかしな話だ。70〜80cmクラスにもなればまず敵はいない。
ヌートリアも、わざわざそんな大物を狙うような難儀はしないだろう。
もっと楽に獲れる小物が、此所には幾らでもいるのだから。
「ところで、さっき大物を釣った時なんですけど。」 「はい?」
「2度とも、取り込みの直前にキツい視線を感じたんです。それも水の中から。」
「水の中から?変ですね。私は釣りに夢中で気が付きませんでした。」
その時、遍さんが俺の肩に手をかけた。
「Rさん、お話し中申し訳無いですが、もう6時です。時間が無くなってきましたよ。」
「あ、済みません。」 そうだ、7時半には調査終了。
メーター級の大物が釣れたらやり取りに時間がかかる。あまり余裕は無い。
視線の話の続きは、施設に帰って夕食を食べた後にしよう。
立ち上がり、木に立てかけてあった釣り具を手に取った。
注文した竿が届いたのが調査前日だったので一度もテストをしていない。
本命のポイントから離れた場所でキャストの感覚を確かめた。
強くて腰があるがガチガチに硬いわけではなく、キャストしやすい。しかも、軽い。
予想通りだ、これなら大丈夫。本命のポイントへ移動した。
既に太陽は山の稜線に隠れ、辺りは見る間に暗くなっていく。
夕まずめ、闇に乗じて大物が浅場に回遊する時間、これからが俺の本番。
「ジャンプしにくいように、魚の頭を下に向けるんですか?」
「そうです。何度もジャンプされると、ルアーが外れる事がありますから。」
姫は冷静にやり取りを続け、魚をかなり近くまで寄せてきた。
調査道具一式を持ち、川岸の石に降りる。
リーダー(太い先糸)までの距離を確認した時、上流側から刺すような視線を感じた。
怒り?敵意? そっと視線を遡る...10m程離れた、水の中? 気のせいか。
「Rさん、魚、これで良いですか?」 我に返って目の前の水面を見る。
姫は更に魚を寄せ、俺のすぐ前まで誘導していた。めた。
0218名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:23:58.43ID:rRp50Bi70
メダルより金与正の方が輝いてる大会。
0219名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:28:35.85ID:wewfiIS+0
「ガポッ!」少し離れた場所で水音がした。大きいが軽い音。ボラが跳ねた音とは違う。
一気に胸の鼓動が早くなる。もしスズキの捕食音だとすれば、かなりの大物。
音がした方向に眼を凝らすと、ゆるやかに波紋が拡がっていくのが見えた。
まず上流側にキャスト。流れを利用して、音がした付近にルアーを送り込む。
ゆっくりリールを巻き、流れを横切るようにルアーを泳がせた。弱った小魚のイメージ。
姫も遍さんも、俺の緊張を感じ取っている。2人とも、黙ったまま河を見つめていた。
3投目。ルアーを泳がせ始めた途端、巻きが一瞬軽くなった。
ラインが少しだけ緩み、すぐにぴいんと張る、重い。
流木か、大物か。ドラグを信じて思い切り合わせる。
2度、そして3度。 ジリッ、とドラグが滑る。一呼吸置いて、ラインが走った。
もの凄い勢いでドラグが鳴る。大物だ。ラインは真っ直ぐ河口に向かっていく。 やがて、少し先の水面が大きく盛り上がり、1mを優に超える大きな魚体が浮いた。
まさか、この魚は。
スズキではない。体高のある太い魚体、身体の割に小さな頭。
そして、妖しく光るルビーのような眼。
この県にその魚がいるなんて、聞いたこともなかった。
「アカメです。間違いありません。やはりいましたね。 石の飛んできた方向にゆっくりと顔を向ける。
少し離れた上流側の川岸近くに、小さな人影が見えた。水面から上半身を出している。
1人ではない。その近くにいくつか、丸い頭が見えた。ざっと5、6人。
しかし何故『聖域』に、しかも水の中に人が? 次の瞬間、人影が動いて石が飛んできた。
俺の座っている石に当たる。硬い音。視線を戻すと人影は増えていた。
恐らく10人以上。いや、あれは人ではない。人の形をした、何か得体の知れないもの。
『魚を放せ』 『誰だ』 『帰れ』 『あの人間を』...
様々な意識が流れ込んで来た。激しい怒りと敵意がビリビリと伝わる。
まずい。口の中が乾く。しかし、まだアカメが、資料を。
『水を媒に化生せし者ども』 俺の背後、姫の『あの声』だ。
『待て。待ってくれ。』 太く、低い声が辺りに響いた。これは誰の?
不意に、下流側から強い風が吹き抜ける。冷たい、乾いた風。
その風を避けるように、一番大きな黒い影が川面に吸い込まれた。小さな水音。
次々と黒い影が、上半身や丸い頭が、水中に沈む。
最後の影が沈んだ直後、左手に感じるアカメの重さが消えた。
しまった、針が。
慌てて水面を見ると、アカメは俺の目の前に浮いていた。
やはりルアーは外れている。もちろん下げ潮と共に河の水は下流へ流れている。
それなのに、アカメは動きを止め、さっきと同じ位置に浮いたままだ。一体何故?
この河で初めての記録。貴重な資料になりますよ。しかも大物。是非、釣り上げて下さい。」
遍さんも興奮を抑えかねているようだ。
やがて大きな魚体が川岸近くに寄ってきた。動きはゆっくりで一時の勢いはない。
「少しだけテンションをかけてラインを張っておいて下さい。」 「はい。」
緊張した顔の姫に竿を託し、川岸の石に降りた。
石の上にべったりと座り、腰を据えてからリーダーを取る。信じられない程大きな口。
それに、とにかく重い。2人がかりなら持ち上げられるかも知れないが、それでは。
「遍さん。無理に体重を測ると魚体へのダメージが心配です。」
「体長が分かれば体重は推定出来ます。大体の体長を測定して下さい。」
大型のスケールを魚体に沿わせる。約130cm。その時。
「Rさん!」 姫の声だ。
俺の目の前を何かがかすめた。左足の下で水音。 石? ゾクリと鳥肌が立つ。
激しい怒りと敵意が伝わってくる。 釣りに集中していて、全く気付かなかった。
先刻、姫が大物を釣った時にも感じた視線。 予兆はあったのに...迂闊だった。
止まらない。あっという間に50mほどのラインが引き出された。
さらに10mほど糸を引き出し、ようやく魚は止まったが、なかなか寄せられない。
時折大きな魚体が水面を割る。激しい水しぶき、大きな水音。まるで爆発だ。
その波紋が俺の立つ川岸まで届き、水面が小さく揺れていた。
何度引き寄せても、その度にラインを引き出される。
「もうすぐ7時半、大丈夫かな?」 時計を見た遍さんが独り言のように呟いた。
魚をヒットさせてから既に20分以上経っている。魚体へのダメージを心配しているのだろう。
必死で遣り取りを繰り返す内に、巻き取ったラインが増えてきた。
魚は確実に、寄ってきている。
0221名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:31:46.22ID:B1dwiWZQ0
あれらに悪意はない。お前たちの釣りが、
何よりこの魚を釣ったことが、あれらを強く刺激した。』
吹き抜ける冷たい風に乗って、その声が再び空気を震わせる。
『しかも、あれらが移動する時刻に近かった。間が、悪かったのだ。
どうか、無礼を許してやってくれ。』
恐る恐る視線を正面に戻す。俺の目の前、多分数m先に、それはいた。
対岸の景色と夜空、俺の視界のほとんどがそれに遮られている。デカい。
それが何なのかは分からない。どうしても眼の焦点が合わず、それ自体は見えない。
ただ俺の前に、巨大 御影、それがあの闇の名。確かに先刻、俺はあの闇に助けられた。
しかし、その前に姫は術を、『あの声』を使おうとしていた。
もし姫が術を発動していれば、あの闇に関係なく俺の身を護ってくれただろう。
不遜かもしれないが、俺には確信があった。当然、遍さんを責める気など無い。
「あの河でアカメを捕獲したのが初めてなら、その影響を予想出来なくても仕方ありません。
怪我もしなかったし、もう気にしないで下さい。それよりも、教えて下さいませんか。
御影と水妖。あれらは、一体、何ですか?」
「御影は、『聖域』の境界を護る式です。境界には強力な式が配置されていますが、
御影はその中でも最強の力を持ち、あの湾と海岸の周辺を護っています。
当然、あの場所に『余所者』が入り込む事などあり得ません。
人も動物も、そして霊的な存在も。もちろん渡り鳥や回遊魚は例外ですが。」
人はともかく、動物であっても余所者は入り込めない。それはおかしい。
『聖域』がいつ成立したのか具体的には聞いていないが、
廃村の話からして、少なくとも100年近く前なのは間違いないだろう。 「あの、僕、昨日河でヌートリアを見ました。ヌートリアは、外来種ですよね。」
遍さんは悪戯っぽく笑った。
「それはカワウソです。ヌートリアではありません。」
「カワウソって、ニホンカワウソですか!?」
ニホンカワウソ。1979年以来、確かな目撃報告が絶えて久しい。
近い将来、絶滅が宣言されるのは間違いないとされている幻の動物だ。
「そう、ニホンカワウソです。現在、確認しているのは8頭。
そしてヤマイヌは17頭、どちらもこの十数年のうちに絶滅することは無いでしょう。
深刻なのはオオカミです。確認できているのは2頭だけ。この2頭の寿命が尽きれば、
この国から、いやこの地球から、ニホンオオカミは永久に消滅します。
郷愁にも似た、懐かしさと哀しさが湧き上がる。俺たちが、人間が滅ぼした動物たち。
心の隅に引っかかっていた何かが外れかかり、遠い記憶がボンヤリと甦ってきた。
ニホンオオカミ、2つの剥製、シーボルトの標本、ヤマイヌ、大小2種のオオカミに関わる伝承。
「もしかして、さっき僕たちの後を追ってきたのが。」
「はい、あの2頭が、最後のニホンオオカミです。
私たちの後を追い、護ってくれました。あれこそが『送り狼』、ご存じですか?
ニホンオオカミが絶滅すれば、『送り狼』という現象も消滅します。
まあ、既に此所以外では、全く違う意味で使われる言葉が残っているだけですが。」
しかし俺は昨日ヌートリアを見た。ヌートリアが日本に持ち込まれたのは70年ほど前。
既に『聖域』は成立していた筈だ。なのに何故ヌートリアはあの河に侵入し定着できたのか。
それにヤマイヌ。あの野犬の群れは、聖域の成立以前から存続してきたというのか。黒の闇が蟠っている。
一切の反論や質問を許さない、圧倒的な気配。冷たい汗が流れた。
『やがてあれらが山に移動する時刻。今の内に調査を終えて戻れ。
陸ならば送りの護りも効く。さあ、早く。』
調査? ああ、試料。早くウロコと背ビレを。
水面に静止しているアカメのウロコを一枚取り、そして背ビレの後端を少し切り取った。
『済んだな。もう、巣に戻すぞ。』
アカメは身体を大きくくねらせ、ゆっくりと泳ぎだした。その姿が水中に消えていく。
『あれらには、我が因果を含めておく。移動の時間さえ避ければ、今後の心配は要らぬ。』
闇と気配は見る間に薄れ、対岸の景色と星空が視界に戻ってきた。
「Rさん、急いで下さい。」 姫の声だ、我に返る。
川岸に上がり、遍さんに試料を渡して手早く釣り具をまとめた。
遍さんもすぐに調査用具を片づけた。それぞれライトを持って出発する。
皆、無言で細い獣道を歩いた。
0222名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:34:42.46ID:PPrtiyjj0
考えたことも無かった。
『聖域』の中には未だ生き延びている。カワウソが、ヤマイヌが、そしてオオカミが。
「今のうちに保護することは、出来ないんですか?」
「既に『聖域』以外では絶滅したと考えられている動物たちです。考え方は様々でしょうね。
でも、私はそれらの動物を此所の環境から切り離してはいけないと思っています。
あの動物たちを檻の中に閉じ込める。私にはそれが正しい方法だとは思えません。
Rさん、あなたは 思い出した。
俺は何故、昔聞いたヤマイヌとオオカミの話を忘れていたのか。
どうして昨日見た動物を、カワウソではなくヌートリアだと思ったのか。
とても哀しかった。哀し過ぎて、俺は自分の記憶を封印していた。
2003年、日本最後のトキが死んだ。その名は『トキ子(キン)』。
中国から移入したトキの増殖が行われているが、日本のトキは、もう、いない。
トキ子が死んだことを知った夜、俺は夢を見た。
とても哀しくて、辛い夢。
そしてその翌朝以来、俺は忘れていた。この国で人間が絶滅させた動物たち。
オオカミ、ヤマイヌ、そしてカワウソ。それらを忘れるよう 「それにしても。Rさん、あなたは本当に不思議な人ですね。
いや、あなたたち、と言うべきでしょうか。
御影が最初の一言で呼び掛けたのは、Lさまだったのですから。」
俺と姫が? どういう意味だ。今回、俺は釣りをしただけで、『力』を使ってはいない。
姫が使おうとした術は未発動、しかもその術を『上』は既に知っている。一体、何の不思議が?
「当主様に直属の式は、余程の事がなければ姿を見せません。
一族の中でも、自分の目で『御影』を見た者は、ほとんどいないでしょう。
先刻も、義務を果たすためだけならば、ただ水妖たちを遠ざければ済んだ筈。
それなのに『御影』は彼処に現れ、しかもあなたたちに話しかけた。
『水妖たちの無礼を許してやってくれ』と、そして、『今後の心配は不要』と。
一体何故なのか、見当も付かない。本当に不思議という他ありません。」
遍さんは眼鏡を外し、ハンカチでレンズを拭いた。
「それはさておき、『水妖』についての説明は、私よりLさまの方が余程適任です。
Lさま、お願いできますか?」向けたのは、俺自身。
人間が絶滅寸前に追い込んだ生物たち。その過程には言及することなく、
今度は自分たちの利権と主義主張のために、その生物たちを利用する。
例えば希少動物を原告にした裁判。そんな恥知らずな茶番なら、幾つも知っている。
自然保護運動を隠れ蓑にした、補助金の利権を巡る争いはその最たるものだろう。
カンガルーの個体数調整を是としながら、クジラとイルカを神聖視するテロリストも同様。
此所で静かに生物たちを見守り、その生態を記録し続ける遍さんの心境を思うと、
軽々しく『保護』という言葉を口にした自分が恥ずかしくなる。のトキが辿った道をご存じですか?
日本で最後のトキは、檻の中で、死んだのですよ。」
遍さんは言葉を切り、ふう、と小さく息を吐いた。
「人の都合で絶滅寸前に追い込んだ生物たち。
それを更に、保護の名目で檻の中に閉じ込める。傲慢だとは思いませんか?
『聖域』に生息する全ての生物は、私たち一族が大切に受け継いできた遺産。
そしてもちろん、この国全体の遺産でもあります。
もしも生物の一部が、私たちの代で絶滅することになったとしても、
私たちは絶滅した生物を忘れてはなりません。私たち自身がその生物を絶滅に追い込んだ。
その痛切な自責の念とあわせて、絶滅した生物たちを記憶し続ける義務があります。
そして、そのためにこそ、私は此所で研究を続けているのです。」
遍さんの笑顔は優しく、そして、哀しかった。
0223名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:38:31.84ID:3kFPGgQv0
「はい...古い、死者の魂が河の水を依り代にして人の姿をとったものが『水妖』、
同じ魂が山に上り、落ち葉を依り代にして人の姿をとったものが『山妖』。
だから『水妖』と『山妖』、どちらも本質としては同じものです。
そのまま長い時を経て、人としての性質や記憶が失われると、
妖怪と呼ばれるものに変化します。
それは、肉体が滅んだ後もこの世に留まり続ける魂の成れの果て。 翌朝、俺は7時前に眼を覚ました。姫は隣のベッドで寝息を立てている。
そっと部屋を出て、施設の玄関に向かった。何となく、そうすべきだと思ったからだ。
鍵を開け、ドアを押し開ける。ガサガサという異音、一体?
ドアをくぐり、足下を見て息を呑んだ。
細い笹で繋がれた鮎が、床に敷いた柏の葉の上に置かれている。
鮎の片眼から口に笹を通し、また次の鮎の片眼から口に笹を通す。
そうして十数尾の鮎が繋がれていた。間違いない、昨夜の水妖たちの仕業だ。
あの、小さな黒い そうか。 水妖≒河童、山妖≒山童。 そうだったのか。
河童の原始的な姿を示すと言われる奄美のケンムンや沖縄のキジムナーには、
捕った魚を分けてくれるという伝承や魚の片眼を食べるという伝承が多い。
何故エラから口でなく、片眼から口に笹を通すのかは分からない。
しかし、俺と同じような経験をした人間が語った話が、
後にそれらの伝承に変化したのではないか。片眼の抜かれた、贈り物の魚。
河童が魚の片眼を抜くという話は聞いたことが無い。
しかし『片眼の魚』の伝承は各地に残っていると聞いた。
元を辿れば、河童と片眼の魚は結びついていたのかもしれない。
今、此処以外に、河童や山童がいる場所が残っているだろうか。
去年、沖縄に旅行した時、同行した沖縄出身の少女から
『先の大戦以降、キジムナーを見たという人はほとんどいないらしい。』という話を聞いた。
それに姫は、『先の大戦以降、此処以外であの光の列が現れたという報告は無い。』と言った。
『先の大戦以降』、単なる偶然とは思えない。それはあまりに不思議な符号ではないか。
恐らく先の大戦を境に、何かが大きく変わったのだ。
社会の仕組みか、人の心のあり方か、あるいは魂の旅路に関わる何かか。
それは一体何だろう。それが分かれば、人と妖怪が近しい生活を再び取り戻せるのか。
鮎をビニール袋に入れ、柏の葉を片づけながら、そんな事を考えていた。たちが鮎を捕り、笹で繋ぐ情景が脳裏に浮かぶ。
罪滅ぼしのつもりなのか、昨夜は不気味に見えた黒い影に親しみが湧く。
「Rさん、そのお魚、昨夜のうちに?」 パーカーを羽織った姫が立っていた。
「水妖たちがお詫びに置いていったんでしょうね。今日の昼食は鮎の塩焼きです。
当主様のお屋敷に戻ったら、早速準備しましょう。」
折角だから、ヒレに塩をまぶし、魚体に踊り串を打つ。本格的な塩焼き。
笹を通してあるから片眼は潰れているが、そこに串を打てば全然目立たない...
え?片眼が潰れた、贈り物の魚?
それもまた魂が辿る旅路の終着駅の1つ、そう、私は教えて貰いました。
遍さん、説明は、これで良いですか?」
姫の表情は少し緊張している。恐らく、遍さんが『上』のメンバーだと知っているのだ。
一族の事情に疎い俺には失言のしようもないが、様々な事情を知る姫にとって、
『上』の前での失言は許されない。注意深く言葉を選んでいるのが分かる。
「お見事。過不足のない、完璧な説明です。相変わらず聡明で、そして慎重なお方だ。」
聞きたいことは他にもあるが、今、姫にこれ以上の緊張を強いるのは酷だろう。
「『御影』と『水妖』、何となく分かりました。ところで遍さん、明日も調査をするんですか?」
「午前中は調査をするつもりでしたが、予想より多くの資料が集まりました。
明日は当主様のお屋敷に戻って試料を大学に発送します。次の調査が必要かどうか、
その後で相談しましょう。だから明日の朝は少しゆっくり、8時起床で如何ですか?」
「了解です。じゃ、明日の朝8時に。」
俺は姫を促して部屋に戻った。
0224名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:41:31.73ID:4EifNdyz0
 翌日、家族4人揃っての朝食。何だか久し振りのような気がして可笑しくなる。
食事を済ませた後、部屋に戻ってのんびりしていると、
床に座って絵本を読んでいた翠が何事か呟いた。誰かに話しかけた風ではない、独り言?
Sさんと姫、もちろん俺も翠の独り言に聞き耳を立てた。
「とーしゅさまは、おかあさんのおとうさん。
とーかさまは、おかあさんのおかあさん。」
俺たち3人は思わず顔を見合わせた。
建前とはいえ、当 「出来ればもう少し、大物のスズキの資料が欲しいですね。
明日からの二次調査も、お願い出来ますか?」 遍さんは少し申し訳なさそうな顔をした。
スズキの大物は2尾しか釣れていないので、二度目の調 2度目の調査は、スズキの大物5尾分の資料を採取して終了した。
もちろん50cm以下の小物も釣れたし、『十分なデータが取れた。』と遍さんは言った。
姫が62cmのアカメを1尾釣り、その資料を追加出来たのも大きな成果だ。
施設に戻り、釣り具を片づけたあとで、俺は用意してきた荷物を解いた。
ペットボトルに小分けした日本酒、餅、紙コップ、小さな紙皿。そして型抜きした厚紙。
調査の無かった5日、午後から街へ出て用意した物だ。厚紙はSさんが型を抜いてくれた。
あらかじめ遍さんにも話して了解をもらってある。
「祭壇はどこに作れば良いですか?」 「斜面を下る道の入り口近くが良いと思います。」
厚紙を組み合わせて簡単な祭壇を組み立てた。底の部分には重しにする石を何個か詰める。
防水加工された厚紙だし、屋根もあるから少々の雨なら供物は濡れないだろう。
5分程で小さなお社の形をした祭壇が完成した。
調査の間、俺たちを見守ってくれたヤマイヌとオオカミ、鮎を届けてくれた水妖。
それから、長い間この場所の境界を護り続けている式、『御影』。
皆に感謝の気持ちを込めて日本酒と餅を供える。
動物たちが出来るだけ長く命脈を保てるよう、長命祈願の祈祷も併せて行う。
姫に教えて貰った祝詞を詠唱し、姫と並んで手を合わせた。
「手順は、大丈夫でしたか?」 「はい、素晴らしい出来でした。合格です。」
遍さんの4駆に乗り込み、施設前の広場を出発したのは7時半少し前。
そのあとも暫くの間、俺たちを見守る視線を感じていた。したいのは当然だろう。
姫もあらかじめ大学に7日と8日の欠席届を提出していたし、全然問題は無い。
「最初からそのつもりだったので大丈夫です。大物のデータが必要なら、
2日とも夕方の釣りをした方が良いですね。」
「前回の調査では大物が釣れたのが4時〜5時半頃でした。少し余裕を見て、
3時〜6時までという日程でどうですか?それなら2日とも日帰りが可能ですし。」
前回のことを気にしてくれているのだろう。宿泊するのは構わないが、
日帰りならば調査の時間以外は4人一緒に過ごすことが出来る。
Sさんのことを考えればとても安心だし、ありがたい。
「了解しました。日帰りで2日間の調査と言うことでお願いします。」と桃花の方様の血縁は封じられている。
Sさんは俺と姫に、翠の前ではその話題に触れないようにと念を押していた。
「もしかして、Mさんですかね?」
此処で過ごす間、俺たちの世女性話ををしてくれる感じの良い女性。
「Mさんが一族のしきたりを知らないはずが無い。違うと思う。」
それなら、考えられることは1つしか無い。しかし、そうだとすれば。
「翠が自分で感知した、ということですか?」 「そうとしか、考えられない。」
「以前、翠ちゃんの感覚の一部を封印した筈ですよね?」 姫の顔も緊張している。
「したわよ。でも封が不十分だったのか、血縁による特別な現象なのかは分からない。
今後の様子を見て、対応を考えなきゃね。あ、翠、大丈夫よ、大丈夫。」
俺たちが難しい顔をして話し合っているのを見て不安になったのだろう。
翠は顔を上げて俺たちを見つめていた。泣きそうな顔。
俺は慌てて駆け寄り翠を抱き上げた。
「大丈夫だよ。お父さんと一緒に絵本読もう。ね?」
正直、翠の将来に不安はある。でも、それは考えても仕方が無いことだ。
翠の成長を見守りながら、その都度対応するしかない。
床から絵本を拾い上げ、ソファに座る。
笑顔の戻った翠と一緒に、大きな声で絵本を読んだ。
0225名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:44:30.22ID:VCuD1vlE0
5月8日、お屋敷に戻る日。朝食を済ませた後、俺と姫は荷物をまとめていた。
ノックの音。ドアを開けると、緊張した表情のMさんが立っていた。
「Sさま、桃花の方さまがお呼びです。ご用意を。」
桃花の方さま?当主様 「相変わらず冴えてるわね。ほとんど正解。
でも、これは呪物じゃ無くて祭具。まあ、突き詰めれば両者の線引きは難しいし、
これに関しては間違うのも無理はない。元々は別の目的で使うものだし。」
「御免なさい。何て言うか、感じる気配が尋常じゃない気がして。」
「強力な呪いに対抗するのだから、尋常じゃ無い力は当然。
ただ、普通は出産後に幾つかの儀式を行うだけで充分、これを使う必要はない。」
Sさんは一旦言葉を切って白い包みを見つめた。小さく溜息をつく。
「呪いの影響を 「それで、その箱の中身は、どうやってその呪いに対抗するんですか?」
Sさんは黙って白い包みを解き、小さな木の箱を取り出した。
材質は桐?一辺が10cm程の立方体。
「その呪いにはかなり複雑な方法が使われていて、未だ解くことは出来ていない。
根本的な解決が出来ない以上、呪いの力を逸らすしかない。
そのために使われるのがこれ。代々受け継がれてきた『遺産』。」
白く細い指が箱の蓋をゆっくりと開けた。
箱の中には真っ赤な液体が満ちていた、それはゆっくりと溢れて、箱の中から流れ出す。
箱の木の肌が、そして白い布が、見る間に赤く染まっていく。
いや、そんな筈は無い。木の箱に液体、しかも溢れ出るなんて...瞬きをして目を擦る。
やはり、白い布に小さな木の箱が乗っているだけだ。見間違い?
「見間違いじゃない。ある神様の『血』が、これに封じられた『力』の源。」
Sさんは優しく微笑み、箱の中からそれを取りだした。
赤い、宝石? 直径3cm程のドーナツ型。
赤さんごを思わせる鮮やかで深い色。滑らかな質感。艶やかな光沢。
石だとすれば、これは恐らく『璧(へき)』の一種だ。完璧という言葉の語源、環状の宝玉。強く受けるのは、当主様の子か孫として生まれた男の子。」
つまり、Sさんのお腹の子が男の子なら呪いの影響を強く受ける。しかし何故。
「かなり前の時代から、当主様は世襲ではないんですよね。
なのにどうして当主様の子か孫として生まれた男の子が強い影響を受けるんですか?」
「呪いが掛けられた当時は世襲だったからよ。
普通、一度成立した呪いはその対象を変更出来ない。」
呪いの対象が変更出来ないのなら、『次の当主になる運命の男の子』は一応安全だ。
しかし『力』が血縁を通じて遺伝する以上、当主様の子と孫を危険にさらすのでは
将来の優秀な術者を失いかねない。まして現在、一族は少子化の影響を受けている。
性別に関わらず、生まれた子は絶対に失いたくない筈だ。
自分でも不思議だが、
この時、俺には『自分の子を失うかも知れない』という危機感が全く無かった。
もし翠を失ったらと想像するだけでパニックになりかけるというのに。
多分それは、あの箱の中身の役割を知っていたからだ。その呪いに対抗する強力な祭具。花の方さまでなく?
数分でSさんは身支度を整え、Mさんと一緒に部屋を出ていった。
「何の、お話でしょうね?」 俺の手から翠を抱き上げて、姫は微笑んだ
「悪いお話ではありません。多分、『相続』です、大切な『遺産』の。ね〜。」
「『相続』って、『遺産』って、一体何のことですか?」
「翠ちゃんは最初から女の子だと分かっていたので相続は先延ばしになりました。
でも、今度は男の子の可能性もありますから、遺産が相続されるんです。
これ以上のことはSさん自身が説明するまで待って下さい。」
つまり、『これ以上は聞いてくれるな』と言うことだ。
湧き上がる疑問を必死で呑み込み、翠の相手を姫に任せて荷造りを続けた。
一時間ほどして、Sさんが部屋に戻ってきた。優しい笑顔。
Sさんの後から部屋に入ってきたMさんは、小さな木の箱を捧げ持っている。
...俺にでもすぐに分かった。 箱の中から滲み出る気配。。
どんなに大切な遺産か知らないが、間違いない。
これは、『呪物』だ。しかも、とびきりの。
「Sさん。私、一生懸命手伝います。」 姫はSさんに駆け寄り、手を握った。
翠も姫の真似をしてSさんの手を握る。 「てつだい、ます。」
「2人とも、ありがと。」 Sさんはにっこり笑って2人の頭を撫でた。
俺たちは当初の予定通り、その日の午後にお屋敷に戻った。
0227名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:46:50.69ID:83zNyBKPO
順当なのって屋内しかないよな
屋外競技は斜面や風のコンディションが不安定すぎて、簡単にひっくり返ったりする
0228名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:47:22.64ID:wVhZOnkp0
「当初作られたのは4個と言われているけれど、現存しているのは3個。
呪いが掛けられた後は、代々、桃花の方様とその娘が相続してきた宝玉、璧。
この璧の号は『真紅』。」
Sさんは左手で宝 「しかし、ずっと女の子として育てる訳にはいきませんよね?」
「生まれてから7日間欺くことができれば、もう呪いは発動しない。
その後はこれを外して育てても大丈夫。ただし、問題が2つ。」
これ程強力な祭具を、生まれたばかりの赤子に使うのだから、問題が有って当然だろう。
「どんな、問題ですか?」
「7日が過ぎたら、なるべく早く縁の神様にお参りして、
生まれたのは男の子だと報告してからこれを外さなければならない。
7日を過ぎてもこれを嵌めたままでいると、戻れなくなると言われてるの。
でも、7日が過ぎたら退院して、そうね、あの川の神様に男の子だと報告してから
これを外せば良い。だからこれは大した問題じゃない。」
「もう1つの問題は大したこと、なんですね?」
「大したことっていうより、ややこしい問題。L、何だか分かる?」
「子供が生まれてからこれを嵌めるまでをどうするか、だと思います。」
「そう、正解。」 そうか、Sさんは翠を産んだのと同じ病院で出産する予定だ。
あらかじめO川先生や看護師さんたちに事情を説明し、協力して貰わなければならない。
一族に産婦人科医がいれば、お屋敷で出産することも不可能では無い。
看護師さんの数も限られるし、その方が対策は確かに楽だろう。
しかし出産時に何か事故があった場合、施設の整った病院でなければ
対応出来ない事もある。敢えてお屋敷で出産するリスクは冒したくない。
「O川先生と看護師さんたちに口裏を合わせて貰う必要がある、ということですね?」
「そう、たとえこれを使っていても、7日が過ぎるまでの間『男の子』は禁句。
もし誰かが口を滑らせたら、全てが水の泡。でも大丈夫。私、必ずこの子を守る。」
Sさんは微笑んで、両掌をそっとお腹に当てた。
嫌な予感がする。失敗すれば、折角生まれてくる我が子を失う。
その実感がじわりと重くのしかかってきた。
しかしSさんは普段通り自信に満ちている。もしかしてSさんは。
「これを使わずに守る方法があるんですか?例えば、その、『禁呪』とか。」
「いいえ、これを使うしか方法は無い。だからみんなに協力して貰わないとね。」
「Sさん、私、全力で手伝います。絶対大丈夫ですよ。」 「ありがと。」ういう事ですか?」
「もし男の子なら、当然これを使うことになる。
でも、これを使う前は男の子に見える訳だから、
誰かが『可愛い男の子ですよ』って言ったら、その時点で呪いが発動してしまう。
先代の桃花の方さまは、あのお屋敷でご出産なされたから、
その対策はわりと楽だったと聞いたけど。」取り、右手の中指に嵌めた。大きめの指輪に見えないこともない。
そして、中指から外した宝玉を掌に載せて姫に差し出した。
「Lも実際に見るのは初めてでしょ。触ってみる?」
姫は頷いて宝玉を受けとった。それを右の手首に...え?
まるで当たり前のように、深紅の宝玉が姫の手首で輝いている。
「何故、指輪が腕輪に?」
「『大きさ』は決まっていないんです。きっと、足に嵌めることも出来ますよ。」
「実際、男の子が生まれたら足首に嵌めることが多いみたいね。」
Sさんは姫から受けとった宝玉を白い布の上に戻した。
「R君も触ってみたい?」 悪戯っぽい笑顔。
しかしそれは、俺が触ってはいけないもの。何故かそんな気がした。
「いいえ、遠慮しておきます。触ってはいけないような気がするので。」
Sさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そう、残念ね。どうなるのか、ちょっと見てみたいけれど。」
「試して貰うなら、『力』をちゃんと説明してからでないと。」 姫も笑いを堪えている。
そうだ、未だこの宝玉の『力』を聞いていない。
「その宝玉で、どうやって呪いを逸らすんですか?」
「生まれた子が女の子なら、呪いは発動しない。それなら、
生まれた子が女の子だということに出来れば、呪いの発動を止められる。
そのためにこれを使うの。これを身に付けている間、その子は誰が見ても女の子。
元々これは、ある種の祭祀で神官が女装する時に使われていたもの。
本当に女になるのだから、女装というのは変だけれど。」
0229名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:49:55.86ID:Uli1IJpD0
6月19日。既に予定日を2日過ぎていたが、Sさんに出産の兆しは無い。
しかし、大学で姫を迎えてお屋敷に戻ると、Sさんが緊張した顔で俺たちを待っていた。
「少しまずいことになったわ。だから急だけどこれから入院する。
もう病院には了解を 『案ずるな。』
もう一度、ハッキリと声が聞こえた。間違いない、この声はあの時の。
『我が、分かるか?』
「はい。分かります。」
『心配だろうが、5日間、我が時を稼ぐ。
その間、何であろうと誰であろうと、お前達の邪魔をする力を Sさんの陣痛が強くなったのは翌日、6月22日の昼過ぎだった。
「翠、おいで。」 Sさんはベッドで翠を隣りに座らせ、小さな肩を抱いた。
「おかあさんはこれから赤ちゃんを産むの。待っててくれる?」
「うん。あかちゃんはおとこのこ?おんなのこ?」
首筋から背中の毛が逆立った。もし男の子で、翠の感覚がそれを感知したら。
「生まれてみないと分からないけど、おかあさんはどっちでも良いな。
男の子でも女の子でも、大切な宝物だから。早く会いたい。」
「みどりも、どっちでもいいな...」
Sさんの腕の中で、翠は既に寝息を立てていた。
「式が護ってくれるから、ゆっくり寝ててね。さて、これで一番の不確定要素は対応済み。」
Sさんがナースステーションに電話を掛ける間、俺は車椅子を準備した。
姫が車椅子を押してエレベーターに向かう。「いよいよですね。」
「L、頼りにしてるわよ。」 「任せて下さい。」
今回、Sさんの希望で俺と姫は出産に立ち会うことになっている。
O川先生が処置室の前で待っていてくれた。
「お二人は暫く此処でお待ち下さい。Sさんが分娩室に入ったらお呼びします。」
O川先生の表情に曇りはない。全て順調、自分に言い聞かせる。へは通さぬ。
ただ一心に、お前達のやるべきことに集中すれば良い。』
あの場所。『聖域』の河口から遠い距離を越えて、一族最強の式が俺に話しかけている。
「とても心強いお話ですが、これは当主様のご指示でしょうか?」
『いや、我の意志だ。危急の場合、我らは独自の判断を許されている。』
「何故、私たちのためにそこまでして下さるのか分からないのですが。」
『礼、だ。あの酒は旨かった。だが、何よりお前達の気持が嬉しい。皆も喜んでいる。
ただし、期限は5日。それが限界だ。あとはお前達次第。さて、迎えが来たようだな。
細君の出産は明日、心してあたれ。』
闇は見る間に薄れ、廊下に小さな足音が響いた。姫だ。
「Rさん、どうしたんです。今の気配はまるで。」
「先月『聖域』の河口で会った、あの最強の式が味方をしてくれるそうです。
だから子供が生まれた後5日間は誰にも僕たちの邪魔は出来ない。心強いですよね。
それにSさんの出産は明日だと教えてくれました。もう部屋に戻って休みましょう。
明日は忙しくなりますよ、ドキドキしますね。」
「大丈夫です。私も、頑張りますから。」たし、あとは当座の荷物を車に積んで移動するだけ。」
「一体何があったんですか?」
「『上』から電話が有ったの。『不幸の輪廻』の活動がかなり活発になってるって。
活動がこれ以上活発になれば何が起こるか予想出来ない。
だからすぐに用意をして。今の段階で説明出来るのはこれだけ。」
Sさんが入院したのは翠を産んだ時と同じ部屋。家族も宿泊可能な広い個室。
週末を家族揃ってのんびりと過ごし、日曜の夜になったが出産の兆しは無い。
俺はさすがに不安になった。しかも不安の種はそれだけではない。
その夜、俺がなかなか寝付けなかったのも当然だった。
O川先生や看護師さんたちへの説明と協力依頼は済んでいるのか。
俺が尋ねると、Sさんは『大丈夫。』と言って微笑んだ。
しかし、本当に大丈夫か、見落としはないか、そう考えるとますます不安になる。
このままでは気配に気付いた誰かを起こしてしまう。
俺はそっと部屋を出て一階へ向かった。気分転換が必要だ。
自動販売機で飲み物を買い、待合室のベンチで眠くなるのを待つつもりだった。
エレベーターを降り、常夜灯の灯りを頼りに廊下を歩く。
しかしベンチに座っても不安は増すばかり、気分転換どころではない。
どれくらい座っていただろう。足許から声が聞こえたような気がして視線を床に落とした。
影? 薄明かりの中では不自然な程に濃い影が、床に伸びている。
見る間にその影は長く伸び、俺のすぐ隣の壁をはい上がった。
影というより、壁にぽっかりと穴が開いたかのような漆黒の闇。これはまるで。
0230名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:52:31.99ID:CU1A5tfH0
 姫と2人、廊下のベンチに座ってその時を待つ。
ゆっくりと、ゆっくりと過ぎる時間。じりじりする思いで待ち続ける。
30分程で分娩室のドアが開いた。姫が胸ポケットからそっとあの宝玉を取り出す。
事前に確認した手順通りだ。子供が生まれたら姫は宝玉をSさんに渡す。
そしてもし男の子なら、Sさんは宝玉をその子の足に嵌める。それで完了。
いや待て、それでは。
O川先生と看護師さんは男の子が女の子に変わったのを目の当たりにする。
何故それに気付かなかった?
かえって、それが『本当は男の子なのに』と強調する結果になりはしないか。
しかも一族の力の一端が人目にさらされる。その後の対応は一体どうすれば。
「Rさん、Lさん。 床に膝をつき、Sさんの手を握る。ずっと声を掛けて励まし続けた。
一時間近くが経っただろうか。
「もうすぐです。生まれますよ。」 Sさんが俺の手を一際強く握り返した直後。
「おめでとう御座います。やっぱり女の子ですね。」 O川先生は満面の笑み。
続いて産声が聞こえた。 姫がSさんにそっと宝玉を手渡す。
やがて△本さんがタオルにくるまれた赤子をSさんに抱かせてくれた。
あとはSさんが赤子の足に宝玉を嵌めるかどうか。
「あの、先生、もう一度性別を確認したほうが。」 ◎内さんの訝しげな表情。
腹の底がヒヤリと冷たくなる。何故だ?彼女には術が完全には効いていない。もしもこの後。
『そうです。性別が間違っていたら困りますから。』 軽い耳鳴り。
姫の『あの声』だ。微かに空気が震えている。
姫はふわりと近づいて、Sさんから赤子を受けとった。
『やっぱり女の子。ほら、Sさんによく似ていますよ。』
3人に向けて赤子を 6月27日、子供が生まれて5日目。
生まれた時刻は3時18分だったから、『御影』が設定した期限は今日の同時刻で切れる。
期限が切れた後は何が起こるか予想出来ない、当然外出は控えるべきだろう。
姫は大学を早退し、2人でお屋敷に戻って籠城の用意を済ませた。
翠に新しい絵本を何冊か買って病院に戻ったのが2時50分頃。ぎりぎり期限内。
その夜は何事も無く過ぎ、翌日も日中は特に変わった様子は見えなかった。
異変が起きたのは夕方。翠が欲しがった飲み物を買いに、一階の待合室に降りた時だ。
既に診療時間は終了している。人気の無い待合室。
玄関脇に並ぶ自動販売機の前まで来ると、玄関から異様な気配を感じた。
玄関のガラス越しにそっと外を覗く。玄関を出てすぐの場所にある小さな植え込み。
その前にボンヤリとした人影が立っていた。 ...まずい、あれは。
今までに見た、どの霊よりもおぞましいもの。
ケアンズのホテルで壁から生えてきた男も、ある男の部屋に現れた鬼も、
これ程までに禍々しい気配をまとってはいなかった。して見せる。 3人はボンヤリと赤子を見つめ、小さく頷く。
その時、Sさんが澄んだ声で歌い出した。3度繰り返し、新しい命を言祝ぐ歌。
一瞬ボンヤリしていた3人は、Sさんの歌声で我に返った。
Sさんの術と姫の術、最高のコンビネーション。
今度こそ大丈夫。
『◎内さんの言葉で皆が赤子の性別を確認した。確かに、女の子。』 それが3人の記憶。
O川先生も、△本さんも、そして◎内さん自身も。
そして宝玉を身につけた赤子は、今後3人だけでなく誰が見ても女の子。
取り敢えず山場を1つ越えた。あと7日間、何事もなければ呪いは発動しない。室へどうぞ。立ち会いをお願いします。」
我に返った。△本さんの声。師長を務めるベテラン看護師。
分娩室の中には看護師がもう1人、◎内さん。若手だが手際の良い人だ。
「Sさん、心強い味方が来ましたよ。」 O川先生が俺たちを見て微笑んだ。
分娩台のSさんがO川先生に右手を差し出し、O川先生がその手を握った。
「O川先生、私必ず元気な女の子を産みます。力を貸して下さいね。」
「その意気です。一緒に頑張りましょう。」
Sさんは△本さんと◎内さんにも手を差し出した。2人もSさんの手を握る。
「△本さんも、◎内さんも、力を貸して下さいね。きっと、女の子ですから。」
何故、『女の子』と二度繰り返したのだろう? しかもその前にSさんは3人の手を。
...そうか、術。確かに、これなら大丈夫。
Sさんは3人の視覚と記憶を一気に、そして確実に操作するつもりだ。
お正月のトランプで見せてくれた術、あの強力な後催眠暗示。
子供が生まれた瞬間にこの術は発動する。
そして生まれた子の性別に関わらず、3人にはその子が女の子に見える。
心から信じていれば口を滑らす心配は無い。恐らくこれが、最善の策。
0231名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:55:23.06ID:kW5ZQ6C00
 『部屋に戻れ。』 足元から聞き慣れた声が聞こえた。
管さん。しかしその大きさ、丸くなっているが体を伸ばせば優に2mはあるだろう。
「管さん。あの、どうしてそんな大きさに?」
『『不幸の輪廻』の活動が活発になれば、『良き理』の活動も活発になる。それが道理。
わしらは『良き理』から流れ込む力を借りて活動する。流れ込む力が増えれば、当然こうなる。』
「今、外にいるあれには、『不幸の輪廻』から力が流れ込んでいるということですか?」
『そうだ。だからあ ドアが、開く。
『ちょっとお邪魔するよ。』 初老の男性が立っていた。
あの川の神様、○瀬△□◎主之尊。
「〇瀬の主様!」 翠を抱き寄せ、俺は床に膝をついた。
『君に子が生まれたと分かったら、いても立ってもいられなくてね。』
川の神様は部屋の中を見回し、一人掛けのソファに腰を降ろした。
『あんな山の中まで来てもらうのは細君の体に悪いだろうし、私が出向けば済むことだ。
どうしてもこのタイミングでなければ困る仕事もあったし、ついでに立ち寄らせてもらった。
しかし込み入った仕事とはいえ、少々疲れた。歳のせい、かな。』
俺は床に両手をついた。
「本来こちらから伺うべきところ、誠に申し訳ありません。」
『気の短い年寄りが待ちきれずに祭主の子に会いに来ただけ。気に病む必要はない。
さて、この年寄りと祭主が揃えば此所は即席の社。R、聞かせてもらおうか。
生まれた子は姫君かな、それとも若君かな。』
「男の子、です。」
『そうか、どちらにしても目出度い。では顔を見せてくれ。』
俺はベビーベッドから赤子を抱き上げ、川の神様の前に跪いた。
『ふふ、母君に良く 念のため、授けられた勾玉と短剣は持ってきている。
しかし、新しく生まれた子まで護ってくれるかどうかは分からない。
その時、俺はさっき見た夢を思い出した。
「あの、もしかしたら対処の必要はないかも知れません。」
Sさんと姫は同時に俺を見た。 「Rさん、どういうことですか?」
「さっき、夢を見たんです。川の神様が『大丈夫だから帰る支度をしなさい』と仰って。」
「それ、ただの夢じゃないかも知れない。私も見たのよ、川の神様の夢。
『これから後に生まれる男の子には何の障りもない。』と、そして
『新しい勾玉を届けに来た。』と仰ったの。もしかしたら。」
俺は未だ解いていない荷物の中から桐の箱を取りだした。
短剣、そして勾玉。水晶、白瑪瑙、翡翠、そして。
もう一個、見慣れない勾玉が並んでいた。吸い込まれるような深い青。
その表面に輝く、夜空の星のような、細かい金色の微粒子。
「Sさん、これ。」 俺はその勾玉をSさんに手渡した。
「瑠璃、そしてラピスラズリ。これは『藍』の極致。やっぱり、正夢だったのね。」
Sさんは藍の左足首からあの宝玉を外した。そして右手に瑠璃の勾玉を握らせる。
「川の神様のお墨付きが出たのだから大丈夫、皆で帰りましょう。」いる。君以上の美丈夫になるぞ。この子の名は?』
「藍と名付けました。」
『姉君の名とも縁があり、君たちの家族を結びつける力の名と同じ音。良い名だ。』
川の神様は赤子の体に三度触れ、何事か呟いた。ゆっくりとソファから立ち上がる。
『これで良い、御陰神様のご機嫌を伺ってから帰るとしよう。
姫君も、ご機嫌よう。弟君を大事にしておくれ。』
川の神様は翠の頭を撫でてからドアへ向き直った。
俺は駆け寄ってドアを開け、深く頭を下げた。
『お前たちも帰る支度をしなさい。何者も、今のお前たちに害をなすことは出来ない。』
ドアをくぐった瞬間、川の神様の後ろ姿は消えた。普段よりずっと強い力を使える。
『御影』が決めた期限が切れたから、此処を探し当てることが出来たのだろう。
これから時が経てば、あれと同じようなものがもっと集まってくる。
『御影』が決めた期限は切れたが、勿論わしらがあれを食い止める。
しかし、今後なるべく此処には近づくな。早く戻れ。』
軽く頭を下げ、飲み物を買って部屋に戻った。姫が窓から外を覗いている。暗い表情。
「呪いは発動していないのに、何故あんなものが此処に。」
「さっき管さんは『不幸の輪廻』の影響だと言ってました。活動が活発化しているからだって。」
「明日で7日目、呪いの発動は止められると思うけど、退院する時が問題ね。」
そうだ、無事7日を過ぎたなら出来るだけ早く此処を出なければならない。
そして川の神様のお社で...しかし『もっと集まってくる』と管さんは言った。
そんな中、どうやって此の病院を出れば良い?
0232名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 05:58:46.07ID:66Qc2hxT0
 「本当に大丈夫なんでしょうか?」 そっと姫に囁く。
玄関の外に集まったものたちは、俺たちが出てくるのを待っている。
「神様を疑うなんて、罰が当たりますよ。」
姫が玄関のドアを開け、俺は意を決して一歩踏み出した。
さわ、と、空気が震え 3人で朝食を食べ、姫の持ち物を皆で点検した。やっぱり、過保護か?
姫を助手席に乗せて出発。念のため少し早めに出たので道は空いている。
姫はずっと黙って窓の外を見ていた。気のせいか、少し横顔が緊張しているように見える。
リサーチしておいた通り、姫の高校の裏門近く、広い路肩に車を停めた。
運転席から出ようとしたら姫が俺の左手を掴んだ。目にうっすらと涙を浮かべている。
「どうしたんです?」 「私、Rさんと...」 つい、俺まで泣きそうになる。
「大丈夫、学校が終わるまでにちゃんと迎えに来ます。それまでお互い頑張りましょう。」
「Rさんも、寂しいんですか?」 
「あたりまえです。こんな長い時間離れることなんて無かったんですから。」
姫はハンカチで涙を拭いた。濡れた頬にそっとキスをする。
およそ学校に行くこと自体が初めてなのだから、不安で寂しいのは無理もない。胸が痛んだ。
「ごめんなさい。私、大丈夫です。でも、もうちょっとだけ。」
姫は俺の肩に頭を預け、暫く目を閉じていたが、やがて背筋を伸ばして前を見た。
運転席から出て助手席のドアを開け、車を降りた姫に鞄を手渡す。
「行って来ます。」 「行ってらっしゃい。じゃあ、あとで。」 「はい。」
少しだけ目が赤かったが、姫は爽やかな笑顔になっていた。これなら大丈夫。
小さく手を振りながら裏門をくぐる姿を見届けてから、ゆっくりと車を走らせた。俺たちを中心にして、透明な波紋がゆっくりと拡がっていく。
集まっていたものたちのほとんどが、その波紋を避けるようにあ 新学期、姫が初めて登校する日。約束通り姫を高校に送るために少し早起きをした。
既にダイニングではSさんがお弁当を作っている。当分、送迎と弁当作りは分業制になる。
Sさんにおはようのキスをしてからコーヒーを飲む。それから姫の部屋へ。
高校生になるのだから、本来は目覚まし時計を使って自分で起きる方が良いのだろう。
しかし、ただでも生活が大きく変わる訳だし、いきなりそこまで要求するのは無理がある。
我ながら甘いとは思ったが、Sさんもこの点について何も言わなかった。
姫が自分から言い出さない限り、まだ暫くはこの役目を務めさせて貰えるだろう。
「Lさん、そろそろ時間ですよ。」 姫の部屋をノックする。
「はい、おはよう御座います。」 少しの間をおいて返事が聞こえたので部屋に入った。
姫はベッドの上で体を起こしている。まだ、ボンヤリしているが、そこが何とも可愛い。
「おはよう御座います。」 「私、今日から高校へ行くんですね。」
「そうです。いよいよあの制服が着られますよ。ダイニングで待ってますから。」 「はい。」なく逃げ去った。
残ったものも地面に伏して次第に薄れていく。微かに聞こえる呪詛の声にも力は無い。
傾いた日差しの中で、微かに見える。俺たちの体を覆う夥しい光の粒子、『光塵』。
Sさんも、姫も、翠も、もちろん藍も。全身が淡い光で包まれていた。
川の神様の残り香が、俺たちを護ってくれている。 胸の奥が熱くなった。
そして、Sさんの見た夢によれば、もう呪いが発動することはない。
俺の夢の中で川の神様が仰った『込み入った仕事』とは、この呪いを解くことだったのだろう。
長く一族を悩ませてきた呪いは、遂にその力を失った。 とても清々しい気分だ。
俺の後に翠と手を繋いだ姫、その後に藍を抱いたSさん。ゆっくりと歩を進める。
その後ろには小さな白い影が見え隠れしていた。
「そう言えば、私も見たんです。川の神様の夢。」 俺は立ち止まって振り向いた。
「どんな、夢だったんですか?」 姫の頬がほんのりと紅に染まった。
「『今回の働きは見事だった。』と誉めて下さいました。それから。」
「それから?」 俺とSさんは声を合わせた。
「『次は君が産む子を期待している。』と。」 姫はかがんで翠と視線を合わせた。
「ねぇ翠ちゃん。私が赤ちゃんを産んだら、嬉しい?」 「うん、うれしい!」
 お屋敷へ向けて走る車の中。窓から吹き込む風は軽く、乾いていた。もう梅雨は明ける。
やがて巡ってくる夏に先駆けて、家族5人の新しい生活が始まろうとしていた。
0233名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 05:59:03.63ID:0XXx9xvB0
金がいいです〜
0234名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:00:54.28ID:pRUfkGNz0
>>6
日の丸流したら韓国人発狂する
0235名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:01:49.09ID:w5mg60Gz0
 「あの、前から気になっていたんですけど。」 「なあに?」
「何ていうか、僕たちは三角関係、ですよね。いくら一族では珍しくないとはいっても、
SさんはLさんと気まずい事になったりしないんですか?」
「今まで気まずいことになった事があった?」 「いや、今までは無い、と思いますけど。」
「気を遣ってくれるのは嬉しいけど、今までもこれからも、気まずくなんかならない。」
「でも。」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「じゃ、あなたは嫉妬してたの?」 「僕が誰に、ですか?」
「あなたは私に許婚がいると思ってたんでしょ?その許婚に 「そう、あなたは私のことをこれ以上無いほどに尊重してくれる。
私たちの一族では、女性がかなり尊重されてるから、表立っての男尊女卑は存在しない。
でも、それに慣れてる私でも、あなたの心の動きには時々本 「ちょっと待って下さい!だってあのDVDは。」
「時間的な順番からすれば当然なんだし、別に責めてる訳じゃないわよ。
でも初めて一緒に過ごしたあの夜、あなたの心に彼女の姿が浮かんだでしょ?
『Sさんは彼女に少し似てる』って。さすがにあれは、彼女に嫉妬しても罰は当たらないと思うな。」
「いや、それは...今、今は違いますよ。」
Sさんはふわりと立ち上がってテーブルを回り込み、俺の左隣りに座った。
「誰か別の女性を見た時、あなたが『Sさんの眼に少し似てる』とか、
『姫の髪型に似てる』って思うこと、ちゃんと分かってる。きっとLも同じ。
私もLも、それがとても嬉しいの。だから今は、あのDVDの彼女にも嫉妬なんかしない。
あ、でもLにはさすがに刺激が強すぎるわね。」
一瞬、目の前が真っ白になった。きっと俺の顔も蒼白だったろう。
「あの、もしかして、LさんもあのDVDを?」
「まさか。セーラー服だけじゃなく、白衣の天使も大好きだなんて、私、絶対Lに説明出来ない。」
!? 思わず立ち上がった。
「白衣って!そんな詳しく調べたんですか?中身は。」
「もう、落ち着いて。Lに見られないように荷造りするの、苦労したのよ。
題名やパッケージの写真が見えちゃうのは仕方無いでしょ。それに、半分以上が」
俺は思わず耳を塞いだ。恥ずかしい、もう滅茶苦茶だ。
「あ〜あ〜あ〜聞こえない。聞こえません、聞こえませんよ。」 「馬鹿みたい。」
仰る通りです。 絵に描いたような、今まで経験したことのない、それは見事な、藪蛇。
でも恥ずかしさと同時に、俺の心は不思議な安らかさで満たされていた。驚かされる。
あなたは私を自分のものだと思ってはいない。だから嫉妬もしない。Lについても同じ。
最大限に尊重してるから年下なのに『Lさん』って呼ぶし、自分のものだとも思っていない。
「...Sさんも、Lさんも、僕を自分のものだとは思っていないということですか?」
「独立した魂を持つ誰かが、別の誰かのものだなんて、そんなこと絶対に有るはずがない。」
Sさんは目を伏せて自分の指先を見詰めた。呟くような声。
「どんな人にも天命がある。特に術者は、その天命に忠実でなければ。」
天命を果たすことが魂の旅路の目的なら、夫婦や家族の意味とは何だろう。
いや、長い旅路の途中で出会い、真に結ばれる魂。それこそが『良き縁』ではないか。
「それぞれの旅路の中で出会い、互いの魂が引かれ合うからこそ...」
「ご名答。まあ正直、私だって『呼び捨てにして欲しい』『あなたのものになりたい』って、
思うこともあるけれど。」 Sさんは顔を上げた。悪戯っぽい笑顔。
「それにね、私、嫉妬したことも有るわよ。あなたのことで。」 「誰に、ですか?」
「名前は知らないけど、女優さん。きっと、あなたの部屋に有ったDVDに出てる人ね。」
顔から音を立てて血の気が引いた。
俺は何故、PCの脇、あのDVD(R18指定)の山を忘れていたんだ?、してた?」
「いいえ。許婚がいるかもしれない人とこんな関係になって、
少し後ろめたいとは思ってましたけど。嫉妬する気には。」
「嫉妬は、相手を独占したいと思う気持ちから生まれる。自然な感情かも知れないけど、
夫婦や家族の結びつきを深めるのにはむしろ邪魔になる。その意味では邪念と言っても良い。」
「邪念、ですか?」
「あなたは今でも私のこと『Sさん』って呼ぶわね。どうして?」
「だって、Sさんは本当に綺麗で凄い人で。尊敬してるし、それに年上ですから。」
「好きな時に、そう、今だって抱けるんだから、この女は俺のものだって思わない?」
「いや、むしろこの状況が夢じゃないかと、今でも時々心配になるくらいです。
まして、Sさんが自分のものだなんて、とても。」
0237名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:05:25.60ID:PVbr+TAh0
初めて書き込ませていただきます。
長文な上、前置きも少し長くなってしまいますがお許しください。
私の夫が所謂「見える人」だと知ったのは結婚2年目になってからでした。
正月に夫の実家に帰った際に夫の幼馴染から聞かされて初めて
知ったのです。
結婚するまで4年一緒にいましたが一度も彼から霊感があるなどとは聞いたことがなく
私はといえば異常に感が良いと周りから言われますが見えない人間で怖がりなので想像もしませんでし帰国した後、息子が3歳になったばかりの頃のことです。
車に乗って家族3人買い物に行きました、その途中夫が「コーヒー買ってくる」と
ある私鉄駅の駅前にある広いコインパーキングに車をいれスタバに行きました。
私と息子は後部座席に座って待っていましたが
夫が車から出て行って1分も経たない内に息子の様子に変化が現れました。
キョロキョロと車の両側を落ち着きなく見ているのです。
いつもと違う何か切迫したものを感じた私は息子を落ち着かせようと思い
横にあった絵本を取ろうとしてはっとしました。
息子の歯が小さくカタカタ音を立てている、震えているんだと気づいたのです。

夫と同じく豪胆で怖がったことのない性格の息子の顔に浮かんでい何年も後にその時の話を息子や夫とすることがあったので(息子に怖い記憶を思い出して欲しくなかったので息子から話すまで禁句になっていました)いくつか判ったのは
外にいた幽霊らしき者達はそんなに古いものではなく、昭和の始め頃の人であったようだということ。(夫から聞きました)
車の中から私達を出したかったようだとも言っていました。
怪我と息子は言いましたが怪我どころではなく、手足が欠けていた人もいたこと
怪我以外に火傷の様な炭化したように見えた部分もあったこと
骨も見えたそうです
全員がとても怒ったような恐ろしい形相だったという事がわかりました。
今更ながらそれを見たときの息子の気持ちを考えると涙が出ました。
随分後になって、駅前でとても立地がいいはずなのにずっと昔からそこは駐車場で
その前は空き地だったと近所に長く住む方から聞きました。
その辺りで一番の地主さんがずっと所有している土地だそうです。
私たちが怖い目にあったのは2005年頃ですが
その土地は今でも駐車場のままです。
拙い上に長文失礼いたしました。は明らかな恐怖でした。

「どうしたの?お腹いたい?」と話しかけましたが息子は目を見開いてキョロキョロするばかり
只事ではないと感じました、「何が見える?怖いものいるの?」と質問を変えると
「あの人怪我してるよ」
「いっぱい怪我してる」
「血と黒いの黒いのいっぱい、痛いの」
私には全く見えませんでした
夕日から夕闇に変る丁度見難いときでなんとなく霞のようなもやっているような感じでした。
見えても怖いのでしょうが見えないものが傍にいるというのもとてつもなく恐ろしく
なんとか息子の恐怖をとってやりたい、守らねばを思い「どこにいるの?誰がいるの?」と聞きました。
息子は「家族なの、おじいちゃんとおじさん、おばあちゃんとお姉ちゃんとお兄ちゃん」と答えました。
様子と人数から車の両側からこちらに近づいて来ているようでした。
でも思い出してみると私が生まれてはじめての心霊体験をしたのも彼と一緒の時でしたし
時々「あれ?」と思っていたことにいくつか腑に落ちたりもしました。
ただ夫が何かを怖がる様を一度も見たことがなく、その幼馴染も「こいつは本当に豪胆だよ
小さいときから怖がったところを見たところがない」と言
っていたほどなので
時々「あれ?」と思うようなことがあっても夫の様子を見るとすぐ安心してしまっていたのです。

息子が生まれた時、この子も夫から何か受け継いでいるのではないかなと
少し不安に思ったりもしましたが、産んだ場所が夫の海外赴任で駐在した海外であったこともあり
毎日バタバタと忙しくしている間に時間が過ぎて行きました。

息子には常に何か見えていたようで
私には見えない何かと「きゃっきゃっ」と大きな笑い声を上げて遊んでいたり
おしゃべりしたりしていました、。
そしてそんなときは必ずうちの犬とネコ達が息子のベビーラックやベッドの周りを守るかのように囲んで座っていたのも不思議でした。
いくつも不思議なことがありましたが息子が楽しそうなのと
夫が「大丈夫」といったので見守ることにしたのです。
0238名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:08:14.26ID:B66j4V5c0
 少し開けた窓から流れ込む潮風、微かに混じるディーゼルエンジンの排気臭。
この街では比較的大きな港に俺は車を停めた。渡船や船宿の看板が幾つか見える。
地元では釣り場としてもメジャーな港らしい。途中の釣具屋で買った釣り情報誌を開く。
見知らぬ土地ではあるが、久し振りの釣りに俺の心は浮き立っていた。
『上』から指示された研修、平たく言えばある場所で修行をするために、
俺はその街に一ヶ月ほど滞在することになっていた。今まで滞在 この港でタチウオが釣れているという情報と、ポイントの地図を確かめた後で車を降りた。
途中の釣具屋で買い揃えた釣り具一式を持ってポイントの防波堤を目指す。
平日の午後、釣り人の姿は多くない。これなら防波堤のどこでもルアーが投げられそうだ。
その時。
突然の寒気と耳鳴り。反射的に『鍵』を掛け、立ち止まって辺りの様子を窺う。
目指す防波堤の方向から、何かが俺の意識を探っている。
『何処へ消えた?』 『勘違いか?』 『そんな筈はない』 『さっき確かに』
ねっとりと絡まり合う、複数の気配を感じる。次第に濃度を増す粘液質の悪意。
ああ、此所は駄目だ。メジャーな釣り場かもしれないが、俺に げんなりしてアパートに戻る途中、海岸線の道路脇に小さな漁港を見つけた。
灯台もと暗し。此所なら車を出さなくても徒歩でOK、駐車場に車を停めて様子を見る。
寂れた感じはするが荒んだ感じはない。トイレも綺麗に掃除されている。
少し歩くと防波堤が見えた。 足場も良いし、暇潰しの釣りにはぴったりだ。
一度アパートに戻り、駐車場に車を停めてから再度漁港に向かった。歩いて約15分。
防波堤の先端近くに数人の釣り人が見える。地元の常連さんだろう。
邪魔にならないよう十分に距離を取り、防波堤の真ん中辺りで釣りを始めた。
薄暗くなるとすぐにアタリが出て、1時間程で良型のタチウオを2尾釣り上げた。
タチウオの刺身と吸い物を加えた豪華な夕食。これからも気合いを入れて釣りが出来る。
タチウオ以外の魚が釣れるかも知れないし、食べきれない分は冷凍してお土産にすれば良い。
夕食後お屋敷に定時の電話を掛け、Sさんと姫、そして翠の声を聞いた。
自然に笑みが浮かぶ。最初の港での出来事はすっかり忘れて気分良く眠りについた。わない。
いわゆる心霊スポットでも、何かを『感じる人』と『感じない人』がいるのと同じ。
ここにいる『それら』は俺に強く反応した。当然何かの目的が有って干渉しようとした訳だ。
本格的に対処するには情報が足りないし、そもそも俺の術が通じるかどうか分からない。
悪い噂が無いのだから恐らく実害は出ていない。今後俺が近づかなければ問題ないだろう。
無理をする必要もないので取り敢えず放置。相手の様子に注意しながら車に戻る。
情報誌には他の港の情報も幾つか載っていたが、移動の時間を考えると現実的では無い。
『暇潰しと食材確保に釣り』という計画は、いきなり躓いた。中で一番大きな街。
藍が生まれてまだ四ヶ月、どうにも気が乗らないが、こればかりは仕方ない。
術の修行だけならSさんや姫に指導して貰えば済む話。
しかし、この土地にある期間滞在して修行することが必要なのだとSさんは言った。
「術者の個性によって、どの場所で修行するかは違う。縁の深い神様の下で修行すれば、
比較的短時間で感覚が研ぎ澄まされるし、基礎的な能力も高まる。それにね、この修行の
指示が来たのだから、『上』があなたを一人前の術者として認めたということ。
これから仕事の依頼も少しずつ増えてくるわよ。頑張って修行して来てよね、『お父さん』。」
0239名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:11:34.87ID:msGLlnwz0
 翌日、昼寝の後夕食の下準備をしてから釣りに出掛けた。
前日と同じで、薄暗くなるとアタリが出る。小型は丁寧にリリースし、
良型が釣れたらキープ。一尾毎に血抜きをし、レジ袋に入れる。
のんびりと釣りを続け、 通り過ぎる瞬間、少女は俺を見たが、すぐに海面へと視線を戻した。
そして俺が通り過ぎたタイミングを見計らうようにルアーをキャストする。
通り過ぎてから10m程、俺は立ち止まり海面を見るふりをして少女の様子を窺った。
短めの竿、小さなリール。リールのスプール(糸巻き部分)に肉抜き穴が並んでいる。
特徴的なデザインが懐かしい。S社のリール、『星座』の名を冠したフラッグシップモデルだ。
間違いなく95年型、父親から借りて使った時の感激を昨日のことのように思い出す。
もっと近くから見れば製品名や型番のロゴも確認出来る筈。
おそらく少女が父親か兄から借りて使っていたリールの記憶を再現しているのだろう。
死者が自ら望む姿で現れるのは知っている。
以前関わった事件では、女子高生の霊が持っていた刺繍入りのハ 明日からもあの港で釣りをするべきか、それとも二度と近付くべきではないのか。
夕食を作り、部屋に備え付けのTVを見ながら夕食を食べ終えても結論は出ない。
風呂から出た所でケイタイが鳴った。しまった、定時の電話を。
「どうしたのよ。30分も過ぎたら心配するでしょ?」 Sさんの声だ。
怒っている様子は無いのでホッとする。
「済みません。近くの港で釣り人の幽霊を見て、どうしようかと考えていたらつい。」
「釣り人の幽霊?」 「はい、顔に血が、真っ赤な血が流れていました。」
「...何か嫌な感じはした?恨みとか憎しみとか。」
「いえ、ただ一心に釣りをしているようで、特に何の感情も。」
「血が見えたなら、恐らく何かの事件か事故に関わってる。
十分に注意して、手に負えないと分かったら深入りしちゃ駄目よ。」
「え、でもまだどうするかは」
声を潜めてSさんが囁いた。
「あなただけに見えるなら縁があるって事だし。
第一あなた、あんな綺麗な女の子、絶対放ってはおけないでしょ?」
!?どうしてそれが少女だと...そうか、電話越しに俺の意識を。 思わず俺も声を潜める。
「ちょっと待って下さい。綺麗な女の子だからどうこういう訳じゃ」
「あ、L、電話来たわよ。翠もおいで。」 呼びかける声が聞こえたあと、Sさんはまた囁いた。
「今の話、Lと翠には内緒よ。絶対心配すると思うから。」 「了解です。」
姫と翠の声を聞いてから俺は眠りに就いた。
明日も朝早いし、修行は休めない。また、明日考える、それで良い。チが手懸かりになった。
しかし服だけでなく、持ち物=釣り具をこれ程細部まで再現するなんて。
それにしても、この少女に感情が感じられないのは何故だろう。
恨みや憎しみ、あるいは悲しみ。およそ感情らしいものは何一つ伝わってこない。
先日の港で感じた姿の無い悪意と憎悪の塊。この少女の存在はその対極にある。
一心に釣りをする姿を暫く眺めた後、俺はアパートに戻った。目をキープしたところで終了。しばらく夕日を眺めた。
その気になれば毎日でも釣りは出来るのだし、欲張る必要も無い。
ゆっくり釣り具をまとめて立ち上がると軽い目眩がした。立ち眩みか。
修行を始めて既に一週間、疲れも出る頃だろう。
深呼吸をしてから防波堤の上を歩く。10月下旬、既に夕方の風は涼しい。
ふと、風とは違う冷気を感じた。20m程前方に人影が見える。
違和感。自動的に拡張した感覚が警報を告げている。緊急度MAX。
そのあり方自体が俺とは違う。それはおそらく、人の形をした何か。
しかし其処を通り過ぎなければ帰れない。『鍵』を掛けて歩を進めた。
近づくと人影がルアーを投げているのが分かる。釣りをする、霊?
紺のジーンズにクリーム色のパーカー。俺より背は低い。
更に近づき、通り過ぎる直前に横顔が見えた。思わず息を呑む。
少女だ、そして。その白い横顔を伝う一筋の鮮血。
桃色の唇の脇を流れた血は、細い顎の先端から滴って、
パーカーの胸元に大きな赤い染みを作っていた。
0240名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:12:50.30ID:5zedvhta0
ドーピング崔藤
毎度お馴染み
水差し
0241名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:14:52.64ID:THUxsPcL0
 翌日、俺は昼寝の前に電話を掛けた。姫が大学に行っている間にSさんと話がしたかった。
「やっぱり、そろそろ電話が来るんじゃないかと思ってたわ。あの釣り友達のことね?」
「釣り友達どころか、まだ話もしてませんよ。」
「でも、放っておけないならまず話をして、友達にならないといけないでしょ。」
「放っておいた方が良いんでしょうか?でもあのまま放って置いたら、
そのうち『不幸の輪廻』に取り込まれてしまいますよね?」
「恨みや憎しみを感じな「もし、あの子と話をして、魂を体に戻す事ができたら。」
「もちろん魂が体に戻らなければ回復は望めない。
でも、魂が体に戻っても回復するとは限らないわ。逆の結果も 「分かりました。何か他には。」
「事件や事故の関係だとすれば、あの子の身元を突き止めるのは難しくないはず。
榊さんに頼んで調べて貰うつもりだけど、あなたはその結果を知らない方が良い。
事前に情報を知っていると、無心に会話することが出来なくなるから。」
「僕はあの子との会話だけに集中するということですね?」
「そう、それから。」 「はい。」
「もしあの子の感情に恨みや憎しみの気配を感じたら対応を一旦中断して。
電話してくれたらすぐに私が其処に行く。」
お屋敷からこの街までは車で半日近くかかる。出来ればそんな事態になって欲しくはないが、
あの子の魂が『不幸の輪廻』に取り込まれるのを術で防ぐことができるのはSさんだけだ。
「ありがとう御座います。頑張ってみます。」
「其処で修行してる間にあなたの力は強くなっていく。
強力な言霊が予期せぬ事態を招くかも知れない。くれぐれも言葉に気を付けて。」
「はい、肝に銘じます。」得る。」
魂が戻った事が引き金になって、体が死んでしまうこともあり得るということか。
「もし逆の結果になったとしたら、あなたは耐えられる?」
「正直、分かりません。」
話をして記憶を戻した途端、恨みや憎しみの感情が爆発する Sさんと電話した日の午後から降り始めた弱い雨が翌日も降り続き、
その日少女の姿は現れなかった。再び少女が現れたのはSさんと電話で話した2日後。
そろそろ時間だろうと思って車から降り、防波堤に視線を戻したら既に少女が立っていた。
夕暮れの茜空を背景に立つ、スタイルの良い細身のシルエットが鮮やかだ。
釣り具を持って防波堤を歩く、次第に少女の姿が近づいてくる。『鍵』は掛けていない。
「あの、済みません。此処で釣り、させてもらっても良いですか?」
少女はゆっくりと体を向けて俺を見た。冷たく透き通った黒い瞳。
やはり恨みや憎しみどころか、何の感情も感じ取れない。
しかし、その瞳には吸い込まれるような、抗いがたい不思議な魅力があった。性もある。
そうなればあの子の魂は『不幸の輪廻』に取り込まれてしまう。残った体は抜け殻だ。
しかし、放っておいても遅かれ早かれ同じ結果になる。それならば。
「でも、やっぱりあのままにしてはおけません。綺麗な女の子だからと言う訳ではなくて。」
「分かってる。相手が誰でも、あなたはきっとそう言うと思ってた。
でも、気を付けて欲しいことがあるの。」 「何でしょう?」
「あまり長くあの子と一緒にいるのは良くないわ。そうね、1日30分以内にして。
記憶を取り戻す前にあの子があなたに依存してしまったら、その後の対応が難しい。」しても、血を流しているとすれば...ねぇ昨夜はどうだったの?
やっぱり女の子の顔には血が?」 「はい、血が流れてました。」
「血は乾いてた?」 「いいえ、頬を伝って顎から胸に。それと。」
「それと?」 「影がありました。」 数秒間の沈黙
「本当に影?間違いない?」
「はい、僕と同じ濃さで同じ方向に伸びる影です。影のある霊なんて、変ですよね。」
「何度か見たことがあるわ、影のある霊。
もしそれと似たケースなら、血を流し続けているのも納得できる。」
思い出した。初めて姫と2人きりで泊まった温泉旅館。
そこに現れた女性の生霊は、月の光を背にしてはっきりした影を障子に映していた。
「あの子の体は、まだ、死んではいないということですか?」
「事件か事故に巻き込まれて大怪我をした。それで意識がない状態だと思う。」
0242名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:15:15.34ID:4gsIPTdr0
別スレで朝鮮人が「受賞したノーベル賞の全てが平和賞という平和の国」とか書いてたな
その理屈でいくと「獲ったメダルの全てが金メダルという最強の国」って言うんだろうな
0243名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:17:26.55ID:912uNDOq0
 「お前は、此処で釣りをしたいと言ったのか? 私に。」
まさかの男言葉。 外見と言葉遣いのギャップに驚いて俺はしどろもどろになった。
「え? あ、そうです。ルアーの釣りを、此処で。」
「それは構わない。だが。」 「はい。」
「私は釣りが下手だから、皆の邪魔にならないように此処で釣りをしている。
魚を釣りたいなら、お 「榊さんに調べてもらったんだけど、ここ数年の間では
それらしい事件や事故の記録が見つからないの。今はもっと前の記録を調べてもらってる。」
Sさんから電話が来たのは少女と初めて話した翌日の昼過ぎだった。
「病気、って可能性もありますかね?」
「病気で頭から血...脳外科とか?病院の入院患者も調べてもらうように頼んでおくけど、
事情が分かるまではくれぐれも用心してよね。そう、あの短剣、港にも持って行って。
もしあなたに何かあったら、私。」
受話器の向こうで涙を堪える気配。そうだ、4年前とは何もかもが違う。
Sさん、Lさん、翠、そして藍。俺にはもう、何よりも大切な家族がいるのだから。
受話器の向こうで心配してくれるSさんの姿を思うと胸が痛む。ここは何とか。
「大丈夫です。絶対に無茶はしません。それより。」 そこで初めて気が付いた。
俺が此所に来る度に、あの人影が4つ。何故かそれ以外に人影は無い。
いつも全く同じ景色。しかも少女が現れるのは晴れた日だけ。それも同じ。
そして、初めて少女を見る前に感じた、軽い目眩。
俺の世界に少女が現れたのではなく、俺が少女の世界に踏み込んでいるとしたら。
あの幻の川での釣り。記憶がフラッシュバックして、腹の底が冷たくなる。
もしかしたら少女に影があるのは、生き霊だからでは無いかも知れない。
「ルアーの違いかも知れませんよ、ほら。」
俺が使っているのはバイブレーションタイプのルアー。小魚を模しているのは同じでも、
ボラのような細長いシルエットのミノーとは違う。アイゴやメッキのような、平たいシルエット。
「ああ、これは見たことがある。だが、今は持っていない。」
一か八かの賭けにはなるが、俺の疑問を解くのには最高のチャンスだ。深呼吸。
「もし良ければ私の釣り具を使ってみませんか?」
「大事な釣り具だろう。良いのか?」 「もちろんです、どうぞ。」
少女は自分の釣り具を防波堤に置き、俺に右手を差し延べたあに?」
「病院関係者に伝があるなら、手に入りませんか?本物の白衣。」 「白衣?」
「見事にこの修行を終えて帰れたら、ご褒美にSさんの」
「馬鹿! ...忘れたの?セーラー服の時、ホントに大変だったんだから。」
電話越しでなければ頬か太股を思い切りつねられていただろう。
しかしそれでSさんの涙が乾くなら、つまらない自虐ネタも充分役に立つ。もっと別の場所を探した方が良い。」
俺を警戒している訳ではなく、心から忠告してくれているのは分かる。
しかしこの言葉遣い...高校生だとすれば5つは年下だろうに、俺を全くの子供扱い。
これではまるで時代劇のお姫様と従者の会話だ。思わず笑みが浮かぶ。
相手の気を悪くさせてしまっては元も子もないし、ここは従者を演じた方が良いに決まってる。
「実は昨日、此処で魚を釣ったんです。」 「本当か?」
「はい、良い型のタチウオを2尾、それで今日も此処でと。」
「そうか、なら好きにすると良い。」 「ありがとう御座います。」
少女はそれきり黙ったままルアーを投げ続けた。自分で言うほど下手には見えない。
そこそこ飛距離も出ている。これなら何時魚が釣れてもおかしくない。しかし彼女は...
その時俺にアタリが来た。重い引き、90cmクラスか。釣り上げたタチウオを手早く処理して
持参したレジ袋に入れる。鋭い歯で袋を破らないように魚体を丸めるのがコツだ。
0244名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:19:13.11ID:e6H2tPAp0
俺たちジャップは何やらせても1番になれないよね。
遺伝子に何か欠陥でもあるのだろうかorz
0246名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:20:33.26ID:tnraD6Rs0
 出来るだけ平静に、手が震えないように釣り具を差し出す。
...あっけないほど無造作に少女は釣り具を受け取った。
やはり生き霊ではない。俺の知っている術とは桁違いの力。服や釣り具どころか、
その『領域』までも作り出す程の力はともかく、この少女は生身の、生きている人間だ。
少女の力が作り出したこの領域に、少女自身が囚われている。
恐らくこれが、『神隠し』。姫の言葉通りだとすれば此処では時 腕時計を確認しながら、俺はルアーを投げた。少女もルアーを投げ続ける。
突然、少女の竿が大きく曲がった。あの時と、同じだろうか。幻の川で釣った川魚。
やがて少女はタチウオを 少女はパーカーのフードを脱ぎ、血濡れの髪をかき上げた。
「此処だ。何が見える?」
額の右上、髪の毛の中に異様なものが見えた。高さ3cm、幅2cm位。
厚みは5〜6mm、やや斜めになった断端。白っぽい材質が血を吸って赤黒く染まっている。
何かの破片...これは鏃(やじり)、か。動物の骨から削りだした鏃が折れたのだろう。
恐らくは飛んできた矢が頭骨に刺さった衝撃で。しかし、なんという酷いことを。
「多分、鏃だと思います。鏃の、破片かと。」
「鏃、か。」 少女は一瞬遠い目をした。
「出来れば、抜いてほしい。私には出来ないから。」
少女は無造作に左手でそれを掴んだ。ジリジリという音、肉の焼ける匂い。
「私が触るとこうなる。火傷は直ぐに治るが...何か、抜く方法はないか?」
少女の左手、酷くただれていた親指から中指が見る間に修復され 一体、少女がこの領域から出られるのかどうか。
出られないとして、この領域内に病院があるかどうかも分からない。それなら。
「試してみたいことがあります。ちょっと待って下さい。」
俺はリュックの中から短剣を取りだした。あの年の大晦日、△木野の主様から授けられた短剣。
姫は此の短剣を『理由無く抜いてはいけない』と言った。『収まりがつかないから』と。
それなら、この剣を使う以外に方法を思いつかない今こそ、その時だ。
深呼吸をして短剣を鞘から抜いた。滑らかな感触。
微かに黒みがかった銀色の刃が、月の光を反射して光っている。
短剣を一目見て、少女の表情が変わった。
「何故、人間がその短剣を持っている。お前は、何者だ?」
「陰陽師です。まだ駆け出しですが。この剣ならあるいは、その鏃を抜けるかもしれません。」
少女は黙って俺を見詰めた。じぃん、と、胸の奥が痺れる。今、少女は俺の心を。
「精妙な術を使い、天地の精霊の力を借りるものたちか。 面白い、やってくれ。」
少女は防波堤に腰を下ろし、両足を海面に向かって垂らした。
そしてパーカーのフードの端を噛み、眼を閉じる。最後に小さく頷いた。準備完了という意味だ。く。
しかし、俺の手ではこうは行かない。とても素手では。
だからといって、外科で処置してもらう訳にもいかないだろう。上げた。80cmを軽く越える良型。
タチウオの傍らで立ち尽くす、少女の影。
「釣れた。初めて。」
この機を逃してはならない。慎重に言葉を選ぶ。そして深呼吸。
「あなたは、その魚を食べるのですか?」
「食べる?」 少女は驚いたように俺を見た。
「はい、私は釣った魚を食べるために釣りをします。あなたは?」
防波堤の上で身を捩るタチウオの姿が急速に薄れ、やがて、消えた。
「私は、待っているのだ。釣りをしながら。」
「何を、それとも誰を、待っているのですか?」
少女が右手で頭を押さえて俯いた。大量の鮮血が防波堤に散る。
「駄目だ。思い出せない。思い出そうとすると、いつもこうだ。」
「怪我を、しているのですか?」れが止まっている。
一体どのくらい前から、いや待て、あのリールは95年型。少女が18歳だとすれば...
「この竿は、軽いな。その分ルアーが重く感じるが。」
0247名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:23:39.91ID:I9XKMi9G0
『約束(下)』

 それから十数分後、少女は俺の部屋の布団に横たわっていた。
何とかあの領域が消滅する前に脱出出来たようだが、やはり少女の意識が戻らない。
鏃の破片を抜いたのがまずかったのか。しかし少女は。
その時、ケイタイが鳴った。
「何だか胸騒ぎがして電話したの。今、Lは翠とお風呂に入ってるから。
今日榊さんから電話があ 「どうやら本当にただ事じゃなさそうね。鏃の破片を抜いた後、短剣は鞘に収まった?」
「はい。ただあの子が意識を失ったままなので、急いで連れ出したんです。」
「連れ出した、って。何処から?釣りをする港からってこと?」
「あ、それを最初に説明するべきでした。多分、あの幻の川での釣りと同じです。
彼女は特別な領域の中にいて、其処に踏み込んでいたのは僕の方でした。」
「あの子は幽霊じゃなく、神隠しにあった人間だったのね。
それなら榊さんが見つけ 「うん、良い返事。答えがNoなら、そのまま寝かせて朝まで様子を見る。
答えがYesなら...」 「はい、答えがYesなら?」
「話の途中で何が起きても慌てないで。絶対に悪い事は起きないから。
でも、ただ事じゃないと思ったら眼を伏せて、絶対に見ては駄目。絶対に。」
「見てはいけないって、一体何故ですか?」
「調べてみないとハッキリしないし、具体的に何が起こるかは言えないけど、
『人間が見てはいけないこと』が起こる可能性があるの。
だからお願い。私の言うとおりにして。ね、絶対に、見ては駄目よ。」
Sさんの声は微かに震えていた。もともと、俺がSさんを信じるのに細かい説明など要らない。
それにあの子がただの人間ではないことは俺が一番良く知っている。
『人間が見てはいけないこと』が起こるとすれば、俺が感じた通りだということだろう。
「分かりました。ただ事でないと思ったら眼を閉じて絶対に見ません。約束します。」
受話器の向こうでSさんが小さく息を吐いた。
「じゃあ、術を教える。 電話を切り、時折少女の傷の様子を確かめる。
指の火傷ほどでは無いが、順調に傷口は治りつつあり、出血も止まっていた。
傷口が完全に塞がったのは夜中前、午後11時過ぎ。
傷のあった場所がやや赤みがかってはいるが、既に髪の毛も再生されていた。
これなら大丈夫。傷の様子を確かめながら準備は済ませてある。
大丈夫。今が、その時。
術を使って数分すると少女は目を覚ました。
枕元に座る俺を暫く見詰めた後、ゆっくりと上体を起こした。
もちろん白い頬に血の跡はなく、唇の色にもやや生気が戻っている。を取って。」 「はい、お願いします。」
俺は説明を聞きながらメモを取った。特別な代も要らないシンプルな術、これなら俺にも使える。
「もうLと翠がお風呂から出るし、私もこの件を調べてみる。だから電話、一旦切るわよ。」
「はい、ありがとう御座いました。」料が行方不明者の...R君、あの子他に何か言ってなかった?
なぜ自分が此処にいるのか、なぜ頭に矢を受けたのか、そんなこと。何でも良いから。」
「矢の事は分かりません。でも『何のために釣りをするのか』と聞いたら、
『待ってる』って言ってました。」
「何を待ってるって聞いたら、傷が痛んで出血が酷くなるのね?」 「はい、そうです。」
「R君、落ち着いて良く聞いて。あとで簡単な術も教えるからメモの用意もしてね。
彼女の傷口が完全に塞がったのを確認したらその術を使う。それで彼女は多分目覚める。
目覚めたらもう一度話を聞いて。忘れていた記憶が戻ったかどうか。此処までは良い?」
「はい、メモの用意も出来ました。」、それらしい行方不明者の資料が見つかったって...
あなた、一体どうしたの?あの子に、何か変わったことがあったのね?」
「誤解されることはないと思いますが、彼女は今、僕の部屋で寝てます。」
数秒間の沈黙。
「...寝てる、あなたの部屋で。一体どういうこと?」
「あの子の頭に鏃の破片が食い込んでいました。出血はその傷からで、
思い出そうとするとひどく出血するから抜いてほしいと言われました。それで短剣を。」
受話器の向こうでSさんが息を呑む気配。 「本当に、あの短剣を、抜いたの?」
「はい。鏃に彼女が素手で触ると火傷するんです。火傷がすぐに治るのも見ましたが、
素手で抜けないならあの短剣を使うしか無いと、そう思って。」
0249名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:26:15.49ID:7OoyJPTKO
なにがメダルラッシュだ
金意外はメダルじゃねよ
いまだに金メダルが取れないて日本の恥だな
0250名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:26:18.42ID:7Lu8PQH40
 「お前のお陰で全部思い出した。礼を言う。」 微笑む少女に俺は黙って頭を下げた。
「生まれた時から私は奇妙な質で、父母は相当に苦労したようだ。
小学校に入学しても友達一人作れない私を、父は良く釣りに連れて行ってくれた。
そしてあの日、私たちは出逢った。」
少女が語る言葉は暖か 「何が、有ったんですか?」 少女は右手の中指で涙を拭ってから顔を上げた。
「あの方が私を迎えに来た時、言いつけを守らずに目を開けてしまった。
あの方の、本当の姿を見てはいけなかったのに。」
「もしかしてそれは、あの鏃のせいだったのではないですか?」
「どんな言い訳も 『詫びを言うべきなのは、私だ。お前の気持ちがあまりに嬉しくて、油断した。
だから、あの忌まわしい呪いの矢から、お前を、護れなかった。
しかし今日その傷が癒えたからには、お前の望みを叶えたい。
そのまま人の世に居たければ、一生の幸せを約束する。
父母始め、お前の縁の者に不自由はさせないし、もう、決して油 参道に続く階段の手前、狭い駐車場に車を停め、助手席のドアを開けて跪く。
今年、桃花の方様をある場所にお送りした時、Sさんから習った作法。
俺に出来る最上の礼を尽くさねばならない。そう思った。
差し出された手を取って車を降りる補助をする。 「ありがとう。」 鮮やかな笑顔。
少女が参道の方向に向かって歩き始めたのを確認してから、俺は振り向いた。
これは...
参道の入り口に篝火が焚かれ、参道の両側には五色の幟がたなびいている。
俺が毎朝通ってきた時の寂れた感じとは全く違う、厳かで華やかな雰囲気。
目が慣れてくると階段の上り口に白装束の人影が跪いているのが見えた。
上り口の両側に3人ずつ、計6人。巫女さんのようだ。巫女さんどころか、
普段の社務所には管理をしている年老いた男性が一人いるだけだというのに。
俺は少女の後を、少し離れて歩いた。未だ役目は終わっていない。
少女は階段の上り口の手前で立ち止まった。ゆっくりと振り返る。しない。』
「人の世に、私の幸せは無い。何度も言った筈だ。」
『本当に、人の世に帰る気は無いのか?』
『無い。許されないならあの港に戻る。許されるなら、約束通り、お前の嫁になる。』
少女の声の響きが変わっていた。
ただ一本の呪いの矢によって長く中断していた魂の変容が、完成しようとしている。
『許すも何も、悪いのはあの矢。お前は何一つ悪いことはしていない。
私が、臆病だったのだ。本当の姿を見られて、お前に嫌われるのが怖かった。
それで『目を閉じていてくれ』と。もしその目を閉じていなかったなら、
お前があの矢を受けるなど万に一つも有り得なかったのに。』
『矢を受けても、目を開けるべきではなかった。だから、私が悪い。許してくれ。』
『私の本当の姿を見たのに、嫁に来てくれるのか?』
『何度も言わせるな。私は約束を守りたい。お前の下へ、行きたい。』が無い。私は言いつけを守れなかったのだから。
それから私にはあの港がただ1つの居場所になった。
重なり合う2つの世界の狭間、『何処でもない場所』が。」
「でも、昨夜あなたは彼処から出ました。これから、どうするつもりですか?」
少女は再び俯いた。小さな肩が震えている。
「詫びが、言いたい。 一言、あの方に。」
少女が呟いた途端、俺の部屋をその存在が満たした。厳かな、何処か懐かしい気配。
俺は正座をして頭を下げ、畳に手を着いた。硬く目を閉じる。
そう、これは、決して『人が見ることを許されない』場面。しかし一抹の後悔を含んでいるように思えた。
「あの方と共に過ごす時間が愛しくて、私は父にせがんで度々釣りに出掛けた。
そして私が中学生になった年、私たちは約束をした。
16歳になったら、私はあの方の嫁になると。」
やはり、ただの神隠しでは無かった。信じられないが、これは、現在進行形の異類婚説話。
「父は黙って許してくれた。母は少し泣いたが、やはり許してくれた。
『このまま人の世に住んでもお前は幸せには慣れないから』と。それなのに。」
少女は言葉を切って俯いた。両手で握りしめた布団の端に落ちた涙が染み込んでいく。
0251名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:26:28.72ID:0XY3v+R00
自分と何の関係もない赤の他人がメダルとって嬉しいものなの?
糞どうでもいいわ
0253名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:27:44.77ID:DtP92H570
メダル3つも取った競技の裏で放送されてる月9の視聴率が心配ですね
0254名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:27:55.79ID:uH/WUq6b0
面白くなってきたな
まだまだメダル取れる競技いっぱいある
0255名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:28:29.61ID:Qaf8Wss60
 『此処までで良い。色々と苦労をかけたな。』
少女の前でもう一度跪く。この任を解いて頂く時だ。
「いえ、私は何も。むしろ、このようなお役目を頂き光栄でした。」
『一緒に釣りが出来て楽しかった。あのタチウオ、絶対に忘れない。
旅立つ前に良い思い出ができた。心から、感謝する。』
「はい...」
それは、一体どれほど重い決心だったろう。
少女が辿ってきた道程とその苦難を想うと、言葉が出ない。
無力だ。俺の力も、言霊でさえも。 ただ涙だけが溢れる。
頭を下げた俺の目の前で向きを変えた少女の足が、もう一度向きを変えた。
『人間だった時の名を、憶えておいてくれないか。縁あって私が人の世に生まれた、その証に。』
「は、今何と?」
少女の膝が曲がるのが見えた。俺の耳にかかる温かな吐息、爽やかな芳香。
『 い ず み 』 『万物を育む、清らかな水の源、『泉』 「何時までそうしてるの?」
聞き覚えのある声。振り向いた俺の直ぐ前にSさんが立っていた。
「Sさん、どうして?」
「どうしてって。あなたの電話で事情が分かったから直ぐに飛んできたの。
先回りして神社の祭主と連絡を取ったって訳。必ずこうなると思ったから。
祭主は神隠しの件を憶えていたから話が早かったわ。
あ、駐車場の車、気付かなかった?まあ、あんな状況なら無理もないけど。」
「でも、彼女が別の選択をする可能性だって。」
Sさんは両手で俺の頬を挟んだ。温かい感触。
「この私に2人も子供を産ませて、未だ女の気持ちが分からないの?
別の選択をするつもりなら自分を神隠しにする必要なんか無いでしょ。
記憶もないのに、そして文字通り血を流しながらでも待ち続けられたのは、
こうなることを彼女が心から望んでいたからじゃないの。
そしてあなたの適性なら成功すると信じたある御方が、この御役目をあなたに任せた。
そうでなければ、これ程の御役目、とても人間に担えるものじゃ 「Sさん。僕は。」 また、涙が溢れた。止められない。
俺は、跪いたままSさんの胸に顔を埋めて泣いた。
哀しいのではない、嬉しいのでもない。でも、どうしても、涙が止まらなかった。
「全く、子供みたいね。誇りに思いこそすれ、泣く事じゃ、無い、でしょ。」
Sさんの涙声が、俺が経験したことの不思議さと、その重さを示している。
どれ位そうしていただろう。いつの間にか辺りは薄明るくなっていた。
「もう、落ち着いたでしょ。さ、立って。それから、あの鏃を頂戴。」
「鏃?」 「そう、これは私の役目。さ、上着の胸ポケットよ。」
俺は言われるままに上着の胸ポケットに触れた。柔らかな感触、その中心の固い芯。
あの、鏃の破片を包んだタオルの包みだ。一体、何時の間に?
Sさんは俺のポケットから包みを取り、無造作にそれを解いて矢尻の破片を左掌に置いた。
「Sさん、それを素手で」 Sさんは右手の人差し指で俺の唇を押さえた。『黙って』の合図。
目を閉じて深く息を吸い、小声で何事か呟いた。
Sさんの集中力が高まっていく、チリチリという音が聞こえるようだ。
やがて、目を開けた。左掌の上、鏃の破片をボンヤリとした光が包んでいる。 これは。
次の瞬間、Sさんの左手が一本の矢を握っていた。 赤黒い鏃、真っ黒な軸と矢羽根。
「返れ・・・の矢は射手へ。」
Sさんが掌を開くと、呪われた矢は、まるで手品のように、消えた。。
あなたには、いつも本当に驚かされる。でも、とても誇らしいわ。御役目、御苦労様。」
事の重さに気が付いてから、その重圧に負けまいと張り詰めてきた気持ちの糸が、
Sさんのその言葉をきいてプツリと切れた。
信じられぬ思いで俺はその言葉を聞いていた。まさか、こんな事が。
「誓って、忘れません。」 やっとの思いで言葉を絞り出す。
少女の足は向きを変えた。遙かな世界へ向かう、軽やかな足取り。
0256名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:29:19.96ID:7QMh7ImL0
ソチの8枚に並べば万々歳や
行けそうやな
0257名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:29:50.03ID:0JNr+qh50
 「はい、これでお終い。荷物まとめて、一緒に帰りましょ。」
「でも、まだ修行がまだ一週間以上残ってますが。」
「これ程の御役目を果たした時点で、祭主の印可は降りてる。もう修行は終了。
それとも、新婚さんのお社に毎日毎日早朝からお邪魔するような真似をするつもり?」
いや、確かにそれはまずいだろうけれど、俺の借りたアパートは。
「え〜っと、アパートの駐車場は一台だけしか。」 「ロータスは此処へ置いていくわ。」
成る程、そういうことか。一度2人で荷物をまとめて。
「後で取りに来るんですね?」 「違う。この社に納めるの。」 「へ? 車を?」
「そう、神様のお嫁さんを乗せてお送りしたのよ。デザインや材質は違『約束(結)』

 少し開けた窓から晩秋の冷たい風が吹き込んで来る。
Sさんが運転する車の助手席で、俺は紅葉に染まり始めた山の景色を眺めていた。
『少し仮眠をしたら』とSさんは言ったが、未だ興奮が醒めず、とても眠れたものではない。
「やっぱり、眠れない?」 「はい。何だかテンションが上がり気味で。」
「あの御方に恋、しちゃったかな? あんなに綺麗じゃ、忘れられなくても仕方無いけど。
嫉妬する気にもなれない位だったし。」
「恋、じゃありませんよ。人間が神様のお嫁さんになるなんてことが、
どうして起こるんだろうと、それを考えていたんです。」
「お嫁さんだけじゃなくてお婿さんもいる。神婚説話、知ってるでしょ?」
確かに、相手が神なら、それは異類婚説話ではなく神婚説話だ。
「はい、ただ、それは。」
「単なる言い伝えで、本当にあるとは思わなかった?」 「そうです。」
「何の具合なのか、極く希に起こるみたいなの。神に近い魂が人の体に宿ることが。
本人も家族も、とても辛い境遇に置かれることになる。特に近代以降はね。
実は、Lの母親もそう言われていたみたい。『後々は神の嫁になる娘』って。
でもあの人は、人の世に 「あの、本当に手に入れてくれたんですか?白衣。」
「そうよ。頼む時、すごく恥ずかしかったんだから。感謝してよね。」
一体、Sさんはどんな顔をして頼んだんだろう。思わず笑みが浮かぶ。
「もちろん、感謝感激雨霰ですよ。ところで。」 「何?」
「今夜、着て見せてくれるんですよね。どのみち光塵のお陰で寝不足は決定だし、
光塵の灯りで見る白衣はきっとロマ、あ痛たたたた。」
「馬鹿!」
「だって、僕に見せてくれるために」 「知らない!!」 「痛いですってば。」
「あ、そうだ。最後に1つだけ教えて下さい。」 「なあに?」
「あの矢です。あれは『呪い返し』ですよね。」 「そう、私が頂いた御役目。」
「あの矢は、誰に返したんですか?」 「本当に、知りたいの?」
「それはもちろん、誰が彼女に矢を射たのか、知りたいですよ。」
Sさんは深呼吸をして目を閉じた。
「海岸、今はあの街の北側にある大きな港になってる。
かなり力の強い邪神だったみたいね。もう既に始末は付いたけど。」
街の北側の大きな港。それはおそらく、俺が最初に訪ねた港。
なら、あの気配こそが。そして、俺に干渉しようとした理由も何となく分かった。
「ねぇ、どうしたの?」 「何でもありません。運転、変わりましょう。」

 俺の中で変わったこと、変わっていないこと。
俺は今更のように、『出会い』から過ぎた時間の重さを感じていた。

『約束(結)』 完る事を選んで、Lを産んだ。
その魂と『強すぎる力』が生み出す負荷に耐えられず、早死にすることは承知の上で、ね。も、
この車は立派な御神輿。今後この車は社宝として祀られる。一般には公開されないけど。」
「でも、Sさんはこのロータス気に入ってたんじゃ?」
「あらゆる人外に、優れた術者が此処にいますと宣伝して歩くようなものよ。
幾ら何でも目立ち過ぎる。どのみち今後私たちの仕事では使い物にならない。」
そうか、神社の駐車場、『本体』が近過ぎて今は見えないが、おそらく光塵の数と明るさは。
「そう、それにね。」 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「当然『上』が社宝として買い上げる訳だから損はしない。
それどころか多分同じ車何台か買ってもお釣りが来る。帰ったら直ぐに検討しなきゃね。」
0258名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:30:49.75ID:/fjUmcZc0
 「式を挙げる代わりに写真を撮ろうと思ってるんです。ちゃんとした写真館で。」
「結婚の、記念写真ってこと?」
「はい、親しい人たちには後でその写真を配れば良いかなと思って。」
「...それならまあ、それでL、着物、それともドレス?」
「あの、ドレスにしようと思ってます。着物はいつも着てますから。」
「じゃあドレスは『○×◎』で仕立ててもらえば良いわ。私が頼んであげる。
それに『○×◎』は写真館も兼ねてるからお誂え向き。ふふ、何だか楽しみね。」
Sさんは席を立って玄関へ向かった。早速『○×◎』に電話をかけるのだろう。
姫と俺が予想していた通りの展開。とても楽しそうだし、相変わらず気が早い。
『○×◎』は市内にある洋裁店兼写真館で、一族の人が経営していると聞いていた。
Sさんや姫は昔からお洒落着を仕立てて貰っていたらしい。
Sさんも姫も、普段からほとんど肌を露出しない。
姫も高校生になった頃から、夏でもノースリーブのワンピースをほとんど着なくなった。
今時のデザインから2人 その日の夕方、夕食の支度をSさんに任せて翠と遊んでいると玄関の電話が鳴った。
数回の呼び出し音に続いて電子音、さらにFAX用紙が吐き出される音。
「『○×◎』かしら。ドレスのデザインと見積もりを頼んだのは昼過ぎだから、
幾ら何でも早い気がするけど。R君、お願いね。」
「了〜解。」 俺は翠を抱き上げて玄関へ向かった。
電話は未だFAX用紙を吐き出し続けている。デザインの候補は何種類かあるのだろうか?
最後のFAX用紙、末尾に記されていた文字と文様。『○×◎』の連絡先ではなかった。
腹の底が冷たくなる。これは『上』だ。つまり仕事の依頼。
俺は慌ててFAX用紙を並べ変えた、最初の用紙に記された件名。
『ポルターガイストに類似した事象に関する依頼について』 「確かにポルターガイストみたいですけど、これも陰陽師の仕事なんですか?」
「依頼者がキリスト教徒でないなら教会に頼む訳にもいかないし。まあ、仕方ないわね。」
夕食を済ませ、翠と藍を寝かしつけてから、Sさんは俺と姫をリビングに招集した。
配られたコピーを一通り読むと、その依頼の事件は確かにポルターガイストに良く似ていた。
湯呑みとお椀、それに本がひとりでに移動するという。
テーブルの上を動くのではなく、空中を飛んで移動するらしい。それも数mの距離を。
これまでに二度、いわゆる霊能者に依頼したが、霊能者の前ではこの現象が起きない。
取り敢えず祈祷や御祓いをして貰ったが効果はない。まあ、これも典型的だろう。
俺は依頼者の家族構成が気になった。
ポルターガイストが起こる家には、家族に思春期の女の子がいることが多いと聞いた事がある。
「いわゆるポルターガイストは、思春期の女の子と関係してると聞いたことがありますが。」
「5歳の男の子が1人。女の子でも思春期でもないし、この現象との関わりは分からない。
指定された日付けは3日後。物に関わることは私の領域だし、アシスタントは。」
「僕が行きます。Lさんは『○×◎』との相談があるかも知れませんから。」
依頼を受ければ下調べや準備でSさんが外出する事が多くなる。
それは、俺と姫が進めている計画にも好都合だった。
「おとうさん、『ぽるたーがいすと』ってなあに?」
「え〜っと、これはお父さんとお母さんの新しいお仕事の名前。」 「ふ〜ん。」
少し不満そうな翠を抱いたまま、俺はダイニングへ急いだ。みに合う服を探すより、仕立てて貰う方が早いのだろうし、
オーダーメイドだからサイズもピッタリで良く似合う。
俺も『○×◎』の服は(というか『○×◎』の服を着た2人が)大好きだった。
0259名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:31:42.90ID:pGLTqE/z0
 3日後は土曜日、みんなで昼食を済ませた後、俺はSさんを乗せて車を走らせた。
たまたま代理店に在庫があったのを即決で購入した以前と同じ型・同じ色のロータス。
違うのは年式だけ、当然ながら運転していて全く違和感は無い。快適なドライブになった。
依頼者の家は隣の○県△◎市、比較的古い町並みが残る地域。
「資料の住所からするとこの辺りですけど、細い路地が多くて分かり難いですね。」
「ちょっと其処のバス停に停めて頂戴。電話して聞いてみるから。」
依頼者の家は町並みの中でも一層古色蒼然とした小さな日本家屋。
ポルターガイストという言葉とは、どうにもかけ離れた雰囲気だ。
家の中に案内してくれた女性はYさん、ご主人は他県に単身赴任中で息子さんと2人暮らし。
俺たちはこぢんまりとしたダイニングに通された。
居間と土間をあわせてリフォームしたのだろう。4人分の椅子、細長いテーブル。
廊下を隔てた部屋は畳敷きの和室、調度も古びた和風のものが多 「資料は全部読みましたが、今の所実害は無いようですね。
現在も変化がないのであれば、特別な対策を講じなくても良い気がしますが。」
Yさんは溜息をついた後、現象が次第に変化していることと、
その現象があの男の子に与えている影響について話し始めた。
「おかしな事が起こるようになったのは今年の8月頃です。
最初は私の思い違いかと思いましたが、9月の始めに本が飛ぶのを見たんです。」
「念のために聞きますが、落ちたというのとは、全然違うんですね?」
「はい、あの本棚からこのテーブルまでふわふわと。時間は2〜3秒、だったと思います。」
Yさんが指さした和室の本棚からこのテーブルまではざっと5〜6m。
当然、何かの拍子に落ちた本が移動する距離ではない。
「9月中頃からはお椀や湯呑みも移動するようになりました。」
「それも実際に見たことが?」 「はい、息子と一緒に見たこともあります。」
Yさんは一旦言葉を切って俯いたが、やがて、意を決したように顔を上げた。
「一番怖いのは息子のことなんです。息子はお椀が飛ぶのを見てとても喜びました。
そしてそれ以来、ひとりで遊ぶ時間が極端に長くなりました。」
「時間以外に、普通のひとり遊びと違う所がありますか?」
「息子が居間にいる時、他の誰かと一緒に遊んでいるような気 「剛君、私たちお母さんに頼まれて剛君とお話をしに来たんだけど。」
「僕、何も知らない。この家の中に友達なんていないよ。」
男の子の顔は冷たく強張っていた。おそらく以前に依頼した自称霊能者たちにも
色々聞かれて嫌な思いをしたのだろう。かなり強く心を閉ざしている。
「何かを聞きたいんじゃないの。知らない人たちに色々聞かれて、最近剛君が元気がないから
応援してほしいって、お母さんに頼まれたわけ。私たち、魔法使いだから。」
「魔法使い?」 少しだけ男の子の表情が緩んだ。
「そう、信じられないかも知れないから良い物見せてあげる。」
Sさんは持参したスーツケースから小さな鋏と紙を取り出した。いつもとは違う、黒い紙だ。
鋏で手際よく黒い紙を切り、それを左掌の上に乗せた。
「これ、何だと思う?」 「蝶々。」 「そう、紙の蝶々。ね、右手を出して。」
Sさんは男の子の右掌に紙の蝶々を乗せた。小声で何事か呟く。
男の子はじっと掌の上の蝶々を見ている。
「じゃ、その蝶々、天井に向かって飛ばしてみて。思いっきり強く。」
男の子は力一杯、紙の蝶々を投げ上げた。やはり、これは。るんです。
話し声がしたり、突然笑い声が聞こえたり。もし何かが息子に干渉しているとしたら、私。」
「実際に誰かと話しているのを見たことはないんですね?」
「はい、私が居間に入るとそれらはピタリと止みますから。」
ふと気配を感じて振り向くと和室の奥に小さな男の子が立っている。
人見知りなのか、俺が振り向くとすぐに奥へと引っ込んでしまった。
Sさんは男の子のいた方向をチラリと見たあと、挨拶もそこそこに依頼の話を始めた。
0260名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:32:54.35ID:65LkVNtM0
ソチに続いて今回も結構メダル取れそうだな
0261名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:33:36.55ID:qLuJarTS0
間に、 わずか2〜3分後。ロウソクの長さもほとんど変わらないうちに小さな物音がした。
食器棚の扉が滑るように開く。息を呑むYさんに、Sさんは『黙って』の合図をした。
開いた扉の奥から花柄の湯呑みが3口、浮き上がった。ふわふわと飛んで床に移動する。
次に木製のお碗が2客、同じように飛んで床に移動した。どれも床からは2cm程浮いている。
湯呑みとお椀は床から浮いたまま、ゆらゆらと揺れながら直径50cm程の円を描いて
ロウソクと杯のまわりを回り始めた。何とも奇妙で信じられない光景だ。
更に本棚から飛んできた文庫版の本が3冊、行列に加わった。
『・・うれし・・・ぬうち・・ひゃくとせ・・・でたき・・・』
微かに音楽が聞こえてくる。まるで祭のお囃子のように賑やかな調子と歌声。
これは..似た光景を以前どこかで見たことがある。
そうだ、付喪神。年を経た古道具が変化した妖怪たち。
顔や手足こそないが、これは百鬼夜行図に描かれる付喪神そのものではないか。
しかし。確かにどれも古そうだが100年も経っているとは思えない。
少なくとも文庫本は100年前には無かった筈だ。
それなら、やはり何者かがこの茶碗や本を動かしていることになる。
それが、ポルターガイストの本体。イタズラ好きの、霊。
その本体である霊を、Sさんは一体どうするつもりだろう。そっと様子を窺う。
俺はSさんの指示通り、ダイニングの床に必要な物を準備した。
依頼に応じる際、Sさんが持参するスーツケース。通称『お出掛けセット』。
余程特殊な依頼でなければ、ほぼその中身だけで対応が可能な品々。
まずは白い杯に日本酒を注ぐ。黒い杯、こちらには米粒を盛った。
小さな燭台に細いロウソクを立てる。その間Sさんは鋏で紙細工をしていた。
銀色の星形、金色の半月形、そう言えば昨夜は下弦に向かう半月。
最後に白い紙から小さな鳥の形を切り抜いてテーブルの上に置いた。そして。
Sさんは立ち上がり、暗くなったダイニングの壁に切り抜いた星と月を貼り付けた。
貼り付けた星と月に両手をあて、目を閉じて何事か呟く。
「これで準備完了。ポルターガイストにしろ、何か別のものにしろ、怪異が力を増すのは夜。」
全てのカーテンを閉めきって灯りを消した室内は、昼とはいえかなり暗い。
その中でSさんの眼が輝いている。まるでこれから起こる事を楽しみにしているようだ。
「Yさんはこの椅子に座って下さい。護符を渡しておきますから、何が起きても大丈夫。
ただ、私が良いと言うまで声を出さないで下さい。良いですね?」
「はい。」 YさんはSさんから受け取った護符を首にかけた。
「さて、始めましょう。R君、ロウソクに火を点けて。」 「了解です。」
床に置いた燭台のロウソクにライターで火を点ける。
ロウソクに火が灯ったその瞬間、何故か部屋が更に暗くなった気がした。
俺もSさんの隣の椅子に座り、3人で床の杯とロウソクを見詰める。
白い杯に注いだ日本酒がロウソクの光を反射して妖しく光っていた。子の頭の上を大きな黒いアゲハチョウが一片、優雅に飛び回っている。
Yさんも信じられないという表情で蝶々を見つめていた。
『剛君、これから暫くの間、眠ってて頂戴。』
アゲハチョウはゆっくりと男の子の肩に舞い降り、紙の蝶々に戻る。
同時に男の子の目が閉じ、すうっと体の力が抜けた。
「眠っているだけですからご心配なく。R君、お願い。」
俺は男の子の体を廊下を隔てた和室に運んだ。母親が持ってきた毛布をかける。
「ポルターガイストがその家の子供と関係していたという事例もありますが、
剛君が寝ている状態でも何かが起こるとすれば、剛君は関係ありません。」
「でも、これまで来て頂いた方々の前では何も起こりませんでしたから、今回も。」
「それは、初めからポルターガイストだと決めつけて、その現象を止めようとしたからです。」
「ポルターガイストを止めないんですか?」 Yさんは不安そうな顔をした。
「ポルターガイストかどうか、確かめてみないと分かりません。
それにはまず、この現象の本来の姿を知る必要があります。
だから止めるのではなく、逆にお膳立てをするんです。
何の邪魔も入らない状態で、一体何が起こるのかを見るために。」
0262名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 06:34:25.16ID:uty0YkMr0
 Sさんは微笑みを浮かべて道具達の行列を見つめている。
俺の視線に気付くと、Yさんには見えないように、ゆっくりと口を動かした。
す・て・き・ね Sさんの口はそう言っている。素敵?この行列が?
さらにSさんの口が動く。 も・う・す・ぐ これ以上、何かが起こるというのか。その時。
ガタン。廊下を隔てた和室から大きな音がした。
大きな和箪笥、一番上の引き出しが抜け落ちそうな程に大きく開いている。
その中から薄い木箱が浮き上がった。
ふわふわと宙を飛び、お椀や文庫本の行列近くに着地する。
お椀や文庫本の動きが止まった。音楽も聞こえない。
木箱の蓋がパタンと跳ねて開いた。大小様々な油紙の包みが5つ並んでいる。
一番右端の包みがゆらりと浮き上がった。油紙がひとりでにほどける。鋏?
鋏はそのままふわふわと宙 古道具たちの異様な宴に見とれていると、家の彼方此方から音が聞こえてきた。
家鳴りのような大きな音、コップがぶつかり合うような高い音。
まるで家中のあらゆる道具たちが宴に加わろうとしているようだ。
まずい、このままでは収拾がつかなくなる。
すい、とSさんが右手を伸ばした。掌に紙細工の鳥が載っている。
『とう・・こう』小さく呟いた瞬間、掌の上には鶏、赤い鶏冠の雄鳥が乗っていた。
十姉妹よりも小さな、玩具のような雄鳥だ。雄鳥が羽をパタパタと羽ばたかせると、
部屋中から聞こえていた音が一斉に止み、列の動きが止まった。そして、
雄鳥は小さい体に似合わぬ大きな時の声を上げた。
ふらふらと浮いていた道具たちは一斉に床に落ち、湯呑みが1口俺の足元に転がってきた。
そっと拾い上げる。 !? 熱い。 まるで、ついさっきまで熱いお茶が入っていたようだ。 数分後、カーテンを開け、明るくなったダイニングのテーブルに道具たちが並べられた。
湯呑みが3口、お碗が2客、文庫本が3冊。そして木箱が1つ、その上に鋏が一挺。
「この道具たちに、共通点がありますね?」 Sさんは優しくYさんに問いかけた。
「はい、どれも、祖母が使っていたものです。この家はもともと祖母のものでしたから。」
「お祖母様は、系統は違えど私たちと同業、優れた術者だったんですね。
依頼された弊や代を切っている御姿を、見たことがある筈です。」
Yさんは息を呑んだ。「あの、どうして、それを。」
「まず、この件の依頼です。あなたがどんな伝でこの依頼をしたのかは知りません。
でも、術者に何の関係もない人が、私たちに依頼をする方法は無いんです。
つまりこの依頼をしてきた時点で、あなたは『関係者』。そして。」
Sさんは木箱の上の鋏を手に取った。まず全体を、そして刃の部分をじっくりと眺める。
「この鋏は術者が幣や代を切る時に使っていたものです。おそらく200年位前のもので、
今この型の鋏を作る職人はいませんし、その技術も伝えられていません。
壊れると術者が確実に廃棄しますから、おそらく現存するものはごくわずか。
私も実物を見るのは初めてです。時代の割にとても状態が良いのは、
ここぞという時にしか使わない『取って置き』だったからでしょうね。」
Sさんは大切そうに鋏を油紙で包み、そっと木箱の中に戻した。
「何人かの術者が受け継いできたこの鋏を、縁あってお祖母様が受け継いだ。
そしておそらく今年、この鋏は霊力を得て付喪神に変化したんです。
そして、お祖母様に縁のある古い食器や文庫本たちがその霊力に感応した。」
Sさんが俺の手から湯呑みを取り上げて微笑んだ。
「これでお終い。R君、ご指名みたいだから鋏以外のものを片づけて。鋏は私が片づける。」び、刃を上に向けた状態で列のほぼ中心に移動した。
お椀や文庫本がゆらゆらと揺れ、行列は再び杯とロウソクの周りを回り始めた。
お囃子と歌声も聞こえてくる。前より音が大きくなっているようだ。
0263名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:36:46.28ID:2Oj4IDmS0
「じゃあ、今までの...」
「はい、これはポルターガイストではなく、『付喪神の宴』です。
もちろん年を経た道具が全て付喪神になる訳ではありません。
この鋏のように、特殊な用途で使われてきた道具が幾つかの条件を満たした時だけ、
付喪神に変化する可能性があります。百年以上の歳月は、その条件の1つに過ぎません。
私たちの資料でも確実な記録は数件、明治時代初頭の一件以来、約130年ぶりの記録。
極めて珍しい貴重な事例、私たちとしてはむしろこの家ごと保存しておきたいくらいです。」
呆然とSさんの話を聞いていたYさんは暫く黙っていたが、やがて頭を振った。
「いくら祖母の持ち物でも、どれほど珍しい事例でも、無理です。私には...
あの、古道具なら、塚を作って供養出来ませんか。針供養みたいに。」
突然、テーブルの上の木箱が音を立てて揺れた。Sさんがそっと左手で箱の蓋を押さえる。 俺は必死で以前Sさんから教えて貰った記憶を辿った。
「まず、この鋏は壊れている訳ではないので、塚を作って供養する方法は使えません。
それに、変化した直後の付喪神には人間の霊のような善悪の基準が無いんです。
それまで御利益をもたらしていたとしても、ちょっとしたきっかけで
怖ろしい祟りをなす存在に容易く変化してしまう。そして。」
そう、おそらくYさんに取ってこれが一番大きい問題だろう。
「剛君と付喪神の間には、既に繋がりが出来ています。
おそらく剛君は心の中で付喪神を擬人化し、一種のイマジナリーフレンドとして
とらえている筈です。それをいきなり失えば、剛君の心の平衡が崩れてしまう。
そうなると、どんな影響があるのか全く予測がつきません。」
「でも、このままでは私も剛も...一体どうすれば。」
「私に、引き取らせて頂けませんか。箱ごと、この鋏を。」
「え、引き取るって?」 Yさんは驚いたようにSさんを見詰めた。
「私たちにとってはとても貴重なものです。それに。」 Sさんは木箱の蓋をそっと撫でた。
「私の適性はお祖母様と同じ、これも何かの縁でしょう。
鋏を引き取らせて頂ければ、この件に関して報酬は一切頂きません。
それと、剛君には代わりの『お友達』を作り、暫くの間それを残しておきます。
剛君の交友関係の発展に合わせて、その存在がゆっくりと薄れていくように。
それで全て解決、如何です 県境に向かう山道、ロータスは快調なエンジン音を響かせている。
「Sさん、質問があるんですが。」 「なあに?」
「あの鋏、どうするんですか?」 「どうするって、私が使うのよ。『取って置き』にして。」
「ちょっと待って下さい。わざわざ付喪神をお屋敷に持ち込むんですか?」
「有るべき所に落ち着いて新しい役目をもらえば悪さはしないわ。
それに、あの鋏が使えたら、いざという時私の術も強化される。式が一体増える程度だし、
翠も藍も式で慣れてるからほとんど影響は受けない。だからお願い、ね。」
Sさんは大袈裟に両手を合わせた。 全く、この人は。
しかし実際、俺はSさんが何体の式を使役しているのかを知らない。
「『上』に止められる可能性は無いんですか?」
「もちろん。だってあれはあくまで道具で祭具じゃない。
それに、今あの鋏を使いこなせるのは、一族の術者の中で私だけだもの。」 
思わず笑みが浮かぶ。いつも通りだ。こと『術』に関して、この人の自信が揺らぐ事は無い。
得意そうな、イタズラっぽい笑顔。それが本当に、愛しい。
「仕方無いですね。でも本当に、気を付けて下さいよ。」
「ありがと。あなた、愛してる。」 Sさんは俺の左頬にキスをした。」
「是非、それでお願いします。」 Yさんはホッとした表情で深々と頭を下げた。
そのまま、二言、三言。何事か呟いた。 Yさんは怯えた眼でそれを見詰めている。
「その方法も含めて、この現象を鎮める上で幾つか問題があります。
R君、Yさんに説明してあげて。」 「あ、はい。」
0264名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:40:51.22ID:b8BJ0x4Y0
翌日、朝からSさんは上機嫌だったが、
姫と一緒に出掛けた『○×◎』から帰って来ると、少し不機嫌になっていた。
それは更に翌日の月曜日、今日になっても続いている。
「もう良い加減に機嫌直して下さいよ。僕もLさんも息が詰まりそうです。」
「だって、私、太ってたのよ。新しいドレスの採寸だったのに。ウエストが3cmも。」
家族皆で写真を撮る時のために、Sさんも新しい黒のドレスをオーダーしていた。
「2人目の子供を産んでウエスト+3cmなら奇跡的じゃないですか。
それに、胸も大きくなってるんですから、バランスは崩れてないし。
むしろ僕は今の方が好きです。全然問題無いですよ。」
方便ではない。Sさんは出逢った頃より雰囲気が柔らかくなり、俺はそれが嬉しかった。
「ホントに?」 「はい。3人目も年子、間違いないって感じですね。」 「う〜ん、それは。」
ようやく良い雰囲気になった所で玄関の電話が鳴った。Sさんが受話器を取る。
「はい...そうですか。いいえ、潔い覚悟だと思います。私た 11月26日、姫の誕生日。朝食の後、俺と姫は役場に出掛けて婚姻届を出した。
一度お屋敷に戻り、今度は家族5人で『○×◎』に出掛ける。
既にスタッフは準備を整えて待っていてくれた。姫のドレスが壁に掛かっている。
姫が選んだウェディングドレスは細いウエストから裾が大きく広がるデザイン。
長身で細身の姫にとても良く似合う。お伽噺から抜け出したような、文字通りの、お姫様。
薄いメイクと着付けを終えた姫の姿を見てSさんは涙ぐんだ。
「素敵。L、あなた、とても綺麗よ。」 Sさんはすっかり母親代わりの気分らしい。
「有り難う御座います。」
「Sさんのドレスも仕上がってますよ。着付けとメイク、今度はSさんの番です。」
「え、だって私は。」
『○×◎』のスタッフがドレスに掛けられていた覆いを取った。純白のウェディングドレス。
Sさんのために俺と姫が相談してオーダーしたドレスだ。
こちらは体のラインを強調した大人っぽい、それでいて肌の露出が少ない清楚なデザイン。
「何かプレゼントを用意してるのは分かってたけど、まさか、変な夢を見た話です。最初見たのはほんとに小さいころであやふやだったんですが、なぜかまた見て思い出しテキストファイルに書き記していたのを整理してたら見つけたので
投稿させてもらいます。このテキストファイルは二年位前に書いたものでした

友達と遊びにいこうって話になり、駅まで歩いていたら友達が車にはねられてしまった
そこで救急車を待ってるところに別の友達が駆けつけて、僕を慰めてくれてた
いきなりその真横にいた友達の首から上がなくなってて、後ろに鉄板が転がってた
事故で飛び散ったガードレールやら車かわからないけど、それの破片が飛んできてたので立て続けに二人の死に目を間近で見てしまった
その現場から近いところにある祖母の家に転がりこんでその日を明かそうとしたけど、寝れるはずもなく家を探検してた
そしたらアルバムみたいなのを見つけて中を見たら死体とかそういう写真がみっしり貼ってるアルバムで、後ろから祖母が来て「みちゃったね」
って言って目が覚め、これが一日目です
 二日目、続きから見て、何これってたずねたけど変事がなく早く寝なさいの一点張りでしぶしぶ布団に入って
夢の中で寝るっておかしな話ですが、気づいたら朝になってて祖母と知らない二人の男が話してた
それで男の一人がいきなりもう一人の男を刺して祖母が逃げろみたいなことを叫んで刺された
必死で逃げたと思ったら一日目見た事故のところになって、二回目の事故が起きたところで目が覚めた
 三日目、またその続きから夢を見て、ここで祖母の家に言ったら刺される、と覚えていたので家に戻ったら
家の中が真っ暗でさすがに誰か親がいるはずとおもって真っ暗な部屋の中で母親が椅子に座ってた
おかしいなと思いつつ話しかけても返事がないので、電気を付けて近寄ってみたら母親の顔がそぎ落とされて死んでた
そしたら後ろに二日目の刺した男が立ってて自分も刺される!と思ったところで目が覚めた

なんかおかしな夢だなあとおもって目が覚めたと同時に揺れたのでまだ夢なのか!とおもったらその揺れは阪神淡路大震災でした
そして二度目見たときはちょうど休みで昼寝してたときで、3回に分けてみた夢を1回で全部見た
また変な夢見たけ
「おかあさん、ないたらダメ。おいわいだから。」 「そうね。ごめん、ね。」お任せ下さい。」
0265名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:41:11.19ID:F/Ydv2DT0
〇〇さん「日本に金メダルはいらない、あえてね」
0266名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:42:34.84ID:X0PhnGjo0
>>1
高々、3個で「メダルラッシュ!」とか片腹痛いワ。

金、銀、銅の三種類揃い踏みなら未だしもw
0267名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:43:06.95ID:5XLS7Ee60
                 スッ
            i⌒i スッ
      ./ ̄\ | 〈|   韓国のゴリ押しうぜーんだよアナウンサー
      | ^o^ | / .ノ||
      ,\_// ii|||| バチーン!!
    / ̄   / iii||||||  バチーン!!
   / /\   / ̄\ii||||      .'  , ..
 _| ̄ ̄ \ /  ヽ \从// ・;`.∴ '     
 \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \__) < ,:;・,‘  
  ||\       / NHK\, ..
  ||\|| ̄ ̄ ̄ |-○-○-| 韓流ブーム だから
  ||  || ̄ ̄ ̄, d ∴)ё(∴b 
    .||      `ー==―′  世界は中国.韓国.北朝鮮だけ!
           / ̄   ̄\         
         / /\   / ̄\
       _| ̄ ̄ \ /  ヽ \_ 
       \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \__)
        ||\          \
        ||\|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
0268名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:44:15.00ID:C1dqK8RH0
沖縄に行った時の話。
知り合いのつてで会ったHさんに案内してもらって、
首里城とかハブ園とか、いろんな所を回った。
まあお決まりの観光コースなんだけど初めての沖縄は楽しかった。
で、Hさんと話してるうちに仲良くなり飲みに行くことになった。
Hさんちの近所の沖縄居酒屋に到着。
本場で飲むオリオンビールは格別に旨い。ガブガブいける。
ラフテー旨い。ミミガー旨い。豚足旨い。名前忘れたけど刺身も最高。
泡盛も飲む。Hさんの日に焼けた笑顔と白い歯が眩しかった。
名前分からんけどツブツブのついた海草サラダがサッパリして美味しい。
豆腐を発酵させたやつは俺的に無理だったけどHさんにあげると喜んで食った。
周りの客も寄ってきて飲み食い。色々話して楽しかった。
オーナー自慢の古酒(くーすー)という酒が出された。Hさん大喜び。
かなり美味しかった気がするがこのへんでかなり酔ってる俺。
タクシー呼んでホテルに帰ることにした。
タクシーに乗ってしばらくボーッとしてた。
そこで ふ と気づいた。どこ走ってるんだ?って。
もちろん初めての沖縄だからここがどこかなんて分からないんだが、
なんか違う気がして運ちゃんに聞いた。
「あのー、どこ行くんですかこの車?」ろれつが回ってなかったかも知れないけど。
「ぐそうですよね?」答える運ちゃん。やっぱ違った。そんなとこ知らん、行かん。
「いや、国際通りの××ホテルです」そう言うと、
「あー違いましたか、すみません。カカカ」って笑った。
その瞬間、オエーッ『玉の緒(上)』
 微かに、女性の悲鳴が聞こえたような気がした。
俺は暗闇の中にいる。此処は、あの悲鳴は、俺の見ている夢なのか。
「止めて!どうしてこんなこと。」 もう一度、ハッキリ声が聞こえた。 これは、Sさんの?
何故こんな切羽詰まった声を。 その直後、いきなり視界が開けた。 これは。
目の前の床に血の海が拡がっている。その中に俯せに倒れている女性と小さな女の子。
女性は抱きかかえるようにして小さな女の子に覆い被さっていた。
視界がぐるりと動き、壁際に蹲る女性の姿が見えた。俯いて赤子を抱きかかえている。
目の前に腕が現れた。男の腕。刃物を握っている、これは、あの短剣だ。一体何故?
男の腕が視界の右側に消え、女性の姿が大きくなった。女性に、近づいているのか、俺は。
女性がこちらを向いた。蒼白い顔。 まさか、Sさん。 では、この赤子は藍?。
右手に微かな痺れを感じた瞬間。
視界の右側から男の腕がSさんに短剣を振り下ろすのと、
Sさんが藍を庇うように左手をかざすのが見えた。
右手に嫌な感覚が残り、足元に真っ赤な血飛沫が散る。
Sさんの左手は力なく垂れ、それでも必死に藍を庇おうと動いていた。
信じられないというような表情。頬を伝う涙。
「あなた、どうして...」てものすごい勢いで吐いた。
やばいと思ったけど止まらない。口からも鼻からもゲロ。苦しい。
あらかた吐き終わって涙とゲロまみれでむせながら
「すみません!すみません!」て謝った。
「意識が戻ったぞ!もう大丈夫だ!」て声。
目を開けて周りを見ると、救急隊員、Hさん、居酒屋のオーナー、野次馬。
俺は店の入口の前に倒れてた。「よかったよー」って泣き笑いのHさん。
後で聞いたところ、フラフラと店を出てその場でぶっ倒れたらしい。
それで意識不明。呼吸なし。すぐに救急車呼ばれたんだって。
で、その間に変な夢を見たとHさんに話したんだけど、
「危なかったよそれ…行き先確認して良かった」だって。
説明してしまうと運ちゃんの言ってた「ぐそう」てのは地名じゃなくて、
「後生」と書いて「あの世」のことだったんだ。
あれから酒が飲めなくなった。
0269名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:45:12.51ID:zW+1uzL80
 思わず飛び起きた。 図書室? あれは、夢か。
全身に冷や汗をかいていた。 右手を確かめる、大丈夫だ。 血の跡などない。
窓の外、空はうっすらと明るい。 昨晩、俺は資料を調べるために夜更かしをしていた。
そのまま居眠りをしたのだろう。でも一体何故あんな夢を。
感覚は鈍かったが、あれはおれの腕だった。 そして、川の神様に授けられた短剣を。
思い出しても身震いする。俺がSさんと藍に斬りつけるなんて。
あの状況が、全く理解出来ない、待て、血の海に倒れていた女性と小さな女の子は。
姫と、翠だ。あれ以前に、俺は2人にも手をかけたのか?
図書室を飛び出して廊下を走った。階段を駆け上る。
...大丈夫。Sさんの寝室、ドアの向こうから4人の気配を感じる。
ぐっすりと寝ているようだ。ノブにかけた右手をそっと離した。
ただの悪夢。わざわざSさんや姫を起こす必要はない。俺は自分の部屋で服を着替えた。
今日は土曜日、姫の送 「また欠伸、4回目よ。体調悪いの?」
「いいえ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで。続きをお願いします。」
俺の『勉強』の時間、Sさんが様々な系統の術を基本から教えてくれる。
その間、翠と藍の面倒を見てくれるのは姫。当然俺の『勉強』は土日か休日。
「直接の身体接触を通じて掛ける術は、単純だけど効果が大きい。
簡単な行動の強制くらいなら相手の意識がなくても可能だし、
相手には術を掛けられた記憶さえ残らない。
霊質の関係で、ごく希にこの系統の術が効かない人がいるけれど、
それだけ気を付けていれば、費用対効果が抜群に良い術なの。」
そうだ、あれは藍が生まれた時。
O川先生と看護師さん、3人の視覚と記憶を操作するために、Sさんはこの術を使った。
しかし、看護師の◎内さんには術が完全には効かず、それを補完したのが姫の術。
おそらく事前にSさんは◎内さんの霊質に気が付いていたのだろう。
だから姫に出産の立ち会いを頼んだ。そして、あの時『頼りにしてる』と。
あらかじめ相談が出来ていたとしても、本当に見事な連携プレーだった。
「ちょっと、R君。今度は何?」 目の前でSさんの掌が揺れている、まずい。
「あ、いや、この術。僕にも効くのかなと思って。」
「僕にも、って。私、前に掛けたことあるでしょ、あなたに。忘れたの?」
「え〜っと、言い方が悪かったです。僕が僕に掛けても効くのかな、ということで。」
Sさんのキョトンとした表情。 「あなたがあなた自身に? この術を?」 「はい。」 目を閉じて、言葉を練る。 俺の無意識に語りかける、出来るだけ簡潔な指示。
『もし俺が家族を傷つけようとしたら、すぐに自分自身を始末する』
今朝方見た夢、あんなことが絶対に起きてはならない。そのために、この術が使える。
練り上げた言葉に『力』を込め、血液に乗せて左の薬指に送り込む。そんなイメージ。
目を開けて左手の薬指を舐めた。あとはこの指を額に。
「待って! 何するの。」 Sさんが両手で俺の手を止めた。 とても冷たい感触。
Sさんは両手で俺の左手を掴んだまま、何事か小声で呟いた
やがて、俺の薬指の先端に、小さな紫色の光が現れた。まるで、紫色の火花。
それは、一度強く輝いた後、ゆっくりと降下し、テーブルの上で小さく跳ねて輝き続ける。
もう一つ、また一つ。次々と小さな光がテーブルに舞い降りてゆく。
呪力を光の粒子に還元する、極めて高度な術。『○◆の雪』。
光が現れなくなると、Sさんは両手を離した。
「馬鹿!」 平手、俺の左頬が派手な音を立てる。痛。
「自分自身を始末するなんて、術を、そんな風に。」
「御免なさい。でも、有り得ない指示なら害はないかな、と。」
「有り得ないって...始末ってことは自殺、なのよ?万が一。」
「その前です。例えば僕がSさんを傷つけようとするなんて、絶対に有り得ません。
僕はSさんが大好きだし、それに。」
「それに?」 Sさんの表情は少し緩んだが、眼差しは鋭いままだ。
「もし僕がおかしくなって、翠や藍を傷つけようとしたら、
Sさんは僕を止めてくれますよね?その、例え僕を殺してでも。」
「効く、でしょうね。でも、術を掛けたこと自体忘れてしまうんだから、意味が無いでしょ?」
「そうですね。でも、この術の練習には丁度良いです。他の人には影響が無いですから。」仕事の予定もない。少し眠れば気分も良くなるだろう。
しかしベッドに入った後も、右手に残る嫌な感触と、あの時のSさんの表情が忘れられない。
結局、それから朝食の時間が来るまで俺は一睡も出来なかった。
0270名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:46:24.91ID:YknVJkRd0
 Sさんはテーブルを回り込んで俺の右隣に座った。
「R君、どうしたの?あなた、今日はおかしいわよ。何故そんな事言うの?」
「夢を見たんです。」 「夢?」 「はい、僕が短剣、川の神様から 電話を終えたSさんの表情は硬く、緊張していた。
これは仕事の依頼ではない。間違いなく何か、悪い知らせ。
昼食を終え、翠と藍が昼寝をしている間に、Sさんは俺と姫をダイニングに招集した。
姫が黙って紅茶を淹れてくれる。冷たく張り詰めた空気に、白い湯気が溶けていく。
紅茶を一口飲んでから、Sさんは話し始めた。
「術者が一人、業に呑まれた。」
俺と姫は顔を見合わせた。姫の顔も緊張している。
しかし、正直なところ、事態の重大さが俺には想像出来ない。
「術者の出自が特殊だから、『上』も事後処理に追われてるみたい。」
業に呑まれた術者は処理、つまり殺すしかないと聞いていた。
当然、処理にあたる術者は相手よりも...腹の底がヒヤリと冷たくなる。
「あの、もしかしてSさんが、その術者を?」
「ううん、もう術者の処理は済んでる。派遣されたのは『 俺とSさんがリビングに戻ると、藍を抱いて翠と遊んでいた姫が顔を上げた。
「あれ?何だか2人、良い雰囲気ですよ。『お勉強』の時間の筈なのに。妬けちゃうな〜。」
決して後ろめたいことはないが、やはりドキッとする。相変わらず鋭い人だ。
「R君が変な夢見たって落ち込んでたから慰めてあげたのよ。
夢の中で私やLに意地悪したんですって。」
「意地悪?Rさんが、私とSさんに?そんなの有り得ない、確かに変な夢ですね。」
「おとうさん、だめ。おかあさんとおねえちゃんにいじわるしたら、だめだよ。」
「いや、だからホントのことじゃなくて、夢の中の話だよ。」
「ゆめのなかでも、いじわるしたらだめ〜。」
「そうだね。お父さんが悪かった。もうしないから。」 「うん。」
満足そうな翠を抱き上げて頬ずりをした。 翠の言う通りだ。二度とあんな夢は見たくない。
その時、玄関の電話が鳴った。、憶えてるでしょ?」
もちろん覚えている。というより、あの男を忘れる事など出来ない。
時代の流れに抗い、力を持つ子供を人為的に産み出そうとした人々。その計画の『最高傑作』。
俺が裁許を受けた日。聖域の参道で俺とSさんの前に現れた分身は、
その男の並外れた力量を如実に物語っていた。った短剣で...」
俺が話している間、Sさんはじっと俺の眼を見つめていた。
「あんな夢を見た自分が許せなくて。」 本当に、許せない。
「夢、なのよ。そんなに思い詰めることないわ。」 「でも。」
Sさんは俺の膝の上に座り、真正面から俺の唇にキスをした。熱く、長いキス。
「逆夢かもしれないでしょ?」 「逆夢、ですか。」
「そう、もしかしたら家族が増えるかも知れない。私とLが同じ時期に妊娠するとか。」
「そりゃ、絶対無いとは言えませんが」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「それにね。私、もし殺されるなら、あなたに殺して欲しい。
他の誰かに殺されるなんて絶対に嫌。」 Sさんはもう一度俺にキスをした。
言われてみればその通りだ。俺だって殺されるならSさんに殺して欲しい。
「御免なさい。変な事言って。でも、僕はSさんが、みんなが大好きだから。」
「もう良い。そんなの分かってる。だからこの話はお終い、ね。
それより、痛くない? ホントに御免なさい、事情も聞かずに叩いたりして。」
Sさんはそっと俺の頬を撫でた。眼にうっすらと涙が浮かんでいる。胸が痛い。
「僕が悪かったんです。それに、こんな美人にお仕置きされて、ちょっとドキドキしました。」
「もう、心配してるのに。」 Sさんの笑顔。俺の心もすっかり軽くなっていた。
0272名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:48:42.01ID:jntBJrPg0
 電話を終えたSさんの表情は硬く、緊張していた。
これは仕事の依頼ではない。間違いなく何か、悪い知らせ。
昼食を終え、翠と藍が昼寝をしている間に、Sさんは俺と姫をダイニングに招集した。
姫が黙って紅茶を淹れてくれる。冷たく張り詰めた空気に、白い湯気が溶けていく。
紅茶を一口飲んでから、Sさんは話し始めた。
「術者が一人、業に呑まれた。」
俺と姫は顔を見合わせた。姫の顔も緊張している。
しかし、正直なところ、事態の重大さが俺には想像出来ない。
「術者の出自が特殊だから、『上』も事後処理に追われてるみたい。」
業に呑まれた術者は処理、つまり殺すしかないと聞いていた。
当然、処理にあたる術者は相手よりも...腹の底がヒヤリと冷たくなる。
「あの、もしかしてSさんが、その術者を?」
「ううん、もう術者の処理は済んでる。派遣されたのは『炎』、憶えてるでしょ?」
もちろん覚えている。というより、あの男を忘れる事など出来ない。
時代の流れに抗い、力を持つ子供を人為的に産み出そうとした人々。その計画の『最高傑作』。 「あの男が派遣されて、処理が済んだなら一件落着、ではないんですか?」
「処理された術者は炎の妹なの。母親は違うけど。」
「『紫(ゆかり)』さん、なんですか?本当に?」 姫が息を呑んだ。
「紫が受けた依頼。その打ち合わせ場所で、依頼人の遺体が見つかったの。
紫が自分の部屋に戻っているのは間違い無いけど、連絡が取れない。
『上』の調査では、依頼人の魂はおそらく『不幸の輪廻』に飲み込まれた。だから、ね。」
Sさんが言葉を濁すのは滅多に無い、しかしそれも当然だろう。
あの男は、腹違いとはいえ妹を、自分の手で殺したということなのだから。
しかも異母妹ということは。そうだ、さっきSさんは言った。その術者の出自が『特殊』だと。
「もしかして、その人もあの計画の?」
「そう、あの計画の結果生み出された術者の一人、彼女もかなり 翌日は日曜日、まだ少し元気の無い姫をSさんに託して川の神様のお社に参内した。
最初の頃は必ずSさんか姫が付き添ってくれたが、この頃は一人で参内することも多い。
2人ともすっかり川の神様を信用して(ちょっと失礼だが)安心しているのだろう。
最後に掃除を終え、参道の脇に停めた車に乗り込む。
廃村を抜けてしばらく走ると、廃村へ通じる道と山道の交差点。大きくて丈夫な門扉がある。
門扉を開けて車を出し、再び門扉を閉めて鍵を掛ける。いつも通りの手順だ。
ふと、蝉の声を聞いたような気がした。 真冬に蝉?耳鳴りか。
車に乗ろうと振り返った瞬間、車を隔てた向こう側に男が立っていた。
黒いスーツ、俺より背が高い。これは...あの時の男、『炎』。
「炎さん、ですね?」
「俺の名を。Sから聞いていたか。」
「つい最近も、聞いたばかりです。でも、わざわざ此処まで分身を...要件は何ですか?」
「お前と話がしたい。2人きりで。」 「でも、此処では。寒いし、すぐに日が暮れます。」
「もちろん此処ではない。場所はこれから指示する。」
「僕はまだ行くと決めた訳ではありませんが。」
「お前は必ず来る。『上』の指示が出る前だったから準備も上手く行った。」を持ってた。」
「しかし幾ら何でも...妹の処理に兄を派遣するなんて、『上』は酷過ぎる気がしますが。」
「炎が志願したの。いや、あの家系の意志で炎に志願させたというべきかしらね。
『上』が黙認していたとは言え、あの計画への疑念を持つ人は今でも多い。
この件を切っ掛けにして、計画の結果生み出された術者は危険だという流れになるのは、
あの家系としても避けたいでしょうから。それで。」
「危険なのはその人だけで、他の7人は安全だと」
俺が裁許を受けた日。聖域の参道で俺とSさんの前に現れた分身は、
その男の並外れた力量を如実に物語っていた。
0273名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:50:09.87ID:w6vrlimI0
 「『上』の指示って、どういうことですか?」
「今朝、『上』が臨時の会議を開いて決めた。
今後、俺を含む7人の術者には特別な監視が付く。7人、ど 「来て、くれたんですね。」 少女が体の向きを変え、正面から俺の眼を見つめた。
「嬉しい。来てくれないんじゃないかと、私、心配で。それに、とても怖かった。」
少女が歩み寄り、俺を抱きしめた。左肩に顔を埋めている。
温かい吐息を感じるが、逆に俺の心は冷えていった。
「趣味の悪い術ですね。少し、見損ないました。」
ふっ、と、少女の体から力が抜けた。しっかり抱き止める。
いつの間にか奥のソファにあの男が座っていた。テーブルからワインの瓶を取る。
「完全に気配を消したと思ったが、会話だけで術だと見抜いたか。
Sに師事しているとはいえ、大したものだ。それでこそお前を呼んだ甲斐がある。」
俺は少女の体をソファに横たえ、脱いだ上着を着せ掛けた。
少女の隣りに座る。あの男の斜め向かいの席。
あの男は2つのグラスにワインを注ぎ、1つを俺の前に置いた。
「良く来てくれた。まずは一杯。さっき此処のセラーで見つけた、85年のラフィット。
かなり良いワインだ。前に飲んだのは、3年前だったか。
それと、待ってる間に料理も準備した。その子はなかなか料理が上手い。助かったよ。」
あの男はワインを一気に半分程飲んだ。
「パーティーをしに来た訳ではありません。僕を呼んだ理由を教えて下さい。
それに、当然瑞紀さんは返してくれるんでしょうね?」
「その子も他の者たちも寝てるだけだ。お前が来てくれたから、もう用はない。
あとはお前と話をすれば済む。」 言い終わってワインを飲み干し、もう一度ワインを注ぐ。士の屋敷に着いたのは6時過ぎ。玄関の灯りが点いているのが見える。
門の前に立つとひとりでに門扉が開いた。門をくぐると門扉が閉じる。あの男の仕業だ。
玄関まで歩き、ドアの前に立つ。 深呼吸。本当に俺はこの屋敷に入るべきだろうか。
相手の意図が分からない。既にあの男が業に呑まれている可能性もある。そんな状態で。
だが、さっきの口調には悪意を感じなかった。それにSさんと『上』に連絡するということは、
この件に対して『上』に対策を取らせるということだ。もちろんSさんも必ず此処に来る。
そっと上着に触れた。布越しの硬い感触、あの短剣。お社に参内する時は常に帯剣している。
最悪の場合、Sさんたちが到着するまで時間を稼ぐ。この短剣があれば何とかなる筈だ。
その時、ドアが開いた。少女が立っている。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞ、中へ。」
所作は洗練され、服装や髪型も見違えるようだが、間違いない。これは、あの少女。
今、この少女を抱き上げて車に走れば。
いや、駄目だ。あの門扉を忘れたのか。当然結界が張られているだろう。
それに、少女以外にも屋敷の中には人がいる筈だ。その人達はどうする。
自問自答しながら少女の後を追う。案内されたのは広いリビングルーム。
テーブルの上には料理の皿とワインの瓶、それにワイングラスが2つ。
しかし肝腎の、あの男の姿がない。意味か分かるな?」
あの計画で、生み出された8人の術者達。処理された1人を除いた7人、ということだ。
「では、準備というのは?」
「万が一にもお前に断られると困る。だから人質を用意した。」
ぞく、と、背筋が冷たくなった。まさか、いや、Sさんがいるのだからそれはない。
「人質って、誰なんですか?」
「来てもらう場所は、ある『範士』の屋敷だ。そう言えば分かるだろう。」
その瞬間、セーラー服を着た少女の姿が目に浮かんだ。
自分はカミンチュだと言い、ノロになると言った沖縄出身の少女。名は瑞紀。
『高校はもうすぐ就職休みなので、少しずつ沖縄に帰る準備をしています。』
美しい字で近況を綴った葉書がお屋敷に届いたのは、つい先日の事だった。
「Sと『上』には俺から連絡しておく。お前は直ぐに出発しろ。
電話や寄り道をしてると人質の無事は保証できない。では、待っている。」
次の瞬間、男の姿は消えた。
まるで最初から、其処には誰もいなかったかのように。
0274名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:53:25.45ID:NK8nggrL0
>>271
つーか北海道と長野
0275名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:54:39.42ID:y6LG6jTd0
緊張して喉がカラカラだ。俺も一口だけワインを飲んだ。当然、味などまるで分からない。
深呼吸、腹に力を込める。何とか少女を無事に。
「何故こんな事をしたんです。まず人質を解放して、話はそれからでも良いじゃないですか。
そうすれば『上』だって、荒っぽいことはしないでしょう。」
あの男の左頬がピクリと動いた。微かな笑みが浮かぶ。
「これが、言霊、か。俺がどうしても会得できなかった術を大した修行もせずに。
本当に、いちいち気に障る。だが、それでなければお前を呼ぶ意味がない。
お前の言葉は確かに俺に届いている。俺の言葉は紫に届かなかったが。」
違和感。 何故、今、妹の話を? もしかしてこれは何か別の...慎重に言葉を選ぶ。
「『言の葉』の適性。それが、他の人でなく、僕を呼んだ理由ですか?」
「それもある。そしてもう1つ、その剣。お前の適性と、その神器が必要だ。」
「あなたがその気になれば、僕はこの剣に護ってもらうのが精一杯。
これを使って彼女を助け出すことなど出来ませんよ。」
男はまた一口、ワインを飲んだ。穏やかな笑みを浮かべている 「さっき、妹さんにあなたの言葉が届かなかったと、そう言いましたね?」
「ああ、俺が行った時、紫はもう俺の事も分からなくなっていた。
会うなり俺を本気で殺そうとしたよ。以前はあんなに慕ってくれていたのに。」
男の表情は変わらない。しかし、その言葉から深い悲しみが伝わってくる。
「Sが俺との縁談を断ったのを知った時、紫は『自分を妻に』と言った。
計画のためでなく、俺を男として愛してくれていたと知って驚いたが、やはり嬉しかった。」
現代の倫理や法律には反するが、一族の中で兄妹・姉弟の結婚それ自体は禁忌ではない。
実際そういう組み合わせの夫婦を俺も知っている。しかし今、 「妹さんの術で記憶が飛んだのではありませんか?
『不幸の輪廻』から流れ込む力で妹さんの術が力を増していたとしたら。」
「もしそうなラ、死んでいタのは俺ノ方ダ。そレに紫は、紫ハ業に呑マレてなド、イなカッタ。」
間違いない。この男が俺に伝えたかった事、それを感知出来た。
「先程の失言を許して下さい。やはりあなたは偉大な術者だ。そしておそらくは妹さんも。
必ず、僕が皆に伝えます。あなたと妹さんは業に呑まれたのではなかった。
それは、今あなたの中に潜んでいる『何か』に関わっていたのだと。
そしてもし、この怖ろしい災厄を祓うことが出来たなら、その功績と栄光は、
命を賭けて『何か』の存在を知らせた、あなた方2人の魂と共にある、と。」
「アりがトう。こレデ、アトハ、オマえシだイ。マカセ、た...」
突然、リビングルームに冷気が満ちた。そして、心が挫けそうになる程の、圧倒的な気配。
笑い声や言葉こそ聞こえないが、『何か』は確かに俺と炎さんを嘲笑っていた。
『気付いたとしても、人間には為す術がない。せいぜい足掻いてみせろ。』 そんな風に。
『何か』は俺の反応を楽しむようにゆっくりと、その姿を現そうとしている。
炎さんの体がぐったりと背もたれに沈み、のけぞった顔が天井を向いた。
体が大きく震え、口から赤黒い液体が溢れる。赤ワイン、そして血の臭い。
始まった。どうすれば良い?、俺にその話を?
「だが、俺は憶えていない。気が付いたら紫は床に倒れていて、既に死んでいた。
どうやって俺は紫を殺したのか?あんなに慕ってくレた妹を殺したのに、憶エていナイんだ。」
時折男の声の調子が外れる。それはまるで、錆びたドアがきしむ音のように聞こえた。
そして、錆びたドアの向こうの微かな、それでいてとてつもなくおぞましい気配。
それは、いつか呪物のトランプを手にした時の感覚に似ていた。
ドアの向こうで目覚めた『何か』が、僅かに開いたドアの隙間から俺の様子を探っている。
まずい。これは、俺の手に負える事態ではない。しかし、もう、止められない。
それに、この男は俺の適性に期待して俺を呼んだのだ。
もし他の、例えばSさんを呼べば、更に悪い事態になると分かっていたから。
だとすれば、この男が俺に伝えたい事、それは。
そう、念のためにもう一言、あと1つヒントがあれば確信出来る。「あたりまえだ。たとえ俺の意識がなくても、お前はその剣で俺に触れることさえ出来ない。」
『俺の意識がなくても』...やはり何かある。恐らくこれは謎かけだ。
しかしこの男は心に幾重にも鍵を掛けている。伝達の手段はただ会話のみ。
それも、直接には口に出せない『何か』を俺の適性で感じ取れという、この男からのメッセージ。
0276名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:54:44.53ID:3km3BS5j0
今回わりとメダル取れそうやな
序盤で3枚は凄い
0278名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:56:04.66ID:bg8nrB6l0
炎さんの中に容易く入り込む程の力、俺の術など効く筈が無い。恐らくSさんや姫の術も。
だが今ならこの剣で。いや、『意識が無くても』と、炎さんは言った。あれは警告だ。
不用意に斬りかかれば『何か』は躊躇無く俺を殺すだろう。剣の刃が届く前に。
それに、どうにか時間を稼ごうにも、あの少女が狙われたら俺に為す術は無い。
考えろ。今、姿を現そうとしている『何か』、その目的は一体何だ。
もしやこの剣、しかしこの剣を俺以外が持てば...そうか。
あの夢は逆夢ではなく、予知夢だったのだ。俺がSさんに斬りつける場面が目に浮かぶ。
しかし、この予知夢を完成させてはならない。絶対に、あんな場面を現実には 重い音がした。我に返る。男の体が向かいのソファから床にずり落ちていた。
あれは...あれは、業に呑まれた敗者、だ。まだ、生きている。息の根を止めなければ。
俺はゆっくりと立ち上がった。全身の感覚が妙にボンヤリとして体がふらつく。
テーブルの上の短剣。そう、この短剣であの男を。
そうすれば俺は一族でも有数の術者を倒した勝者。皆が俺を讃えるだろう。
それにこの剣なら、あの女どもを殺せる。S、そしてL。ついでに子供も始末すれば良い。
これまで何度と無く、 夢を見ていた。 俺の体は暗闇の中をゆっくりと沈んでいく。
腹の真ん中あたりに鈍い痛みがある。いや、かなり強い痛みだ。 腹に、傷?
その時、微かに俺の名を呼ぶ声がした。女性の声。
ああ、俺は知っている。 これは、誰の声だったろう。
『いた。見つけたぞ。』 やはり、若い女性の声だ。
続いて背中に何か温かいものが触れ、俺の体が沈むのは止まった。
『そうか、間に合ったか。』 こちらは男性の声。落ち着いた、渋い声だ。
『○瀬の主、祭主殿を見つけたぞ。全く、■◆が絡んでいるのだから
さっさと助ければ良いものを。お主が硬いことを言うから我らの仲人殿が死にかけた。
もし、手遅れになったらどうするつもりだったのだ?』
『人が、人同士が自分たちの力で難局を乗り切ろうとしている時に、安易に助ければ
魂の堕落を招く。我が祭主であれば尚更、この試練は大いなる成長の機会となる。』
『それにしても仲人殿は無茶をしたな。神器で自らの腹を貫くなど、前代未聞だ。』
『神器を持ってはいても、祭主殿が■◆を滅ぼすには、あれしか策はない。
あの術を使わねば、その意図は■◆に読まれたろう。
そうでなくとも、家族への未練や痛みへの怖れで躊躇し、機を逸したかも知れぬ。
力と術への敬意が無意識のうちに正解を探り当てる。あの港で私を助けた時もそうだった。』
ボンヤリとした頭で俺は不思議な会話を聞いていた。これは川の神様と、そして。幸の輪廻』の邪魔をしてきた厄介者たち。
そして俺が望めば当主との面会も叶う。そうすればこの一族も...そう、契約は成就する
その後は仲間たちの、思わず笑みが浮かぶ。 右手で短剣を取る、早く、あの男を。
? 足が動かない。 そして、左手がひとりでに動いて短剣の刃を握った。
ゆらりと右手が離れて短剣を持ち変える。さらに左手を添え、両手が逆手で短剣を握り締めた。
何故だ、何故俺の両手がひとりでに?
次の瞬間、両手は短剣を俺自身の腹に突き刺した。激痛、足から力が抜け、床に膝を着く。
凄まじい悲鳴。薄れていく意識の中、男の、呟くような声を聞いた気がした。い。
それなら、俺に出来ること、するべきことはただ1つ。短剣をゆっくりと抜く。
『何か』の気配が大きく揺らぎ、リビングの中に冷たい風が吹いた。
そう何者も、この短剣を目の前にして、ちっぽけな俺の意図や術を感知するのは無理だろう。
昼間の空、太陽の光のもとでは、星の光を見ることができないように。
抜き身の短剣をゆっくりとテーブルに置きながら、言葉を練る。簡潔に、そう、単純に。
炎さんの口と鼻から、白く濃い煙のようなものが立ち上った。エクトプラズム、もう時間がない。
言葉に『力』を込め、血液に乗せて左手に送り込む。
目を閉じ、薬指で、しっかりと額に触れた。
0279名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 06:58:46.82ID:Nh7zfZb+0
 痛みのあまり目が覚めた。見慣れない天井、そして。
「おねえちゃん、おとうさんがめをあけたよ。」 駆け寄る気配。
「Rさん...」 姫が俺の顔を覗き込んだ。 体を起こそうとした途端、腹の激痛。
「動かないで下さい。お腹の傷が酷いんです。でも、本当に、良かった。」
俺の肩をそっと押さえた姫の左手、指先が小さく震えていた。
翠の前だからだろう、懸命に感情を抑えているのが分かる。
「おとうさん、やっとめがさめたね。みんな、しんぱい、したんだから。」
ようやく声を絞り出す。「ありがとう。御免よ。」
「Sさんは藍ちゃんとお屋敷にいます。夕方には来てくれますけど、
Rさんの意識が戻ったことはすぐに知らせておきますね。」
「今日は、何曜日なんですか?」 「あれから3日目、水曜日です。」
記憶が混濁している。俺が範士の屋敷に行ったのは日曜日だったか。
だとすれば、俺は丸々2日は意識が無かった事になる。
それにしても、あの出来事。
夢を見ていたような気 また、痛みで目が覚めた。もう窓の外は薄暗い、既に夕方。
姫が用意してくれた飲み物を飲んでいると、暫くして姫が立ち上がり翠の手を取った。
「翠ちゃん、そろそろ時間だから一緒にお母さんと藍ちゃん迎えに行こうね。」 「うん。」
姫と翠が病室を出て行って10分程すると廊下から足音が聞こえ、
磨りガラスの向こうに人影が見えた。控えめなノックの音。間違いない、Sさんだ。
「どうぞ、起きてますから。」 ノブが回り、ゆっくりとドアが開く。
Sさんは無言で歩み寄り、ベッドの脇に膝をついた。
俺が差し出した右手を両手で握り、頬ずりをしながら、声を殺してSさんは泣いた。
何と声を掛けて良いのか分からない。Sさんの嗚咽、俺も必死で涙を堪える。
Sさんが一人で病室に来たのは姫の配慮。Sさんの泣き声が藍と翠を不安にさせないように。
どれくらいそうしていたのか。ようやくSさんは顔を上げた。涙でぐしょぐしょの笑顔。
「泣いたりして御免なさ 翌日、昼食を食べ終えて暫くするとノックの音がした。
Sさんだ。翠の手を引いている。あれ、藍は?
そう言いかけた時、Sさんが押さえたドアをもう一人の女性がくぐった。藍を抱いている。
人質になったあの少女。良かった、無事だったのか。本当に、良かった。
「また助けて頂いて、ありがとう御座いました。」 少女は深く頭を下げた。
「いや、俺を呼び出すために人質にされたんだから、謝るのは俺の方だよ。」
「それを言ったら、瑞紀ちゃんをあの家に紹介した私にも責任が有る訳だから。
もう、その話は無し。それよりどう?瑞紀ちゃん、見違えたでしょ?」
「はい、服がすごく似合ってて。初めは別人かと思いました。」
服のせいか、あの日範士の屋敷で会った時より、少女は大人っぽく見えた。
「服を褒めるなんて、全く気が利かないわね。でも、確かによく似合ってる。
この服、私のお下がりよ。サイズ、ほとんどそのままでOKなの。」
「あの、お下がりって?」 そう言えば、何故少女は藍を?
「ふふ、あの晩から瑞紀ちゃんにはお屋敷に来てもらってるの。
Lがあなたの付き添いしてるから、家事とか手伝って貰って大助かりだわ。」
Sさんが努めて楽しそうに振る舞っているのが分かる。
それなら、炎さんは。 姫かSさんが話してくれるまで、その質問はしない。そう、決めた。
記憶が未だ曖昧な所も、今無理して思い出す必要はない。とにかく俺は生きている。
今はもう暫く、この賑やかな病室の中で、暖かな幸せに包まれていたい。
少女が俺の横に寝かせてくれた藍の頭をそっと撫でた。

『玉の緒(中)』 了私、きっと、大丈夫だと思っていたのよ。なのに涙が、変なの。」
「心配掛けて済みません。言い訳したいんですが、まだ頭がボンヤリしてて、どうにも。」
「言い訳なんかしなくて良い。あなたは精一杯頑張ったんだから。」
Sさんは俺の唇にキスをした。長く、熱いキス。
「顔が涙でぐしょぐしょ。御免ね。」 ハンカチで俺の顔をそっと拭い、そして自分の頬を拭う。
それから姫に電話をかけた。家族が全員揃う。何故かとても、懐かしい気分だ。るが、腹の傷とその痛みはそれが現実だと教えてくれる。
人質になった少女は無事だったのか。あの男、炎さんは...。
炎さんの中に潜んでいた『何か』は、一体どうなったのだろう。
炎さんが命を賭してその存在を俺に伝え、
0280名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:00:03.89ID:Vt/UmCR50
その日は朝から、俺の病室の中だけで無く、病院全体の空気がピリピリと緊張していた。
彼方此方から伝わってくる気配。そのどれもが間違いなく、かなりの力を秘めている。
おそらく病院の出入り口などの要所に、式や術者が配置され 「これは、一体何ですか?何かが焼けて、絨毯が焦げた跡みたいですが。」
「Rさんの傷から吹き出した血が、多分あの短剣の力で焼き尽くされた跡です。
いいえ、Rさんの中に入り込んでいたモノが、焼き尽くされた跡といった方が良いですね。」
炎さんの中に入り込んでいたモノは俺の中に、そしてあの短剣の力で焼き尽くされたのか。
「ただ、それがあまりにも強力な存在なので、『上』は疑っています。
既にRさんの魂が『それ』に穢されているとしたら、後々災いの種になるから。それに。」
姫は一度言葉を切り、温かいお茶を一口飲んだ。
「炎さんが死に、Rさんの記憶もかなり欠落していて、あの晩何が起きたのか分かりません。
実際、Rさんのお腹の傷も、未だ原因が特定出来ていないんです。」
俺はあの夢を思い出した。川の神様と、それからあの声は。
「この傷は僕が自分 「顔を上げなさい。」 病室に涼しい声が響いた。桃花の方様の声。
顔を上げると、ベッドの脇の椅子に当主様が座っていた。その右斜め後方に立つ桃花の方様。
さらに後方、病室の壁際に直立不動で立つ2人の男性。
1人は知っている顔、遍さんだ。もう1人は知らない顔だが、この2人が『上』の代表。
俺の枕元で姫が跪いている。Sさんはこの階のロビーで翠と藍の相手をしているはずだ。
建前とはいえ、『上』の前で親子が揃えば要らぬ疑いを招きかねない。
ただ、『上』の二人には見えないだろうが、俺のベッドの下には管さんがいる。
Sさんは管さん経由でこの部屋で起こることをリアルタイムで知る事が出来る訳だ。

 「本日はわざわざ御出頂きありがとう御座います。」
「大変だったな、R。もう少し回復してからとも思ったが、これも公務だ、許せ。」
もし、俺の魂が穢れているなら、当然、回復する前に対応すべきだ。
「もし私の魂が穢れているなら、全てを当主様にお任せ致します。」
「そうなって欲しくはないが。」 桃花の方様が跪き、細長いものを当主様に手渡した。
桃花の方様の身長よりもはるかに長い、白い布の袋。当主様が袋の口を開く。
姫から聞いていた通りだ。神器、『梓の弓』。 もの凄い存在感が病室を満たす。
そしてもう一つの神器。弓の半分程の長さの筒、その中に納められている筈の『破魔の矢』。
筒の中から伝わってくる気配、こちらの存在感も尋常ではない。したものだと、あの、夢の中でそういう風に。」
「Rさんの手にも、炎さんの手にも、血痕はなかったそうです。
それに、あの短剣は鞘に収まった状態でテーブルの上に置かれていて、
短剣の鞘にも柄にも血痕は残っていなかったと聞きました。」
俺で無いなら、しかし、あの剣を俺以外の人間が持てば...訳が分からない。るのだろう。
今日、当主様と桃花の方様がこの病院に、俺の病室に御出になるからだ。
『見舞い』と言えば聞こえは良いが、『上』のメンバーも一緒。つまりこれは調査。
紫さんの件に続いて炎さんと俺。あの禍々しい存在と接触して生き延びたのが
俺一人だとすれば、俺の状態を『上』が調査するのは当然の事だろう。
昨夜、姫は今日に備えて幾つか重要な事を教えてくれた。
「分かってると思いますけど、炎さんは助かりませんでした。
Sさんと他の術者たちが範士の屋敷に到着した時、既に全てが終わっていたそうです。
瑞紀ちゃんや他の人質は全員無事だったけれど、
リビングの床には大怪我をして意識の無いRさん、それと炎さんの遺体。
そして、屋敷に残っていた痕跡から、怖ろしい事が起きたと分かったんです。」
姫はSさんから預かったという一枚の写真を俺に手渡した。
リビングの絨毯が黒く、大きく焦げている。ある動物を思わせるその形。
写真を見ているだけなのに、全身の毛が逆立つような寒気を感じる。
0281名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:03:25.54ID:khWvs/Ck0
 当主様が立ち上がり、桃花の方様の肩を借りて弓の弦を張った。
続いて桃花の方様が筒の中から矢を取り出し、それを当主様が受け取る。
左手で弓と矢を交差させるように持ち、右手を弦にかけた。
鏃は未だ鞘で覆われている。しかし必要があれば恐らく左手の一振り「参る。」
ぴいいぃん。不思議な音が病室の空気を震わせ、俺の中に染み込んでくる。
神器の弓を半分程に引き絞り、弦を放す時に発する音。『寄絃』の儀式。
穢れた魂の持ち主は、この音を聞いて意識を保てない。姫からそう聞いていた。
2度、そして3度。弓と弦の発する音は、響きの調子を変えながら病室の空気を震わせた。
姫が息を潜めて俺を見ているのを感じる。大丈夫だ。何ともない、俺は。
「宜しい。皆、見届けたな。Rの魂、穢れてはいない。
憑依されていた時間が短くて幸いだった。」
当主様が小さく息を吐 『何故こんな事をしたんです。まず人質を解放して、話はそれからでも良いじゃないですか。
そうすれば上だって、荒っぽいことはしないでしょう。』
『これが、言霊、か。俺がどうしても会得できなかった術を大した修行もせずに。
本当に、いちいち気に障る。だが、それでなければ呼ぶ意味がない。
お前の言葉は確かに俺に届いている。俺の言葉は紫に届かなかったが。』
当主様は腕を組み、眼を閉じたまま、俺たちの会話に聞き入っている。
遍さんともう1人の男も、姫も、そして俺自身も、息を詰めて耳を澄ませていた。
『さっき、妹さんにあなたの言葉が届かなかったと、そう言いましたね。』
『ああ、俺が行った時、紫はもう俺の事も分からなくなっていた。
会うなり俺を本気で殺そうとしたよ。以前はあんなに慕ってくれていたのに。』
 再生される会話を聞くうちに記憶の断片が繋ぎ合わされていく。
新たに思い出した断片も加わり、朧気ではあるが、あの晩の記憶 桃花の方様は一旦言葉を切って大きく深呼吸をした。
先程の失言を許して下さい。やはりあなたは偉大な術者だ。そしておそらくは妹さんも。
必ず、僕が皆に伝えます。あなたと妹さんは業に呑まれたのではなかった。
それは、今あなたの中に潜んでいる『何か』に関わっていたのだと。
そしてもし、この怖ろしい災厄を祓うことが出来たなら、その功績と栄光は、
命を賭けて『何か』の存在を知らせたあなた達2人の魂と共にある、と。』
『アりがトう。コれデ、アトハ、オマえシだイ。まカセ、タ...』
そうだ、確かにこの言葉を聞いた事は憶えている。しかし、この後が全く。
『この剣を持ったら、自分の腹を突く。』姫が息を呑んだ。
これは...俺の声。 そうか、思い出した。俺の術。
口に出してはいないが、心の中で必死に練った言葉。あの術を俺自身に掛けるために。
俺の術など効く相手ではない。剣で斬りかかれば、刃の届く前に俺は殺される。
だが、俺の体に潜み、一族に害をなすのが相手の目的なら、あの術が使えるのではないか。
術を掛けたこと自体を忘れるのだから、俺の意図を相手に感付かれることもない。そう思った。
細かな操作は難しいだろうが、狙いを外す訳にはいかない。自分で見える大きな的、腹。
相手が俺の中に入り込み、誰かに害をなそうとしてあの剣を持てば、多分この術が発動する。
自信など全くない、しかし、それしか策がなかった。
今回は何とか術が発動し、相手は剣の力で焼き尽くされた。 本当に、信じ難い程の幸運。りつつあった。
だが、俺は憶えていない。気が付いたら紫は床に倒れていて、既に死んでいた。
俺はどうやって紫を殺したのか?あんなに慕ってくレた妹を殺したのに、憶エていナイんだ。』
『妹さんの術で記憶が飛んだのではありませんか?
不幸の輪廻から流れ込む力で妹さんの術が強力になっていたとしたら。』
『もしそうなラ、死んでいタのは俺ノ方ダ。そレに紫は、紫ハ業に呑マレてなド、イなカッタ。』壁際の遍さんともう1人の男もホッとした表情を浮かべた。
続いて矢を桃花の方様に返し、弦を外して弓を白い袋に戻した。
しかし、未だ事情聴取は終わっていない。当主様はもう一度椅子に腰掛けた。
「さて、R。当主として、私は知らねばならない。あの晩何が起きたのか。
特に会話だ。お前と炎の会話、あの晩お前達が何を話したのか。それが、知りたい。」
「全てお話ししたいのですが、記憶が途切れ途切れで、ご期待に添えるかどうか。」
「それは承知している。無理をすれば体にも障るだろう。桃花の方、あとは頼む。」
「はい。」 当主様の足元に控えていた桃花の方様が立ち上がり、俺のすぐ前に立った。
0282名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 07:05:56.16ID:eqWhKtWL0
 桃花の方様の唇が小さく動いている。この後にもまだ言葉が?

 『紫、見たか、やったぞ。これで...いや、Sは、上は何をしてる。遅い、このままでは...』

 桃花の方様が目を開けた。俺の手をベッドに戻し、労るようにさすった。
静かな病室の中に当主様の声が響く。
「R、誠にお前は言祝ぐ者。お前の言葉通り、炎も紫も偉大な術者だ。
紫は炎に、炎はRに■◆の存在を伝え、そしてRは自らの体を代として■◆を誘い込み、
神器の力で焼き滅ぼした。3人の献身に対し、一族の祭主として心から礼を言う。
残念ながら炎と紫は犠牲となったが、お陰で一族を危うくする大難は祓われた。」
その重さを良く理解出来ないまま、俺は当主様の言葉を聞いていた。
「炎と紫を先達の偉大な術者の列に序し、その魂を祀って功績を讃えよう。社へ戻る。」
当主様が立ち上がる。遍さんが慌てたように病室のドアを開け 病室の中には俺と姫、そして桃花の方様。昨夜姫から聞いた段取りの通りだ。
「L、では、あれを。使わずに済んで、本当に良かった。」
姫は一礼して立ち上がり、壁の棚の中から白い布の包みを取りだした。
桃花の方様の前で跪き、白い包みを両手で捧げる。
「お陰様で心安らかにこの日を迎えることが出来ました。心より感謝申し上げます。」
桃花の方様が頷いてそれを受け取り、そっと着物の袂に納めた。
包みの中身は黒檀の小箱。その小箱の中に純白の宝玉、号は『深雪』。姫からそう聞いた。
黒檀の小箱には封印をしてあるらしく、白い布包みを見ただけでは
その中身が一族に伝わる宝玉であるとはとても思えない。
もしもの時のためにSさんがお願いをして、その宝玉を当主様から借り受けたと聞いていた。
俺の魂が穢れていたら、その宝玉を使うということだ。しかし、どんな風に使うのかは知らない。
『Rさんがそれを知る必要はありません』と姫は言った。
『もし、これを使う必要があるなら、その時Rさんの意識が無いということですから。』と。
もちろん包みが解かれることはなく、黒檀の小箱すら見るこ 「L、Sとともに、Rの世話にはよくよく心を尽くしなさい。
Rの傷が癒え、体が本復するのには未だ時間がかかります。」
涼やかな、心地良い声で我に返った。桃花の方様の声。姫は深く一礼し、病室のドアを開けた。
神器の弓と矢、そして白の宝玉を携えた桃花の方様が、ゆっくりとドアをくぐる。
「良かった、これで。」
ドアを閉じて振り返った姫の笑顔に、ようやくいつもの温もりが戻っていた。

 数日後、自宅療養の許可が出て、俺と姫はお屋敷に戻った。
その晩、翠と藍を寝かしつけた後、俺たちはリビングでお茶を飲んだ。
いつも通り、穏やかなお屋敷の夜。それがとても懐かしく、そして愛おしい。
いつもと違うのは俺の傷を心配してハイボールがお茶に変わったこと。
そして此所には3人ではなく4人、あの少女も一緒にいること。
「本当はお酒で乾杯したいけど、それはもう少しお預けね。」
「瑞紀ちゃんの卒業式まであと3週間。その夜は乾杯出来るかも知れませんよ。」
Sさんも姫も、すっかり落ち着きを取り戻していた。もう、不意に涙を零したりはしない。
確かに、とても大きな災難だった。俺は深い傷を負い、Sさんと姫は酷く心を痛めた。
しかし、それを乗り越えつつある今、3人の魂を結ぶ絆は以前にも増して強くなっている。
その絆を頼りに、きっと俺は『日常』に戻ることが出来る。そう思った。出来なかった。
魂の操作を伴う術は『禁呪』。Sさんや姫の命を削る術は絶対に使って欲しくない。
そう思ったが、昨夜はどうしても適当な言葉が見つからなかった。
逆に、姫は俺の心を見通したように微笑んだ。
「翠ちゃんと藍ちゃんには『父親』が必要です。忘れないで下さいね。」
「当然特別な監視の件は撤回させる。そして紫が受けた依頼が持ち込まれた経緯と
それに関与した者達の徹底的な調査。恐らく、『不幸の輪廻』の活動が活発になっている事と
関連が有る筈だ。今後のために、全てを明らかにしておかねばならない。」
当主様はドアの前で立ち止まり、ゆっくりと振り返った。悪戯っぽい笑顔。
「R、傷が癒えたらまた会おう。今度はゆっくり、話がしたい。」
言い終わると当主様は踵を返してドアをくぐった。足音が軽やかに遠ざかっていく。
遍さんともう1人の男も慌てて当主様の後を追った。
0283名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:07:40.62ID:NCKrriah0
 「そう言えば、もうすぐ川の神様のお社に参内する日ですね。」
少なくとも今回は、姫かSさんに代理を頼まなければならないと、そう思っていた。
すると、Sさんが少女を見つめて微笑んだ。はにかんだような少女の笑顔。
「R君、それがね、暫くあなたは立ち入り禁止みたいよ。川の神様のお社。
瑞紀ちゃん、一昨日のこと、R君とLに話してあげて。」
「はい。ええと、一昨日の3時少し前でした。翠ちゃんと藍ちゃんは昼寝をしていて、
私とSさんはおやつの準備をしていたんです。そしたら急に翠ちゃんが立ち上がって。」
Sさんは堪えきれない様子 「Rさん。体調は、もう随分良いんですよね?」
姫の卒業式、その追憶は、他ならぬ姫の言葉で中断された。
「あ、はい、今月中には川の神様のお社に参内できると思います。」
実際、傷の具合はかなり良い。表面の傷口は完全に塞がっている。
それにその日の夕食後、少女の卒業を祝う乾杯では、お酒が解禁になる予定だった。
何かの拍子にくしゃみや咳をするとかなり痛むが、これはまあ仕方ない。
「明日、私とSさんは朝早くから出掛けます。翠ちゃんと藍ちゃんも一緒に。」
ということは。
「あの、じゃあ明日、お屋敷には。」
「はい、Rさんと瑞紀ちゃんが二人きり。私たちは当主様と桃花の方様にお目通りする、
瑞紀ちゃんにはそう話してありますけど、方便です。分かりま 「今度のことがあっても、考えは変わらないんですか?」 「ええと、どういうことですか?」
「長生き出来ないかも知れないのは、術者でも術者でなくても、同じだってことです。」
不意に、胸の奥が痛んだ。何故、急にこんな。
「瑞紀ちゃんが本当にノロになって、Rさんのお嫁さんになるかどうかなんて、
そんな未来のこと、誰にも分かりません。でも、大事なのは『今』瑞紀ちゃんがRさんを
好きだということ。そのためにノロになる決心をして、実際に歩き始めたということ。
すごく遠くて辛い道ですが、少しでも目的地に近づいて欲しい、そう、思いませんか?」
「もちろん思いますよ。でも、それと彼女をお嫁さんにすることは。」
「もう、瑞紀ちゃんのことになると、不思議な位鈍いんですから。
例えば沖縄に帰った後、瑞紀ちゃんが事故や病気で亡くなったらどうなると思いますか?
瑞紀ちゃんはもちろん、Rさんにも悔いが残りますよ。『こんなことならあの時』って。
だから明日1日、瑞紀ちゃんをお嫁さんだと思って接してあげて下さい。恋人でも良いです。
とにかく、できるだけ悔いの残らないように。お願いしますね。」
少女に悔いが残ると言うのは分かる。しかし、俺にも悔いが残るというのは?
しかし、藍を抱いた姫はさっさと自分の部屋に戻ってしまい、
昼食の前にはSさんと少女も帰ってきたので、それ以上この話は出来なかった。ね?」
「あの子に何か良い思い出を、そういうことですか?」
何故か小声になってしまう自分が少し情けない。
「何か特別な事をする必要はないです。夕方までRさんの世話を瑞紀ちゃんに任せるだけ。
一日中二人きりで過ごす、きっとそれだけで十分です。瑞紀ちゃんはRさんのお嫁さんに」
「ちょっと待って下さい。あ痛たたたた。」
「何を慌ててるんですか。瑞紀ちゃんがRさんのこと好きなのは皆が知ってるのに。」
「だ・か・ら、僕はあの子のこと」 「何とも思ってないって言いたいんですね?」
「そうです。」 姫は小さく溜息をついた。すくすと笑った。
「眼も開けずに『傷が癒えるまで参内は禁止する。Rに、そう、伝えよ。』って言ったんです。」
「じゃあ、川の神様が。」
「私もそう思ったから翠の前に跪いて、『では私がRの代理で参内致します。』と、
そう申し上げたのよ。そしたら、ね。」 Sさんはもう一度少女に微笑みかけた。
「『Rは近々此処へ戻るから、そなたにはRを頼む。
大丈夫だ。社の心配は要らぬ、手は足りている。』って、そう言った後、
またパタンと横になって寝ちゃったんです。本当に、びっくりしました。」
「寝惚けた顔だし、声は翠のままなのに、殊更に芝居がかった調子でそんなこと仰るのよ。
有り難いけど、もう、私、可笑しくて可笑しくて。」
でも、何で翠に?それは俺の夢でも充分なのに。
「私たちを笑わせて、元気づけようとして下さったのでしょうね。」
話を聞いていた姫が真面目な顔でそう言うと、Sさんは小さく頷いた。
0285名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:10:48.26ID:P0co+7GU0
 翌朝、朝食も食べずに4人は出掛けていった。
少女と2人の朝食。『悔いの残らないように』と姫は言ったが、やはり気まずい。
俺の事を好いてくれる少女に、気のあるような素振りをするのは正直気が引ける。
少女を嫌いな訳ではない。家事を手伝っている姿や翠と遊んでくれる姿を見てきて、
むしろ今は素直な良い娘だと思っている。でも、それはSさんや姫に対する感情とは違う。
それなのに、お嫁さんや恋人だと思って接するなんて...心の隅に蟠る罪悪感。
朝食を済ませ、ぐだぐだ考えながらリビングで本を読んでいると、
窓から明るい日差しが差し込んできた。何だか久し振りに見る ガレージの裏側には梅の木がある。白い花の木と紅い花の木が一本ずつ。
盛りは過ぎていたが、まだかなりの花が咲き残っていて、良い香りが漂っていた。
俺たちは暫く黙ったまま、並んで梅の花を眺めた。赤と白のコントラスト、飛び交う小鳥たち。
「奇麗だね。」 「はい、とっても奇麗です。」
「この時期だと沖縄は桜も終わってるよね。梅の花はいつ頃咲くの?」
「お正月が終わった頃に咲いているのを見たことがあります。
でも、沖縄では梅の花をあまり見かけません。もともと数が少ないんでしょうね。
それと、私が見た梅は全部白い花でした。紅い花の梅は見たことが無いです。
その代わり、沖縄の桜はこの梅みたいにピンク色ですよ。私、本土の桜を初めて見た時
あんまり違うので驚きました。ソメイヨシノっていう品種なんですね。」
「そう、沖縄の桜は山桜に近い緋寒桜だって聞いたから、全然違うだろうね。」
それから、また暫く黙ったまま花を見つめた。
「Rさん、体が冷えると傷に悪いと思います。もう、戻りましょう。」
「瑞紀ちゃん、御免。本当は車でドライブとか出来たら良いんだけど。」
「いいえ、私、今日はとても楽しくて嬉しいです。まるでRさんのお嫁さんに...
御免なさい、私、勝手 「その人は、祖母の夫です。祖母はノロだから籍は入れなかったそうですけど。」
「じゃあ、瑞紀ちゃんのお祖父さんでしょ?『祖母の夫』って、何だか他人行儀だね。」
「早くに亡くなったから私はその人の顔も知らないんです。
でも、祖母の話を聞いて。その人のことが好きになりました。
その人は祖母に『自分は必ず村で一番の漁師になるから、そしたら自分と結婚して下さい。
絶対にあなたに恥ずかしい思いはさせません。』って言ったそうです。
『貧乏だから勉強では身を立てられない。でも必ず村一番の漁師になって、
あなたがノロを辞めてからも良い暮らしが出来るようにしますから。』って。」
勉強と漁師、そのうち漁師を選んだと言うことは。
「もしかして、その人は年下、だったのかな。」
「はい、3つ年下だって言ってました。父親から習ったり、自分で必死に工夫したり、
19歳の時には、もう村で一番の漁師と言われるようになったそうです。」
「それでお祖母さんに結婚を申し込んだ?」
「はい、村中大騒ぎだったって言っていました。それで5人の子供に恵まれて。
その人は早くに亡くなったし、結局籍は入れられなかったけれど、とても幸せだったって。」
「後継者がいたら、ノロを辞めて籍を入れられたかも知れないね。」
「はい。でも、その人が亡くなった後、自分がノロを続けていて良かったと、
後継者が現れなくても自分は死ぬまでノロを続けようと、そう思ったと言ってました。」
「お祖母さんはどうしてそんな風に?」
少女は俺の眼を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「その人は病気になったあと、ずっとあの集落の海岸を恋しがっていたそうです。
入院してからも『元気になって集落に戻り、せめてもう一度海岸を歩きたい。』と。」嫁さんとか。」
「まあ、それは構わないけど。ノロになる理由を話したらお祖母さんに怒られないかな?」
「私も、怒られるかもって思ってました。でも、笑われました。」 「え、笑われたって?」
「去年の夏休みに、一週間お休みを頂いて沖縄に帰ったんです。その時、祖母に話しました。
そしたら『瑞紀はあの人に似たんだね。』って。その後で色々な事を話してくれたんです。」
「『あの人』って誰のこと?」 その人はこの少女とどう関わっているのだろう。
話の続きはリビングのソファで、少女が淹れてくれた温かいお茶を飲みながら。の光。
その時、ふと俺の心も晴れたような気がした。
俺の適性が『言の葉』なら、まずは話をしてみるべきだろう。
後の対応をどうするか、会話の中で答えが見つかるかも知れない。
0286名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:12:18.47ID:DmgJBfgw0
 「もしかして、お祖母さんは自分の手で?」
「はい、その人が生まれて育ったあの集落と、その人が大好きだったあの海岸を
死ぬまで守ると決めた、そう言って笑っていました。」
「じゃあ、瑞紀ちゃんはお祖母さんにも似たんだね。」
少女はにっこり笑って頷いた。
「ノロになるための修行を始める前に、祖母とそんな話が出来て本当に良かったです。
好きな人のために、好きな人の暮らす土地を護るために、私はノロになりたい。
それは決して間違っていないと、自信が持てましたから。」
何と爽やかで、そして鮮やかな覚悟だろう。その言葉を聞いているだけで胸が震える。
俺は、間違っていたのかも知れない。
最初の頃の悪い印象をいつまでも引きずって、今の少女の姿を見ようともしなかった。
少女は真摯な態度で範士に師事し、新たな覚悟で『今』を生きてき キッチンに向かう少女の後ろ姿に、何故か桃花の方様の後ろ姿が重なった。
Sさんよりもむしろ姫に似た細い体に、あのお方は一体どれ程の力を秘めているのだろう。
以前Sさんから聞いた事がある。『桃花の方様は一族最強の術者であることが珍しくない。』
鬼門を封じ、当主様を御護りする最高位の術者。
確かに、当主様に匹敵する力を持っていなければ務まる筈がない。
御二人は大恋愛の末に結ばれたと、遍さんは話してくれた。
もちろん大変な資質を持っておられただろう。しかし、その資質も磨かなければ光らない。
それどころか、相応の修行をしなければ、強すぎる力はむしろ災厄のもとになる。
桃花の方様になると決めた時、そのために厳しい修行をなさった時、
やはり当主様への愛情が一番の力になった筈だ。
好きな人への想い、こうなりたいという夢が力になる、それは決して悪いことではない。
ならば今、少女の気持ちを拒むと決めて、その夢を断つのは正しいことだろうか。
以前、Sさんが『お勉強』の時間に教えてくれたことがある。修行を続ける上での注意点。
例え叶わずとも、強い夢は力になる。しかし、夢を見ている自分に酔ってはならない。
ふと、姫との初めてのデート、あの海岸へドライブした時の情景が浮かんだ。
『Rさんに好きと言っても 昼食の後、一緒に食器を洗ったり、テレビを見ながら他愛のない話をしたり。
時間は穏やかに過ぎて、4人が帰ってくる時間が近づいていた。
「もうすぐ、皆が帰ってくる時間ですね。」
「外で帰りを待とう。もう一度、梅の花を見ながら。」
「それは良いですけど、暖かい服を着て下さいね。」 「分かった。」
俺たちは並んで梅の花を眺めた。傾いた日差しの中で、梅の花は輝くように美しかった。
「さっきの話だけど。」 「はい?」
「『私はSさんやLさんのように奇麗じゃないし強くもない。』そう言ったよね?」 「はい。」
「それは違うと思う。瑞紀ちゃんはとても奇麗だし、強い。
そしてこれからもっと奇麗になるし、もっと強くなれる。」
「でも、Rさんは...」 「瑞紀ちゃんが、君が、好きだよ。」 「え?」
「今日、俺は君が好きになった。でも、好きになったばっかりで、
それがどういう『好き』なのかまだ分からない。
友達として好き、う〜ん、これは違う。妹として好き、近いかも。でも、正直分からない。
だから、そうだな。瑞紀ちゃんが沖縄に戻っても、時々は一緒に暮らそう。
俺が沖縄に旅行しても良いし、夏休みに瑞紀ちゃんが此処に来てくれても良い。
これから過ごす時間の中で、お互いの『好き』を確かめて、それをゆっくり育てていきたいから。」
「ありがとう、御座います。とっても、嬉しいです。私。」るなら、私、騙されていても構いません。』
この一年余りで少女は精神的に大きく成長し、それでも真剣な気持ちで俺を好いてくれている。
なら俺も、心に芽生えた彼女への『好き』を認めれば良い。
『妹』か、『恋人』か、それは全く別の話だ。
『やっと、分かってくれたんですね。瑞紀ちゃんのことになると、ホントに鈍いんですから。』
耳許で囁く、姫の声が聞こえた気がした。いうのに。
これが、姫とSさんが俺に伝えたかった事。少女の気持ちを受け入れるにしろ拒むにしろ、
少女の『今の姿』を見てからにするべきだ。そうでなければ悔いが残る。
後で気が付いたとしても、取り返しがつくかどうかは分からないのだから。
「すごいな。瑞紀ちゃんは本当に変わったね。初めて会った頃とはまるで別人。
今の瑞紀ちゃんはキラキラ光って見える。何て言うか、すごく素敵だよ。」
「ありがとう御座います。とても嬉しいです。
0287名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:16:13.80ID:fbVjLQtZ0
>>19
羽生は試合を4か月していないというから無理だべ
小平と渡部が金で平野が銀というのが現実的
0288名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:16:33.47ID:ynMCi4X40
少女が沖縄に帰ってから暫くの間、お屋敷の中は少し寂しくなった。
しかし日が経つにつれ、少女を恋しがってぐずりがちだった翠も少しずつ元気になり、
俺の傷も順調に回復して、お屋敷は元の賑やかさを取り戻しつつあった。
そして、庭の桜が咲き始めた頃。久し振りに川の神様のお社へ参内すると決めた。
立ち入り禁止期間に参内を休んだのは3回。皆で相談して参内するのを決めたのは一昨日。
その後も翠が神託を受けなかったのだから、既に立ち入り禁止は解けているのだろう。
俺が軽の4駆を運転し、S 「『Sが俺との縁談を断ったのを知った時、紫は『自分を妻に』と言った。』
紫さんはずっと炎さんを愛していたのに、何故縁談を持ちかける前でなく、
Sさんが縁談を断ったのを知った後で『自分を妻に』と言ったんでしょうね?
もし、Sさんが縁談を承知したら、自分の想いは永遠に報われないと分かっているのに。」
Sさんは黙ったまま、俺の横顔をじっと見つめている。
「答えは簡単です。Sさんに縁談を断られて、炎さんはとても落ち込んだんですよ。
他の人には弱みを見せなかっ Sさんは右手をそっと俺の左手に重ねた。
「半分正解。私、もう少し炎に優しくすれば良かったって、縁談もちゃんと聞けば良かったって、
確かにそう思った。でも、そう思っただけ。今と違う自分を望んではいない。
炎と紫の魂が『不幸の輪廻』に取り込まれたとしたらとても悲しいし、
何か自分に出来ることはないかと考えるわ。きっとあなたも、Lも同じ気持ちだと思う。
ただ、炎にもう少し優しくしていても、ちゃんと縁談を聞いていても、何も変わらない。
私の答えは1つ。何があっても、私には、あなただけ。」
「有り難う御座います。Sさんはそう言ってくれると思ったから、嫉妬はしませんでしたよ。」
「ふふ、やっと、自分に自信を持ってくれたのね、嬉しい。
でも、答えは未だ半分残ってる。残りの答えを聞かせて頂戴。」
Sさんも俺と同じ疑問を持った筈だ。Sさんなら疑問の答えが分かるかも知れない。
「どうやって紫さんは炎さんに『あれ』の存在を伝えたのか。それを考えていた。どうですか?」
「お見事、正解。」 「Sさんならその方法に心当たりが?」
「いいえ。紫の適性もあわせて考えて見ても、思い当たる術は無い。
炎と紫の絆が鍵だと思うけれど、その場の経緯が分からないとそれ以上は。」
「紫さんの件についての調査は進んでいるんでしょうか。」
「まだ調査は継続中だけど、おそらく『あれ』は依頼人の中に潜んでいたのね。
一族に害をなすには、力のある術者の中に潜み、機会を待つのが早道だから。
紫の中に入り込んだ『あれ』は依頼人を殺し、その魂を『不幸の輪廻』に送り込んだ。
当然、紫が業に呑まれたと誰もが思うし、紫より力のある術者が派遣される。」しょうけれど、
紫さんはとても炎さんの様子を見ていられなかった。
だから、秘めてきた自分の思いを思わず口にしたんです。
Sさんもそこに気付いて、炎さんが自分に恋愛感情を持っていたことを知った。
それなら、もう少し炎さんに。あの縁談も。そう思うのは当然だろうな、と。」
そう、炎さんの気持ちを知ったのならそれは当然。もちろん俺自身を卑下しているのではない。
あの縁談には術者を生み出す計画だけでなく、炎さんのSさんに対する恋慕の情が
含まれていた。今回の事でそれがSさんに伝わった。むしろそれが嬉しいと思う。
自分たちの出自が特殊であること、それ故に大き過ぎる期待を背負って生きること。
炎さんたちは常にそれらと向き合って来たのだろう。
せめてその気持ちだけは、Sさんに知って欲しいと思う気持ちになっていた。と二人で出発した。車の運転は本当に久し振りだ。
Sさんは助手席の窓を全開にして、山道の景色を眺めている。 少し寂しそうな横顔。
「炎さんと紫さんのことを考えてる。そうですよね?」
Sさんは俺の顔を見て少し笑った。「正解。じゃ、どんな風に考えているかは?」
「もう少し炎さんに、優しくすれば良かった。あの縁談も、もう少しちゃんと聞けば良かった。
こんな感じ、で、どうですか?」
Sさんは眼を丸くして俺を見た。「驚いた。術も使ってないのに、どうして?」
「炎さんはあの晩、僕に紫さんの事を話してくれました。
どんな内容だったか、桃花の方様の術をSさんも聞いていたんですよね?」
Sさんは小さく頷いた。
0289名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:17:33.14ID:ynMCi4X40
 「じゃあ、最初からそれが。」
「そう、『あれ』は宿主の力を自分の力の触媒として使う。
だから、どれだけの力が使えるかは宿主の力の強さに依存する。
炎クラスの術者が宿主なら、どんな術者にも力で劣ることはない。
それに、休眠を続けていれば、何時かは当主様に接触する機会も巡ってくる。
炎の中で休眠し、チャンスになれば目覚めるようにトリガーをセットしてあった。完璧な計画。
でも、どうしてか、紫は『あれ』の存在に気付いてそれを炎に伝えようとした。
そして、炎も気付いた。自分の中に『何か』が入り込んでいる。
しかも、自分が全く気付かないうちに。それなら入り込んだのは間違いなく『あれ』。
そうでなければ、そんなに容易く入り込まれる筈がない。
ただ、気付いたとしても、どう対処すべきか。炎は焦ったでしょうね。」
「たとえば炎さんがその存在を『上』に伝えようとすれば、『あれ』が目覚める訳ですね?」
「そう、その名やその存在を口にすれば、『あれ』が目覚めて自分は完全に乗っ取られる。
炎の力を触媒にすれば、『あれ』は一族を壊滅させるほどの力を使えたでしょうね。
だから、炎は必死で考えた。その答えがあなた。人質を取ってでもあなたを呼ぶ、と。」
心に幾重にも鍵を掛けた しかしその存在に俺が気付いた時、『あれ』は俺と炎さんを嘲笑っていた。
「どうして『あれ』は、さっさと僕を殺さなかったんでしょうか?」
「まずは様子見。炎とあなた、どっちの中に潜んでいるのが有利なのか。
次に油断、『たかが人間に何が出来る』。そう、見くびっていたのね。」
此所まで話してくれたのだから、もう1つ、質問しても良いだろう。
「ずっと、疑問に思っていたんですが。」 「何?」
「炎さんは、僕があの術で『あれ』に対処すると予想していたんでしょうか?
もしそうなら、僕があの術を使える事を、あらかじめ知っていた事になりますね。
Sさんは暫く窓の外を見 「私の得意な術。だからとうにあなたには教えてある、炎がそう予想してもおかしくない。
でも実際には、私があなたにあの術を教えたのは事件の前日、ギリギリのタイミング。
私、ずっと考えてたの。どうしてあの日、あなたにあの術を教えようと思ったのか。
でも、分からない。不思議、としか言いようが無い。それにもっと不思議なのは。」
「その前の晩、僕がどうしてあの夢、予知夢を見たのか、ですね?」
「そう、その夢を見たからあなたはあの術を試す気になった。まるで予行演習。
一度も試した事がない術が、精神的に追い込まれた状況で成功する確率はほとんど無い。」
確かに、偶然で片づけるにはあまりにも。その直後、ある名前が脳裏に浮かんだ。
『憶えておいて欲しい』と言われ、一生忘れないと誓った名前。
何故その名前が浮かんだのか、全く分からない。
だが、その名前を思い出したのだから、俺は大丈夫。そう思った。
俺の魂が穢れているなら、その名前を思い出せる筈がない。
『本当は俺の魂は穢れている。しかしSさんと姫の気持ちを汲んで、
当主さまと桃花の方様はそれを『上』には隠したのではないか。』
心の隅にずっと蟠っていた不安が跡形もなく消えてゆく。そう、俺は大丈夫。
だが、一連の信じがたい幸運を『御加護』とし、単純に喜ぶことはできない。
もう1つ、最大の疑問が残っている。た後、小さく溜息をついた。
「今考えれば、あなたが対処する方法はあれしかなかった。
でも、それはあくまでも後知恵。私があなたの立場だったとして、
あの術をあんな風に使って対処する方法を思いついたかどうか分からない。
炎がそれを期待していたとしたら、あなたと炎には共通点が有ったということ。
術に対する感覚、極限状態での行動や考え方、そしてその覚悟も。」
言われてみれば、炎さんも俺も、Sさんを好きになった。確かに似ている部分がある。
あの晩、炎さんは俺を『いちいち気に触る』と言った。
あれは、一種の近親憎悪から出た言葉だったのだろうか。、それでも会話を通して『あれ』の存在を感知出来る適性。
さらに『あれ』を滅ぼすことの出来る神器の持ち主。 だから、俺。
そう思ったから、炎さんは俺の適性とあの剣に全てを賭けた。
もちろん俺がそれに気付いた瞬間、自分の命は無いという覚悟の上で。
0291名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 07:23:35.48ID:yAkbJ5v70
「今回の幸運は偶然が重なった結果だったのか、あるいは御加護があったのか、
それは確かめようがありません。でも、絶対に確かめておかなければならないことが有ります。」
「何故『あれ』が現れたのか、どんな経緯で、誰が関わっているのか。そうでしょ?」
「はい、ただでさえ数少ない『あれ』の記録は、どれも200年以上前のもので、
しかも遠い昔に、神さまの御加護を受けた術者達によって、全て封じられている筈ですよね。」
あれから何度も、俺なりに図書室の記録を調べてみた。
『あれ』は悪霊というより、邪神に近い存在。高位の精霊が人間に害をなすように変化したもの。
だが、それらは既に封じられ、200年以上もその活動は確認されていなかった。それなのに。
「血眼になって『上』 車を停め、久し振りに参道の入り口に立つ。 俺は息を呑んだ。
2月の2回。3月の1回。計3回の祭祀と掃除の日は『立ち入り禁止』で参内していない。
あちこち、たくさんの落ち葉が積もっているだろうと思っていたのだが...
参道にも、手水舎とその周辺にも、全くと言っていい程落ち葉は落ちていない。
そして、いつも俺が落ち葉を掃き集める場所に、落ち葉の山。
「これ、どういうこと.. 少年は、俺の目を真っ直ぐに見つめた後、深く頭を下げた。
「このお社の祭主様だよ。紫、ご挨拶なさい。」
...やはり、そうだった。あの夢の中の会話が鮮やかに蘇る。
少年が女の子の涙を袱紗で拭う。女の子は一度鼻をすすってから小さく頷いた。
「祭主さま、紫と申します。今日はお仕事を仰せつかったので、兄様とこちらに参りました。」
2人に歩み寄り、ゆっくりと跪く。 少年と女の子は澄み切った笑顔を浮かべている。
「ご助力頂き、心から感謝致します。今後機会がありましたら、是非よしなに。」
一礼して顔を上げる、既に2人の姿はない。
立ち上がり、振り返ると、すぐ後ろにSさんが立っていた。
「Sさんの答えは正しかった。僕は、そう思います。」
Sさんは大きく、何度も頷いた。奇麗な眼が赤く潤んでいる。そっと、小さな肩を抱いた。
「あの晩の出来事。眼が覚める前に不思議な夢を見たんです。
川の神様が2人の魂を救って下さる夢、それはきっと正夢だと、ずっと信じていました。」
「もし、私が炎を受け入れていたら、こうはならなかった。
あの縁談を断って、あなたと出会えたから、あなたを愛したから、こんな風に。
炎と紫にとっても、これはハッピーエンド。ね、そうでしょ?」
「はい、間違いなくハッピーエンドです。」 「後でLにも話して上げなきゃね。」
「今日は久し振りに僕が夕食を作ります。腕によりを掛けて。
みんなで美味しいものを一杯食べて、元気出しましょう。」体誰が?」 Sさんも落ち葉の山を見つめている。
強い風が吹けば、直ぐに落ち葉の山は崩れる。ということは。
「Sさん、ちょっと拝殿と本殿の様子を見てきます。」
俺は小走りで拝殿に向かった。もしかしたらまだ。
拝殿、瑞垣の外から様子を見る。やはり落ち葉は落ちていない。本殿は?
本殿の正面。瑞垣の中に入ると、女の子の声が聞こえた。
「兄様、こっちよ。」
「もう、お仕事は済んだのだから、早く帰らないと。」 「嫌だ。少し遊びたい。」
パタパタパタ、軽い足音が本殿の右側から近付いてくる。
「あっ!」
小さな、5〜6歳の女の子が、俺の右側、3m程先で派手に転んだ。
白い着物。少しの間を置いて、大きな泣き声。
思わず駆け寄ろうとしたが、何とか立ち止まった。
女の子の後を追ってきたのだろう。12〜13歳の少年が女の子を抱き上げる。
「だから言ったろ。お社で走ってはいけないと。」
次の瞬間、女の子を抱いた少年と目が合った。女の子と同じ、純白の着物。査してるのも、まさにそれよ。
『あれ』が封じられている場所を全てあたって、封印の状況を調べている途中。
その封印を破り、邪な契約を結んで一族を壊滅させようとした者がいる。
そう考えるのが一番単純な解釈だから。 それに『あれ』が焼き尽くされたということは、
契約は完成していない。契約の対価となる命を受け取るべき『あれ』が滅びたのだから。
つまり『あれ』の封印を破った者は、未だ生きている可能性がある。」
そこまで話すと、Sさんは微かな笑みを浮かべた。
「ただ、どんな力を持っていても、そう何度も封印を破ることは出来ない。
生きているとしても、今回の失敗でかなりのダメージを負っている筈。
あの後『不幸の輪廻』の活動は通常のレベルに戻ったみたいだし、取り敢えず一段落。
それは間違いないと思う。ただ、念には念を入れて、そういうこと。」
0292名無しさん@恐縮です
垢版 |
2018/02/13(火) 07:25:22.96ID:qJU80tNh0
「そう言う訳には行かないだろ?マミが待っているのだから」
「本当に?……あの娘とは、もう終ってしまったんじゃないの?」
久子の言葉は、俺の中にあった怖れを抉り出した。
「あの娘と関わったら、お兄ちゃんは、また、危ない世界に戻らなければならなくなるんじゃないの?
あんなに抜けたがっていて、やっとの思いで抜け出したというのに。
……私は嫌よ。あんな思いをするのは、もう絶対に嫌!」
久子は泣いて「心配性だな。考えすぎだよ」
「はあ?何を言っているのよ!……実際に、2度も命を落し掛けているじゃないのよ!
……お兄ちゃんは、全然、判ってくれないんだね。。。
子供の頃から、お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、私も、……いつも心配していたわ。
いつか、……いいえ、明日にでも、お兄ちゃんが居なくなってしまうんじゃないかって。
二度と会えなくなっちゃうんじゃないかって……いつも怖かった。今でもね!
私達、家族なのよ? 本当の……偶には振り返ってよ。
あの娘の事ばかりじゃなくて、私のことも見てよ!……お願いだから。。。」
泣き出した久子を抱き寄せて、彼女の頭を撫でながら俺は言った。
「お前、相変わらず嘘が下手だな。
そんな事を言っても、本当は、マミのことを心配しているんだろ?」
「ええ。……それでも、……マミちゃんとお兄ちゃんは、…冬物の革のライディングジャケットのお陰で、出血は派手だったが、傷自体はそれほど深いものでは無かった。
ヌルヌルとした血の感触に、俺は逆上する訳でもなく、むしろ異様に冷めた精神状態になった。
左手で男の顔面を掴み、そのまま人差し指と中指を男の目に捻じ込み、思い切り握り込んだ。
グリッとした硬い手応えと共に、男は獣のような凄まじい叫び声を上げた。
本能的な行動だったのだろう、男は顔面を抑えたまま、玄関の方へ逃げていった。
玄関を出て、廊下の壁にぶつかりながら、階段の方へと逃げて行く。
階段の前に来たところで、俺は後ろから男の襟首を捕まえた。
そして、股間部を掴んで男を持ち上げると、頭から階段に投げ落とした。
男は、階段の中ほどに頭から落下し、そのまま転がり落ちていった。
騒ぎを聞きつけて出てきた、隣の部屋の女学生が俺の姿を見て悲鳴を上げた。
後日、聞いた話では、俺は血塗れで薄ら笑いを浮かべたまま立っていたらしい。
幸い、久子の激しい抵抗にあって男は行為には及んでいなかった。
だが、久子は頬骨と肋骨を折る重傷を負わされ、数針縫う切創も負っていた。」
「何故? ヤキモチか何かか?」
「そんなんじゃないわよ。……いいえ、それが全く無いとは言わないわ。
それでも、私は別に、お兄ちゃんが恋人を作ったり、結婚すること全てに反対と言っている訳じゃないのよ。
でも、マミちゃんは駄目。 あの娘は……お兄ちゃんと一緒に居るには、脆すぎる。傷付き易すぎる。
お兄ちゃんも弱い人だから、傷つき易い上に、立ち直りが遅いわ。
あの娘に何かがある度に、あの娘の事で傷ついて、いつまでも自分を責め続ける。
由花さんやアリサさんみたいにね。
お兄ちゃんの相手は強い人じゃないと。……祐子さんみたいな。
祐子さん、……私のせいで駄目にならなければ、お兄ちゃん達、今頃。。。」
俺は、語気が荒れそうになるのを抑えながら言った。
「お前は、何も悪くない。 それに、祐子は同級生で、ただの昔の勉強仲間だよ。
それ以上でも、それ以下でもない」。
「マミは家族だから、……お前の大切な妹だから、迎えにって遣らないと」
「それでも嫌。……私、あの娘には、もう2度と戻ってきて欲しくない。
判ってる。……私、酷い事を言っているよ。でも嫌なの!」
「何故? お前は誰よりも、アイツの事を可愛がっていたじゃないか。本当の妹のように。
お前、マミのこと、嫌いだったのか?」
「ええ、嫌いよ! お兄ちゃんと関わった女の人達なんて、みんな嫌いよ。最初からね!
マミちゃんも由花さんも、……会った事は無いけれど、……命懸けでお兄ちゃんを守ってくれた人だけど、アリサさんも!」
「何故?」
「理由なんて、……理由なんて無いわよ!
でもみんな、お兄ちゃんを不幸にする。お兄ちゃんを傷つけて、危険な目に遭わせる。
……あの人たちのせいで、お兄ちゃんはいつか命を落す。そんな気がしていたのよ!」
0293名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:28:33.59ID:twOnnZgO0
相手の男は両眼をほぼ失明し、頭蓋骨の陥没骨折、頚椎の骨折と脱臼いう瀕死の重傷を負っていた。
何とか命は取り留め、意識も回復したが、首から下が完全に麻痺したらしい。
祐子の父親の尽力も有って、俺は刑事上も民事上も責任を問われる事はなかった。
しかし、事件が久子に与えた精神的衝撃は、余りにも酷かった。
そして、久子と仲の良かった祐子の精神的ショックも大きかった。
あの日、俺を誘わなければと、自分を責め続けた。
久子や祐子とは違った形で、事件は俺にも深い影響を与えていた。
男の眼を潰したとき、そして、階段に頭から投げ落とした時、俺体の傷が癒えると、周囲の心配を振り切って、久子は学業に復帰した。
事件を気に病む祐子を気遣っての事だったのだろう。
だが、そんな久子の俺を見る目は、怯え切っていた。
事件は、俺自身にも暗い影響を与えていた。
俺は、あの日の『暴力』の味木島氏の指定した待ち合わせ場所に居たのは、意外すぎる人物だった。
50代半ば程の年恰好。
暗い店内にも拘らず、濃い色のサングラスを外そうとしない男に俺は言い尽くせぬ懐かしさを感じていた。
彼には、話したい事も、聞きたいことも山ほどあった。
だが、全ては後回しだ。
何よりも重要な用件が俺には有った。
そのために俺は、この日を待ち続けていたのだ。
「俺は待ったぞ。 約束だ、マミを帰して貰おうか? 今直ぐにだ!」
「まあ、そう慌てるなよ。 まずは、席に着いたらどうだ?」
冷静な男の声が俺の神経を逆撫でた。
「……すまないな。事情が有って、彼女を帰す訳には行かなくなった」
サーっと、血の気が引いてゆくのが判った。
焦燥と共に、激しい怒りや殺意、憎悪が俺の血管の中で沸騰した。
「ふざけるなよ? 舐めた事を抜かすと、幾らアンタでも容赦はしないぞ?
話が違う! どう言う事なんだ、答えろよマサさん!」れられず、黒い『期待』を抱いて夜の街を徘徊した。
半ば挑発して、不良の餓鬼やチンピラと揉め事を起こしたりもした。
飢餓感すら感じながら暴れ回ったが、素人相手に拳を振るっても『渇き』は増すばかりで癒されることはなかった。
隠したつもりでいても、俺の異常な状態は久子にはお見通しだったのだろう。
子供の頃から、久子に俺の秘密を隠し果せた事など無いのだ。
やがて俺は、夜の町で知り合った女の部屋に転がり込んで、久子と住んでいた、あの部屋に戻ることは二俺は、久子のマンションを出て、木島氏の指定した待ち合わせ場所へと車を走らせていた。
運転しながら、マミが残していったMP3プレーヤーの中に残されていた歌をリピートして聞いていた。
『……さよならって、言えなかったこと、いつか許してね……』
何を話せば良いのか?
マミは帰ってきてくれるのか?
俺は、マミとやり直せるのか?
俺は、マミの傍に居ても良いのか?
判らない。
だが、全てはマミを連れ戻してからだ。
俺の両親が待つあの家へ、マミを連れ戻す。
全ては其処からだ。
やがて、俺は待ち合わせの場所に到着した。無かった。めて冷静だった。
人一人を殺そうとしておきながらだ。
咄嗟の事態に狼狽してでは無く、ナイフで刺されて逆上したからでもなく、結果を予見しつつやったのだ。
極めて冷静に、眼を潰され抵抗力を失った男を投げ落とした時には、むしろ、楽しんでさえいたのだ。
後に、権さんは俺に言った。
俺の狂気を、ジュリーこと姜 種憲(カン・ジョンホン)以上の狂気を買っていると。
そして、俺の中には、確かに棲んでいるのだろう。
マサさんの息子が言っていた『鬼』とやらが。
0294名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:30:10.02ID:b/EKbTxd0
2月某日
白い朝の光に包まれて、俺は目覚めた。
「おはようございます、XXさん。 今日も良い天気ですよ」
若い女が、そう俺に声を掛けてきた。
状況の飲み込めない俺は、錆付いた言語中枢と舌を駆使して、たどたどしい言葉を発した。
「ここは……どこ俺マミは、朝、俺が目覚めてから、夜、眠りに就くまで付きっ切りといった按配で俺の身の回りの世話をし続けた。
20歳前後の年格好の彼女が、何故そこまでするのか、俺には理解不能だった。
俺の見舞いに訪れた二人の女……俺の姉と妹と名乗った女達にも違和感を感じた。
眼鏡をかけた長い黒髪の小柄な女が素子。俺の姉らしい。
背が高く、髪をベリーショートにした、見るからに勝気そうな女が久子。妹のようだ。
二人の体格や雰囲気は大分違っていたが、顔立ちは良く似ていた。
俺のきょうだいだとは信じられなかったが、二人が姉妹なの間違いなさそうだった。
そして、二人の顔立ちは俺の『母』にも良く似ていた。
だが、マミの顔立ちは二人とはかなり違っており、姉妹とは思えなかった。
違和感は消えなかったが、俺は徐々に家や両親、素子や久子の存在に『慣れて』いった。
だが、マミに感じていた違和感は強まりこそすれ、彼女の存在に慣れることは無かった。
マミが心根の優しい娘である事は直ぐに判った。
まだ幼さの残る容姿も、細過ぎる嫌いは有ったが、美しいと言えるだろう。
だが、彼女に甲斐甲斐しく世話をされるほどに俺の感じる違和感……嫌悪感は強まっていた。
理性の部分では彼女に感謝していたが、彼女の存在は俺にとって苦痛でしかなかった。何故?
父も母も、素子や久子、そしてマミも、意識を失う以前の俺の事を何も教えてくれなかった。
錆び付いていた心身の回復に伴って、俺の中に耐え難い焦燥感が生じ、大きくなっていった。いる場所は、俺が育った家らしい。
目の前の老夫婦は俺の両親だということだ。
二人は俺をXXと呼んだ。俺の名前か?
だが、強烈な違和感があって、とても自分の名前だとは思えない。
そして、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれている若い女。
老夫婦を『お父さん』『お母さん』と呼ぶ彼女は、俺の妹ということか?
だが、『マミ』と名乗るこの女に、俺は最も強烈な違和感を感じていた。
彼女の姿、声、触れられた指の感触……全てに、耐え難い違和感があった。
他の者からは感じられない、ざわざわとした何かが俺のなかに沸き起こった。
それが、恐怖なのか嫌悪なのかは、すべてを忘れてしまっていた俺には判らなかった。
ただ、ひたすらに居心地が悪かった。」
女が驚いた表情で俺の顔を覗き込んだ。
彼女の眼から、大粒の涙が落ちてきた。
「少し待っていてくださいね!」
そう言うと、彼女は慌しく部屋を出て行った。
どうやら、俺は前年末から眠り続けていたらしい。
数週間前に意識を取り戻したが、外界に反応を示さず、ただその場に居るだけの存在と化していた……ようだ。
ただ、目覚めはしたものの、俺の中は空っぽだった。何も思い出せない。
目に見える全て、耳に聞こえる全てに強烈な違和感があった。
いま、俺がいる此処は何処だ?
俺の目の前にいる人々は誰だ?そして、俺は誰だ?
俺は、鏡の中に映る己の姿にさえ強烈な違和感と嫌悪感を感じずにはいられなかった。
0295名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:31:38.11ID:b/EKbTxd0
目覚めてから1ヶ月、日常生活に支障が無くなった頃に、一人の青年が尋ねてきた。
何か大きな事故にでも遭ったのだろうか、膝に装具を着け、松葉杖で歩く彼は『イサム』と名乗った。
彼との関係も思い出すことは出来なかったが、イサムは俺を『先輩』と呼んだ。
彼の存在は、俺にとって不快なものではなかった。俺が引き止めて、2・3日逗留していたイサムが帰って行った日の晩の事だ。
俺は、喉の渇きを覚えて目が覚めた。
何か飲もうと、部屋を出て1階のキッチンへと向かった。
階段を下りると居間に誰立ち尽くす俺に、マミが気づいた。
慌てたように涙を拭い、明らかに無理をして作った明るい声で言った。
「XXさん、こんな時間にどうしたの?」
「ちょっと喉が渇いたのでね。マミは……こんな時間まで起きてたの?」
「はい、ちょっと眠れなくて……」
……気まずい空気が流「これですか?何の曲かは知らないのですけど、気に入っているんです」
「聞かせてもらってもいい?」
「どうぞ」
俺は、マミからプレーヤーを受け取り、イヤホンを耳に嵌めて曲を流し始めた。
単純な旋律が続くピアノ曲だった。
曲名は判らないが、何処かで聞いたことがある曲だ……何の曲だ?
やがて、曲が流れ終わると、何故か、俺は激しい頭痛に襲われた。
「どうしました?」マミが心配そうな表情を俺に向けた。
「何でもない。音量が大き過ぎたみたいだ。いい曲だね」
「……はい」
「もう遅いから寝ないと……おやすみ、マミ」
「おやすみなさい……」
マミは、じっと俺の顔を見つめながら、淋しげな表情を見せた。
頭痛を抱えたまま、俺は床に戻った。
あの曲は何だったのだ?
疑問を感じたまま、やがて俺は眠りの中に落ちていった。いた。
『何で泣いていたの?』と聞ける訳もなく……だが、泣いているところを見てしまったのはマミにもバレているだろう。
ふと思いついて俺はマミに言った。
「何を聞いていたの?」いる。
マミだ。
こちらに背中を向け、ソファーに深く身を沈めていた。
光取りの窓から街灯の光が入り込み、真っ暗ではなかったので階段の灯りは点けていなかった。
イヤホンで何かを聞いていたらしく、マミは俺に気付いていなかった。
……マミは、肩を震わせて泣いていた。
胸が締め付けられた。
比喩的な意味ではなく、本当に胸が痛んだ。
マミを泣かせている原因が、恐らく俺自身であることを考えると、いたたまれなかった。
このまま跡形もなく消滅してしまいたい……。
俺が眠り続けている間も、怪我を押して2度も見舞いに訪れてくれていたらしい。
俺にとっては初対面同然だったが、イサムとはウマが合った。
同時に、なんとなく判った。
俺の見舞いを口実にしては居るが、イサムはマミ逢いたくて此処に来ているのだと。
……お似合いじゃないか。
イサムの不器用さを微笑ましく思うと共に、俺は何故か一抹の寂しさを覚えていた。
理由は判らなかったが。
0296名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:40:32.16ID:iroFjO6a0
昨夜の激しい頭痛は治まっていた。
その朝は、いつも7時丁度に起こしに来るマミが姿を現さなかった。
階段を下り、1階のキッチンへ行くと、朝食が用意されていた。
だが、誰もいない。
珈琲を淹れて飲んでいると、テーブルの上に置かれたmp3プレーヤーが目に付いた。マミの物だ。
そして、不意に、昨夜に聞いた曲と共に、俺は全てを思い出していた。
……何てこと前の晩に聞いた曲は、イサムに託したUSBメモリーの中に俺が入れて置いた曲だった。
ファイルには財産目録や遺言書のコピー、そして、マミに宛て誰も居ない家の中で、俺はジリジリとしながらマミと両親の帰宅を待った。
そして、何となしにマミのMP3プレーヤーをもう一度聞いてみた。
中には一曲だけ、昨夜のピアノ曲とは違う、聴いたことの無い歌が入っていた。
歌を聴いて、俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
マミは、もう帰ってこないのではないか?
俺の悪い予感は的中連れ戻してやる、そう思って家を飛び出そうとした俺を父が制した。
「何処へ行くつもりだ?」
「決まっているだろ? マミを連れ戻しに行くんだよ。離してくれ!」「駄目だ」「何故?」
「これは、あの娘が決めたことだからだ。 誰でもない、お前のためにな。
お前の為に、あの娘は木島さんたちと契約したんだ。
それを、お前が無駄にしてはいけない」
意識を失ったままの俺を目覚めさせる為、組織が動員を掛けて多くの人が関わったらしい。
霊能者の天見琉華を中心に、奈津子や木島氏の次女・藍、仕事でガードした事もあるオム氏の娘・正愛(ジョンエ)。
イサムの姉の香織や、組織に全く関係の無い、ほのかや祐子も俺を目覚めさせる為に手を貸してくれたようだ。
何が行われたのか、詳細は判らない。
ただ、その交換条件が、一定期間、マミが木島氏たちの下に身を置く事だったらしい。。
昼前に、両親だけが戻ってきた。
俺は両親に「マミはどうした?」と尋ねた。
嫌な予感に俺の声も体も震えていた。
父が答えた。
「マミちゃんは、木島さんと一緒に行ったよ。。。」
俺が予想していた中でも、最悪の回答だった。
体の内側から弾け出すものに訳が判らなくなって、俺は泣き叫んだ。
「何故だ! 何故行かせた!」書が書き込まれていた。
俺に何かあったとき、マミに渡して欲しい……そう、頼んであったのだ。
そして、俺はこの曲を使って自己暗示を掛けていた。
この曲を切っ掛けにして、全ての記憶を思い出す精神操作だ。
……深い瞑想時に、深層意識下で見たり聞いたりしたものを覚醒後に思い出す為の技術の応用だ。
この曲は、長年、俺が使い続けて来た曲でもあった。
役立つとは思っていなかったが、一縷の望みをかけて自己操作を行っていたのが功を奏したのだ。
俺は、目論見通り、『定められた日』を回避する事に成功していた。
だが、その事に何の意味がある?
俺は、足掻いた。全力で。
しかし、俺の足掻きは彼女を決定的に傷付ける結果となってしまった。
俺には、もう、彼女に触れ、愛を囁く勇気はなかった。
記憶のない俺に、マミは献身的に尽くしてくれた。
俺の記憶が戻らなければ、あるいは、徐々にでも新たな関係を構築する事も可能だったのかもしれない。
だが、それは叶わない。
俺は、マミにとっては恐怖と嫌悪の対象。
『あの日』と同じ自分でしかないのだから。何故、忘れていたんだ!
胸の奥から溢れ出てくる熱いものがあった。
意識が戻って以来、晴れることのなかった『靄』が消え、『現実感』が戻っていた。
だが、同時に俺は深い絶望感に囚われていた。
『あの日』マミが俺に向けた、あの表情……『恐怖』に歪んだ表情を思い出したのだ。
マミに激しく拒絶された、あの絶望感と喪失感を。
0297名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:43:29.24ID:QOAEa0750
俺は、組織を恐れていた。
未だ目覚めては居ないものの、マミは組織が探索していた『新しい子供』の一人……らしいからだ。
だが、他方で、俺に何かが有った時、マミの身の安全の保証を頼めるのも、木島氏達の組織しかなかった。
だからこそ、俺は古くからの友人であるPではなく、イサムにマミのことを頼んだのだ。
可能であれば力ずくでも、組織の人間を一人づつ的に掛けてでも、マミを探し出し取り戻したかった。
だが、萎え切った今の俺の心身では不可能に近い。
俺は、父に尋「あの娘と暮らした思い出の詰まった家じゃ、居辛いでしょ?
私の所に、いらっしゃい。あの娘が戻ってくるまで。
少しの間だけ、また一緒に暮らしましょう。……学生の頃みたいに、ね?」
という、久子の言葉に甘えて、俺は実家を出て久子のマンションに身を寄せた。

来る日に備えて、俺は『修行』を再開した。
時間だけはあるのだ。
「いつも家に居て、炊事・洗濯、家事一般をやってくれるなら、稼いでこなくても幾らでも食わせてやるわよ」
「おいおい、俺に専業主夫をやれと? んっ?前にも、同じような台詞を聞いたな。。。」
「一番大事な『かわいい』って条件は満たしていないけれど、大目に見てあげる。
家事一般は、お兄ちゃんの久子の許に身を寄せて3ヵ月。
木島氏と約束した日の前夜。
眠れぬまま横になっていた俺の布団の中に久子が入ってきた。
そして、無言のまま、背中から抱きついてきた。
「……おい、何だよ?」
「……ごめん、少しでいいから、このままで居させて」
背中で久子が泣いているのが感じられた。
やがて久子は泣き止み、口を開いた。
「いよいよ、明日ね」
「ああ。 ……なあ、マミは帰ってくると思うか?」
「判らない」
「そうだよな。
嫌な事を思い出させて悪いんだが、あの事件の後、お前、俺のことを酷く怖がっていたよな?
……俺は、そんなに怖かったか?」
「……怖かったよ。お兄ちゃんが、私のせいで、私の知っているお兄ちゃんじゃ無くなっちゃったんじゃないかって」
「そうか。。。」
「頭では判っているの。例え『鬼』になっても、お兄ちゃんが女の子に手を挙げる事は無いってことは。
むしろ、お兄ちゃんが『鬼』になるのは、誰かを守りたいからなんじゃないかな?
でも、怖いのよ。 理屈じゃないの。
特に、マミちゃんは、私なんかと比べようが無いくらいに傷付けられているから、理屈抜きに怖かったんだと思う」上手いもんね」
「姉さんに厳しく仕込まれたからな。……お前、調子の良い事を言って、そっちが目的だったんだろ?」
「あら、今頃気付いたの? 鈍いわね」。
「マミは、戻ってこれるのか?」
「ああ、そう聞いている。あの娘が望めばな」
「そうか。。。」
「今は耐えて、待つしかない。
あの娘は、絶望的な状況でお前が目覚めるのを待ち続けたんだ。
あの娘は耐えた。お前が目覚めてからも、耐え続けた。
誰のためでもない、お前のためにな。
今は、お前が耐えろ。お前が出来る事はそれしかない」
0298名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 07:53:25.79ID:lJIjC/Q00
>>16
ふざけんな!って言いたいがこれは一理ある
まあでも韓国ってショートトラック以外にメダル取れる競技ないじゃん
スピードスケートも500でワンチャンあるかないかだろ?
0299名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 08:00:16.87ID:dVmlxvWe0
「そうか。。。」「うん。……そして、物凄く後悔していると思うんだ。
お兄ちゃんを怖がって、拒絶してしまった事を。傷つけちゃったことを。
……ごめんね。お兄ちゃんは、私を助けてくれたのにね。。。」
「泣くなよ。……過ぎたことだ、気にするな。アレだけの事をやっちまっったんだから、むしろ当然の反応だよ。
それに、俺自身が怖いんだよ。時々歯止めの利かなくなる、際限なく冷酷になれる自分が。
何かの拍子にコントロールを失って、お前やマミに矛先を向けてし「俺が、マミの前から居なくなる訳が無いだろ?馬鹿だな」……胸が苦しかった。
「本当ですか?XXさんは、私に何か隠しています……馬鹿だけど、それくらい、私にだってわかりますよ!
……大事なことは何も、教えてはくれないんですね。。。」……もう耐えられなかった。
何を言おうとしても、まともに言葉にできる自信がない。
俺はマミを強く抱き締め、長い、とても長いキスをした。
このまま時間が止まればいい。
もっと時間が、マミと過ごす時間が欲しかった。
だが、時を司る神は俺はマミの笑顔が好きだった。彼女の笑顔の為なら全てを捨てても惜しくはない。
泣き顔も好きだ。そして、泣き虫な彼女が泣き止んだ時に見せてくれる、涙混じりの笑顔はたまらなく可愛いかった。
怒ったときの膨れっ面も好きだった。彼女を宥め、機嫌を取ることも、俺にとっては楽しいひと時だった。
彼女の喜怒哀楽全ての表情が俺にとっては宝石だった。
だが、マミの恐怖に歪んだ顔は見たくなかった。
初めて出会った頃の、『どうなってもいい』と全てを諦め、涙を流すことも出来ない絶望した顔は二度と見たくなかった。
感情の消えた、凍りついた死人のような目を二度とさせたくなかった。
だが、触れ方を間違えれば、深く刻まれたマミの心の傷は血を流し、彼女は再び心を閉ざしてしまうだろう。
俺以上にマミは恐れていたはずだ。
傷つけられ、心を切り刻まれた者のフラッシュバックの恐怖は、他人には計り知れない。
一部の例外を除いて、マミにとって『男』とは、未だに恐怖の対象でしかないのだ。
『24日の夜は二人きりで過ごし、翌朝、婚姻届を出しに行く』と言う約束は、彼女にとっては決死の覚悟だったのだ。 
マミは、俺を信じて心を開いてくれた。
多くの人々に彼女が救われたように、俺もまた彼女に救われたのだ。彼女の想いに報いたかった。
だが、俺が彼女との約束を果たせる可能性は低い。
しかも、これから俺が行おうとしていることは、彼女にとって恐怖と嫌悪の対象である『暴力』と大差ない。
彼女に事実を話すことはできなかった。
午前10時、身支度を整えた俺は、誰にも、何も告げずに家を出た。だ。
俺は既に時を使い果たしてしまっていた。
時が与えられないのなら、このまま世界が滅んでしまってもいい。
唇を離すとマミが言った。
「XXさん、何で泣いているんですか?」
迂闊にも、俺はいつの間にか涙を流していた。
「……何でかな?俺にも判らないよ。でも、お前以上に『大事なこと』は、俺には無いよ。
俺は、いつもお前の傍にいて、お前を愛してる。それだけは、何があっても本当だ」
「私もです。……私は、何があってもXXさんの傍にいます。愛してます」
……お互いに何百回も『愛している』と囁き、口づけを交わしたが、俺達の間には本来有るべき確かな証がなかった。
紙一枚の法律的なものではない。……そんなものは大した問題ではない。婚姻届など、いつでも出せたのだ。
俺の身体的な問題もあったが、マミの抱えた深いトラウマを俺は恐れていた。
落ち着いては見えるが、マミの心の傷は出血が止まっただけで、今なお生々しく、深く抉られたままだ。んじゃないかって。。。」
「それは無いよ。 絶対にないって!
でも、どんな結果になっても、あの娘の事は許してやって」
「むしろ、許しを請わなければならないのは俺の方だよ。
でも、例え俺が拒絶されたとしても、アイツはやっぱり連れ戻さなきゃいけない。
頼むな。マミの事を一番判ってやれるのは、やっぱりお前なんだよ」
0300名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 08:04:23.30ID:aX6XpHxd0
待ち合わせの場所に迎えの車が来ていた。
タバコを咥えた朴が車外で俺を待っていた。「来たか……」「ああ。待たせたな」「……では、行こうか」
俺たちは、後部座席に乗り込んだ。
道中、車内の沈黙を破って朴が口を開いた。それは、現実と区別が付かないほどリアルな夢だった。
いや、果たして夢だったのか?
俺の両手には、マミの首を締めた生々しい感覚が残っていた。
隣で眠るマミの寝息を確認して、俺は初めて、それまで見たものが夢だった事に胸を撫で下ろした。
そして、悟った。
あの不気味な何か、マミを組み敷いていた『あれ』は、俺自身であると。
 
マミの卒業パーティーの日、俺はマミに俺とPの過去と一木耀子の霊視による『定められた日』のことを話してはいた。
だが、マミにとってはくだらない迷信、ただの与太話にしか過ぎなかっただろう。
無理もない。
通常の世界に生きてきた者であれば、それが当然の反応だ。
俺自身が、近付きつつあるという自分自身の死期も、『定められた日』とやらも、どこか本気に捉えていない部分があった。
……この期に及んで、信じたくなかったのだ。
マミとこれまで通りの暮らしを続けながらやり過ごしたい、やり過ごせると信じたがっていたのだ。
だが、そんな甘い夢は、脆くも崩れ去った。
自分自身の死もだが、いつか正気を失いマミを手に掛けてしまうのではないか、それが恐ろしかった。
「何故、来たんだ? 逃げてしまえばよかったんだよ、除のようにな」
「ケジメだよ。 俺一人なら、それも悪くない選択肢だけどな」
「そうか……。 なあ、拝み屋。拝み屋を辞めたいなら、辞めればいいさ。
でも、『会社』まで辞める必要は無いじゃないか。 俺が社長に掛け合ってやるから、もう一度、一緒に遣らないか?」
「悪いな。 もう決めたことなんだ。俺は脚を洗うよ、キッパリとな」
「……そうか、判った。 もう、何も言うまい。 今夜は、全力で掛からせてもらうよ」
「ああ、そうしてくれ。 そうでないと意味がないんだ」キムさんから、場所と日取りの連絡が来た直後の事だった。
風呂上りに洗面台の鏡を見た俺は、その場に凍りついた。
鏡に映っていたのは、異様な『何か』だった。
死体のような?どす黒い肌をした『それ』は、赤く光る目で俺を睨み付けていた。
怯んで後ずさった次の瞬間、鏡に映っていたのは普通の俺の姿だった。
……あれは、何だったのだ?
鏡に映る、不気味な『何か』を見た晩から、俺は毎晩、同じ悪夢に魘されるようになった。
見覚えのある、古く薄汚れた部屋。
マミとユファが住んでいた、団地の部屋だ。
耐え難い悪臭が漂っていた。 ……この臭いは、屍臭だ。部屋の奥に誰かがいる。
中に進むと、あの不気味な何かが、誰かを組み敷いて犯していた。……マミだった。
激昂した俺は、マミから引き離そうと、ヤツの髪を掴んで引っ張った。
引っ張った髪は、大した手応えも無く頭皮ごとズルリと抜け落ちた。
凍り付く俺に、両眼から赤い光を放ちながらソレは襲い掛かってきた。
俺は喉笛に喰い付かれ、噛み砕かれた。
激痛とゴボゴボという呼吸音を聞きながら俺の意識は薄れていった。
次に気付いた時、俺は誰かを組み敷いて、その首を絞めていた。マミだ。マミは既に息絶えていた。
正気に戻った俺は絶叫した。
そして、絶叫した瞬間に俺は目覚めていた。
これから12時間後、俺はキムさんが選んだ10人の男達と戦う事になっていた。
朴もその中の一人なのだろう。
恐らく文も。
俺の腕では朴に勝てる可能性は低い。
普段の稽古なら3回戦って、1回勝てれば良い、そんな所だ。
文に至っては、どう戦えば良いか見当も付かなかった。
文や朴以外も、出てくるのは猛者揃いのあの道場の中でも選びぬかれた男達だろう。
まともに戦っても、勝ち目は薄い。
1人目で終わる可能性も低くは無い。
普通に考えて、逃げるのが一番の得策なのだろう。
だが、それが出来ない理由が俺には有った。
0301名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 08:11:23.49ID:2PA1xwvw0
そんな俺にイサムの姉の香織がコンタクトを取ってきた。
霊能者・天見 琉華の使いということだった。
ある行法を伝える為だった。
もたらされた『行法』自体は、ごく単純だった。
ただひたすらに、声に出さず頭の中で『真言』を唱え続けるだけの行だ。
単純だが困難な行だった。
『真言』は常に唱え続けなければならない。
あらゆる場面で、飯を食っているときも、寝ている時も、人と会話している時もだ。
これは、やってみれば判るやがて、車は通い慣れた道場に到着した。
キムさんのボディーガードの3人組、文・朴・徐が修行した道場であり、権さんに命じられて徐とタイマンを張った場所でもある。
徐に誘われる形で俺も通い、稽古を重ねた場所だ。ここでイサムとも出会った。
開始まで、まだ大分時間があるので、俺は事務室のソファーで横になった。
『……結局、与えられたチャンスとやらは活かすことはできなかったな』
マサさんの息子……いや、『新しい子供達』が示した、俺が怨みや怒りを捨てたことを示す言葉……
唱えれば、新しく全てが始まるという『あの言葉』とやらに、俺は辿り着くことが出来なかった。
琉華によってもたらされた『行』の効果にも期待はしていなかった。
ならばこそ、出来る事だけに時間が来た。
道着に着替えて地下の道場に下りと、キムさん達が既に待っていた。キムさんと師範。権さんもいる。
文と朴、その他7名の有段者たち。どの面々も曲者揃いだ。文が若い男に声をかけた。
「安東はどうした?」……イサムもメンバーだったのか!
だが、イサムが姿を現さなかったのは、俺にとっては好都合だった。
俺が居なくなったあと、マミのことを託せるのはイサムしかいなかった。
マサさんの井戸の中に入っていた『箱』に触れ、動かすことのできなかったPにマミを委せることはできない。
俺の杞憂であれば良いのだが……ヤスさんのいた工務店の社員たちのように、『箱』がPと彼の周りの人々の命を奪うかもしれない。
マミに危害の及ぶ可能性は、どんな些細なものであっても見逃すことはできなかった。
奈津子を俺から遠ざけた榊夫妻の気持ちが俺には痛いほど理解できた。
それに、まだ強烈に男性恐怖が残っているマミにとって、イサムは心を許せる数少ない男の一人だった。
俺と俺の父、義兄以外では、ほぼ唯一と言える存在だ。
そして、口にこそ出さないが、イサムがマミに単なる好意以上の感情を持っているのも確かだった。
姉の香織以外、女性に対する猜疑心や嫌悪感の強いイサムには、自分の感情の意味は未だ理解できてはいない様子だったが。を注ぐ。
目の前の敵と戦うのみだ。
勝目は薄いが、全ての『敵』を打ち倒して、真の『自由』を手に入れてやる。
父と約束したように、最後まで足掻き抜いてやる。
そして、帰るのだ。マミと家族の待つ家に。
俺は、考える事を止め、頭の中に響く『真言』だけを聞いていた。うが、非常に苦しい。
気を確かに持たないと精神に変調を来しかねない。
実際、俺の精神は何処か壊れてしまっていたのかもしれない。
だが、『行』が安定するに従って、徐々に悪夢は見なくなっていった。
やがて、『ヤマ』を超えると、苦痛も消えて無くなった。
意識しなくても、勝手に『心』が真言を唱えているようになった。
そして、俺の精神は『独り言』を止め、意識的に思考しなければ真言の詠唱以外、何も考えなくなっていった。
それが『儀式』の前提条件だった。
このような形を選び、決行日を俺の死期として予告された『定められた日』に合わせてくれたのは、キムさんの厚意だったのだろう。
正体の判らない『死』に怯えるよりは、目の前の『敵』と戦う方が余程いい。
今夜がその仕上げだ。
0302名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 08:16:08.99ID:UjE0s0Rh0
文に問われた男が答えた。
「判りません。逃げたんじゃないですか?……別に来なくても構いませんよ、あんな奴。
それに、先輩方の出番もありません。俺で終わりますから」一人目はコイツか。
一人目の男、具(ク)は、凶暴な男だ。
組手のスタイルも荒い。
誰彼構わずに勢いに任せた戦い方をするので、一般道場生との組手を禁止されていた。
キムさんの「そろそろ始めようか?」という声で『儀式』は始まった。「お互いに、礼!」
……俺は、一人目の勝負、「や、止めろ!」
審判役の男が慌てて俺にしがみついて、具に対する俺の攻撃を止めさせた。
具の意識はなく、大きな『鼾』をかきながら、ピクリとも動かない。
凄惨な光景だった。
道場内は騒然となった。
文と朴、その他2名のベテラン以外の若手4人は殺気立って俺に詰め寄ってきた。
「反則だ!それに、具は試合続行不可能だった。ここまでする必要はなかったはずだ!」
俺は挑発目的で、わざとニヤリと笑いながら言った。
「こいつは『参った』とは言っていなかったからな。ならば、攻撃は続けないと。
当人が『参った』と言えるかどうかは問題じゃない」「ふざけるな、この野郎!」乱闘でも始まりそうな騒ぎだ。
しかし、師範の「黙らんか!」と言う大音声で道場内には静寂が戻った。
「ですが……、これは明らかに反則です!」
「問題ない。私はお前たちに彼を『殺す気で潰せ』とは言ったが、『空手の試合』をしろとは言っていない。
お前たちが殺す気で掛かる以上、彼もお前たちを殺す気で掛かってくるのは当然だろう?
そんな簡単なことも判らない様では、キム社長に推薦することはできないな。使い物にならない」
文や朴、その他2名のベテランは別にして、若手のこいつらは、俺と徐の後釜としてキムさんと契約する事を餌に参加させられたらしい。
足抜けする俺に『ヤキ』を入れるくらいの認識でこの『10人組手』に参加したのだろう。
命のやり取りをする覚悟など初めからない。
今更知ったところで覚悟など決められるものでもない。
普段は剛の者として鳴らしている彼らも浮き足立っていた。
事前に立てていた作戦通りだ。
重傷を負い意識のないまま運ばれていった具の惨状を目の当たりにして、彼らの動きは硬かった。
普段ならばそんなことは有り得ないのだろうが、『参った』が連続した。
消耗しながらも、俺は大きなダメージもなく5人目までをクリアすることができた。を確信した。
文や朴は別にして、こいつらはこの勝負の本質を理解していない。
具は、勢いに任せて一気に相手を攻め落とす戦い方を得意としていた。
勢いに飲まれると秒殺されかねない危険な相手だ。
だが他方で、攻撃は直線的で、力みから予備動作が大きく、技の出処を読むのは容易かった。
強烈な『殺意』は感じたが、戦い方も通常の『空手』のルールから逸脱したところはない。
暫く俺は受けに徹して、具の『空手』に付き合った。
具に攻め疲れが見えたところで、俺は当初から立てていた作戦通りの行動に出た。
俺は、苛立ちから無理な体勢前半を終え、水を入れていると、権さんが俺に話しかけてきた。
「腕を上げたようだな。技が身についている。
徐とやった時とは大違いだ。相当な稽古を積んだのだろう。
連中は完全にお前の術中に嵌っていた。
駆け引きも戦略も冷静だ。修羅場を潜ってきただけのことはある、大したものだよ。
だが、魅力が無くなった……俺は、お前の何を仕出かすか判らない『狂気』を買っていたのだけどな。
姜種憲……ジュリーのガードをした頃の自分を思い出せ。
あの頃のお前は、ジュリー以上の『悪鬼』だったぞ?
まだまだだ。もっと、本性を曝け出せ……お前の中の『鬼』とやらを解放して見せろ。
次の相手は久保だ……小細工は通用しない。
全てを出さなければ、お前、殺されるぞ?」『何を言っているんだ?』
だが、権さんの助言は的を射ていた。
6人目の男、久保は、事前の印象では、何故この場にいるのか不思議な男だった。
見た目は、小太りでやや小柄な体躯。
柔和なイメージで少年部や女性部の指導補助を務めており、子供や父兄からの信頼や人気が高かった。
一般の会社員として定職を持ち、正式な指導員ですらない。
こんな戦いに参加する意味は、彼にはないはずだった。
だが、この男の内包している『狂気』は凄まじかった。
使う技も狙う位置も、致命傷狙いのモノばかりだ。
そう言った『使えない技』で久保の戦い
0305名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 11:28:27.31ID:QNrtDWNlO
小平とチームパシュートは金行けそうだよね。
ノルディックとスノボは天候が心配…
男子フィギュアも何とか台に乗って欲しい。
0306名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 11:30:15.97ID:F6DaU4R50
小平が金メダルを取れなければノー金メダル五輪になりそうだな
0307名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 11:33:27.51ID:QNrtDWNlO
パシュートも世界記録でブッチギリ勝ち連発中だがら金は堅いと思うぞ。
0308名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:10:29.26ID:CePAD79l0
全チャンネル冬季五輪ばっかりやるの止めてくれないかな。
0309名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:14:22.38ID:6auHVCIu0
>>307
オランダ強そうだけど、大丈夫かしら?
0311名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:31:37.68ID:QNrtDWNlO
>>309
パシュートは4人のチームワークだからね。
世界記録でオランダをチギって勝ってる。
0312名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:37:20.11ID:YZajxADAO
昨晩のTV視聴と実況板参加は、マジ大変だった。
BS実況民が少なめで悲しかった(´;ω;`)
原に悲しい思いをさせまいと、俺達少数民は最後まで張り付いて原を応援したよ。
そこからテレ東→NHK。
0313名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:38:03.06ID:dkDhCsSW0
まだ3日なのに>>1騒ぎすぎ

現在までのメダルランキング
金 銀 銅 合計
1 ドイツ 4 1 2 7
2 オランダ 3 2 2 7
3 米国 3 1 2 6
4 ノルウェー 2 4 3 9
5 カナダ 2 4 1 7
0315名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 12:40:04.63ID:8n/y7Em30
ドーピングだろ
0319名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 13:28:00.84ID:rDxmx6uo0
ラッシュってwもう、ハーフパイプとフィギュア男子ぐらいなんじゃないの?
高木美保はまだ団体競技あるんだっけ?金はそれぐらいか
0320名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 13:39:11.18ID:QNrtDWNlO
>>319
一番金の可能性高い
小平の500m1000m
高木姉妹のパシュートが抜けてるよ。
パシュートは世界記録連発で5秒は更新して無敵状態だよ。
0321名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 15:40:55.76ID:8zc+8Fnj0
たばこのヤニで歯が真っ黄色だったけど...
㐅ガキュア使い始めてから10日くらいで、ほとんど気にならなくなった
やっぱ芸能人が普段のケアで使ってるってだけあって効果が速い
0322名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 17:12:54.79ID:FYUCMhKz0
モーグル1位から8位まで大阪のすげえ小さい会社の板なんだな
海外の奴らどうやって見つけてきたんだw
0323名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 17:56:29.18ID:Tjnio57V0
最近良く㐅ガキュアって目にするから物は試しだし買ってみた!
3日ぐらい使ったけど確かに自然な白さになっていくの実感できた!
口の中も常にスッキリしてていい感じ!ちょっと高級だけど買ってみて正解だった!
0324名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 18:56:23.21ID:Tjnio57V0
たばこのヤニで歯が真っ黄色だったけど...
㐅ガキュア使い始めてから10日くらいで、ほとんど気にならなくなった
やっぱ芸能人が普段のケアで使ってるってだけあって効果が速い
0326名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 19:09:25.39ID:+cUnqkLV0
ナイスネイチャ
0329名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 21:35:04.16ID:xMJ+Po0T0
たばこのヤニで歯が真っ黄色だったけど...
㐅ガキュア使い始めてから10日くらいで、ほとんど気にならなくなった
やっぱ芸能人が普段のケアで使ってるってだけあって効果が速い
0330名無しさん@恐縮です
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2018/02/13(火) 22:15:13.23ID:xMJ+Po0T0
たばこのヤニで歯が真っ黄色だったけど...
㐅ガキュア使い始めてから10日くらいで、ほとんど気にならなくなった
やっぱ芸能人が普段のケアで使ってるってだけあって効果が速い
0331名無しさん@恐縮です
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2018/02/15(木) 09:28:33.08ID:H7YddXcz0
>>320
パシュートはかなり厳しい感じ
昨日のNHKの特集みるかぎり

オランダチームが、私たちが負けるわけないでしょう?
と笑い飛ばしてた
W杯は試行錯誤のためにベストメンバー組んでないと
実際個人の結果をみると全部オランダに上に行かれてるから
0333名無しさん@恐縮です
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2018/02/15(木) 18:42:23.08ID:fvhccEiS0
話題のボタルシア、ためしてみたけどほんとに1週間しないで真っ白にホワイトニングできた、やってみてよかったぁ〜☆
0334名無しさん@恐縮です
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2018/02/16(金) 08:00:28.68ID:VREHurMZ0
ドーピング検査厳しくなったリオから激減したよな韓国のメダル
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