3人の子供を育てながら学校給食の配膳のパートで働く大阪市の川上潤子(39)=仮名=は年がいもなく、
人気アイドルグループ「嵐」にのめり込む自分がやや常軌を逸しているという自覚はあるという。

ポーチや手帳といった身の回りの物は、全て嵐のグッズでそろえている。話を振られれば、何時間でも魅力を語れる。
「キモい(気持ち悪い)やろ」川上はそう言って、はにかんだような笑みを浮かべた。

嵐に溺れた契機は約8年前。長男の幼稚園の送迎で知り合った同じマンションに住む50代の主婦と嵐の話題で盛り上がったときだった。

コンサートのチケットを入手するのに必要なファンクラブへの入会を勧められた。
その当時、嵐はちょうど結成10周年を迎え、テレビを中心に露出が増えていた。

人気アイドルになんとなく興味を持っていた川上は、誘われるがままにファンクラブに入会。
実際に京セラドーム大阪(大阪市)で開かれたコンサートに行き、そこで衝撃を受けた。

真っ暗なドーム会場に花火が上がり、宙づりになったメンバーが現れる。観客席まで迫ったメンバーの一人、桜井翔と目が合った気がした。
「何が起こるのかワクワクして、もう一度、翔君と目を合わせたいと思った」。その日は興奮が冷めなかった。

それ以降、自分でも分かるほど嵐への“熱”がエスカレートしていった。家事の際は嵐のDVDを流しっぱなしにし、買い物や子供の送迎に使う車の中でも曲をかけ続けた。
チケットを入手しやすくするため、家族や友人に頼み込んでメールアドレスを借りる「名義貸し」をしてもらって、夫に内緒で9人分のファンクラブ会員証もつくった。

母親に子供を預け、新幹線で、仙台など遠方のイベントへ度々足を運んだ。車を運転している際に桜井のことを思い出して信号無視をしたこともあったという。
さすがに夫の収入ばかりに頼るのもばつが悪くなり、給食の配膳のパートを始めた。月7万円ほどの給料はほぼ嵐につぎ込む。

「日常の嫌なことを忘れさせてくれる。嵐がいない生活は想像できない」。川上はそう語る。

川上は、入学するのに偏差値が70は必要だといわれている地元の公立進学校を卒業、客室乗務員を目指した。
大学時代は自宅からキャンパスまで往復5時間の電車内で勉強に励み、夢の実現を志した。

だが、アルバイトで知り合った夫と25歳のときに結婚。夢を追うのをやめた。
憧れていた華やかな世界はあきらめたが、夫との生活に不満はなく、3人の子供にも恵まれ、それなりの幸せを感じていたという。

「結婚当初は携帯電話の待ち受け画面だけでなく、手帳や冷蔵庫にまで夫の顔写真を貼り、友人がうらやむ仲の良さやったんよ」。川上は振り返る。
だが、飲食店を経営する夫が新店舗を開いた5年ほど前から、すれ違いが目立つようになった。正月以外はほぼ休みがなく、家で顔を合わせることさえない。

子供や自分が病気になっても関心を示そうとしない態度にいらだちを覚え、夫への不満から姑(しゅうとめ)との関係がぎくしゃくし、夫からの愛情を感じなくなった。
嵐にのめり込んだのは、そんな鬱屈した日常を忘れるためだった。嵐が演出する空間は、キラキラした夢のような場所で、嵐がいるから子育ても家事もがんばれた。

自慢だった夫の写真は全て桜井のものに入れ替わった。ぽっかりと開いた“心の穴”を埋めるために、40歳を前にしてアイドルに愛情も、お金も注ぐ。
元のような生活に戻れるかどうか分からない。川上は寂しそうにつぶやいた。

「夫がもう少し自分を構ってくれていたら、ここまでドハマリしていなかったかもしれない」
http://www.sankei.com/west/news/171115/wst1711150005-n1.html