私が大学進学をすすめた理由

たしかに清宮は184cm、101kgの体に恵まれ、高校通算史上最多の111本塁打を記録した。
しかし太りすぎた巨体のせいで足が遅く(「50メートル走6秒3」)、一塁の守備もうまくない。

長打力は魅力だが、ホームランは金属バットでの記録だったことを割り引けば、
これから木のバットでプロの投手に打ち勝つのは大変だ。これでは即戦力になるはずがない。

日本ハムは国内FA(フリーエージェント)で移籍の可能性がある一塁・中田翔の後継者として清宮を指名したのだろうが、中田が残留したら当分、清宮の出番はない。

そのときはDH(指名打者)候補だが、新人にすぐDHが務まるほどプロ野球は甘くない。

そして足が遅く、守れない選手を大リーグが獲るはずがない。

私はこの連載でも、清宮には大学進学をすすめてきた。
長打力は天性であり、将来のプロ入りには反対しないが、せっかく早稲田大学の系列校にいて大学進学ができるのだから、
4年間みっちり野球の基礎を練習してからプロに行ったらいいと思ったのだ。

たしかに、野球の練習ならプロのほうができる。
しかし、一日中野球漬けで結果だけを追い求めるプロ生活と違って、授業で学び、一般学生との交流ができる学生生活には、プロの世界では味わえないメリットがある。

一方、名声と大金が得られるプロ野球は人生の縮図である。
10年か、長くて20年の現役時代に、一般社会の長い人生で起こるさまざまな体験をする。

勝者がいて敗者がいる。天国があり、地獄がある。
複雑な人間関係があり、ねたみや憎悪が渦巻いている。
そういう勝負の世界で生き抜くためにも、大学で野球以外の常識と人間力を身につけたほうがいい。

そして将来、現役を終えて指導者になったときも、大学生活で学んだことはきっと役に立つはずだ。

球界では「プロに行くなら大学の4年間がもったいない」という意見が多いが、そんなことはない。
「大学で力が落ちてからより、評価の高い高卒で入団したほうがいい」という見方もあるが、大学で力と評価が落ちるような選手なら、高卒でプロ入りしてもすぐ消えていくだろう。

木のバットでホームランを打てるバッティングを身につけろ

しかし清宮は、進学のチャンスを蹴ってプロ入りを決めたのだから、ファンの期待に応えなければならない。

そのためには、走り込んで巨体を絞り込むこと。
そしてプロ野球で通用する走力と守備力を磨き、木のバットでもホームランが打てるようなバッティングを身につけることだ。

まず日本のプロ野球で実績を残せなければ、大リーグは夢のまた夢になる。

私はこれから未知の世界に飛び立つ青年に、冷や水をかけるつもりはない。

野球界もメディアも、聞こえのいい「即戦力」でおだてあげるのは無責任だ。
高校野球でホームラン記録をつくった大器がプロ野球で大成するためにも、プロの厳しさと本当の姿を教えるべきだ。

そして清宮は、これから立ちふさがる高い山を自力ではい登れ。