一方、後半15分以降に放ったシュートは、そうではなかった。自然な流れから放った、無理を感じさせない納得度の高いシュートだった。理由はなぜか。サッカーの質が変わったからだ。香川と交代で小林祐希が、武藤と交代で乾が投入されると、縦に速いサッカーは影を潜めた。ハリルホジッチの趣味趣向とは異なる、従来型の日本サッカーが展開された。

 ボール支配率61%対39%は、90分の戦いを通したもので、前半、後半それぞれの数字は発表されていない。したがって、あくまでも印象だが、ボール支配率は後半の方が高かったと思われる。後半15分以降はとりわけ。

 その変化に深く関わっていたのが乾だ。左の高い位置で張る彼に、ボールはよく回った。その分、展開は前半よりワイドになった。サイドはボールを奪われにくい場所だ。乾が左SB長友らとのパス交換に及べば、支配率は自ずと上昇する。

 武藤のポジション的な適性は、サイドと言うより真ん中だ。CF(センターフォワード)、あるいは2トップの一角の方がしっくりくる。前半10分、大迫が放ったミドルシュートは、それを象徴するシーンだ。山口蛍が前線に縦蹴りしたボールに武藤が反応。ヘッドで落とし、それを大迫が狙うという展開だ。武藤ではなく乾ならば、山口のパスを真ん中の高い位置ではなく、左サイドで開いて受けたはずだ。そしてボールをサイドの奥深い位置へ運ぼうとするだろう。

 縦に速いサッカーは、言い換えれば、幅の狭いサッカー、奥行きがない浅いサッカーだ。正面から攻めるので、シュートには強引さが求められる。そうした監督の趣味嗜好に合っているのは乾か武藤かと言えば、武藤。右で先発した久保裕也も、どちらかと言えば武藤タイプ。浅野拓磨もしかりだ。

 後半42分、倉田秋が奪った決勝ゴールは、乾からの深々とした折り返しから生まれた。それを逆サイドで構えた酒井宏樹が頭で落とし、倉田が反応したという格好だった。倉田の高い決定力がもたらしたゴールではない。深みのある攻撃を展開し、横から崩して奪ったゴールになる。

 ボール支配率の高いサッカーにあって、縦に速いサッカーにない要素。それは攻撃の深みだ。縦に速いサッカーは浅い。浅い攻撃からフィニッシュに持ち込もうとすれば、シュートの難易度は上がる。決定力が不可欠になる。一方、深い攻撃は、倉田のゴールがそうであったように、詰めるだけでよい場合もある。横から崩した末のシュートなので、シュートの難易度は低い。

 日本に適しているのはどちらか。深みのある攻撃をすれば、ボール支配率はそれに伴い上昇する。ボールを支配率させることが目的ではない。目指すは深みのある攻撃だ。浅い攻撃には力が求められるが、深みのある攻撃には展開力が求められる。確かな攻撃のルートこそが生命線になる。

「柔よく剛を制する」をコンセプトにするなら、選択すべきはどちらか。正面から崩すか、横から崩すか。答えは明らかだ。「ボール支配率が高くても勝てるわけではない」と、ハリルホジッチは言うが、そのアンチボール支配率論は、僕には論理のすり替えに思えて仕方がない。正面から仕掛ける浅い攻撃、深みのない攻撃は日本人には向いていない。柔よく剛を制するの精神に反する。これは確かな事実だと思う