早実の清宮幸太郎くん(3年)がプロ入りを表明した。史上最多の高校通算111本塁打。スター性もあるこの超高校級スラッガーには、今秋ドラフトで10球団前後の1位指名が競合すると予想されている。仮に私が彼を預かることになったとしたら、コーチには真っ先にこう指示を出す。

「打撃に関しては指導もアドバイスも禁止。本人が助けを求めてきたら別だが、こちらから教えてはいけない。ジーッと見てればいい。放っておきなさい」

 プロ野球のコーチには教えたがり、イジりたがりが少なくないが、そういう人たちも間違ったことは教えない。そこは、曲がりなりにもプロの指導者である。理論や方法論に違いはあっても、アドバイスはほとんど正しいと思っていい。

 これが厄介なのだ。見当違いのことを言われれば、“いやいや、それは違うでしょ”と聞き流すこともできなくはない。しかし、正しいアドバイスはそういうわけにはいかない。

■大学進学もありだった

 なるほど、といちいち納得してしまう。あれもこれも、言われたことはやらなければ、と取り入れる。そうやって、自分のリズムを見失い、混乱し、本来の姿を取り戻せなくなる選手を私は何人も見てきた。

 清宮くんに関しても、だから大学に進むのもひとつの手だよ、と思っていた。大学の4年間で実績を残し、22歳でプロに入ればどこの球団も即戦力とみなしてくれる。新人といっても、いきなりコーチからイジくられることはそうない。

 これが、高卒ルーキーだと様相がだいぶ違ってくる。当然のことながらまだ未完成。プロの目には、ここが欠点、あそこも問題、とマイナス面が多く見えてくる。しかも相手は18歳。コーチからすれば言いやすく、ハイハイと素直に聞いてくれるものだから、余計にしなくてもいいアドバイスまでしてしまう。

投手コーチとしての私は、「投球フォームは選手の主張」が持論。どんな投げ方であれ、それでプロに認められて入ってきたのだから、それがあなたの個性だと尊重してきた。コツは教えても、フォームそのものに手を入れたことはなかった。 唯一、中日で二軍投手コーチを務めていた40年前、ドラフト1位で入ってきた高卒左腕の都裕次郎だけは別で、左肩が大きく下がって天井を向いて投げるようなフォームを徐々に修正したことがある。それでも、入団2年間はジーッと見守った末のことだ。都は3年目に一軍昇格し、6年目には16勝を挙げた。

 そういう成功体験があっても、私は選手のフォームはイジらない。50年近い指導者経験の中で、「教え過ぎは悪」と身をもって知っているからだ。
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