日本高野連は19日、甲子園大会にタイブレーク制を導入することを決めた。来春の第90回記念選抜高校野球大会から実施される。
延長13回から試合が決着するまで行う予定で、アウトカウントや走者の設定は今後協議する。数々のドラマが生まれた甲子園の延長戦は、大きく様変わりすることになり、物議を醸しそうだ。

タイブレークはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)やU−18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)で採用されており、時代の流れに沿った決断ではある。

選手、特に投手の負担は軽減され、大会日程の円滑な消化という観点でもメリットは大きい。

阪神、米大リーグのアスレチックス、ジャイアンツなどで投手として活躍した藪恵壹氏(48)は
「なぜ13回からなのかはわからないが、延長15回の末に再試合となるリスクを考えれば、投手の負担は間違いなく軽減される」と賛成。

いざマウンドに上がれば、腕が折れても、あるいは2度と野球ができなくなったとしても、勝つために目の前の試合をまっとうしたいという心境になる投手もいるだろうが、
藪氏は「そうやって素晴らしい人材を潰してしまったケースが、過去にはたくさんあったのでしょう。高校野球を神聖化するあまり、そこでバーンアウトして(燃え尽きて)しまう選手が多いのは残念。
野球界全体の観点で見れば、優れた人材には致命的な故障を避け、上のレベルに進んで長く野球を続けてほしい」と主張する。

一方、「サウナから出てきたら、ちょうどNHK総合テレビのニュースが『タイブレーク導入』を伝えていて、思わず『バカヤローッ!』と叫んでしまいましたよ」と怒り心頭なのは、島根・開星高の元野球部監督、野々村直通氏(65)。
2010年春のセンバツに出場して21世紀枠選出校に敗れた際、「末代までの恥」「腹を切りたい」と発言し大問題になったのは有名だ。

「選手のほとんどは、仲間のために倒れるまでプレーしたいと思っている。江川や桑田ならまだしも、高校野球はプロ選手を育成するためだけにやっているわけではない。
野球を通じてすばらしい経験をするためにやるもので、その先にプロがあるからといって止めさせることはできない。中途半端にやめさせたら、選手は一生後悔する。
どうしてもという選手は『プロに行きたいので』とあらかじめ申し出てくれればいい」と訴え、過保護な現状に疑問を呈する。

「野球はどこまでやさしくなるのか。それでは“尾木ママ野球”だ」とおかんむりだ。

また野々村氏は、愛媛・済美高の元監督で2014年に死去した上甲正典氏(享年67)とも親交があった。上甲氏は13年のセンバツでエースの安楽智大投手(現楽天)に、
延長13回完投をはじめ、5試合で772も球も投げさせたのは酷使だと批判を浴びた。しかし野々村氏は「上甲さんは『汗にまみれて練習を積み、肩が抜けても投げたいという選手に、大事な場面でダメとはいえない』とおっしゃっていた」と明かす。

タイブレークを導入すれば、高校野球の“筋書きのないドラマ”に一定の制限がかけられ、1998年夏に横浜高の松坂(現ソフトバンク)がPL学園戦で延長17回、250球を1人で投げ抜いたような試合はなくなるかもしれない。
近い将来、球数制限が検討される可能性も十分ある。

球児の負担軽減と試合時間短縮をめぐる論議に、そう簡単に結論は出そうにない。

2017.9.21
http://www.zakzak.co.jp/spo/news/170921/spo1709210010-n1.html

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