Jリーグの「デジタル元年」として位置付けられる2017年は、英パフォーム社との連携により、試合中継が従来のテレビ放送ではなく、DAZN(ダ・ゾーン)によるインターネット配信に変わるなど、サポーターの観戦スタイルにさまざまな変化が生じた。一方で、変化したのはサポーターだけではない。クラブにもまた、「デジタル化」の波が押し寄せている。“新たな領域”ともいえるデジタル化に向け、情報通信技術(ICT)を駆使して、スタジアムのサービスを充実させるという「スマートスタジアム化」を推進し、さまざまな挑戦を行っているのが、鹿島アントラーズだ。

 鹿島のスマートスタジアム化はJリーグの推進するスマートスタジアム事業としては、今年2月のベガルタ仙台に続いて、Jリーグで2番目の事例(大宮アルディージャは16年秋から先行してトライアルを実施)。その第一歩として、7月22日に行われたJリーグワールドチャレンジ・セビージャ戦から、県立カシマサッカースタジアムに『Antlers Wi?Fi』が導入された。これは「高密度Wi?Fi」と呼ばれるもので、スタジアムの観客席エリア全体にわたって、455ものアクセスポイント(およそ70席に1つの割合)が設置され、通常のWi?Fiよりも回線がつながりやすくなっている。これにより大勢の観客が同時にアクセスしても、タイムラグなく快適にネットに接続することができる。

 セビージャ戦では入場者数28,308人のうちWi?Fi利用者は約3,000人と全体の10パーセントほどにとどまったものの、続くJ1第19節のヴァンフォーレ甲府戦では入場者数18,413人に対し、利用者はセビージャ戦と同等数の約3,000人、8月の第23節、清水エスパルス戦では16,979人の入場者数に対して、利用者が約2,000人と、試合を重ねるごとに利用者の数も増加している。

「まずインフラとして、Wi?Fiがあります。そのうえで、いかにお客様向け、あるいはスポンサー向けに新しいサービスを提供していけるか。それがスマートスタジアム化に向けたポイントだと思っています」

 そう語るのは鹿島のマーケティンググループ事業戦略チーフの土倉幸司だ。ただWi?Fi環境を整備するだけでなく、Wi?Fiを基盤として、どのようなコンテンツを提供し、そこからどう収益を向上させ、ファン・サポーターへの価値を提供していくか。そこに重点を置きながら、さまざまなサービスの提供に取り組んでいるという。

実際にスタジアムでWi?Fiを起動させると、『Antlers Wi?Fi Portal』というサイトにアクセスすることができる。このポータルサイト上では、スタジアムでしか見られない限定動画の配信やスタジアムグルメの紹介など、ファン必見のコンテンツを無料で閲覧できる。中田浩二CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)による見どころ解説や、試合が終わった直後の選手へのフラッシュインタビューなど、リアルタイム性のあるコンテンツの充実が目をひく。

 なかでも、Wi?Fi利用者の6割が利用するという「鹿BIG」が好評を博している。試合日にスタジアムに来たサポーターへのサービスを充実させたいとの思いからスタートしたというこのサービスは、Wi?Fiを使って特設サイトにアクセスした全員が選手のサイン入りユニホームなどのプレゼントに応募できるという仕組みで、ハーフタイムには大型ビジョンにて当選者が発表される。Wi?Fiが整備されたことにより、10?20名の当選者だけでなく、応募者全員に「ダブルチャンス」という形でクーポンを配布するなど、参加した全員がメリットを受けられるようになった。5日に行われた第20節の仙台戦では、Wi?Fiにアクセスした3,700人のうち、実に2,000人が参加している。

 また、「スマホをかざして、しかおを探そう」というイベントも、ファンの満足度を高めるという面において大きな効果をもたらしている。特別なアプリをダウンロードし、コンコースの柱に貼られているポスターにスマートフォンをかざすことで、選手の立体画像が出てくる仕組みで、ランダムに選手が出てくるほか、一定の確率で鹿島のマスコットキャラクター「しかお」が登場する。表示された選手の画像をタッチすれば選手との「自撮り」ができるとあって、若い女性グループからも好評だという。普段はほとんど人通りのない3階のコンコースで実施されたこの企画には、1,000人以上のファンが参加し、大きな盛り上がりを見せた。