《石垣島の西南〜♪ 三里へだてて一小島 これぞ何をば小浜島 われらの島はこれなるぞ〜♪》。ここは北海道苫小牧市役所。ロビーの中央にいるのは、手拍子をしながらリズムをとり、体を大きく揺らして踊る12人のおばあちゃんたちだ。

◆メジャーデビューした小浜島おばあちゃん合唱団

 中にはイスに座っているメンバーもいるが、それでも背筋をピンと伸ばして、満面の笑みで歌うその姿は、観客の目を釘づけにしていた。

 東京から2000km、沖縄本島からも400kmの遥か彼方。コバルトブルーの海が広がる八重山諸島の中心に位置する小浜島(沖縄県竹富町小浜)。人口わずか700人。東シナ海と太平洋に囲まれ、サトウキビ栽培と牧畜、観光が主な産業で、信号機がないため、道には野生のヤギがのんびりと歩いている。交通手段は石垣島からのフェリーのみ。そんな小島に、めっぽう明るい“おばあ”たちがいる。

 平均年齢84才。“天国にいちばん近いアイドル”として、2015年に『Come on and Dance(カモナダンス)小浜島』でメジャーデビューを果たしたKBG84(小浜島ばあちゃん合唱団)である。

 全国区の人気になって2年。おばあたちは相変わらず、すこぶる元気で、石垣、東京公演をこなし、昨年は海外にも進出。シンガポール公演を大成功させた。2016年には、桐谷健太(37才)のバックで、NHK『紅白歌合戦』にも映像出演。今年に入ってからもアルゼンチンのドキュメンタリー映画のスタッフが来島して撮影し、地球の裏側でもデビューが決まっている。

◆KBG84そもそものはじまり

 KBG84は、30年前、1人の女性、花城キミさん(92才)=うふだき会名誉会長=が石垣島から帰ってきたことに始まる。

 石垣島の病院で看護助手をしていた花城さんが定年で生まれ故郷に戻ってきたのだが、島には高齢者の施設もなければ、高齢者同士が集まる組織もなかった。そこで社会福祉協議会の職員だった照屋照代さん(64才)と相談し、白保夏子さん(86才)ら4人がボランティアで活動し始めた。

「当時小浜には、80才以上のひとり暮らしの未亡人が20人以上いたんです。その人たちの安否確認に自宅訪問を始め、月に1度、集まって食事をし、ゆんたく(おしゃべりの意)して帰る会を始めたのが、うふだき会の始まりでした」(白保さん)

“うふだき”という名は島でいちばん高い大岳(標高99m)にちなんでいる。

 やがてその会で、『三月遊び(あしびー)』が話題になった。三月遊びとは、1年に1度、3月のある日に女性だけが浜でご馳走を食べ、歌って踊る集まり。日夜、夫や子供のために働き詰めの女性たちに与えられた、ご褒美の休日だった。

「あれは楽しかった」と1人が昔話を始めると、1人が歌い出し、また1人がそれに合わせて歌い、ついにはみんな踊り始めた。小浜島の人々に脈々と流れる、歌と踊りの伝統である。

 そしてこの日から、うふだき会では、三月遊びを取り入れ、年長のおばあたちは化粧をし、衣装を着るようになり、食事、ゆんたく、歌、踊りの会が恒例になった。

 花城さんは、ここにもう1つエッセンスを加えた。島の高級リゾートホテル『はいむるぶし』で定期的にライブを開いていたシンガーソングライター・つちだきくおさん(59才)に、合唱指導やプロデュースをお願いしたのだ。つちださんが語る。

「花城さんにのせられて始めましたが、伝統芸能の島ですからみんな芸達者なんですよ。おばあたちも人前で芸を見せることに慣れていて、大きいホールでの公演にも物おじしません。ぼくの役目は、おばあたちが歌ったり踊ったりするのを楽しんでもらえるように、そしてそれを見に来た人が喜びや癒しを増幅できるようなお手伝いをすることです」

◆ばあちゃん合唱団入会資格は80才以上

 ばあちゃん合唱団の入会資格は80才以上。それ以下は研修生で、ボランティアとしておばあたちの世話を焼いている。現在、団員は揃いの赤のポロシャツを着る21人、青いポロシャツの研修生が10人。毎春の入団式には、ウエディングドレスを着るのが決まりだ。

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https://www.news-postseven.com/archives/20170720_595132.html

※続きます