「高橋くん、やっぱり来てくれたんだね……」
 俯きながら頬を染めていた小笠原佑未が、体育館裏で同じように顔を伏せていた高橋聖也の学生服の袖を指先でつまんだ。
「小笠原先輩……あの、手紙……びっくりしました」
「うん、私もドキドキしたんだ……初めて男子に手紙書いたから。ヘタな字でごめんね?」
「いえ、そんな!」
 高橋が今朝、校門前で待ち構えていた佑未から受け取ったその手紙には、小さいが綺麗な文字がびっしりと記されていた。
「小笠原先輩、自分のこと……ずっと見てたって……」
「ずっと、見てたよ。高橋くんがうちの高校入ってから、ずっと」
「先輩……」
 袖口をつまんでいた佑未の白く細い指先が、すっと静かに高橋のごつい指に触れた。
 どきりとした。
 高橋は生まれて初めて、女の子の指に触れた。
 もちろん思春期を迎えてから、初めてという意味だったが、まさに電流が走るような衝撃だった。
「おっきい手……。男の子の手だね」
「先輩、誰かに見られたらやばいです」
「ごめんね、本当ならこんな風にコソコソしたくなかったけど……どうしても早く伝えたくて」
「先輩……」
 手をつないだまま、佑未は高橋の胸に顔を押し当てた。
「あぁ、高橋くんだぁ……」
「せ、先輩……」