日本球界は外国人選手の獲得期限まで1カ月を切り、各チームが新入団選手を迎えて戦力アップを図っている。

 来日初本塁打の際にホームベースを踏み忘れたためアーチをかける度に「両足でホームベースを踏みました」と実況されるマレーロ(オリックス)や、7月3日の西武戦で1番打者としてスタメン出場したドレイク(日本ハム)、6日の日本ハム戦で来日初先発が予想されるファイフ(西武)などだ。また阪神は1日にメジャーリーグに3年間在籍した野手のロジャースと契約合意したと発表している。

 プロ野球において「助っ人」と言われる外国人選手の果たす役割は、チームの命運を左右するほどに大きい。改めてその顔ぶれを見渡すと、今季は72人が支配下登録されている。国籍別に見ると、以下の通りだ。

 米国=36人、ドミニカ共和国=14人、キューバ=7人、ベネズエラ=6人、メキシコ=4人、オランダ=2人、台湾=2人、カナダ=1人(7月3日時点での支配下登録選手)。

 米国人が半数を占める一方、それに匹敵する勢力を誇るのが中南米勢だ。メジャーリーグの全球団がアカデミーを置くドミニカ共和国に続き、キューバから7選手が来日している。

 そんななか、注目したいのがオランダ勢の“成功率”だ。過去6年間で3度の本塁打王に輝いているバレンティン(ヤクルト)、今季リーグ2位の7勝をマークしているバンデンハーク(ソフトバンク)の現役選手に加え、過去には日本で初のオランダ人選手となったミューレン(元ロッテ、ヤクルト)、2013年に楽天を初の日本一に導いたアンドリュー・ジョーンズらが活躍してきた。

 オランダは大航海時代に世界で一大勢力を築き、歴史的、地政学的にも多様性を持つ国家だ。マルチリンガル(多言語話者)が多く、バンデンハークはオランダ語、英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語を操ると言われている。言語力があれば異文化に溶け込みやすく、外国でプレーする際に強みになる。

 異国での適応力という点において、特に優れるのが、オランダ領キュラソーの選手たちだ。13年に日本でシーズン本塁打記録を更新したバレンティンの取材で来日した地元紙「ウルティモ・ノティシア」のジュリアス・ココ記者が、こんな話をしていた。

「バレンティンが(言葉の通じない)チームメイトとうまくコミュニケーションを取っているのを見て驚いたよ。日本で簡単に友だちをつくっていたけれど、それこそがキュラソー人の長所だ」

 オランダ領キュラソーは南米ベネズエラの北方60キロにあり、人口は約15万人。国土面積は種子島と同じくらいだ。

 この小さな島から昨今、ドジャースのクローザーを務めるジャンセンや、メジャーリーグのショートで最高の守備力を誇るシモンズ(エンゼルス)など、数々の名選手が育っている。米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、総人口に対するメジャーリーグへの輩出率(13年)ではドミニカ共和国(12万5000人に1人)、米国(50万3000人に1人)を抑え、キュラソーは2万1000人に1人とはるかに高いのだ。

 要因として考えられるのは、中南米諸国に共通する身体能力の高さ、常夏で1年中練習できる好環境に加え、キュラソーならではの背景があると前述のココ記者が指摘する。

「キュラソーにはヨーロッパやラテンアメリカ、それにカリブ海の文化があり、多くの中国人が住んでいるのでアジアの文化もある。多様性が存在しているんだ。外国人とも日常的にコミュニケーションを図っているから言語や人種間のバリアを簡単に乗り越え、誰とでもコミュニケーションをとることができる。ほとんどのプロ野球選手はMLBでマイナーリーグからプレーすることになるため、通訳がつかないから自分でコミュニケーションをとる必要がある。1人で端っこで座っているのではなく、コミュニケーションをとってチームメイトといい関係を築いていくのは大切なことだ」

 キュラソーにプロリーグはなく、オランダ本国出身の選手にとっても目指す先は米国や日本だ。その際、言語力やコミュニケーション能力は大きな武器となる。

 一方、各球団にとって望ましいのは長く活躍してくれる選手だ。スカウティングをする際に技術だけでなく性格や育った環境を見るのは不可欠で、特に日本のように独特な文化を有する国に適応できるかのカギとなる。

 バレンティンは今季が来日7年目で、バンデンハークは3年目。彼らのようにオランダ人選手の多くが日本で活躍してきたのは、確かな理由があると言えるのだ。(文・中島大輔)

by 中島大輔 更新 2017/7/5 16:00 dot.
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