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「豊洲の女」のCDジャケット(エスプロレコーズ提供)

♪化粧だけでは隠しきれない今の私は豊洲の女

 と歌い出す、しっとりとした歌謡曲「豊洲の女」が話題を集めている。

 歌われているのは、かつての華やかだった時代に思いをはせる女性の悲哀。
CDジャケットやミュージックビデオには、豊洲や東京都庁のあたりを物憂げな雰囲気で歩く女性の後ろ姿が登場する。
小池百合子・東京都知事をイメージしたのは明らかだ。

 曲の2番は意味深なフレーズがあふれている。

<あの日のカイロ アルジェの光 今の私は豊洲の女 見切り発車のリンドバーグ 着地できない女の涙 過去の記憶を糊塗(こと)したところで 見極められないジャンヌダルク>

 歌っているのは「三沢カヅチカ」。
これがCDデビュー曲となるブルースシンガーで、その正体は謎だ。
作詞は哲学者で作家の適菜収さん。
曲が誕生したきっかけは、適菜さんのアイデアだった。

「政治の風刺をするにあたって、日ごろ書く文章と違った方向から攻めてみたい。そのひとつが歌詞だったんです」

 かねて交流があった、京大大学院教授で内閣官房参与の藤井聡さんに話したところ、作曲家の多城康二さんと三沢さんを紹介してくれて、とんとん拍子に曲ができあがったという。

「ベタな歌謡曲にしたかったんです。華やかな過去の記憶にすがりつく女の、空虚な内面を描きたかったんです」(適菜さん)

 ちなみにジャケットなどに登場する女性は、多城さんの音楽教室に通う生徒で、東京・錦糸町のスナックのママだとか……。

 ところで、この三沢カヅチカの歌声だが、藤井参与の声に似ているとの評判だ。藤井参与に尋ねてところ、

「よく言われます。年齢もだいたい同じぐらい。サラリーマンで、『会社』にも報告していないみたいです(笑)。怒られると困るので『そのへんは勘弁してください』と言っていました」

 と、あくまで「よく知っているが、別人」だと主張。
適菜さんの話を聞いて、女の悲哀を情感込めて歌えるのは、三沢さんがいいんじゃないかと紹介したという。

 ちなみにカップリング曲の「逆賊ブルース」は、都知事を思わせるフレーズはないが、

<天の言葉に背いてまでも 俺の背中に矢を放っても 君が欲しいものはなに? 錦の御旗はどこにあるの?>といった、こちらもいろいろ考えさせられる内容となっている。

「豊洲の女」は“ご当地ソング”としても注目されているようで、

「豊洲に住む友人が、ジャケットに自分のマンションが映り込んでいたと、大喜びでした」(藤井参与)

 6月1日の発売からじわじわと人気が広がり、アマゾンの歌謡曲部門で売り上げ2位を記録したという。

 小池都知事は、築地市場を豊洲に移転して築地を再開発する方針だ。
7月2日には都議会議員選挙の投開票があり、移転問題に注目が高まる。

「都知事を扱うニュースのバックに流してもらいたいですね」

 という適菜さん。

 移転問題に頭を悩ませてきた“豊洲の女”は、果たしてどう思っているのだろうか。(本誌・太田サトル)

※週刊朝日  2017年7月7日号に加筆


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2017/6/25 07:00