「最善の一手追求」私も ー藤井四段寄稿ー

 63年の現役生活を終えられた加藤先生とは、私がプロ入りを決めた直後の昨年9月に、
対談をさせていただきました。
 タイトル戦で「音がうるさくて気が散る」と旅館にある滝を止めさせたという”伝説”、
「定食を2人前平らげた」大食いのエピソード・・・、
いろいろな話をして下さり、楽しい時間でした。
「長考して、いい手を発見して勝ったことでプロとしてやっていける自信を得ました」
という言葉には胸を打たれました。

もともと加藤先生は子どもの頃からの憧れの棋士でした。将棋のプロ養成機関・奨励会に
入った小学生の頃には、先生の代名詞でもある「棒銀戦法」で、何度も勝たせてもらったものです。
攻防の駆け引きが複雑で、将棋の面白さが詰まった棒銀戦法を身につけるため、
加藤先生の棋譜を並べて勉強しました。

昨年12月のデビュー戦・竜王戦6組1回戦では、対局もさせていただきました。
朝、対局室に入って報道陣に囲まれて着席した時、内心、とても緊張していたのです。
加藤先生はどっしり構えておられました。

駒を盤にたたきつけるような迫力ある指し方は忘れられません。冷静に考えると
先生の方が難しい局面なのに、手つきに圧倒され、「形勢を損ねたかもしれない」と
慌てた記憶もあります。夕方には、加藤先生がチーズをほおばる姿が気になって、
何度も見てしまいました。幸い、将棋には勝つことができましたが、一局にかける
強い気持ちを学ばせていただきました。

おしゃべり上手で、何をやっても面白い加藤先生はバラエティ番組で才能を発揮されています。
でも、本来の加藤先生は「生涯、棋士」だと思います。普及活動などで、今後もきっと
ご活躍されるでしょう。

どうかお体を大切にして下さい。先生が見せて下さった「最善の一手を追求する」姿勢を
私も貫いて、一歩一歩、実力をつけていきたい、と思っています。(将棋棋士四段・藤井聡太)