弱冠13歳、中学2年の少年が一夜にして神童となった。6月5日まで行われた2017世界卓球選手権で、史上最年少のベスト8入りを果たした張本智和。格上の相手と互角に渡り合う姿に、誰より目を細めていたのは彼を育てた両親に違いない。試合後、その母が語ってくれた“恐るべき中学生”の出来るまで――。

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 これほどまでに、卓球日本の快挙が連日報じられたことがあっただろうか。

 ドイツ・デュッセルドルフで開催された卓球世界一を決める選手権で、日本勢は大躍進の成果をあげた。

 女子シングルスでは、16年W杯で頭角を現した平野美宇(17)が銅メダル、ミックスダブルスでは、石川佳純(24)と吉村真晴(23)のペアが、金メダルを獲得した。日本にとっては、世界選手権で48年ぶりのメダルという快挙である。

 だが、メダルこそ逃したものの、世界の強豪相手に奮闘した張本の活躍に、声援を送ったムキも多かろう。

 そんな少年の存在が最初に注目されたのは、大会4日目の6月1日男子シングルス2回戦。初対戦というリオ五輪銅メダリストの水谷隼(27)から、まさかの白星を勝ち取ったのだ。

 元日本代表選手で、現在は「卓球教室upty卓球ステーション」代表を務める坂本竜介氏によれば、

「試合前は、誰しもが水谷勝利と予測していましたからね。あの年齢、13歳で張本のようなポテンシャルを持った選手は、もう世界で現れることはないのでは。ベスト8の史上最年少記録更新は、今後、誰も成しえない快挙だと思います」

 そんな張本は、宮城県の生まれ。両親は共に中国出身だが、今は母親を除いて日本に帰化、地元・仙台市内の「張本卓球場」で後進の育成に当たっている。

■“チョーレイッ”

 来日した時から一家を知る地元後援会幹部が言う。

「トモくんの両親も卓球選手で、母親は中国代表を務めた実績の持ち主です。とにかく真面目なご夫婦で、あの先生たちに教われば上手くなると評判でね。トモくんは、赤ちゃんの時から他の子供たちを教える両親の姿を見て育ってきたので、“ボクもやってみたい”と、自分から言ったそうです」

 遊び半分で始めたものの、少年の闘争心に火がつくのに時間はかからなかった。

 当時を振り返るのは、張本の母・凌さん(42)その人である。

「智和は小学校に入ってからも、みんなと遊ぶ時間はあまりなかったです。卓球の練習を低学年の頃は毎日2時間くらい、4年生以降は4時間していたので」

 同世代の選手と比べ格段に練習量が多い訳ではなかったけれど、それには“ある理由”があったと継ぐ。

「夫も私も、人生は常に勉強する姿勢が大事という考えで、学校から帰ったらまずは宿題をさせていました。それとは別に週2回学習塾、週1回英語の塾にも通ってましてね。毎朝の登校前には、必ず家で30分間の予習もさせていたんです」

 おかげで、小学校時代は常に学年ベスト3に入るトップクラスの成績を維持していたというのだ。

「息子はとにかく負けず嫌いで、テストでも良い点数が取りたい。その一心で、結果が良くない時は泣いていました。日本史が得意で自ら進んで図書委員になったくらい本も好き。

図書館から伊達政宗や江戸時代の本を沢山借りていましてね。私は息子と離れるのが寂しいので地元の東北大学に通って貰いたかったけど、中学に上がる際、自分は卓球選手になると言い出したので、それを尊重しました。

ガッツポーズの時の独特のかけ声、“チョーレイッ”を叫び出したのもちょうどその頃ですね。勝ちたい気持ちを相手に示すために、興奮して自然とそんな声が出るようになったのでしょう」

 大学進学より今は、東京五輪での金メダルを最大の目標にしているという神童。

 その時はまた、血気盛んな雄叫びが聞けるだろうか。

ワイド特集「悪徳の栄え」より

「週刊新潮」2017年6月15日号 掲載

6/16(金) 5:57配信 
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170616-00522392-shincho-spo