2020年東京五輪の追加競技に決まったスポーツクライミング。国内の愛好者は約60万人で、クライミングジムも盛況だ。これを商機とみて企業も動き始めた。KDDI(au)は昨年、日本山岳・スポーツクライミング協会のスポンサーとなり、さらに契約を結んだトップ4選手と「TEAM au」を結成。大手携帯キャリアがなぜ、クライミングなのか。

 5月に東京・八王子で開かれたワールドカップ(W杯)ボルダリング第4戦。表彰台に上がった男子の楢崎智亜(ともあ)、女子の野口啓代(あきよ)ら日本選手のユニホームの左胸には、日の丸とともに、大手携帯キャリア「au」のロゴが存在感を示していた。

 KDDI(au)は昨年8月に日本山岳・スポーツクライミング協会に加え、複数のトップ選手ともスポンサー契約を結んだ。

 同社が展開する桃太郎、金太郎、浦島太郎の「三太郎シリーズ」のテレビコマーシャル(CM)の統括責任者で、コミュニケーション本部の矢野絹子宣伝部長は、スポーツクライミングにピンポイントで目をつけ、契約に至った理由をこう語る。

 「日本選手は世界に向けて挑戦を続けていて、クライミングはまさにこれからの競技。様々なスポーツがあるなかで、挑戦、成長という要素が、我々のブランドイメージに合うと思ったんです」

 携帯電話の国内シェアは、約4割のNTTドコモを筆頭にau、ソフトバンクが約3割と大手3社が激しく顧客を奪い合う。このauの契約は、激しい顧客獲得競争と無縁ではない。

 今ではサービス、商品などで各社間でほとんど差がなく、企業ブランディングで差別化を図る一手が「スポーツ」というわけだ。

 シェアで首位を走るNTTドコモは、NTTのほかのグループ会社とともに、2020年東京五輪のゴールドパートナーになった。一方、ソフトバンクは福岡にプロ野球球団を保有し、さらにバスケットボール男子の新プロリーグ「Bリーグ」のトップスポンサーとして支援している。

 KDDI(au)は、昨年からはサッカー日本代表の「サポーティングカンパニー」だが、「スポーツへの出資は、そこまで積極的ではなかった(同社)」。スポーツとの関わりは、ライバルに後れをとっていたというわけだ。

 潮目が変わったのは、やはり、東京五輪・パラリンピック招致に成功した13年秋だ。矢野部長は「必ずムーブメントが起き、スポーツに目が向けられる機会が多くなる。盛り上がるタイミングで一緒に盛り上がれたらいいなと。スポーツは見てもやっても楽しめる稀有(けう)なコンテンツですから」。

 auは、競技者だけではなく、「見るスポーツとしての」クライミングの広がりにも注目する。「幅広い世代に受け入れられているこの競技とは親和性がある」。若手からシニアまで愛好者がいるスポーツクライミングは、幅広い年齢層がいる携帯ユーザーとも重なる。

 スポーツクライミングの競技種目の一つ、ボルダリングの国内競技人口は約60万人だ。全国の専用施設は年々増え続け、08年の96施設から15年は435施設と7年で一気に4・5倍に増えた。

 「auを見たらクライミング、クライミングならauと、ブランディングの連鎖が生まれればいい」と矢野部長。勢いがある競技団体と選手を支援することでともに成長し、競技を盛り上げる。そうすることで、スポーツクライミングの「挑戦」「成長」などのブランドイメージを、効率的に企業イメージに重ねてもらえれば、と期待する。(榊原一生)

6/6(火) 18:16配信
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