「日本のメッシ」と称賛される久保建英。弱冠15歳にしてU−20ワールドカップ代表に選出され、天性の才能の一端を見せた。

 5大会ぶりに出場したサッカーU−20(20歳以下)W杯(5月20日〜6月11日、韓国)でグループリーグを突破した日本だったが、決勝トーナメント1回戦で延長戦の末に南米のベネズエラに0−1と敗れ、14年ぶりのベスト8進出はならなかった。

 3年後の東京五輪で中心となる世代で臨んだ今回のU−20W杯には将来を期待されるタレントが揃った。なかでも注目を集めたのは“2階級特進”で招集されたFW久保建英(たけふさ)(FC東京U−18)だった。

●高い戦術理解度

 15歳で大会の開幕を迎えた久保は、10歳から13歳までスペインの名門FCバルセロナの下部組織で育ち、2015年の帰国後もFC東京のユースチームで順調な成長を見せ、昨年は中学3年にしてU−18に昇格。続いてトップチームにも登録され、今季はJ3においてJリーグ最年少得点(15歳10カ月11日)を記録したほか、5月3日のルヴァンカップ(リーグ杯)では、トップチームでの公式戦デビューも果たすなど超逸材と高い評価を受けてきた。

 最大5歳上の選手もいたU−20W杯でも、その才能の一端を示した。初戦の南アフリカ戦では後半に途中出場すると、すぐさま前線へ見事なスルーパスで決定機を演出。抜け出したFW小川航基(ジュビロ磐田)のシュートは惜しくも相手GKの好守に阻まれたが、ワンプレーでスタンドをどよめかせた。そして、後半27分には左からの見事なピンポイントのノールックパスでMF堂安律(ガンバ大阪)の決勝点をアシストした。

 FC東京の篠田善之監督は、久保のプレーについてこう話す。

「フィジカルはまだまだだけど、戦術理解度が高く、技術はしっかりしていて見ているところが(普通の選手と)ちょっと違う」

●一番しっかりしている

 ストライカーとしてのシュートのうまさはもちろん、ドリブルで相手を突破することもできれば、そこからパスも出せる。特筆すべきは状況判断で、空いたスペースを瞬時に見つけ、相手の動きを見透かしたように逆を取るのがうまい。こうした感覚は独特で、天性のものだろう。

アルゼンチン代表でFCバルセロナに所属するサッカー界のスーパースターのリオネル・メッシと小柄で左利きという共通点があることから、「日本のメッシ」「リトル・メッシ」と国内外で称賛される久保。普通であれば傲(おご)りや慢心が出てもおかしくないが、若くして海外に渡ったことで人としても大きく成長しているのは、メディアに発信する言葉からもうかがえる。

「まだ大した活躍もしていないのに過度に注目されるのは歯がゆい。しっかり自分が活躍して注目してもらえるような選手になりたい」

 久保の人間性についてはU−20W杯を現地取材した記者からもこんな声が聞こえてくる。

「チームには四つも五つも年上の選手がいたが、試合中には臆することなく自分の要求を伝えているのが印象的だった。また取材エリアでの記者との受け答えを見ても、一番しっかりしているのが久保だった」

 とはいえ、まだこれからの選手であることに変わりない。敗れたベネズエラ戦では延長を含め約70分間プレーしたが、決定的な仕事が期待されたなか、フィジカルで勝る相手に思うように仕事をさせてもらえずに沈黙。結局、グループリーグを含め、初の世界大会は3試合に途中出場したが無得点に終わった。

 帰国後は悔しそうに、一部メディアに語ったという。

「悔いが残らないと言えば嘘になるが、何も得られなかったわけではない。まだ選手人生のスタートに過ぎないので、この経験を生かしていきたい」

 18歳になる19年にはFCバルセロナへの復帰が内定しているとも言われるだけに、将来への期待は高まる。だが、久保はまだ6月4日に16歳になったばかり。過去に天才少年ともてはやされ、その後姿を消した選手も少なくないだけに、過度の期待は禁物である。

(スポーツジャーナリスト・栗原正夫)

AERA 2017年6月12日号

6/6(火) 16:00配信 
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170605-00000065-sasahi-socc&;p=1