レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとってLGBT。性的マイノリティーを表現するために生まれ、定着しつつある言葉だ。しかし、本当にまっすぐ理解されているのだろうか。LGBTとひとくくりにすることで周知は進む一方、さまざまな思いや抱える悩み、課題など、一人ひとりの「個」が塗りつぶされてはいないか。雑誌AERA6月12日号のテーマは「LGBTフレンドリーという幻想」。全編を通してLGBTの現実に迫る。20ページ近いの総力特集の中から、LGBTをメディアがどう扱ってきたかを取材した「おネエしかいらない」を紹介する。

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 2000年代初頭にテレビでトランスジェンダーをカミングアウトしたタレントで振付師のKABA.ちゃん(47)は昨年、タイで性別適合手術を受けて女性の体になった。帰国後、メディア関係者の一言に耳を疑った。

「扱いづらくなった、という人もいるみたいです」

 いわゆる「おネエ」キャラ時代なら胸をもんだりしてもよかったけど、女性になったらやりづらい、らしい。そんな仕事は前から引き受けていないのだが、KABA.ちゃんは言う。

「まだメディアでの(LGBTの)扱いには『壁』があると感じましたね」

 KABA.ちゃんやマツコ・デラックスさんをはじめ、今やLGBTの人たちをテレビで見ない日はない。また、かつてのような「ホモセクシュアル=気持ち悪い」といった明らかに差別的な扱いは影を潜めた。日本民間放送連盟(民放連)の放送基準を見ると、「性的少数者を取り上げる場合は、その人権に十分配慮する」と記されており、解説書には「『ホモの見分け方』コーナー」や「『こわくて行けない場所』というタイトルで、隠しカメラで撮影したホモセクシュアルのキスシーンなどを流す」といった内容が問題視されたと紹介されている。

●過剰な女っぽさ強調

 LGBTに詳しい東京表参道法律事務所の寺原真希子弁護士は、「00年代初めの頃は『この女性たちの中で本当は男の人がいますが誰でしょう』といった企画がまだ平気で放送されていました」と言うが、15年に米国で同性婚を容認する連邦最高裁判決が下され、東京都渋谷区で同性パートナーシップ条例が施行されてLGBTが一種のブームになってからは、「配慮が少しずつ進んできています」と分析する。

 16年のヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の主人公の同僚がゲイだったりと、かつてはキワモノ、あるいは悲劇的に扱われてきたLGBTの人たちがドラマなどにごく普通に登場するようにもなった。

 ただ、「LGBTの方々の取り上げられ方には今も大きな偏りがあります」と寺原さんは言う。メディアとLGBTの関わりについて研究している明治大非常勤講師(性社会文化史)の三橋順子さんもこう指摘する。

「LGBTと言っても、バラエティーに登場するのは過剰に女っぽいゲイ(おネエ)ばかり。実際にはマッチョな男性的なゲイのほうが多いのに、女性っぽいゲイしか取り上げられないことが多いんです」

 今年4月のNHKの番組で三橋さんがこの問題を指摘しようとしたが、顔出しで登場してくれるマッチョ系のゲイはいなかった。それ以外にも、L(レズビアン)や女性から男性になったT(トランスジェンダー、FtM)が登場することもかなり少ない。

「日本ではMtF(男性から女性に変わったトランスジェンダー)よりFtMのほうが3倍近く多いという統計もあるんですが、FtMはテレビ的には使いづらいという認識があるようで不可視化されているんです」(三橋さん)

>>2以降に続きます

更新 2017/6/5 11:30
https://dot.asahi.com/aera/2017060400047.html