レスリング、アメフト、ボクシングと、今年に入っていろいろ問題が発覚しているが、今度は「いまさら」
の観がある剣道連盟の居合道昇進に関して、審査員への金品贈与のことがニュースになっている。
しかし、このことは私のような剣道連盟とは殆ど縁のない者でも知っているように、武道・武術の関係
者には広く知れ渡っていることで、自分の実力がなくても、そうまでして段を欲しがる姿は、実力のあ
る武術関係者の笑いの種になっていた。
今回は受験者が審査側から650万円もの要求があったとの事だが、昔私が聞いた話では、あからさ
まなワイロという形にならないようにして、送る方もいろいろ工夫をしていたらしい。
例えば審査員が昔から欲しがっていた鍔の情報を得て、その鍔を入手。そして「この鍔は先生に所
に在ってこそ処を得たというものです」と、言葉巧みに審査員に受け取らせるのが昇段の秘訣で、そ
こにワイロ的な雰囲気を生じさせないことが重要とのことだった。
したがって、この居合道の問題は貰う方も出す方も、どっちもどっちということで、社会に与える影響
も大してないから、どう決着がつくにしても別にどうでもいいような話である。
れにしても、狭い業界の中だけで通用する八段の権威などに、多額の金銭を投資する人間の気持ち
は、私などはまったく理解できないが、以前、養老孟司先生との対談本の中でも触れたが、人間諸欲
衰えて命の先も見えてくると、名誉欲だけは盛んになってくるらしい。

by 甲野善紀