デイリー新潮 1.19
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/01191057/
史上最年少での五冠獲得に挑戦中の、藤井聡太竜王(19)。その陰で、レジェンド・羽生善治九段(51)には、棋士人生最大級のピンチが訪れていた。
今月9〜10日に静岡・掛川市で行われた王将戦の第1局で、挑戦者・藤井四冠は、渡辺明三冠に勝利した。
「タイトル戦に相応しい将棋でしたね」
とはその王将位を獲得したこともある中村修九段。
「最後まで大激戦でしたが、棋士の中でトップともいえる終盤力を持つ藤井さんが、最後は勝ち切った。四冠の風格も出てきましたね」
五冠に向け、幸先良いスタートを切ったわけだ。
他方、その前週の7日、東京・千駄ヶ谷で「A級順位戦」が行われた。この対局で羽生九段は敗北。これで今期の成績は2勝5敗となった。
「羽生さんには大きな負けとなってしまいました」
と消沈するのは、さるベテラン観戦記者である。
「この敗戦でA級陥落の瀬戸際に追い込まれました。残留するには残り2局を連勝するしかない。一度も負けられない、ぎりぎりの戦いが続きます」
しかも、来月行われる次戦の相手は永瀬拓矢王座だ。
「羽生さんは永瀬さんとは分が悪く、過去4勝11敗で、現在も4連敗中。厳しい対局になるでしょう。仮に2連勝したとしても、残留できるかどうかは、他の棋士の星取り次第です」(同)
順位戦とは、名人戦の挑戦者決定リーグのこと。下からC級2組、C級1組、B級2組、B級1組、A級と五つのランクに分かれる。それぞれのリーグで成績上位者は昇級、下位の棋士は降級となり、最上位のA級で1位となれば、名人挑戦権を得るという、ピラミッド型のシステムだ。
将棋界にある8大タイトルの中でも、名人位は最も古い歴史と格式を持ち、A級に在籍するということは、トップ棋士であることの証しである。そこに連続29期も在籍してきた羽生九段が陥落するとなれば、例えるなら、イチローが打率3割を切ったのと同じような衝撃であろうか。
勝率は3割台
「やはり年齢からくる衰えが大きいと思います」
と先の観戦記者が続ける。
「一般に棋士の全盛期は25〜30歳で、後は下降線をたどっていくものですからね。また、最近はAIを使った研究が主流で、その点では若手にはなかなか追いつけないところだと思います」
七冠制覇を果たし、前人未到のタイトル獲得99期を誇る大棋士も、自然の摂理と時代の趨勢には抗えないのか。2021年度の勝率も、現在3割9分と、プロデビュー以来初の、年度内負け越しが決定的である。
「私がA級から落ちたのは52歳の時でした」
とは、タイトル獲得64期のこれまた大棋士、中原誠十六世名人である。
「順位戦は1年間かけて全員と戦った結果で順位が決まる。一発勝負ではないので言い訳が利きません。B級1組に落ち、自分がA級の10人より下という結果を突き付けられて、ショックを受けたものです」
とはいえ、羽生九段は一昨年に竜王戦の挑戦者となり、昨年も王位戦の挑戦者決定戦まで進むなど、まだまだトップに近い「底力」を持っていることは間違いない事実。
中原名人も言う。
「これからタイトル戦に出ることも決してありえない話ではないと思いますよ。もし100期をかけた相手が藤井さんとなれば、大注目を浴びる素晴らしい対局が期待できるでしょうね」
その藤井四冠は現在、順位戦でB級1組のトップを走り、22年度のA級入りを濃厚にしている。
追う者、追われる者。
残り2戦、羽生九段にとっては、崖っぷちの対局が続きそうだ。
「週刊新潮」2022年1月20日号 掲載
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/01191057/
史上最年少での五冠獲得に挑戦中の、藤井聡太竜王(19)。その陰で、レジェンド・羽生善治九段(51)には、棋士人生最大級のピンチが訪れていた。
今月9〜10日に静岡・掛川市で行われた王将戦の第1局で、挑戦者・藤井四冠は、渡辺明三冠に勝利した。
「タイトル戦に相応しい将棋でしたね」
とはその王将位を獲得したこともある中村修九段。
「最後まで大激戦でしたが、棋士の中でトップともいえる終盤力を持つ藤井さんが、最後は勝ち切った。四冠の風格も出てきましたね」
五冠に向け、幸先良いスタートを切ったわけだ。
他方、その前週の7日、東京・千駄ヶ谷で「A級順位戦」が行われた。この対局で羽生九段は敗北。これで今期の成績は2勝5敗となった。
「羽生さんには大きな負けとなってしまいました」
と消沈するのは、さるベテラン観戦記者である。
「この敗戦でA級陥落の瀬戸際に追い込まれました。残留するには残り2局を連勝するしかない。一度も負けられない、ぎりぎりの戦いが続きます」
しかも、来月行われる次戦の相手は永瀬拓矢王座だ。
「羽生さんは永瀬さんとは分が悪く、過去4勝11敗で、現在も4連敗中。厳しい対局になるでしょう。仮に2連勝したとしても、残留できるかどうかは、他の棋士の星取り次第です」(同)
順位戦とは、名人戦の挑戦者決定リーグのこと。下からC級2組、C級1組、B級2組、B級1組、A級と五つのランクに分かれる。それぞれのリーグで成績上位者は昇級、下位の棋士は降級となり、最上位のA級で1位となれば、名人挑戦権を得るという、ピラミッド型のシステムだ。
将棋界にある8大タイトルの中でも、名人位は最も古い歴史と格式を持ち、A級に在籍するということは、トップ棋士であることの証しである。そこに連続29期も在籍してきた羽生九段が陥落するとなれば、例えるなら、イチローが打率3割を切ったのと同じような衝撃であろうか。
勝率は3割台
「やはり年齢からくる衰えが大きいと思います」
と先の観戦記者が続ける。
「一般に棋士の全盛期は25〜30歳で、後は下降線をたどっていくものですからね。また、最近はAIを使った研究が主流で、その点では若手にはなかなか追いつけないところだと思います」
七冠制覇を果たし、前人未到のタイトル獲得99期を誇る大棋士も、自然の摂理と時代の趨勢には抗えないのか。2021年度の勝率も、現在3割9分と、プロデビュー以来初の、年度内負け越しが決定的である。
「私がA級から落ちたのは52歳の時でした」
とは、タイトル獲得64期のこれまた大棋士、中原誠十六世名人である。
「順位戦は1年間かけて全員と戦った結果で順位が決まる。一発勝負ではないので言い訳が利きません。B級1組に落ち、自分がA級の10人より下という結果を突き付けられて、ショックを受けたものです」
とはいえ、羽生九段は一昨年に竜王戦の挑戦者となり、昨年も王位戦の挑戦者決定戦まで進むなど、まだまだトップに近い「底力」を持っていることは間違いない事実。
中原名人も言う。
「これからタイトル戦に出ることも決してありえない話ではないと思いますよ。もし100期をかけた相手が藤井さんとなれば、大注目を浴びる素晴らしい対局が期待できるでしょうね」
その藤井四冠は現在、順位戦でB級1組のトップを走り、22年度のA級入りを濃厚にしている。
追う者、追われる者。
残り2戦、羽生九段にとっては、崖っぷちの対局が続きそうだ。
「週刊新潮」2022年1月20日号 掲載