姉貴の襲来の翌日、サークルで帰りが遅くなるとか言う姉貴を除く家族と、俺は夕食を囲んでいた。
 食卓には当然、件のユウキも鎮座している。

「なあ、ユウキ」

 几帳面なくらい見事に一口大に取り分けられた白米を、これまた器用に箸でつまみながら、ユウキは食事の手を止めて俺へと視線を向けた。

「なに?」

 およそ有機物とは思えないくらいに無感情な声が反応する。

「あー……その、なんだ。おまえ今欲しいものとかあるか?」
「別に」
「いや、なんかあるだろう? おまえだって中学二年生なんだから、おしゃれなアクセサリーとか、気になってる漫画やゲームだってあるんじゃないか?」
「特に」
「な、なら、物じゃなくてもいいんだぞ? どっか行きたいところとかないのか?」
「直ぐには」
「え、なに?」
「直ぐには考えられない」
「そうか……」

 俺は額に手を当てて落胆した。これほどまでに妹との会話が困難な様相を呈していたとは誰が予想できよう。
 まだ成人もしていないのに、反抗期の娘を持った父親の気持ちを味わった気分だぜ。
 がんばれ、全国のお父さん達! 俺はひっそりと向かいに座る親父にエールを送った。
 会話が途切れても食事を再開しないユウキに気付き、すまん、もういいぞ、と促す。ユウキは、そう、とだけ言って了解し、胸のあたりまで持ち上げて静止していた白米を口へと運んだ。
 さてどうしたものか。
 姉貴は俺にミッションを与えていた。ユウキの欲しがっているものを調査せよ、というのが、姉貴大総督が俺に下した命である。しかしこれは困難極まる。
 後でツイッターでも見て、今どきの女子中学生が欲しがりそうなものを調査しておこう。

「たこ焼き」

 テレビの音に掻き消されそうな小さな声が、ひっそりと食卓に転がった。

「はっははー、違うぞユウキ! これはたこ焼きではなくて明石焼きだ! 残念ながらタコは入っていない!」

 ユウキの呟きを、酔っぱらた親父が豪快に笑い飛ばした。どうでもいいが唾を飛ばすな。行儀が悪いだろ。ユウキがぐれたらどうするんだ。
 やれやれだ。