(社説)自衛隊の歴史観 戦争の反省 風化を懸念

戦後、平和憲法の下で再出発した自衛隊で、旧軍と「断絶」していないのではないかと疑われる事態が相次いでいる。アジアへの植民地支配と侵略、国民を存亡の危機に陥れた敗戦という歴史への反省の風化を強く懸念する。

陸上自衛隊の第32普通科連隊(さいたま市)が、X(旧ツイッター)の公式アカウントでの投稿に「大東亜戦争」という用語を使ったことが、「侵略戦争の正当化」などと議論を呼び、この言葉を削除して投稿し直すということがあった。

 戦前、欧米の支配からアジアを解放する「大東亜共栄圏の確立」を外交方針に掲げていた日本は、41年12月の米英への開戦直後、この戦争を「大東亜戦争」と呼ぶことを閣議決定した。

 敗戦後、神道の国家からの分離を命じた連合国軍総司令部(GHQ)の「神道指令」の中で、軍国主義を連想させるものとして公文書での使用を禁じられ、占領解除後も、政府は一般に公文書では使わずにきた。

確かに、歴史的な用語として、文脈によって、この言葉を使うことはあるだろう。しかし、侵略戦争の肯定につながるとの指摘は重く、現に政府が一般的な使用を控えていることも踏まえれば、自衛隊員を含む公務員が公に発信することは適切でないと言わざるを得ない。

 そうした歴史的文脈に思いが至らないとしたら、それこそが、戦争の記憶の風化といえよう。
<中略>
自衛隊の最高指揮官である岸田首相の責任は重い。防衛力の抜本的強化の旗をふるばかりで、歴史の教訓がなおざりにされる現状を放置するようでは、その指導力に国民の支持は得られまい。

https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15911094.html