(社説)京アニ事件裁判 広く共有できる審理を



https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15732549.html

法廷には、被告への質問や意見陳述ができる「被害者参加制度」に基づき、多くの当事者の出席が見込まれる。傍聴席の一部が割り当てられ、一般の傍聴者が法廷に入れる余地は限られそうだ。だが、裁判の公開は憲法上の要請であり、別室で中継を視聴できる態勢が必要だとの声もある。地裁は前例にとらわれず柔軟に対応してほしい。

 地裁はまた、遺族らが希望する被害者については名前を伏せる「匿名審理」を認める方針という。刑事訴訟法は、被害者の名誉や平穏な社会生活が著しく害されるおそれなどがあれば、裁判所は秘匿できると定める。これまで性犯罪や暴力団事件を中心に適用されてきたが、その範囲は抑制的であるべきだろう。

 すべての情報を公開し、法と証拠に基づいて判断し、結果を記録に残す。これが裁判の大原則だ。かけがえのない一人ひとりの人生が絶たれた事実を具体的に知り、のちに適正な裁判だったかを検証することの大切さを忘れてはなるまい。


京アニ裁判「実名、命あった証し」「匿名望むのは当然の心理」 被害者名伏せる異例の審理

https://news.yahoo.co.jp/articles/f6b4ebcc3258f598b04da6f215dc855dd9b1bddb?source=sns&dv=sp&mid=other&date=20230904&ctg=loc&bt=tw_up

京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判は、京都地裁が複数の被害者の氏名を伏せる異例の「匿名審理」となる見通しだ。被害者や遺族らの保護が目的とされるが、公開を原則とする法廷の秘匿化への危機感も高まる。3年前には、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者19人が殺害された事件の公判で、多数の死傷者が「甲B」「乙A」と記号で呼ばれ、議論を呼んだ。実名か匿名か。「匿名審理」の在り方が問われる。

「隠す理由が見当たらない。実名があることで言葉の重みは変わる」。そう話すのは、京アニで要職を務めたアニメーター池田(本名・寺脇)晶子(しょうこ)さん=当時(44)=の夫(50)だ。
 
 同制度は性犯罪のほか、名誉や社会生活の平穏が著しく害される恐れがある事件も対象に含まれる。夫は、仕事に情熱を注いだ晶子さんを知ってほしいと多くの取材に応じてきた。記事やニュースで実名が世間に知れ渡ったが、「僕は日常生活への支障を感じたことはない」と言う。



 オウム真理教事件など、数々の裁判を傍聴してきたジャーナリストの江川紹子さん(65)は、京アニ事件の匿名審理化を危ぶむ。犠牲者たちには何の落ち度もなく、クリエーターとして世に名前を出していた。人を裁く法廷は被害者も実名が基本だとして「この事件が匿名なら、原則と例外がひっくり返る」と憂う。

 名前は友人や同僚ら、関係を結ぶ人にとっても大切なもの。そう語り、問いかけた。「実名は亡き人の存在そのもの。本当に隠してもいいのでしょうか」