「持続不可能」なビジネス
世界の広い地域で食べられているサーモンの需要は急増し、ここ10年で3倍となっている。養殖サーモン産業はそれに合わせて成長し、世界で年間200億ドル(約2兆9000万円)にまで達した。
しかしこの一大産業は、その拡大と共に世界中で数々の問題を引き起こしているという。

この問題に着目したカナダ在住のジャーナリストであるダグラス・フランツとキャサリン・コリンズは、世界のサケの養殖事業を調査し、著書『サーモン戦争』(未邦訳)を出版した。
米誌「タイム」にも寄稿している二人は、ノルウェーやチリなどで育てられるアトランティックサーモンのリスクと、それを食すことの危険性について訴えている。

二人はまず、サーモンの養殖は「持続不可能なビジネス」であると指摘する。ほとんどのサーモンの養殖は海底に固定され、設置された円形の網のケージの中で生育される。
高さ15メートルにもなる養殖場は網で密閉されておらず、囲いが壊れればサーモンが逃げることもある。

このような海中の大きな網には10万匹程度のサーモンが詰め込まれ、2~3年かけて育てられる。しかし、このうち15~20%のサーモンが出荷を待たずに死んでいくという。
家畜として育てられる鶏や牛の死亡率が毎年3~5%程度なので、養殖サーモンの死亡率は異常なほど高い。

本来サーモンは肉食だが、養殖場では肥育のための餌として、魚粉、野菜、動物性副産物から成るペレットを与えられる。そして密集した空間ではサーモンの排泄物も増え、
中では海シラミと呼ばれる小さな寄生虫や多くのウイルスが培養される。そのために農薬や抗生物質が養殖場に定期的に散布されるが、
その残留物の一部はサケの体内に蓄積され、一部は海底に堆積していく。

また、養殖業者は海洋という公共の場をビジネスに利用しているにもかかわらず、廃棄物をそのまま海に流して処理することもない。養殖場では過剰な飼料、腐敗した魚、排泄物、
薬品の残留物などが残され、周囲に大量に漏れ出ていく。すると近くを通る野生のサーモンを病原体や寄生虫に感染させ、死に至らしめることも少なくない。また、
他の海洋生物にも悪影響を与え、生態系を狂わせているというのが現状だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2a3bc60bf8b592247330b5e878a7d05cd3119aa8