水は沸騰させたほうが速く凍る?

 もう一つ、簡単に取り上げておくべき例がある。一九六九年、タンザニアの学生エラスト・ムペンバとダルエスサラーム・ユニヴァーシティーカレッジの物理学教授D・G・オズボーンが、学術誌『物理教育』に驚くべき論文を発表した。

 『クール?』というシンプルなタイトルが付けられたその論文には、ある条件のもとでは常温の水よりも沸騰した水のほうが速く凍るという証拠が示されていた([1])。この論文が発表されると科学界に謎と論争が生まれ、五〇年経ったいまでも解決されていないのだ。

ムペンバはこの効果を発見した当時、そんな大それたことはけっして望んでいなかった。中等学校に通っていた一九六三年、クラスメイトと一緒にアイスクリームを作っていた。

 レシピには、材料を沸騰させて常温まで冷ましてから冷凍庫に入れるよう書いてあった。しかし冷凍庫が狭かったため、あるときクラスメイトが冷めた材料を入れるのと同時に、自分は沸騰したままの材料を入れてみた。

 すると驚いたことに、ムペンバの入れたアイスクリームのほうが先に凍ったのだ。直感に反するこの結果を先生に話しても、真に受けてはくれなかった。そこで学校を訪ねてきたオズボーン教授に質問してみると、幸いにも実験してくれることになった。

実験結果にオズボーンは仰天した。「ダルエスサラーム・ユニヴァーシティーカレッジの若い技師に検証してもらった。すると技師は、確かに最初高温だった水のほうが先に凍ったと報告した上で、すぐさま科学者にあるまじき意気込みを付け加えた。『正しい結果が得られるまで実験を繰り返します』とね([2])」
https://news.yahoo.co.jp/articles/085540a7a75451dd1625e4e32a6b294f7913653f