岸田首相の「所得倍増計画」看板倒れにならないか
熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト

 岸田文雄政権が10月4日、誕生した。新首相の看板政策は「令和版所得倍増計画」である。

 国税庁の民間給与実態統計調査によると、2020年の民間給与の平均は433万円だ。これを2倍するということは、平均給与を866万円にするということになる。2倍にするためには、単純計算で毎年5%アップで15年、毎年7%アップで11年間かかる。これまでの給与の推移をみれば、ほとんど実現不可能な数字に思える。

労働分配率を上げるには
 岸田氏が提唱するのは、法人税減税をテコにして賃上げを促進する手法だ。企業が前年に比べて総人件費を増やすと、その一定割合を法人税で減税し、税引き後利益を増やす仕組みだ。これによって企業の賃上げを促す。企業の利益から賃金への分配率を上げることで、賃金を増やそうとしている。

 しかし、この仕組みでも十分な賃上げの実現は難しいと思える。財務省の法人企業統計調査による20年の労働分配率は71.5%である。ありえない数字だが、仮にこの71.5%を100%にしても、総人件費は1.4倍にしかならない。

 前述の法人税減税をテコにする方法は、すでに安倍政権下で13年度から現在まで行われており、法人…(以下有料版で,残り1216文字)

毎日新聞 2021年10月6日
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20211005/biz/00m/020/017000c
※スレタイは毎日jpトップページの見出し