中国が受け入れられるとの見方は多くないが、それでも申請したのは、米国が新たな自由貿易協定の締結に後ろ向きな中、その隙をつく狙いもあった。習近平(シー・ジンピン)国家主席は17日に講演し、米国などを念頭に「ルールという旗印を使って国際秩序を壊し、対抗と分裂を作り出す行動に反対しなければならない」と語った。

そもそもTPPは日米が主導し、インド太平洋で中国に対抗する経済圏をつくる構想だった。ただ17年に米トランプ政権が離脱を表明。日本政府は中国への対抗には米国の復帰が最善とみるが米国では反対論が根強い。

米国務省の報道官は16日、「中国の非市場的な貿易慣行と他国に対する経済的な威圧が(加盟を認めるかどうかの)加盟国の判断要素となるだろう」と述べた。

TPPには対中国で安全保障上の焦点となっている台湾も加盟への関心を示す。米国、英国、オーストラリアは15日、対中国を念頭に新たな安保協力の枠組みを創設した。欧州連合(EU)は16日に「インド太平洋協力戦略」を公表し、台湾との関係強化を打ち出した。その直後のTPP加盟申請は、通商だけの意味合いにとどまらない。

現在加盟する11カ国の実質国内総生産(GDP)は世界の1割超で、中国が加わると3割になる。安全保障上の中国の脅威が高まる中、加盟国は単純に経済の観点で判断できない状況になっている。(江渕智弘、北京=川手伊織、ワシントン=鳳山太成)

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