改正国民投票法が11日成立したが、憲法改正原案の取りまとめに向けた議論は足踏みしたまま16日の会期末を迎えつつある。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)は現行憲法の課題を浮き彫りにした。与野党は同法の成立はゴールではなく、あくまでもスタートにすぎないことを自覚し、閉会中審査を含め改憲論議に臨むべきだ。
成立を受け、衆院憲法審査会の新藤義孝与党筆頭幹事(自民)は記者団に「憲法改正原案を発議するための議論を深めていかなければいけない要請は高まった」と語った。
しかし、憲法改正をめぐる国会の動きは鈍い。自民など改憲に前向きな政党は同法の審議が5月に参院へ移って以降、衆院憲法審の開催を立憲民主党に呼びかけたが、色よい返事は得られなかった。
新型コロナ禍では、緊急時に限って政府の権限強化を可能とさせる緊急事態条項を憲法に設けるべきかが注目されるようになった。蔓延を抑えるには、国民の私権を一時的に制限せざるを得ない状況もあり得るとの認識が広がっているためだ。実際、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が5月中旬に実施した合同世論調査では68・2%が緊急事態条項の新設に「賛成」と回答した。
背景には「お願いベースでも感染を抑えられる」という楽観論への疑念も透ける。
立民の枝野幸男代表は9日の党首討論で、日本の最近の感染状況に関して「強いロックダウン(都市封鎖)措置をとった国と比べて見劣りしないスピードで(感染者数が)落ちている。それだけ国民は協力している」と述べた。だが、立民内にはいつまでも「国民の協力」を得られる保証はないとの見方もある。
憲法審は閉会中も開催できる。討論などでは閣僚の出席を必要としないため、日程上のハードルも低い。国民の生命を守るために強力な私権制限は必要なのか。現行憲法のままでも強力な私権制限を課すことは可能なのか。現実を直視した与野党の真摯(しんし)な議論が求められている。(内藤慎二)
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