新疆ウイグル問題とも対比して語られる「処理水」放出問題――もはや放置できない周辺国・地域世論の悪化
西岡省二 | ジャーナリスト
4/19(月) 14:56

 日本政府が東京電力・福島第1原発で生じる汚染水を処理した水を海洋放出すると決めたことで、周辺国・地域に強い懸念と反発が広がる。特に中国では、自国が新型コロナウイルス発生源調査の際に求められた「透明性」を日本側に求めるような声が出たり、「新疆ウイグル自治区のことよりも自分のことを心配せよ」という理屈が語られたり、批判の声が次々に上がる。他の国・地域でもそれぞれの事情に沿った形での日本批判が繰り広げられており、周辺国の理解を促す日本からの情報を矢継ぎ早に発信していく必要がありそうだ。

◇一方的なデータだけで「安全」主張
 中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)副報道局長は今月15日の定例記者会見で、処理水を「核廃水」と表現したうえで、次のように立場を表明した。
「日本は、一方的に得たデータだけを頼りに『核廃水は安全だ』と主張しているが、全く説得力がない」
「福島第1原発を運営する東電によるデータ改ざんや隠蔽を暴き出すような、密告や証言、報道はまだあるのか?」
「さまざまな悪事を前にして、国際機関などの第三者の実質的な参加・評価・監督を欠くこれらのデータは、本当に信頼がおけるのだろうか」
 翌日の会見でも「日本は誤った決定を見直し、撤回することで、全人類と将来の世代に対する責任を果たすべきだ」「各国の一致した反対意見に真摯に向き合い、中国を含む国際社会の実質的な参加・監督を受け入れ、核廃水の処理問題が完全に日の当たる場所で運用されるようにすべきだ」と透明性の確保を求めた。
 北京紙・新京報は処理水海洋放出の法的問題点に関する記事を掲載し、北京国際法学会会長の李寿平(Li Shuping)北京理工大学法学院院長の「もし核廃水に(放射性物質の)炭素14やヨウ素129が含まれていて、海洋環境に長期的な被害を与えるなら、国際法上の不当行為となり、『人道に対する罪』を構成することになる」との意見を載せている。
 さらに李寿平院長は▽もし日本が船舶・航空機などで核廃水を関連海域に輸送して排出するならロンドン条約(1972年)やロンドン議定書(1996年)が適用される。故意の海への投棄は国際的義務違反となる▽もし核廃水を陸から海に直接流すなら国連海洋法条約の関連規定への違反となる――との見方を示している。