新型コロナウイルスの感染拡大で、障害者が働く「作業所」への軽作業発注が著しく減っている。作業所は障害者と社会の接点となっているが、発注が半減して事業の継続に「黄信号」がともるところも出始めた。
知的障害者に手洗いなどの感染予防策を徹底させる難しさもあり、関係者は頭を悩ませている。

「自動車部品工場での梱包(こんぽう)、自治体から受注した印刷、イベントで売る食品の製造。ほとんどの軽作業が縮小された……」。
社会福祉法人「復泉会」(浜松市北区)が運営する「くるみ共同作業所」の峰野和仁施設長は肩を落とす。この作業所に通う知的障害者は約50人。企業と雇用契約を結んで働くことが難しい障害者に就労の機会を提供している。

作業所によると、3月下旬から作業の発注が急減した。中国での部品供給網寸断によって国内の自動車工場が操業停止に追い込まれて部品工場に出向いての作業が半減したほか、公立学校の臨時休校で印刷の需要がなくなり、さらにイベントの中止で食品の販路も縮小した。
「障害者たちに工賃が払えなくなる恐れもある」と峰野施設長の表情は険しい。

くるみのような作業所は「就労継続支援B型」という業態に分類されている。厚生労働省によると、「B型」の施設で障害者が受け取る工賃の月平均は1万6118円(2018年度)。
「雇用」の契約は結ばず、工賃が最低賃金を下回ることが多いものの、障害者にとって「社会の中の居場所」という側面がある。

くるみで野菜の水耕栽培に従事する女性(40)は「仕事をしながら仲間と会話をすることが楽しい」と目を輝かせる。
この女性は家族と離れ、復泉会が運営するグループホームで暮らしている。職場は社会とのつながりを実感できる大切な場所だ。
「仕事が減って通えなくなったら嫌だ」と真剣な表情で訴える。

障害者の働く場への影響は、全国に広がっている。共同作業所などの全国組織「きょうされん」(東京)が3月に実施して会員の281事業所が回答した調査によると、「(新型コロナの感染が深刻化した)3月分の工賃が減る見込み」と答えた事業所が過半数に達した。施設外就労の休止などによる工賃への影響が大きいとみられる。

また、新型コロナは作業所に対して「感染防止策の徹底」という課題も突き付けた。
知的障害者の教育や就労に詳しい静岡大学の山元薫准教授は「感染リスクの理解が難しい知的障害者に手洗いなどを徹底させることは容易でない」と指摘する。
峰野施設長も「マスクの着用を嫌がる例があり、感染者の発生で作業所が休止に追い込まれる事態も想定される」と話した。

https://mainichi.jp/articles/20200519/k00/00m/040/126000c
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