猫が逆さに落ちても足から降りられる秘密を解明した300年の物理学史
https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20200517-00178882/
江戸初期に活躍した柔術の大家、関口氏心(関口柔心)の逸話に、「猫が屋根の上で眠り込んで転がり落ち、空中でひらりと身を翻して足から降り立った様子を見て“受け身”を考案した」というものがある。関口氏心は自ら屋根の上に登って転がり落ちる修行を続け、受け身の技を完成させたという。

『Falling Felines and Fundamental Physics』Gregory J. Gbur著、Yale University Press、2019年10月
17世紀の日本では武士が猫に学んでいたわけだが、当時の欧州では科学者たちが「猫が逆さに落ちても足から降りられる秘密」を解明しようとしていた。
物理学者グレッグ・ガバー博士の著書『Falling Felines and Fundamental Physics』は、300年にわたり「Cat Righting Reflex(猫の立ち直り反射)」という猫の姿勢反転技を研究した歴史を追った本だ。
19世紀末、写真撮影という技術を手にして研究は飛躍的に進み、20世紀前半についにある物理モデルが提唱される。
物理学者、生理学者、写真家、数学者が次々と登場する本書には、宇宙飛行士が猫に教えを請うた1960年代のNASAの研究についても触れられている。

写真発明以前
17世紀フランスの哲学者デカルトは、『世界論』を執筆中に「動物は魂を持っているか」という問いを確かめるため猫を窓から放り投げ、恐怖を表すかどうか試していたという。
同時代のフランスの数学者は、水の中での物体の動きに関する論文を発表し落下する猫を「浮力を受ける球」に見立ててその動作を解明しようとした。
しかし空気中での浮力は猫に対しては小さすぎ、姿勢を反転させる補助にはならないことからこの説は間違っているといえる。

19世紀の物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルはケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジで研究するかたわら、猫を逆さに落とす実験を繰り返したという。
マクスウェル自身は猫の姿勢反転技の理論について文献を残していないが、教え子で英海軍の医師だったウィリアム・ゴードン・ステーブルスが1875年に猫の生態に関する著書を出版。
ペアレントの著書を参考に、猫は落下中に重心を移動させて姿勢を反転させていると考察した。猫の姿勢反転を物理的に解明しようとした初期の文献だが、これも決定的な説明にはならなかった。