支配人「ここにいると人生を垣間見られる。マイノリティのオアシスとして残す価値がある」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
かつて「映画のまち」といわれた新開地(神戸市兵庫区)の本通りから、歓楽街の福原へ。ネオンきらめく桜筋の横手に入ると、そこにも実は映画館がある。「福原国際東映」。
劇場名に反して、外国映画も東映映画もやっていない。表の日焼けしたポスターのカンフー映画や動物映画もやっていない。連日スクリーンに掛かるのは、いわゆる「ピンク映画」だ。
ピーク時は全国に約300館あったという成人映画上映館も、今や風前のともしび。ネット時代にひっそりと営業を続ける“おっちゃんの城”の内側とは−。胸を高鳴らせつつ、ドアをくぐった。(西竹唯太朗)
訪れたのは平日の昼下がり。人目をはばかりながら中に入ると、すぐに受付がある。大人1400円。シニア1200円。さらに料金表には「カップル2000円」の文字が。
「カップルも来るんですか?」。受付の女性(63)に思わず聞くと、「たまに。怖い物見たさで来る若い人もおるから」。やんわりと笑顔で返された。
ロビーは30畳ほどもあり、結構広い。数人の高齢男性が、中央に置かれたテレビを見るともなく、ソファでくつろいでいる。
「わしら、時間だけはあるからな。行くとこもないし、来るんや。別に映画だけが目的じゃないで」
常連だという70代の男性=兵庫区=が、おもむろにタバコに火をつける。
同館は1947年に開館した東宝の封切館が前身。東映の上映館を経て、70年代は邦画の5本立て興行で映画ファンの人気を集め、後の映画監督・大森一樹さんらが参加した「グループ無国籍」も自主上映会を開いた。
受付の女性は、先代の社長から「最盛期は立ち見客で扉が閉まらないほどだった」と伝え聞く。
だが、映画館の客離れが進んだことなどから、98年頃からピンク映画に移行。兵庫県内では他に、新開地と尼崎に1館ずつしかない。
■ □ ■
>>1のつづき
2階に上がると、90席のシートが並ぶ。暗闇の中、10人ほどの男性がスクリーンにかぶりついているのが見える。映画が終わっても、シネコンのように席を立つ気配はない。
「うちは3本立てで入れ替えもないから、ずっといる常連さんが多い」と大林尚人支配人(33)。しかも金・土曜はオールナイト上映。一夜を明かす人も珍しくない。
同館は、大阪・新世界や尼崎で映画館を経営する松下商会が2009年、前のオーナーから受け継いだ。
「高齢で手放されるというので、名乗りを上げた。映画館が消えてしまうのは、もったいないと思って」と大林支配人が語る。
だが、もはやピンク映画の新作はわずかで、大半は改題された旧作だ。上映作のポスターには、複数の画びょうの痕が。聞けば、後々に使い回すため、上映終了後も大切に保管しているのだという。
■ □ ■
1日の平均入館者数は、70人ほど。ほぼ、高齢男性だ。「今の若者が年を取っても、来てくれる保証はない。完全な斜陽産業です」
苦笑いする大林支配人だが、手をこまねいてはいない。3年前、館内の空きスペースに新設したのが、女装用のメークルームだ。
成人映画上映館のもう一つの顔は“出会い”の場。女装愛好家もしばしば訪れる。シャワー室や化粧台、ロッカールームを完備したところ、評判は上々。週末などは、四国や九州から足を運ぶ人もいるという。
「ここにいると、いろんな人生を垣間見られる」と大林支配人。映画館の暗闇には、黙って包み込んでくれるような優しさがある。「世間で言うマイノリティーのオアシスとして、ここは残していく価値がある」と力強く語った。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています