VR(仮想現実)で発達障害の人特有の感じ方を疑似体験し、働きやすい職場づくりに生かしてもらう取り組みが進んでいる。VRを制作したのは、認知症体験ができるプログラムなども作る千葉県浦安市の会社「シルバーウッド」で、6月からサービスの提供を始める。発達障害の特性の一つが、光や音に敏感すぎること。障害のある人に、周囲はどう見え、どう聞こえているかをリアルに再現している。

VRは、企業や役所の人事担当者向けだ。障害者の就労支援事業などに取り組む「LITALICO」(東京都目黒区)に協力を依頼。同社が長年接してきた発達障害の人の声を参考に制作した。社内の研修プログラムで使ってもらうことを想定している。

サービス提供を前に四月に東京都内であった体験会には、省庁や大手企業の約五十人が参加。専用ゴーグルを着けて、発達障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)の人に多いとされる聴覚過敏や視覚過敏を体験した。

聴覚過敏の映像は、周りに人がいるざわついた空間での面接の場面。面接者の声に集中しようとするが、周囲の人の声が邪魔をして全く理解できない。視覚過敏は車の後部座席に座っている設定。真っ暗なトンネルを出た瞬間には、風景が真っ白になって車と歩行者さえ判別しにくい状態に。目の前に砂嵐のような光の粒が突然現れることも。

普段、職場で発達障害の人と接しているだけでは分からないだけに、皆、驚いた様子。「障害の状態を、自分のこととして体験することが重要」とシルバーウッド社長の下河原忠道さん(47)。
参加者の一人、インテリア小売り大手「ニトリ」労働組合副書記長小池美紗登さん(39)は「組合には、お客さんらへの対応で悩む声が寄せられている。本人の感じ方が分かったので、必要に応じて会社への改善を求めたい」と話した。



2019年6月3日
中日新聞
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