殺虫剤で蚊が増える、予期せぬ副作用が明るみに | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 殺虫剤は蚊を減らすのに失敗しているどころか、天敵を殺してしまうことによって、むしろ蚊を繁栄させ
ているかもしれない。少なくとも、ある1つの地域についてはそのようだ。5月16日付けで学術誌「Oecologia」
に掲載された論文は、殺虫剤が生態系に与える影響について、新たな問題点を明らかにしている。

 調査はコスタリカで実施された。そこに生息する蚊は、害虫駆除を目的とする一般的な薬剤に対して耐性を
進化させていた。一方、蚊の天敵はそうした進化を遂げておらず、結果的に蚊の個体数を急増させてしまった。

 米国ユタ州立大学の生態学者で論文の著者であるエド・ハミル氏は、コスタリカ北部のオレンジ農園で調査
をしていたとき、殺虫剤が必ずしも狙い通りの効果を発揮していないのではないかと感じたという。

「人間の手が入っていないエリアよりも、農園にいるときのほうが蚊に刺されることが多い気がして、なぜなんだ
ろうと疑問に思ったのです」とハミル氏は話す。

 そこで、ハミル氏らの調査チームは、まずブロメリアと呼ばれるグループの植物を調べた。ブロメリアは米大陸
の温暖な地域に見られる植物で、樹木や岩壁などに着生するものがある。バラの花のようにぎっちりと重なり合っ
た葉の中心に水がたまり、そこにはWyeomyia abebelaという種の蚊を含む、たくさんの昆虫の幼虫がすんでいる。
つまり、蚊の発生場所だ。

 チームは、殺虫剤が使用されていない森の中のブロメリアと、中には20年以上にわたって殺虫剤が散布されて
いるという農園内のブロメリアを調べた。コスタリカのオレンジ農園では、アブラムシを駆除するためにジメトエート
という殺虫剤を使用しているが、この薬剤は他にも多くの種の昆虫を殺す。米国では、柑橘類やトウモロコシなど
の農作物に広く使用されている。

 調査によってわかったのは、殺虫剤が使用されているにもかかわらず、オレンジ農園には手つかずの森に比
べて2倍もの蚊がいるということだった。しかし、蚊の幼虫の天敵であるMecistogaster modestaという種のイトトンボ
の幼虫は、農園内では著しく少なかった。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/060400327/