「妊娠はしておらず、今後も仕事を続けていく」「なお、妊娠はしていない」――最近の芸能人の結婚報道には、よくこんなフレーズが登場する。あなたも、一度は見たことがあるはずだ。

 そんなこと、わざわざ書く必要はあるの? この常套句に、そう疑問を呈する人も少なくない。実際のところ、いつからこのフレーズは使われるようになったのか。過去の報道事例を調べてみると――。

■志田未来結婚で並んだ「妊娠していない」

  「志田は妊娠しておらず、今後も仕事を続ける」(デイリー)
  「挙式・披露宴は未定で、妊娠はしておらず、仕事は続ける」(サンスポ)
  「妊娠はしておらず、仕事は続けていく」(報知)
  「志田は妊娠はしておらず、仕事は続けるという」(ニッカン)
  「志田は妊娠しておらず、仕事は続けるという」(スポニチ)

 2018年9月14日発表された、女優・志田未来さんの結婚についての記事である。主要スポーツ紙はいずれも、まるで判で押したように同じ表現で、
志田さんの妊娠の有無に言及した。近年、有名人が結婚すると、ほぼ必ずこの「妊娠はしておらず」「妊娠はしていない」といった一節が(「できちゃった婚」の場合を除き)記事には盛り込まれる。

 もちろん、読者にとっては気になる情報には違いない。しかし、違和感を持つ人も多いようだ。たとえば、歌手の和田アキ子さんである。
7月29日放送の「アッコにおまかせ!」(TBS系)では、俳優の三浦翔平さん・桐谷美玲さんの結婚を伝えた際、「いちいち言わなくていいと思うんだけど。なんか生々しい」と、
不快感を示す一幕があった。今回の志田さん結婚報道をめぐっても、ツイッターなどでは、
「なんか違和感というか気持ち悪く感じる」「それセクハラじゃないのか?」といった声が相次いだ。
 2015年、自身のブログで「妊娠はしておらず」への疑問を表明したのが、千葉商科大学国際教養学部専任講師で労働社会学者の常見陽平氏である。J-CASTニュースは改めて、この言葉についての見解を聞いた。

 たとえば、日常生活の中で相手に「妊娠しています?」と気軽に聞けるだろうか。常見氏はそう問いかける。確かに昔ならいざ知らず、「不妊」やあえて子供を持たないという選択、は
たまたLGBTへの理解が広まりつつある今日では、デリカシーを欠く質問だとみなされるだろう。

  「妊娠しているかどうか、ということに興味・関心が持たれるのはわかります。とはいえ、公人であっても妊娠の有無はプライバシーですし、
デリケートな問題です。私自身、妊活に取り組んだ経験がありますが......。『妊娠はしていない』という表現自体に傷つく人だっているんです」

 今後は有名人であっても、「そっとしておいてほしい」という権利が認められる方向に進み、交際・結婚報道そのものが慎重さを求められるようになるだろう、
と常見氏は予測する。となれば、「妊娠はしておらず」という言葉が消える日も、そう遠くはなさそうだ。

 「妊娠はしておらず」――使われ始めて20年、一般に広まって10年。何気ない言葉の中に図らずも、世の中の移り変わりが垣間見える。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180924-00000001-jct-soci&;p=3