孤独は病。このままでは「1億総引きこもり」時代に

岡本純子さん  オジサンの孤独研究家

1967年生まれ。新聞記者などを経て「コミュ力」支援会社社長。著書に「世界一孤独な日本のオジサン」=東京・大田で(撮影:外山俊樹)

孤独は老若男女、日本のあらゆる年代に広がっています。誰にでも訪れる短期的な孤独には耐えることも必要でしょう。しかし、人とのつながりがなく、
頼る人がいない恒常的・長期的な孤独を放置してはいけません。孤独は多くの人の精神と身体をむしばみ、社会問題にも関わる、深刻な病の一つなのです。

私は、これまでに約1千人の社長や企業幹部のコミュニケーションのコーチングをしてきました。その経験から、日本人、特にコミュニケーションが苦手なオジサンは、
孤独に陥りやすいと感じてきました。その理由は、日本独自の文化や価値観にあります。

日本人は一つの会社に長く身を置く傾向があります。会社というムラ社会の内部で重視されるのは、上意下達のタテのコミュニケーション。しかも、内の人との和を大切にしすぎて、
望まない人間関係も強いられ、人と関わることに疲れ切ってしまいます。その結果、外の人や異文化とわかり合う努力をしなくなり、フラットなコミュニケーションが苦手になります。

英国では成人の5人に1人が孤独を感じているという。英国は今年1月、新たに孤独担当相をもうけた=英ロンドン中心部のハイドパークで(撮影:下司佳代子)

また、日本では、定期的に集まる教会、市民団体などでの活動などがあまり身近にありません。人と人とのつながりや信頼関係を意味する、
ソーシャルキャピタルの充実度のランクは149カ国中101位。先進国で最低です。最近の「1人で十分」「つながりはいらない」という、孤独美化の風潮が、日本人の孤独化を悪化させることを危惧しています。

引きこもり、介護、貧困、いじめなどの社会問題は、誰ともつながらず、孤独であると深刻化します。様々な事件でも「周囲からの孤立」が背景にある場合が多いのです。

孤独の悪影響を証明した医学的研究は無数にあります。心疾患リスクを29%上げる。1日たばこを15本吸うことに匹敵する。
アルツハイマーになるリスクが2.1倍になる。うつ病やアルコール依存症などの精神的な疾患にもつながります。米国の前公衆衛生局長官は、
「病気になる人々の共通した病理は孤独だった」という論文を発表しました。英国は今年1月、孤独担当相を新たに設け、国家として孤独問題に取り組む姿勢を鮮明にしています。

「日本社会全体でこの問題を考えていかなければなりません。急がないと、『一億総引きこもり』の時代が来てしまいます」=東京・大田で(撮影:外山俊樹)

日本も孤独対策を急がなければ、手遅れになります。教育で、読み書きだけではなく、人との対話の方法を学ぶことも対策の一つになるでしょう。
同質の人だけでなく、異なる環境の人とわかり合うコミュニケーション力とコミュニティーを作る力という、二つの「コミュ力」が重要です。
「孤独は自分の責任」「家族で責任を持て」ではなく、日本社会全体でこの問題を考えていかなければなりません。急がないと、「一億総引きこもり」の時代が来てしまいます。(聞き手・後藤太輔)
https://news.yahoo.co.jp/feature/1033