幻の「マヨラナ粒子」発見-トポロジカル量子コンピュータの実現に期待

東京工業大学は、蜂の巣状の平面構造をもつ磁性絶縁体の塩化ルテニウム(α-RuCl3)において、
熱ホール効果が量子力学で規定される普遍的な値をとることを発見し、幻の粒子と言われた「マヨラナ粒子」を
実証することに成功したと発表した。

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(左)キタエフ模型のイメージ図。蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する。
(右)α- RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性。磁場を変化させると、ある磁場範囲で熱ホール伝導度が
量子化熱伝導度の1/2倍で一定となった。

マヨラナ粒子は自分自身がその反粒子と同一という不思議な性質を持ち、理論的予言から80年以上もその存在の
確証が得られていなかった。素粒子物理学を中心に探索が続けられてきたが、近年、ある種の超伝導体や磁性体で
マヨラナ粒子が出現する可能性が指摘され、大きな注目を集めた。通常の磁性体では温度を下げていくと、
磁性を担う電子スピンは同じ向きに整列し磁石となるが、キタエフ模型と呼ばれる理論模型では絶対零度においても
スピンは整列せず量子スピン液体状態と呼ばれる状態が現れる。この量子スピン液体状態では、電子スピンが
複数のマヨラナ粒子に分裂することにより、トポロジーによって保護された量子状態が実現するが、最近、このような
キタエフ模型の候補物質がいくつか見つかってきたという。

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(左)電子・分数電荷による量子ホール状態、および
(右)マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効果のイメージ図。試料の端(エッジ)に沿って
エネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ、マヨラナ粒子によって運ばれる。

同研究グループは、キタエフ模型の候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3の量子スピン液体状態において、
一定の温度下で磁場を変化させながら熱ホール伝導度を非常に高い精度で測定した。その結果、ある範囲の
磁場で熱ホール伝導度が磁場や温度によらずに量子力学で規定される普遍的な値(量子化値)のちょうど半分の
値で一定となることが見出された。電気が流れない絶縁体において熱ホール効果が量子化していることから、
電荷を持たない粒子に由来する量子ホール効果であることがわかり、熱ホール伝導度が量子化値の1/2倍ということは、
熱を運ぶ粒子が電子の半分の自由度を持っていることを示しており、そのような粒子はマヨラナ粒子に他ならないとしている。

これまでの超伝導体を用いた研究では、マヨラナ粒子による量子化現象が期待される温度は極低温(1/100 ケルビン程度)に
限られていたが、同研究では5ケルビン程度で半整数量子化が観測され、高温でマヨラナ粒子にまつわる量子化が
出現することが明らかになった。今後、量子スピン液体に現れるマヨラナ粒子の制御法を開発することで、高温でも
動作可能なトポロジカル量子コンピューターへの応用が期待できるということだ。

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