黒がいつの間にか白いことになっている。そんな歴史塗り替えの現場を歩いてみた。東京・世田谷の烏山(からすやま)神社。シイの大木4本が境内に影を落とす

▼木のことは「九月、東京の路上で」(加藤直樹著、ころから刊)に詳しい。1923年の関東大震災直後、「朝鮮人が襲撃に来る」などとデマが広がり、この神社の近くでも自警団が朝鮮人を虐殺した

▼木は事件を受けて周辺住民が植えた。ただし被害者を弔うためではなく、殺人罪で起訴された加害者をねぎらうために。そして、地元の記録は「誰がどうしたなど絶対に問うてはならない」と真相にふたをした

▼暗黙の総意のうちに、事実は美しい物語に置き換えられた。役所の刊行物に、植樹は朝鮮人のためだったと書かれた。私が会った地元の女性もそう聞かされていて、本を見せると「みんな不利なことは言わない。ねじれていくものですね」と驚いた

▼6月の大阪北部地震の後も、ネット上でデマを流す者がいた。
朝日新聞が書いた。「関東大震災でも、同様のデマにより朝鮮人らが殺害される事件が起きたとされる」

▼末尾の「とされる」に現在進行形の危機をみる。
朝鮮人虐殺は証拠も多く歴史の事実として確定しているのに、伝聞表現に逃げた。
あいまいさが、歴史修正の隙をつくる。事実は何度でも確かめていく必要がある。(阿部岳)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/276025

■阿部岳記者が批判する朝日新聞記事

地震後に差別的ツイート相次ぐ 法務省が注意喚起の投稿

過去には、2016年の熊本地震の際に「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」といったデマがネット上で出回った。
95年前の関東大震災でも、同様のデマにより朝鮮人らが殺害される事件が起きたとされる。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASL6M5H7WL6MUTIL02S.html

■阿部 岳(あべ たかし)
沖縄タイムス社北部報道部長
1974年東京都生まれ。
上智大学外国語学部卒。97年沖縄タイムス社入社、政経部県政担当、社会部基地担当、フリーキャップなどを経て現職。
著書 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実(朝日新聞出版)。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/70787
http://i.imgur.com/wVR4M7f.jpg