<アメリカの死刑執行方法にはスタンダードな薬物注射、ガス室に加え、新たに「窒素ガス」も選択肢に加わっているが、
いったいどれを選ぶべき?>

今から400年以上前、アメリカの記録に残る初めての国家による死刑として、大英帝国の植民地ジェームズタウンが
スペインの諜報部隊を火あぶりにしてからというもの、アメリカは死刑囚を殺すのに使用する技術を探しあぐねてきた。

1976年以降の死刑執行件数は1476件に上り(年間0〜98件)、全体の88%が薬物注射によるものだった。現在も死刑制度をもつのは
全米50州のうち31州で、そのうち何州かは死刑執行を一時停止している。

死刑執行方法の改善を目指すオクラホマ州、アラバマ州、ミズーリ州の3つの州は2015年以降、「窒素ガス」を新たな選択肢に加えた。
アメリカでは現在、薬物注射、ガス室(アメリカでは青酸ガス)、絞首が死刑執行の主な方法となっている。

窒素は空気中の約78%を占める無色、無味、無臭の気体だ。セラミックスや鉄の製造をはじめ、幅広い産業で使われている。
毒性は低いが、高純度の窒素ガスの中で呼吸すると脳が酸欠状態になり、死に直結する。実際、窒素ガスによる中毒が原因の
労災事故は、毎年多数報告されている。

従来の方法はすべて欠陥だらけ

だが、死刑のための使用を想定した正式な研究結果はない。それにもかかわらず支持者らは、窒素ガスを用いれば死刑囚はより早く、
安らかに、人道的に死ねる、と主張している。

死刑執行に窒素ガスを使用するには3つの基準をクリアする必要がある。まず、確実に死ねるか。既存の方法より優れているか。
「残酷で異常な刑罰」を禁じる合衆国憲法修正第8条に違反しないか。多分、答えはすべて「イエス」だ。

まず第一の点だが、死刑のための使用例はないにせよ、窒素ガスの殺傷能力が極めて高いことは間違いない。高純度の窒素ガスが
充満した室内に入れば、1分以内(あるいは1〜2回の呼吸)で意識を失い、すぐ死にいたるだろう。死刑囚がなかなか死なずに
生き残ってしまう「失敗」の確率は、従来の死刑執行方法よりかなり低いはずだ。

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