●ドラッグストアが超安売りできる理由

 医療機関が薬の仕入れ値と販売価格の差(薬価差益)を求めるあまり、過剰に薬を処方する“薬漬け医療”になっている――。そんな批判を受けて、国は「医薬分業」を進めてきた。

 処方と調剤を分離することで、医師が過剰に薬を出すことのメリットをなくし、さらに薬剤師がダブルチェックや服薬指導をすることで適正な医療が行われることが期待された。

 たとえば、高齢になるとひとりで複数の医療機関にかかることが増えるが、自宅近くのひとつの薬局にかかることで多剤投与の問題も解消されるはずだった。「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」の存在が盛んにアピールされたのにも、そうした背景がある。

 しかし、現実には大病院の目の前に立地する“門前薬局”の乱立を招いただけだった。患者としては、診療後すぐに薬を手に入れたい。そのため、とにかく病院の近くにある薬局に足を運ぶことが多くなる。

 逆にいえば、薬局としては病院の前に立地してさえおけば、病院から処方箋を持った患者がどんどん吸い寄せられてくるわけだ。集客に苦労する必要はないも同然であり、ある薬局チェーン幹部は「放っておいても患者が集まってくる。これほど楽な商売はない」とほくそ笑む。

 しかも、そこで行われているのは前述したような単純作業だ。ほとんどの場合、処方箋に従って棚から薬を出し、せいぜい分包化やケースに入れる程度で患者に渡す。薬剤師の本領である、高度な技術や深い知識、シビアな服薬指導が必要になるケースはごくまれだ。

 こうした高利益の調剤業務を持っているため、大手薬局チェーンが展開するドラッグストアでは日用品を低価格で販売することができ、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに価格競争力で優位に立てる。

 数の面でも、薬局は全国で約5万8000店に上り、コンビニの店舗数(約5万4000店)を凌駕している。安く買えるというのは消費者にとってありがたいことには違いないが、調剤報酬の原資は我々が支払う社会保険料や税金だ。そこで得た儲けを原資にするかたちで安売りを仕掛けるというビジネスモデルは、果たして健全なのだろうか。